第39回深夜の真剣140字60分一本勝負

きぃ @key_habataki

「月ってこの穴に丁度収まるらしいぜ」腕を思い切り伸ばし、五円玉を夜空に掲げる君。「私にも見せて！」と言うと五円玉を手渡してくれた。一もしぴったりと収まれば一或る願いを込めながら片目を閉じて穴を覗き、月の輪郭を捉える。君に触れて、この五円玉を溶かしてしまいそうな程熱くなった右手で。

にゃん @nyan_kotonoha

数学が得意だった彼。苦手な私はサイン、コサイン、タンジェントを何度も教えてもらい、何とか大学にも行き仕事にも就いた。何年か後、再会した彼は研究者で本を書いてた。折角だからと買ってサイン会に行き、書いてもらった言葉は「また会おう」。今の夫となった彼との、新しい始まりのサインだった。 pic.twitter.com/vMxf4fJDnM

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津森七@文学フリマ京都い-36 @tumori_nana

「永遠は過去にあるんだ」君の言葉が今更になってよくわかる。三日月が笑う晩、僕らは血の署名をしたね。僕が約束を違えようと、君の躯が灰になろうと、遠い遠いあの一瞬は、今も変わらずそこに在る。君はきっと還るだろう。僕もいつか還るだろう。朝の光に散る魂よ、ぼくはここで、それだけを祈るよ。

花滝ちかる @chikaru_toka

新月の闇は、無数の星々を夜空に生み出す。 でも僕は、満天の星空の全ての星々の輝きよりも、君というたったひとつの月を愛しているんだよ。 地球と月が向かい合い引かれ合うように、地球の月がたったひとつであるように、僕は君ひとりだけでいいんだ。 #深夜の真剣140字60分一本勝負　『月』

夢夜 @ruya_reve

月を浮かべたワインを一口。 芳醇な香りが鼻に抜ける。 ひとつため息をついた。 月を眺めながらワインを飲むのはささやかな楽しみの一つだ。 誰にも邪魔されない、自分だけの時間。 グラスを目の高さにあげた。 「今宵の月に」 独り言ちてグラスを傾ける。 月が静かに笑っていた。

夢夜 @ruya_reve

「ん……」 少し眩しいと思って目を開けると、窓から月光が差し込んでいた。 ──月明かりで目が覚めるなんて詩的ですね 隣で眠る貴方の顔は逆光で見えない。 幸せだ、と素直に思う。 貴方の唇に自分のそれを寄せた。 普段私からすることは滅多にないけれど、そうさせたのはきっと月の魔力のせい。

RAY/※※※ @growler_ray

光の満月、闇の新月。幾千の月の満ち欠けを見てもなお私は社から動けず、心もまたここに囚われ これは500年に一度行われる、月鬼封印の儀。選ばれた者は、次の儀が来るまで社から動けず死ねずただ月を眺める。そんな私の村の風習 「ほんと、下等民族は学ばないわね」 「……え、誰ですか！？」

夢夜 @ruya_reve

初めての夜は月が綺麗だった。 月光をその身に集めたお前は言葉に表せないほど艶めかしく、俺を受け入れるその姿はとても魅力的だった。 お前が寝たあとに見た月は妖しくも清らかに輝いていた。 目を閉じて息を吐く。 ──愛する人に愛されることがこんなに幸せなんだって……知らなかったよ

七草すずめ @suzume_nanakusa

お月様しぼったら、何が落ちてくる？ 甘くてすっぱい蜂蜜レモン ランプのような光の粒たち へちまの花びらはらはらこぼれて するりと溶けたバターをぺろり 地球に恋した御付きの月を 抱きしめるようにぎゅうっとしぼれば 詰まった夢がほろり、あふれる #深夜の真剣140字60分一本勝負 #詩 「月」 pic.twitter.com/XUOeYFh8tv

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峰庭梟 @sss_books

その塔では毎晩夜になると、頂上から女性の歌う声が聞こえた。塔の頂上には美しい姫が幽閉されている、人々はそう噂した。 一人の若者が姫を一目見たいと塔を登った。高い塔の頂上に着いた時、日はとっくに暮れていた。 若者がそこで見たのは、一輪の月見草だった。 #深夜の真剣140字60分一本勝負 / 月 pic.twitter.com/JOBCycSt5e

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はごろもとびこ＠低浮上気味 @peeUsausa

親友の試合に間に合わなかった。ここで祈るよ、とバイト先に来てくれたときに伝えておいてよかった。「もっと続く予定だったのに」月の影に視線を落とし震える口の端から想いをこぼす。いつものVサインを期待して走ってきたのに、今にも落ちそうな涙を見たくなくて、月を遮るように彼女を抱きしめた。

繭美 @140mayumi

お題/月・サイン・ここで祈る #深夜の真剣140字60分一本勝負 #140字小説 #140字ss こんなのを書きましたが、私は中秋の名月にお供えする人間ですよ。と、お月様に媚びを売る。今年は９月２４日。 pic.twitter.com/5UgU3o5zo4

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∫ MatoP @_Mato_P_

夜道を歩く。 雨が降って、月も見えない真っ暗な道。 かなり歩いたところに、湖がある。 洞穴の中の、小さな湖。 雨の音以外、なにも聞こえない。 雷の音をサインに、ここで祈る。 君のこと。 数年前のこと。 この洞穴で、あったこと。 君に笑って会えるように。 静かな夜 雨音の中 只一人

竜虎 @btbticc_org

「この街でも、こんなきれいな月が見れたんやなぁ」 その美しさに思わず息がもれた。遠くで赤い光がチカチカと揺れ動いているのは、交通整理のサインだろうか。今日は遠くの地でも、同じように空を見上げている人がいるのだろう。どうか彼の地に安息を。 灯りが消えた街角で、私も空を見上げている。

ちひろ @naruhara04

骨を埋める場所を探しにきたようなものだけど、いざ砂漠の夜に身を置くと、ただこのまま終わりを待つのも癪だった。脱出口のような明るい陽を目指して、私の軌跡を砂に記す。どうか、私以外の世界中の人々が幸せになりますように。タイムマシンは壊しておいた。この世界でただ一人、私は自由だ。

宇津木健太郎@受賞したヨ @KChickenShop

この惑星の引力に負け、僕らの頭上に落ちてきそうな巨大な月が輝く。 いや、落ちているのはこの惑星だ。 大地に夢恋い焦がれる物は全て燃やし尽くした、僕ら人類。 そんな僕らの憧憬が、この惑星を月へ押し上げる。 これは、夢に届けと願う祈りであり、印なのだ。 #小説 #深夜の真剣140字60分一本勝負 pic.twitter.com/nptCWwC71h

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孔雀山まゆ子 @soukasouka_emil

深く暗い夜の森を抜けると、そこだけ木々がひらけ明るく月明かりが落ちる、それなのにどこまでも底の見えない不思議な谷がありました。まるで世界から切り取られたように幻想的で、身を投げてしまいたいくらいに奇麗です。僕は地に膝をつき、祈ります。生贄の夜の月は紅。谷の底へ誘う声は楽しげです。