高校時代の自分に贈るようなつもりで、熱力学のカルノーの定理の話を簡単にしていきたいと思います。通常の教科書の順序で説明することをせずに、身近な現象と、頭の中の思考実験だけからカルノーの定理を発見することを試みます。
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

時は文久七年、遠く欧羅巴の地にある仏蘭西国に、佐治軽乃という陰陽師がおった。 〜〜〜「佐治軽乃の定理」 。。いや、やめよう。こういう文才はないな。

2021-01-17 00:03:05
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-0 高校時代の物理の成績は悪く(代ゼミ模試で40)、中でも熱力学分野は特にまったく理解できませんでした。今ではけっこう理解しています。高校時代の自分に贈るようなつもりで、#カルノーの定理 の話を簡単にしていきたいと思います。

2021-01-17 00:19:47
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-1 熱力学のカルノーの定理を、通常の教科書の順序で説明することをせずに、身近な現象と、頭の中の思考実験だけからカルノーの定理を発見することを試みます。

2021-01-17 00:32:52
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-2 2つの物体があって、片方が高い温度、もう片方が低い温度にあったとき、2つの間を「熱は通すが形は変わらないもの」で繋げば、熱が流れて必ず同じ温度になる。またこれとは別に、「熱も通すが形が変化するもの」で繋ぐと、熱も流れるが、「必ず」外部に仕事をさせることができる。 pic.twitter.com/lbQ1H8ObCa

2021-01-24 13:38:26
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-3 ピストンの中に気体、例えば空気を入れておく。中の空気がピストンを通じて外気と温度が変わらないようにゆっくりとピストンを動かすと、空気の体積と圧力の関係は右肩下がりの曲線になる。これは逆向きに動かしても同じ線上にのる。 pic.twitter.com/tkASjcBf7T

2021-01-17 01:14:14
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-4 また、ある瞬間で、急激に圧縮すると、中の空気の熱は外に伝わる暇もなく、一瞬だけ温度も圧力も急上昇するが、その後、外に熱が逃げることによって、元の温度に戻り、それなりに圧力も下がる。 pic.twitter.com/2yQkcnvUlW

2021-01-17 01:21:42
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-5 気体がその時どんな状態にあっても、そこから等温を保ってゆっくり変化させたときにたどった線の傾きよりも、完全に熱の出入りを断って変化させたときにたどった線の傾きの方が必ず大きい。 pic.twitter.com/5ymd3xYq8Q

2021-01-17 01:56:02
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-6 さて、気体に熱を与えて仕事をさせる装置、いわゆる熱機関を考える。このとき、気体を、等温膨張・断熱膨張・等温圧縮・断熱圧縮という過程を経て元の状態に戻す。これを「カルノーサイクル」と呼ぶ。 pic.twitter.com/oExjhxjG8A

2021-01-17 10:28:46
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-7 また、外から得た熱量[cal]に対し、どれだけ外部に仕事[N・m]ができたのか、そのその変換効率を「熱機関の効率」と呼ぶ。(注意:今はまだ、熱力学第一法則を前提としていない。) η=W/Qin

2021-01-17 10:40:41
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-8 そして、CT-2の図を借りれば、カルノーサイクルが外部にする仕事は、出入りした正味の熱量の関数で表わすことがわかる。 W=f(Qin-Qout) この関数fは、原点を通り単調増加する関数である。またこのサイクルは、逆方向の過程をたどれば逆の結果を生むので、fは奇関数であることもわかる。 pic.twitter.com/LK9xUlGAQf

2021-01-17 11:09:56
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-9 そこで、カルノーサイクルを、初期状態を等温膨張の間のどこかの点Aにおき、そこから二通りの経路をとって全体を一周した場合の熱量と仕事の関係を考える。 経路①:ABDA 経路②:ACDABCA pic.twitter.com/eR3foHChu4

2021-01-17 11:59:56
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-10 外周だけを回る経路①の場合: W=f(Qin-Qout) 左側を回ってから右側を回る経路②の場合: W1=f(Qin1-Qout1),W2=f(Qin2-Qout2),W=W1+W2より、 W=f(Qin1-Qout1)+f(Qin2-Qout2) すると、Qin=Qin1+Qin2,Qout=Qout1+Qout2だから、 f(Qin1-Qout2+Qin2-Qout2)=f(Qin1-Qout1)+f(Qin2-Qout2) である。

2021-01-17 12:27:12
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-11 つまり一般に f(a+b)=f(a)+f(b) が成り立つ。ある定数αを使えば f(x)=αx と書ける。これで、カルノーサイクルの熱量と仕事の関係は、完全な比例関係 W=α(Qin-Qout) にあったことがわかる。

2021-01-17 12:27:29
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-12 ここから先は「論理」だけで考える。またCT-2の図を見てもらいたいが、 文①:温度に差がある状況は、温度が平衡するまでに必ず仕事を取り出すことが出来る。 文②:仕事を取り出せずに温度が平衡してしまったら、それは仕事の損失である。 pic.twitter.com/34224X19Tr

2021-01-17 12:42:23
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-13【ここがポイント】 これを、仕事をするある気体に着目すれば、 文③:気体の体積変化によらない気体の温度変化は、熱機関の効率を下げる。 文④:逆に言えば、もし気体が温度変化する時、その原因が体積変化によるだけで、熱の出入りによらないなら、熱機関の効率は上がる。

2021-01-17 13:47:32
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-14 ここまでの結論: 作業物体である気体の温度が変化するときが断熱(圧縮・膨張)過程だけであったなら、その熱機関は最大の効率を持つ。カルノーサイクルは等温過程と断熱過程だけで作られているので、カルノーサイクルで動く熱機関の効率は最大である。

2021-01-17 13:50:35
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-15 カルノーサイクルが理論上最大の熱効率を持つことが前回の結論であった。ここからは、カルノーサイクルの持つ特徴を調べることで、その理論上最大の熱効率 η=W/Qin=α(Qin-Qout)/Qin=α(1-Qout/Qin) がそのように計算できるかを見ていく。

2021-01-18 20:27:44
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-16 そのための前準備として、今まで高温の熱源から流入した熱量をQinを書いてきたが、今後はこれをQ、低温の熱源へ流出した熱量をQoutと書いてきたが、今後はこれをqと書くことにする。外へする仕事はそのままWとして、 W=α(Q-q) 熱効率は η=α(1-q/Q) である。

2021-01-18 21:13:35
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-17 ・カルノーサイクルは、そのまま逆に回しても熱効率は変わらない

2021-01-18 21:04:52
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-18 等温膨張過程で気体が外部にW1の仕事をしながら、熱源からQの熱量を受け取ったとする。これをそのまま逆に元の状態に等温圧縮過程で戻したら、外部からW1の仕事を受けて、熱源へQの熱量を戻す。断熱膨張のする仕事W2も、逆にたどればW2の仕事で圧縮を受ける。 pic.twitter.com/060UMne7QG

2021-01-18 21:05:38
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-19 逆回しのカルノーサイクルの仕事と熱効率を W'=α(Q'-q'), η'=α(1-q'/Q') とすると、 q'=-q,Q'=-Q なので W'=α(-Q+q)=-W, η'=α(1-q/Q)=η となる。よって熱効率は変わらない。

2021-01-18 21:06:56
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-20 ・2つのカルノーサイクルがあって、高温熱源の温度と低温熱源の温度が、それぞれで同じであれば、2つのカルノーサイクルの熱効率は同じになる。

2021-01-18 21:18:31
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-21 まず、一つのカルノーサイクル W=α(Q-q), η=W/Q=α(1-q/Q) を考えて、囲まれた面積(=仕事W)が、任意の整数比 W=W1+W2, W1:W2=n:m となるようにカルノーサイクルを断熱曲線で分割する。 pic.twitter.com/1gLeXwjF4Y

2021-01-20 21:39:58
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-22 すると、W1の仕事をする熱機関をm個並列運転させた機械と、W2をn個並列させた機械とは、同じ量の仕事をする。 mW1=nW2 ということは、片方を逆運転させて、もう一方の出力をその入力にあてれば、機械全体としては何の仕事もしない、ただ熱源と熱量の出入りがあるだけの物体となる。

2021-01-19 00:31:02
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-23 熱効率の定義から mQ1=mW1/η1, nQ2=nW2/η2 である。仮に、もし2つのカルノーサイクルの熱効率が異なって、 η1>η2 だとすると、n個のW2を逆運転させてm個のW1につなげると、 mQ1<nQ2 より、物体を接触させるだけで高温の熱源に正の熱量 -Q=nQ2-mQ1>0 を与えることができてしまう。

2021-01-19 00:47:57
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-24 また、仮に、 η1<η2 だとすると、m個のW1を逆運転させてn個のW2につなげれば、 mQ1>nQ2 より、物体を接触させるだけで高温の熱源に正の熱量 -Q=mQ1-nQ2>0 を与えることができてしまう。 こういうようなことは、自然界において、あってはならないことだ。

2021-01-19 01:06:54
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-25 もしも、熱源の温度差が(物体を接触させるだけで)何もせずに勝手に広がることがあり得るなら、その熱源に別の熱機関を取り付ければ、未来永劫仕事をし続ける機械を作ることができてしまう。 万が一、その機械が悪い鬼の手に渡ったら人類滅亡である。そんな世界は認められない。

2021-01-19 01:22:01
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-26 そういうわけで、もし2つのカルノーサイクルの熱効率が異なったら、という仮定がありえないということがわかった。したがって、 ・2つのカルノーサイクルがあって、高温熱源の温度と低温熱源の温度が、それぞれで同じであれば、2つのカルノーサイクルの熱効率は同じ となる。

2021-01-20 21:35:22
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-27 ということは、 ・カルノーサイクルの熱効率は、高温熱源の温度と低温熱源の温度が与えられれば求められる。 ということになりそうだ。つまり、熱効率は2つ熱源の温度の関数として表わすことができそうだ。

2021-01-20 01:05:41
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-28 今度は、一つのカルノーサイクル W=a(Q-q), η=W/Q=α(1-q/Q) を考えて、それを W=W1+W2 となるように、等温曲線でカルノーサイクルを分割する。 pic.twitter.com/FN6k8LUkqx

2021-01-20 01:06:18
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-29 これは、W1のサイクルとW2のサイクルを直列につなげば実現できる。サイクル1が出す熱量が、直接サイクル2に入るように作ればいい。 全体のサイクルは W=α(Q-q) で、部分のサイクルをそれぞれ W1=α1(Q1-q1), W2=α2(Q2-q2) と書けば、 Q=Q1, q=q3, q1=Q2 であるとする。

2021-01-20 21:43:13
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-30 すると、 W1+W2-W=0 なので、 α1(Q1-q1)+α2(Q2-q2)-α(Q-q) =(α1-α)Q+(α2-α1)q1+(α-α2)q=0 となる。 α,α1,α2は、もともと熱量と無関係な独立した量であったので、上の恒等式が成り立つには α=α1=α2 でなければならない。

2021-01-20 02:11:20
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-31 ということは ・カルノーサイクルにおける出入りした熱量と外部にした仕事の比率は、全てのカルノーサイクルに共通する定数である。 と言える。この定数は、現実に実験をすれば数値が求められるのだろうから、今後は、熱量を仕事の単位で測ることにしよう。

2021-01-20 01:59:14
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-32 熱量を仕事の単位で測ると、今まで書いてきた式についてα=1にすべて変わる。仕事と効率は、それぞれ W=Q-q, η=W/Q=1-q/Q となり、q<Qだから効率は無次元の数 0<η<1 となり、0%より大きく100%より小さい、まさに「効率」らしい定義となっている。

2021-01-21 20:12:01
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-33 さて、カルノーサイクルの効率は高温の熱源の温度と低温の熱源の温度の関数で書けるということは、高温熱源の温度をT,低温熱源の温度をT0とおけば、ある関数fを使って 1-η=q/Q=f(T,T0) で書けるということになる。

2021-01-21 23:59:29
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-34 そこで、もう一度ひとつのカルノーサイクルを等温曲線で分割した2つのサイクルW1,W2を考え、3本の等温曲線の温度を高い方からT3,T2,T1とし、仕事について W1=Q1-Q2, W2=Q2-Q3, W=Q1-Q3 であったとする。すると、効率について Q2/Q1=f(T3,T2), Q3/Q2=f(T2,T1), Q3/Q1=f(T3,T1) となる。 pic.twitter.com/EPS3Lr5Z7O

2021-01-22 00:16:48
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小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-35 ということは、 Q3/Q1=(Q3/Q2)(Q2/Q1) なので、 f(T3,T1)=f(T3,T2)f(T2,T1) となる。つまり、関数fは f(a,c)/f(b,c)=f(a,b) という性質をもつ。したがって、fは温度だけの関数Θ(T)を使って f(a,b)=Θ(a)/Θ(b) と書ける事がわかる。

2021-01-22 01:26:30
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-36 カルノーサイクルの熱効率がある関数Θを使って、熱源の温度T1とT2(ただしT2>T1)だけで、 η=1-Θ(T1)/Θ(T2) と表される事がわかった。

2021-01-23 20:24:45
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-37 ところで、熱効率というものは仕事÷熱量だから計測可能な量である。また、2つの熱源の温度で値が決まるが、同じ熱効率の値を持つ、別の温度の組は他にいくらでも考えられる。例えば η=1-Θ(T1)/Θ(T2)=1-Θ(T2)/Θ(T3) のように。

2021-01-23 20:25:47
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-38 関数Θが温度Tのどのような関数なのか、まるでわからなくて不安だ。ところが逆に、熱効率の値がわかるなら、そこから関数Θの値を決めてしまうことができる。つまり、熱源の温度に対する関数Θの値を Θ1=Θ(T1), Θ2=Θ(T2) と書けば、 η=1-Θ1/Θ2 という、見た目にとても簡単な式になる

2021-01-23 20:28:09
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-39 例えば低温側の温度Θ1に対して熱効率が1/2になる高温側の温度Θ2はΘ1の2倍。また、低温側の温度Θ2に対して熱効率が1/2になる高温側の温度Θ3はΘ2の2倍、つまりΘ1の4倍。このように、Θ1に具体的な数値を当てはめれば、その他のΘの値はカルノーサイクルの熱効率から求められてしまう。

2021-01-23 20:17:53
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-40 そして、温度を測るとΘの数値が表示されるような温度計を使えば、今まで書いてきた熱効率の式 η=1-Θ(T1)/Θ(T2) は、単純な η=1-T1/T2 という式になる。

2021-01-23 20:31:34
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-41 高校時代の自分に向けた #カルノーの定理 の話は以上ですが、この話は特殊な仮定を2つ置いています。 仮定①:熱量と仕事の関係 W=α(Q-q) に出てくる比例定数αを1とした。 仮定②:温度と熱効率の関係 η=1-Θ(T1)/Θ(T2) に出てくる温度の関数Θを温度Tとした。

2021-01-23 22:30:35
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-42 この2つの仮定は、「カルノーサイクルに限っては」どんなサイクルを考えるときでも矛盾なく置ける仮定だというのは間違いない。 そして、これら2つの仮定を、「熱と動力の全ての現象に」成り立つ仮定だと要請すると、大学などで学ぶ「熱力学」というものになってきます。

2021-01-23 22:15:22
小嶋 徹也 @coJJyMAN

CT-43 ・温度の次元は仕事と同じなのか ・内部エネルギーという状態量の存在 ・エントロピーの導入 ・PV平面とTS平面 等々、他に話したい話題もいくつかありますが、この話はここまでにしたいと思います。

2021-01-23 21:22:59
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まとめたひと
小嶋 徹也 @coJJyMAN

趣味は物理、特技は鋼に焼きを入れること。