奇兵隊略史 草創期編

シービー @MrCB_Harukaze

文久3年(1863)6月6日、高杉晋作は下関の白石正一郎邸にて、入江杉蔵、河上弥市、宮口清吉ら同志15人と協議した。翌7日、来島又兵衛を訪ね、五箇条の奇兵隊結成綱領を草し、宮口清吉に書かせた。

シービー @MrCB_Harukaze

第一条「奇兵隊は"有志の者”の集まりで”陪臣経卒藩士を不撰同様に相交わり””力量”を重んじ”堅固な”隊としたい」第二条「書面を山田孫右衛門に出せば藩主に届くようにしてほしい」第三条「奇兵隊は既存の組織からの者も拒否しないで隊に加えたい」

シービー @MrCB_Harukaze

第四条「日記（後の奇兵隊日記）を差し出すから、賞罰の御沙汰は陪臣・経卒・藩士にかかわらず速やかに行ってほしい」第五条「隊法は和流西洋流にかかわらない」。同綱領は河上弥市に持たせて山口政事堂に届けさせた。藩政府はすぐにその旨を了解した。ここに「奇兵隊」が正式に結成される。

シービー @MrCB_Harukaze

晋作坊ちゃんは6月6日に藩主に献策して賛同を得た日を奇兵隊創建としているが、手続き的には6月7日とみることができる。当初は白石邸が本営のような役割であったが、隊には応募者が相次ぎ、三日後には60余名となった（白石正一郎日記）。

シービー @MrCB_Harukaze

そのため、阿弥陀寺（現在の赤間神宮）に本陣を移し、隣りの極楽寺にも分宿した。なお、白石正一郎は弟・廉作と共に6月8日に奇兵隊に入隊し、会計方を務めている。晋作坊ちゃんは白石の恩に報いるためか山田孫右衛門に白石を取り立ててくれるよう手紙を送っている。

シービー @MrCB_Harukaze

6月12日、高杉晋作は馬関惣奉行手元役を命じられた。一門の毛利宣次郎が解任され、家老国司信濃が惣奉行となり、晋作坊ちゃんはその「筆頭相談役」となる。馬関方面の軍事指揮権は、相談役高杉晋作と波多野金吾が握る。そして、27日には晋作坊ちゃんは政務役に昇り、奇兵隊総督を命じられた。

シービー @MrCB_Harukaze

白石正一郎邸跡・奇兵隊結成の地 pic.twitter.com/4jOlHgd1nm

拡大

シービー @MrCB_Harukaze

実質的な奇兵隊最初の本陣・赤間神宮 pic.twitter.com/xMrT2PTDHX

拡大

拡大

シービー @MrCB_Harukaze

奇兵隊結成当時の中心メンバーは光明寺党と呼ばれた者が中心であり、奇兵隊の基は久坂玄瑞の光明寺党であるという説もあるが、久坂の一派はあくまで志士の集まりであり、奇兵隊の結成方針とは重ならないのでそれは違うのではと個人的には考える。

シービー @MrCB_Harukaze

高杉晋作は奇兵隊結成時に軍中の法五箇条を作る。第一条「隊員-伍長-総督の指揮系統のもと、一隊一和が肝要」第二条「陣中勝手な外出をしない」第三条「酒宴・遊興・淫乱・声高の禁止」第四条「喧嘩口論の禁止・計謀策略の意見は伍長を通して総督へ申し出るべし」第五条「陣中敵味方強弱批判の禁止」

シービー @MrCB_Harukaze

文久3年(1863)7月9日、馬関本営手元役高杉晋作は「小隊規則」として山口政事堂に認可を請う。「小隊規則」は奇兵隊を意味している。注目すべきは第一条の指揮系統であろう。藩の正規軍である先鋒（撰鋒）隊は、萩藩一門-老中-隊員のラインであった。

シービー @MrCB_Harukaze

これに対して奇兵隊は老中-司令官-隊員である。惣督は「毛利家」ではないものが惣督（総督・総管）として統括し、隊員は数人が一伍とし、伍長が束ねる。伍長が「司令官」であり、身分制で形骸化したものではない真の司令官を当てるということである。

シービー @MrCB_Harukaze

奇兵隊「惣督」の権力は絶大で、見方によっては藩とも一線を画せると理解できなくもない。 晋作坊ちゃんが奇兵隊総督に任ぜられた際、馬関の大組二組のうち「強壮の者を100人残し」と藩庁の命令があり、その100人が先鋒隊として編成され馬関に残る。当然、奇兵隊とは対立していく。

シービー @MrCB_Harukaze

「光明寺」　確か行ったことあるよな、と写真探したらありました。閉まっていたので柵越し。 pic.twitter.com/e7mRmsuqVz

拡大

シービー @MrCB_Harukaze

文久3年6月12日、奇兵隊は、宮崎彦輔、赤禰武人、坂本力の3名を小倉藩に向かわせる。馬関防御のため小倉砲台を借り受ける旨の申し入れのためである。だが、小倉藩はこれを拒否する。当時、京から久坂玄瑞が馬関に帰っていたこともあり、意気盛んな奇兵隊は小倉田ノ浦を占領するという行動に出た。

シービー @MrCB_Harukaze

いわゆる「田ノ浦事件」である。『奇兵隊日記』6月19日には「人民大きに服し」と田ノ浦の民心を掌握したように記載している。とはいえ、他藩の領地を勝手に占領するなど暴挙としか言い様がなく、これは萩藩のコントロールが奇兵隊に及ばないことがあった事例である。

シービー @MrCB_Harukaze

当然、その後も奇兵隊と小倉藩の対立は続く。奇兵隊は長州に西下していた正親町少将（公薫）へ小倉藩弾劾書を提出。この弾劾書の起草には、晋作坊ちゃん以下、波多野金吾、小田村文助（伊之助）、宮城彦輔、糸賀外衛、佐久間佐兵衛らが当たったと言われる。

シービー @MrCB_Harukaze

藩の重役が加わっているところを見ると、藩も奇兵隊の暴挙を認めたと言える。田ノ浦事件は長州と幕府の対立（征長）の一因ともなった。小倉藩が幕府に訴え、幕府は詰問使として中根一之丞を派遣。中根を乗せた軍艦朝陽丸は長州藩に砲撃を受け、中根らを殺害した。当然奇兵隊も加わっていた。

シービー @MrCB_Harukaze

ちなみに、この朝陽丸事件をとりあえずいったん収めたのは吉田稔麿という逸話がある。朝陽丸が去ったのは栄太郎が「忠臣蔵」の話しを持ち出し、自分たちの忠誠心を説いたところ幕臣が感激し、江戸へ去ったという。まぁ、本当は中根殺害を報じたところ慌てて報告のため去ったというのが本当であろう。

シービー @MrCB_Harukaze

文久3年8月16日、萩藩世子毛利元徳は馬関を巡検、海防設備を視察、先鋒隊・奇兵隊・足軽銃隊・猟兵隊などを閲し、夜に隊士一同に酒肴を下した。このころ、奇兵隊陣営は阿弥陀寺（現赤間神宮）、先鋒隊陣営は教法寺であった。

シービー @MrCB_Harukaze

『回天史・四』によると、先鋒隊士数人が教法寺近くの宮城彦輔宿舎に押しかけて面接を迫った。宮城は多忙のため後刻にしてほしいと応え、晋作坊ちゃんの宿舎を訪れた。だが、すぐに先鋒隊士が押しかけて来たと知らせが入る。宮城は「怒色眉宇に現る」となり、教法寺に向かう。

シービー @MrCB_Harukaze

晋作坊ちゃんも同行、騒ぎを聞きつけた奇兵隊も同行した。と描かれる。これに対して、奇兵隊士金子文輔日記『馬関攘夷従軍記』だと、世子の視察が前田砲台で時間切れになり、先鋒隊の壇ノ浦砲台視察が延期になってしまったのが争いの原因と記されている。

シービー @MrCB_Harukaze

面目を潰された先鋒隊は使い番の宮城の責任と決めつけ暗殺を企てた。覚悟を決めた宮城は、酢奈良屋の晋作坊ちゃんに別れを告げに行くが、坊ちゃんが激怒し宮城と共に教法寺に乗り込んだ。という。晋作坊ちゃんは来意を告げる。先鋒隊士は攻撃を仕掛ける。

シービー @MrCB_Harukaze

坊ちゃんは門外の奇兵隊士を呼び本堂に上がる。ところが、先鋒隊士は燈火を消して逃走する。奇兵隊士は逃げ遅れた先鋒隊士に手傷を負わせて引き上げた。その夜奇兵隊陣営は復讐に備えていたが先鋒隊は現れなかった。

シービー @MrCB_Harukaze

宮城彦輔は大組400石の家柄であったためか、藩正規兵から諸隊の奴原、要は裏切り者と嫌われていた。この事件は晋作坊ちゃんから世子に伝えられ、両隊の関係者は処分され、宮城彦輔は責任をとって8月27日、切腹させられた。享年50歳。

シービー @MrCB_Harukaze

この事件で奇兵隊は小郡秋穂に転陣（本営は万徳院）を命じられ、山口に守備に着く。晋作坊ちゃんは後慶応元年3月5日、同志への手紙で「是れ弟大失策」と慚愧を吐露している。ちなみに、坊ちゃんは教法寺事件を「先鋒隊陣屋騒動」と呼んでいた。教法寺事件と呼ばれるのは後世のことである。

シービー @MrCB_Harukaze

文久3年の八月十八日の政変後、一時期俗論党が政権を握る。9月1日麻田公輔（周布政之助）は内用役と表番頭格、毛利登人と前田孫右衛門は直目付の役職を解かれ、浦靭負らも辞表を提出した。そんな中で奇兵隊解散論が起こる。

シービー @MrCB_Harukaze

「俗論沸騰の影響に原因」と防長回天史では書かれている。こうした状況下で高杉晋作は逆襲に出る。総督辞任（9月12日）直前9月9日、奇兵隊当てに「殉国の覚悟」を示す手紙を送った。一説には奇兵隊の武力をバックにした言動があったいう。翌10日、晋作坊ちゃんは政務座役に返り咲く。

シービー @MrCB_Harukaze

以後、正義派が巻き返し麻田・毛利・前田らは復職した。晋作坊ちゃん辞任後は河上弥市（南八郎）と滝弥太郎が後任の総督に着いた。その後、奇兵隊は七卿の護衛を命ぜられる。9月25日、奇兵隊は三田尻に移り本営を正福寺に本営を置いた。

シービー @MrCB_Harukaze

奇兵隊と七卿の関係は深まったが、七卿の一人沢宣嘉が但馬生野挙兵に参加し、総督の一人河上弥市がそれに加わり奇兵隊を脱走する。これらはすぐに鎮圧され、10月4日、河上弥市の後任の総督に赤禰武人が着任した。

シービー @MrCB_Harukaze

この頃（奇兵隊草創期　三田尻本陣までの頃）の体制。入隊者は「伍」と呼ばれるグループに入れられる。伍は通常5人の集団で、「伍長」が掌握し、総督が伍長を指揮する。この頃は奇兵隊への入隊者が多く、次第に、伍は増殖していった。

シービー @MrCB_Harukaze

また、器械掛・記録掛・会計掛等の掛も作られた。ただ、この頃は制度として体系化しておらず、必要に応じて作られていたようだ。奇兵隊の軍政は、総督の基で伍長会議が開かれ、隊内の問題は伍長会議（伍長・伍尾が参加）で議論され、隊内の意見はここに集約・決定されていた。

シービー @MrCB_Harukaze

晋作坊ちゃんが「功績を藩に知らせるため」に作られた『奇兵隊日記』は、「当直」と呼ばれる役職が記録し、隊員の監視役も兼ねていて、伍長・伍尾が交代で努めた。つまり、総督と伍長会議が奇兵隊運営の中心であった。

シービー @MrCB_Harukaze

晋作坊ちゃんは、奇兵隊士の一言一行は防長二国の「人民手本」であるべきで「各伍相調、愚物軽薄物早々沙汰せよ」と命じた。各伍の隊内点検が伍長会議での議題となった。「人民手本」は、奇兵隊の精神的支柱のようなものであった。此以後、奇兵隊が大きくなるにつれ、体制や精神的支柱は変化していく。