ボブ・ディランを口ずさみ、タッチパネルを操作して遠くへ行く切符を買った。荷物はキャリーケース一つ。家具付きの部屋は昨日引き払った。もう戻ることはないだろう。いい思い出がないわけじゃない。でも、損ばかりの人生を立て直したい。ターニングポイントはどこだろう。答えはきっと風の中。
2019-03-16 22:01:12退院する前日、自販機にコーヒーを買いに行った。 「ねえ、貴方はふたつのことで迷ったら、どうやって選ぶ?」 パジャマ姿の女の子に急に話しかけられて、僕はどぎまぎした。 「勇気が必要な方、かな」 素敵ね、と笑った彼女は、成功率30%の手術を受けて、5年後僕の花嫁さんになった。 #140字小説
2019-03-16 22:01:58二つのボタンだけのタッチパネル。 でも、選択を誤ると僕は彼女を永遠に失う。 柔になった国民の試練克服力を養うとやらで、結婚を決めた男女に課された政策。 彼女の顔を思い浮かべ、激しい心音を聞きながら、僕は恐る恐るボタンに触れた── 二人の今も、思い出す瞬間。 技術の進歩も厄介なもんだ。
2019-03-16 22:04:03私が預かっているこの子は、タッチパネルでの文字入力がべらぼうに早いという変わった子だ。腹を出して寝ている私の腹をタッチパネル代わりに使い、「起きて」と入力してくるいたずらっ子な一面も くすぐったいけど、これは大事な事。なにせ口の聞けないこの子が使う、秘密の会話手段でもあるのだから
2019-03-16 22:05:51#深夜の真剣140字60分一本勝負(@140onewrite ) #140字小説 口遊み、の方が雰囲気出たかな…… pic.twitter.com/WCAfBuonHl
2019-03-16 22:06:01#深夜の真剣140字60分一本勝負(@140onewrite ) #140字小説 例によって長編の一部っぽい。 pic.twitter.com/Jznzb5ioOn
2019-03-16 22:07:11人生リセットボタンを押した私は、新たな顔と名前で彼に出会った。彼は前の恋人と違い、優しくて誠実な人だ。夢にまで見た幸せに包まれながら鼻歌を歌っていると、釣られて彼も同じ曲を口ずさみはじめた。上機嫌な彼の声に、血の気が引いていく。 この曲を知っているのは、私と、前の恋人だけなのに。
2019-03-16 22:19:11What A Wonderful World. 私の一番好きな歌。 口ずさみながら、一万七千二百十六番目の星をデザインする。タッチパネルに踊る私の指は曲に合わせて、滑らかに動いた。 「まだ起きてるの」 貴方は呆れるけれど、こんな楽しい事が他にあって? #140字小説 #深夜の真剣140字60分一本勝負 pic.twitter.com/1wpprlS3JU
2019-03-16 22:20:53ターニングポイントというのものは、いつだってちょっと手厳しい。凹んで、泣いて、寝て、ようやく立ち直る。鼻歌が口について出る頃には、笑顔でいることが増えてきたようだ。あなたにそう言われて恥ずかしくなり、また繰り返し同じメロディーばかり歌っている。#深夜の真剣140字60分一本勝負 pic.twitter.com/z8yi5T8NtL
2019-03-16 22:29:56鼻歌を口ずさむ彼女、その左手に何気なくそっと触れてみる。 「あら、どうしたの?」 驚きながらも優しく微笑む彼女についつい僕まで笑顔になってしまう。 お互いに50も過ぎて華やかな世界からは離れてしまったけれど、二人の左手に光るリングの輝きと同じく、全く色褪せない恋心を貴女へ贈ります。
2019-03-16 22:51:54流行歌を口ずさみ、愛や恋を軽薄に語る奴らが大嫌いなんだ。分かってる、妬み僻みの泥沼だ。ターニングポイントはいくつもあったはずなのに、天邪鬼の臆病者には触れられない。タッチパネル一つで何もかも決められる世界で、僕は何も決められないでいる。ほら、パンケーキだってこんなにも苦い。
2019-03-16 22:54:26