お題「薄紅色」「畳と線香」「ひぐらし」
0
Keiko Nagamori @ki_engi

久しぶりの実家は真新しい畳と線香の匂いがした。兄と彼女が結婚して僕の足は実家から遠のいていた。「もっと帰ってきたらいいのに〜。」無邪気な薄紅色の唇に僕は戸惑う。あの夏、ひぐらしの声がする電車のホームで彼女を見かけたあの日から、僕の世界は彼女だった。ずっと昔、僕は彼女が好きだった。

2019-08-10 21:53:50
花滝ちかる @chikaru_toka

彼女は多分長期の入院者で、時々病院の庭に出て花を見ていた。 俺が退院する日、勇気を出して彼女に話しかけた。 「名前を教えて下さい」 「ウスベニタチアオイ」 花の名か。俺は少し困って、 「薄紅さん。貴女のお見舞いに来てもいいですか?」 彼女が、染まった頬で初めて俺を見上げた。 #140字小説

2019-08-10 22:01:48
津森七@文学フリマ京都い-36 @tumori_nana

夕焼けに君の顔が薄紅色に染まった。ひぐらしの声に掻き消され、零れる言葉は掬われない。真新しい畳と線香の香りを嗅いだのはいつだったか。どれだけ夏が巡っても、君はまだそこにいる。ああ、ひぐらしよ、まだ鳴かないで、泣かないで。あの子の声が聞こえない。さよならの声も届かない、決して。

2019-08-10 22:02:22
水城弥生 @mizukiyayoi8484

ひぐらしの声が鳴り響く。縁側に座って風鈴を鳴らして「涼しいね」なんて笑う。お団子結びにして薄紅色の浴衣に身を包んだ君はこちらへ来る。「本当に、大好きだったよ。いや、今でも」畳に座って線香を焚く君の目は涙で溢れていた。ごめんね、泣かせてしまって。仏壇の向こうで、遺影を通して謝った。

2019-08-10 22:03:58
行木しずく @gloom_tree

#深夜の真剣140字60分一本勝負 (@140onewrite ) 久々に参加します。 「薄紅色」「畳と線香」「ひぐらし」 pic.twitter.com/FFe1o4rC10

2019-08-10 22:07:20
拡大
みのは引越ししました @mino_0314

ひぐらしの声で目が覚めた。随分と長く寝てしまった。山際の雲が薄紅色に染まり、空との境に紺青が落ち始めていた。寝返りを打った畳の上、小さくなった蚊取り線香が狼煙をあげ、獲物を静かに狙っている。腕に止まっているそれを差し出せば、頬に付いた畳の痕を消してくれたりしないだろうか。

2019-08-10 22:07:24
モモンガ生命体(芳々) @saturn142900

『ひぐらしが鳴くのは夕暮れだけじゃないよ』 祖母の言っていた通り明け方のこの時間にも鳴いている。 昨夜は着いて早々久しぶりの友達と飲み明かし、先程解散した。既に自室はなく仏間に敷かれた布団に転がる。はみ出した足裏に当たる畳と線香の香り。 「ばあちゃん、ただいま」 写真に声をかけた。

2019-08-10 22:11:57
秋月蓮華 @akirenge

ひぐらしが、鳴いている。 整った和室。 畳のい草の匂い、線香の匂いの中、 彼の目の前で男と女が死んでいて。 「おーい。何か見た?」 「見た」 相棒の彼に呼ばれて我に返る。 ここは廃屋。アレはかつての記憶。 「どんな」 「心中遺体」 「当たりか」 「当たりだ」 今、畳には薄紅色が広がる。

2019-08-10 22:13:23
春日聖奈@二代目 夜 @haruhino37

少し日が安らいだ午後、ひぐらしの声が線香の香る和室の静けさを奪ってゆく。縁側に足を投げ出して想い人が団扇を揺らしていた。日が落ちたら、次は花火がその音を響かせるだろう。そして、花火の後を考えた所で頬が温かくなるのを感じた。私はそっと、彼の隣へと腰を下ろす。その時を待ちながら……。

2019-08-10 22:17:12
松岡 9JIRA @aoarup

○演舞場 薄紅色の花の衣装の踊子の踊り。 後ろで眺めるなつ。ひまわりの柄の踊り子衣装。 側に直人。 直人「あの連で踊れなかったのが悔しいのか」 なつ「悪い?」 直人「なら、見返してやれば?」 なつ「え?」 直人「だって夏に一番きれいに咲くのはひまわりだろ?」 入場の声。頷き駆け出す二人。

2019-08-10 22:17:58
RAY/※※※ @growler_ray

あなたは家に来るといつも決まって縁側で寝転がったわね。畳の和室に頭を突っ込んで、この畳と線香の匂いがいいんだ!なんて言って。 …もしあのお星様から降りてきて、ここにやってくるなら、またこの匂いを好きって言ってくれる? 「この時期にその寝起きドッキリはやめて…」 「あら蘇っちゃった」

2019-08-10 22:18:35
掃き溜めに鶴 @hakidamenoturu

盆に帰国した俺は、墓参りへと直行した。墓地にはひぐらしの鳴き声だけが響いている。俺は土産のワインを取り出すと、それを墓石へと流しかけた。薄紅色のシミができた墓石が我が家らしい。そう、これが我が家だ。痛んだ畳と線香の臭いが染み付いた孤独な家を我が家だとは、思いたくはなかった。

2019-08-10 22:21:49