実はお互い一目惚れ。
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茶碗蒸しの底 @bw_523

たまたま街に出たという海賊を退治した帰り道。🐊は人目のつかない路地に蹲る🌸を見つける。普段なら見て見ぬふりでもするところだがなんとなくその時は声をかけた。「どうかしたのかねお嬢さん」「っ、🐊さま…!」声に反応して上げた顔は誰が見ても顔色が悪い。

2023-01-31 01:56:21
茶碗蒸しの底 @bw_523

「医者が入り用か」「い、いえ、普段からよくある事なので…このまま安静にしていたらそのうち落ち着きます」ゼェゼェと苦しそうに息をする🌸に🐊は眉間に皺を寄せると🌸の体を抱き上げる。「えっ…!🐊さま…??」「……目の前で苦しまれるのが嫌なだけだ」

2023-01-31 01:56:21
茶碗蒸しの底 @bw_523

「家はどこだ、送ってやる」「そ、そんな悪いです…!」「もう一度言う。家はどこだ」有無をいわせない🐊に🌸は眉を八の字にすると諦めたように自宅の方角を指さした。どうやら🌸は一人暮らしらしく扉を潜ると薬品の香りが鼻をついた。「どこか悪いのか」

2023-01-31 01:56:22
茶碗蒸しの底 @bw_523

ベッドに🌸を下ろしながら聞くと🌸は「昔から身体が弱いもので…」と困ったように笑う。今日はたまたま朝から調子が良く買い物に出たはいいが途中で気分が悪くなり、運悪く手持ちの薬も切れていたらしい。「すみません、🐊さまのお手を煩わせました」

2023-01-31 01:56:22
茶碗蒸しの底 @bw_523

ぺこっと頭を下げる🌸に🐊は鼻を鳴らすと「別に気にしなくていい」と返す。「お礼も必ず…」「ただの気まぐれだ、いらねェ」もう大丈夫そうならおれは帰る。ずっと頭を下げて礼を言う🌸に背を向けて🐊はその場を後にした。

2023-01-31 01:56:22
茶碗蒸しの底 @bw_523

数日後、🐊の元へ手紙が届いた。差出人は🌸で中には「礼をしたいが貴方に見合うものが見つからず、こうして感謝の言葉を送るべく筆を取りました」といった内容が綺麗な細い字で書かれていた。「……」🐊は手紙を確認するとこれまた気まぐれで近くにあったペンを手にする。

2023-01-31 02:01:41
茶碗蒸しの底 @bw_523

「気にしなくていいと言ったはず、体調が戻ったならなにより」そんな内容の返事を書くと使いを呼び送るように言う。これで終わりかと思いきやそれから暫くして🌸からまた返事が届き、それにまた返事を書く🐊。

2023-01-31 02:01:42
茶碗蒸しの底 @bw_523

🐊の手紙に🌸が返事を書き、🌸の手紙にまた🐊が返事を書く。最初は会った日の事だった内容は段々とお互いのことを書くようになっていき好きなもの、その日あった事を書くようになっていた。

2023-01-31 02:16:42
茶碗蒸しの底 @bw_523

そうして順調に続いていたやりとりは、ある日パタンと🌸からの返事が無くなり途絶えた。いつもなら返事が届いてもおかしくない筈だが、と自分も気付かないうちに🌸とのやり取りが楽しくなっていた🐊はその日仕事を終えると🌸の家へと向かう。

2023-01-31 02:16:43
茶碗蒸しの底 @bw_523

扉をノックすると中から出てきたのは壮年の女性だった。🐊を見て驚く女性に🌸のことを聞くと一瞬で顔を曇らせ「今彼女はここに居ません…」と呟いた。聞けば彼女は🌸の母親で、🌸は元々悪かった体調が悪化し近くの病院に入院しているとのこと。

2023-01-31 02:16:43
茶碗蒸しの底 @bw_523

言われた病院へ向かい🌸がいる病室へ入ればそこには白い布団に白い顔で眠る🌸の姿が。彼女の担当医に話を聞けば命に別状はないが目が覚めるかは分からないらしい。 「……細ェなぁ…」眠る🌸の手を撫でるようにしていると視界の端に病室に備え付けの引き出しの上段から何やら白いものが覗いている。

2023-01-31 02:16:43
茶碗蒸しの底 @bw_523

「……っ」なんとなしに手を伸ばして引き出しを開ければそこに入っていたのは🐊が🌸宛に書いた手紙が綺麗に日付ごとに並んでいた。 一つ手に取り確認していると🐊が出した封筒の隅に🐊のじゃない筆跡があった。「これは、🌸の…」

2023-01-31 02:16:44
茶碗蒸しの底 @bw_523

何度も見た🌸の文字は一目でわかる。小さく書かれた何かを解読しようと目を凝らす。文字を確認した後、🐊は何かに弾かれたように他の封筒も確認していく。『初めて会った日から好きです』『でも貴方と私とじゃ釣り合わない』『大好きです』『私の英雄』

2023-01-31 02:25:43
茶碗蒸しの底 @bw_523

🌸からの愛の言葉を全て確認した🐊は眠る🌸へと顔を向ける。「…お嬢さんだけじゃねェんだぞ」髪をかき分けて額を露出させるとそこに静かに唇を寄せる。「あの日、どうやらおれもお嬢さんに惹かれていたみてぇだな…」「あいしてる」早く、起きて返事を聞かせてくれ。 おわり。

2023-01-31 02:25:43