【魔法少女（笑）】一日兄弟のささやかな遊び

ナナシ @darkmoon_souji

【双子間抗争】 「夕乃に彼女ができたかもしれない……」 昼飯を食っていると、突然双子の片割れがそんなことを言い出した。 「……夕乃ってことは、お前は朝乃？」 「まずそこかよ」 いや、そりゃそうだろ。 一日（ひとひ）兄弟とくりゃ、どっちがどっちかわからないのが定評だからな。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「まぁどっちがどっちでも、どうでもいいけどな」 「先輩に同感です」 「こいつらマジひでぇ」 それより昼飯を食わせろ。 「そんで？ 何だっけ？ 俺ら飯食ってるんだけど」 「俺らって……いまりん食ってないじゃん」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「俺は先輩が食べているのを見ているだけで十分なので」 「いまりん……ちょっと時間があいたからっていきすぎたキャラに変わりすぎ……」 「おい、伊万里。さすがの先輩もドン引きだ」 「え？ 何がですか？」 わかってるくせにとぼけやがった！

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「それより一日さんたちの話でしょう？ 何でした？ 俺、あんまりきちんと聞いていませんでした」 「ひどい！ この子本当ひどい！ たった数分、いや、数行の出来事なのに！」 行ってなんだ、行って。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「彼女ができたんだろ？ おめでとう。よかったじゃん。どうせ二人で入れ替わって女を弄んで飽きたらポイだろ。最低だな」 「最低ですね……」 「やめろよ！ 誰がいつそんなことしたって！？ 印象悪くなるからやめて！」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 安心しろ。すでに悪い。 「じゃなくて！ 俺じゃなくて！！ 夕乃だよ！夕乃に彼女ができた！ かも知れないの！」 「うん。だから？」 「ひどくない！？ 兄を差し置いて彼女作るなんてさ！？」 「お前が兄なの？」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「先輩。朝乃と夕乃のなら必然的に朝乃が兄になるのだと思います」 「そうか。そうだな。で？ なんだっけ？」 「お前らもう嫌い！」 朝乃は泣くフリをした。 めんどくせぇなぁ。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「冗談だよ……夕乃に彼女ができて気に食わないんだろ？」 「いや……できたという確証はないんだけど……」 「ないのかよ」 紛らわしいな！ 「なんか……コソコソしてるっつーか……単体行動が多くなったというか……」 「そうなのか？」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 伊万里の方を見たが、首を傾げるだけだった。 まぁいいや。 「女の子と二人で歩いてるところを見ちゃったりしてさ……たぶん彼女だと思う……」 「いやいやいや。たぶんって何だ。一日兄弟のいつもの情報収集力はどうした」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 人の元カノのことは散々調べあげてきたくせに、何で身内のことはわかんねぇんだよ。 「俺ら双子だぞ？ 情報収集しようにもお互いの考えてることは大体予想つくんだから、無駄だって」 「あぁ……」 延々と追いかけっこすることになるのか…

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「ん……まぁ、彼女くらいできるんじゃね？ お前らムカつくけど女子受けいいじゃん。できたっておかしくねぇよ」 「俺らがスーパーモテるとかそういうことじゃなくてさぁ！」 「別にそんな表現はしてねぇけど」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「何で俺に話してくれないんだろ！？ その時点でもうショックっつーか？ これまで二人で行動してたのが一人になって、お兄ちゃんさみしい！」 「何で突然兄キャラ発動させた？」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「ハチィ！ 俺がこんなにも孤独に耐えられない人間だったなんて思いもしなかったよぉ！ さみしいよぉ！ 何とかしてくれよぉ！」 「知らねぇよ。中二病か」 うるさいし、うざいし、めんどくさい。 「伊万里、こいつどっかやって」 「わかりました」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「ぎゃあ！ 暴力反対！！」 「静かに飯食わせろよ。お前ら兄弟間の問題なんて心底どうでもいいんだよ」 「何でそんなこと言うんだよ！ お前だっていまりんに彼女できたら、こうやって弁当作ってもらえねぇんだぞ！？ さみしいだろ！」 「え？ 別に？」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「え？」 伊万里と朝乃がハモった。 何だ？ 俺、おかしなこと言ったか？ 「お前……」 「何だよ。その目は。伊万里だってそりゃ彼女くらいできるだろ。モテるだろうし。そのときは俺なんぞに構ってないで、彼女を大事にしてやれよ」 「……そうですね……」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「お前の方が最低だよ……」 は？ なにこれ？ 何でこんな空気になってんの？ 俺別に間違ったこと言ってないよな？ 「つーか俺の話じゃなくて、夕乃だろ？ 彼女できたなのか？って聞けばいいじゃん」 「そんなデリカシーのない質問……」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji デリカシーとかそういう問題！？ それくらい聞けよ！ 兄弟だろ！？ 「もういいんだ……俺と夕乃は別々の道を行く……」 あれだけ騒いでおいて、最終的にはそれかよ。 何がしたいんだ。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「じゃあな……相談に乗ってくれて……」 「いや……うん……？」 肩を落としながら朝乃は俺達の前から消えていった。 「……何なんだよ、あいつ」 「さぁ……？」 伊万里も首を傾げた。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 誰に彼女ができたとか、本当にどうでもいい。 ついでに彼女の自慢とかされても困る。 それが伊万里であっても…… ……。 「お前の飯が食えなくなるのはちょっと残念だな」 「なんですか？」 「ううん。何でもねぇ」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji さぁ、そろそろ教室に戻ろう。 うるさいのもいなくなったことだし。 「戻りますか？」 立ち上がった俺を見て、伊万里も腰を上げた。 「ああ。昼休み終わりそうだし」 「そうですね」 俺達は校舎内へと戻っていった。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 廊下を歩いていると、見たくもなかったがあるものが目に入ってしまった。 「……一日さんですね」 伊万里も気がついたらしい。 女子と何やら楽しげに話している。 カップルにも見えなくもない。 ということは…… 「あれが夕乃になるのか……」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「ですかね……」 彼女ができたって、本当だったんだ。 「うーん……何だか見てはいけないものを見てしまった気分。どうでもいいんだけど」 「わかります。どうでもいいですけど」 「見なかったことにするかぁ」 「そうですね」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 俺達はさっさとその場を離れた。 一日兄弟も双子だからって、いつまでも一緒じゃ生きていけねぇよ。 これを機会に、お互い別々の道を歩めばいいんじゃないかな。 きっとそうすれば、あの性悪な性格も治って、真っ当な人間になれるはず。 そうだよな。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji よかったな。 これで大人への階段を上がれたな…… さよなら……一日兄弟…… 「勝手にさよならしてんじゃねーよ！！！！！」 放課後。帰ろうとした俺達の前に一日兄弟が現れた。 残念ながら二人揃って。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「え？何？お前ら解散したんじゃねぇの？」 「バンドか！一日兄弟は永遠不滅だよっ」 「つーか、ねぇ！何なの！お前ら無関心すぎ！俺が悩んでてもお構いなしかよ！」 「なんか悩んでたっけ？」 「人の話本当に聞いてた！？」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji わめくなよ。 皆が見てるじゃねぇか。 「一日さん……何でもいいんですけど、通行の邪魔なんでどいてもらえませんか……？」 「あ、うん。ごめん……ってちげぇよ！話聞こうよ！！」 キレキレのツッコミだな、今日は。

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「何なんですか……迷惑なんですけど……どうせ彼女できたとか嘘ついて、先輩と俺をからかって遊ぼうとしてたんでしょ……その手には乗りませんからね……」 マジか。 あらかた予想はついていたけど。 「えっバレてた？」 「バレないと思っていたんですか……」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 「全くだな！俺達の目は誤魔化せないぞ！」 「いや、ハチは絶対騙されていただろ」 うるせ！本当だろうか嘘だろうがどうでもいいんだよ！ 「何度も言いますが……一日さんたちに彼女ができようができまいが、心底どうでもいいんで」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji それがとどめだったらしい。 「あ、うん、そう……」 「どうでもいいよね、ごめんね……」 なぜか落ち込みながら、俺達の前を去って行った。 「……何がしたかったんだ」 「もう俺も何が何だかです」

ナナシ @darkmoon_souji

@darkmoon_souji 暇なんだろうな、あいつら。 「帰るかー腹減ったし」 「はい」 「結局、どっちがどっちなんだったけ？」 俺の質問に伊万里は「うーん…」と、唸る。 「そうですね……どうでもいいです」 「だよな。どうでもよかったな」