暁 湊のヘし燭の新刊 『お願いヒーロー』 ── 貴方を好きでいること、貴方にだけは許されたかった。 #新刊のタイトル shindanmaker.com/804547 どっちだ、どっち向きだ。いっそのこと互いにそう思っててもいいけど、うちはへしだな
2019-04-18 12:43:04燭台切がこの本丸に顕現したのは、頭から数えて十番目だった。短刀ばかりの本丸での太刀ということで歓迎されたし、頼られもした。それを煩わしく思うことはなかったが、気が重いと感じることはあった。嫌悪ではなく、期待に応えなければという義務感のようなものから来た感情だった。
2019-04-18 18:29:31短刀達の面倒を見たり、食事の準備をするのが最初の燭台切の仕事となった。前の主の見様見真似でこなしていたが、頼れるものが他にない彼にとっては楽しいと同時に苦しいものがあった。けれど、それらは全て胸の奥にしまい、「面倒見のよい燭台切光忠」であろうと努めた。
2019-04-18 18:46:09そんな燭台切に手を差し伸べたのが、その後顕現したヘし切長谷部であった。初期刀に本丸を案内され、最後にやってきた厨。そこで料理をしていたのは燭台切だけだった。頼りになる太刀だと仲間から燭台切を紹介された長谷部は名乗った後に胡乱な視線を向けた。 「今にも折れそうな奴が頼りになるか?」
2019-04-18 19:02:20燭台切は首を傾げた。負傷はしていないし、練度もそこそこにある。短刀達を引率しながら何度も戦場を駆け回ったからだ。少なくとも今日顕現したばかりの長谷部よりかは強いという自負がある。 「それは、僕が弱いってこと?」 思わず語気が強くなる。大人気ないとわかってはいたが、隠しきれなかった。
2019-04-18 19:16:46初期刀はびくりと肩を震わせたが、長谷部は表情一つ変えずに受け止めた。 「お前には余裕がない。だから、何もしなくても折れるだろうな」 そう言い残して、長谷部は厨を後にした。初期刀は慌てて長谷部の後を追って厨を出て行った。残された燭台切は、ただ立ち尽くすのみだった。
2019-04-18 19:16:47図星、だった。周囲の期待に応えることで精一杯で、自分を省みることができないでいた。それでも、誰かのために何かできることが自分にとっての喜びだと思い込んで、誤魔化して、ここまできた。そのことに、気づかされてしまった。 「何もしなくても折れる、か」 苦笑しながら、作業に戻る。
2019-04-29 23:10:40どうせ折れるなら、戦場で折れたい。僕は刀だ。刀として顕現したのなら、その役目を全うしたい。 久しく忘れていた感覚に、胸を打たれた。これから刀として戦場に立つ彼は、一体どんな顔をするのだろう。叶うなら、その隣に立ちたいと思いながら、燭台切は味噌汁の味を調えた。
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