展覧会・雰囲気のかたち ー見えないもの、形のないもの、そしてそこにあるもの(うらわ美術館)/ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展(国立西洋美術館)
0
lousism @lousism

予約してた図録が届いてたので……去年の12月3日に鑑賞した、うらわ美術館の『雰囲気のかたち ー見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの』展。「雰囲気」というテーマが既に雰囲気のような気もするけど、兎角、雰囲気を表現しようとした芸術家達の作品を集めた展覧会で結構面白かった。 pic.twitter.com/b0sUStnX4e

2023-01-13 22:43:47
拡大
lousism @lousism

展示の内容はかなり幅広い。朦朧とした世界を描いた横山大観・菱田春草に始まり、人工的に霧を発生させて空間をデザインする(当展覧会では映像展示)中谷芙二子、重厚なパステル画で空や雲を描いた武内鶴之助……特に興味深かったのは、百年も前に撮られたぼわーんと輪郭の不確かな写真作品群。

2023-01-13 23:08:40
lousism @lousism

写真は、現実をそのまま切り出せるという意味では「写実」の極致にある。しかし一方で、機械的な・技術的な操作を行うことによって、ありのままの現実を「直接的に」歪めることだって出来てしまう。そういう試みは、或いはそういう「興味」は既に百年前の日本でも実践されていたということなのだ。

2023-01-13 23:13:46
lousism @lousism

次のフロアへ進む。極めて写実的だけれど柔らかく透き通った光線の眩い交雑が印象的な伊庭靖子『Untitled 2019-09』。とろっと溶けたスライムのような緑色のヘチマ畑がユーモラスな独特の世界観を形成する牛島憲之『残夏』。荒涼とした景色に立つ朽木がなお神秘的な迫力を帯びる小川芋銭『寒根生意』。 twitter.com/lousism/status…

2023-01-13 23:29:53
lousism @lousism

さて、ここまでの「雰囲気」は視覚的に捉え得るものであった。各々に独自のアプローチを選びつつ、まだぼんやりした「雰囲気」を纏った具体的なモチーフが存在した。しかし、まるで銀河のように無数の点が画面を埋め尽くす瑛九の抽象絵画を境目にして、展覧会の「雰囲気」の「雰囲気」が変貌し始める。

2023-01-13 23:43:15
lousism @lousism

星の光が発せられた時代を書き込んだ天体写真。地下30mで撮影された完全な闇。震災の影響で九十九里に流れ着いた竹の空洞を鉛で封印し、或いは割れた竹の断片には明るい黄色を塗る。自身の展覧会のポスターを何通りにも加工する……河口龍夫の作品は可視な世界の限界を示唆しているように思える。

2023-01-13 23:54:42
lousism @lousism

展覧会のポスターにも採用されていた若林奮のフロアには、木片を組み合わせた不可解なオブジェ、何処か神経質な点と線を組み合わせた不可解なドローイング、そして抽象的で不可解な彫刻作品が並んでいる。うん、これは、僕には到底「見えない」ものだ。「見えない」ものが「見えている」落ち着かなさ。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/R1XLMfNg1e

2023-01-14 00:05:41
拡大
lousism @lousism

展覧会のポスターにも採用され、或いは今回の展覧会のテーマの元ネタであるかもしれない作品『雰囲気』……人間と犬の間に置かれた四角い空間。己と対象の間にある空間を「測る」というのが若林の重大なテーマであったらしい。だけど僕には、彼が行った「測り方」がまるで理解出来ないままなのだ……

2023-01-14 00:15:25
lousism @lousism

そして、一番最後のフロアが福田尚代。画面を覆い尽くす「蓮」の字がグラデーションをなし、或いは漫画の瞳や髪の毛が鳥になり、或いは文庫本の頁に開けられた無数の穴から光が溢れ……写真の作品は名刺の一つ一つの文字に玉止めを施したもの。文字は文字通り糸となり、文字であることを止めてしまう。 pic.twitter.com/kctJ1T1b47

2023-01-14 00:24:38
拡大
lousism @lousism

福田尚代の作品は、先ず、途方もない小さな小さな作業の集積に圧倒される。僕には画面いっぱいの「蓮」を書き続けることも、沢山の文字に一つ一つ玉止めしていくことも到底出来やしない。現代芸術には、アイデアを実現するための、技術とはまた異なる「作業」の稀有な才能が必要なのかもしれない。 twitter.com/lousism/status…

2023-01-14 00:36:51
lousism @lousism

今回、かなり重要な作品があった。福田尚代の『本の粒子』『本の微粒子』だ。一目には、小さな粒を沢山散りばめたもの/淡いベージュの粉を積み上げたものにしか見えない。だがキャプションを読むと、この粒や粉が、作者の私物である本を千切って丸めたもの/おろしがねですりおろしたものだと知る。

2023-01-14 00:41:28
lousism @lousism

書物というのは紙のうえに文字や図画を載せたものだ。書物は文字や図画こそが本質であり、紙はあくまで土台に過ぎない。しかし紙を千切って丸めて/おろしがねですりおろしてしまうと、文字は失われて紙の残骸だけが残る。ある意味では、この「身体の喪失」はかえって書物の「身体性」を露わにする……

2023-01-14 00:47:09
lousism @lousism

僕はこれを面白いと思った。けれども同時に、僕が面白いと思ったのはこの作品なのか、それとも「作品の解説をしたキャプション」なのか自分でも分からなくなってしまった。もしもキャプションがなければ、この作品は、良く分からないベージュ色の粒と粉でしかない。僕は首を傾げて通り過ぎただろう。 twitter.com/lousism/status…

2023-01-14 00:50:32
lousism @lousism

僕は今回、先の二つの作品の写真をここに挙げていない。貴方はこの作品を直には見ていない。しかし貴方は、僕を通じて作品の「解説」だけは知ったはずだ。そして貴方はこの作品について何か感想を抱くだろう。さて、問題は、貴方の感想に作品の実物は必要であったのか? ということなのだ。

2023-01-14 00:54:46
lousism @lousism

先に挙げた、河口龍夫の作品。地下30mの地下雨水調整池にある闇を、鉄の箱に封印する。その封印の際に撮影された完璧な闇。微塵の光も存在しない闇……さてはて、これはどんなものだろう。貴方の御想像の通りである。キャプションがなければ、会場に展示されているのはただの真っ黒な画面でしかない。

2023-01-14 01:00:42
lousism @lousism

きっと千葉の友人は苦い顔をして、解説がないと成立しない芸術なんて「見ても」面白くないやろ、というだろう。然りである。僕は物書きの端くれ、或いは活字を読み慣れている人間として、現代芸術の試みを面白く「読んで」いる。しかしそれは……実物を間近で「見なければ」ならないものなのか? twitter.com/lousism/status…

2023-01-14 01:03:53
lousism @lousism

この展覧会は、途中までは視覚的に捉え得る「雰囲気」を展示していた。それは実際に作品を鑑賞しなければ分からない「雰囲気」である。しかし滝口龍夫や福田尚代の(あくまで一部の)作品の「雰囲気」には、解説が……或いは「言葉」が必要だった。「雰囲気」を産み出すのは世界の「語り方」なのだ。

2023-01-14 01:14:03
lousism @lousism

このあたりの是非を問い始めるとキリがないので今回はここまで。ただ若林奮の作品は、実物を見ても、そして解説を読んでも良く分からないままだったから、ある意味でとても誠実な現代芸術だったのかもしれないと改めて思う。他人には「見えない」作者の固有の世界を「見せつけて」くるような作品……

2023-01-14 01:19:31
lousism @lousism

現代芸術ともなれば、視覚的に捉え得る世界をただお見せするだけでは足りない、そこには作者の固有のコンセプトが必要になる。問題はこのコンセプトは他人が「読める」べきなのか「読めない」べきなのかということだ。「読める」ほうが面白いだろうけど、下手すれば「読まれた」だけで終わってしまう。 twitter.com/lousism/status…

2023-01-14 01:25:16
lousism @lousism

作品の意図するコンセプトさえ「読め」ば最早作品の実物は要らなくなりかねない……という問題は、活字表現では余り見られないような気がする。例えば まっくらな闇 という言葉を置いてその横に ※これは地下30mの雨水調整池の…… という解説を付けるような面倒を、そもそもする必要がないので。

2023-01-14 01:52:10
lousism @lousism

地下30mの雨水調整池で闇を鉄の箱に封印し、その完全な暗闇を写真に納める……という試みは、それ自体が「物語」的だと思う。僕はこの物語を面白いと思うし、一枚の真っ黒な画面に物語を背負わせる容赦なさも楽しい。しかしこの「背負わせる」というプロセスを、みんな納得してくれるのだろうか……

2023-01-14 02:02:33
lousism @lousism

12月18日。上野公園の紅葉も殆んど散ってしまったけど公孫樹はまだまだ美しい。国立西洋美術館の『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』に行って参りました。パブロ・ピカソをメインにしてクレー、マティス、他にゼザンヌやジャコメッティなどの作品を集めた展覧会。 pic.twitter.com/2ZMUEw8fVd

2023-01-14 20:45:32
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

ピカソの印象が薄いのである。いや、そりゃピカソぐらい知名度が高くて強烈なインパクトのある画家なんてそうはいないはずなのだけど、ピカソとはどのような画家なのか、というイメージがはっきりしないのである。ピカソという個性が僕には掴みきれなくて、ずっと評価の埒外のままだったのだ。 pic.twitter.com/dSK0hTSth5

2023-01-14 20:51:28
拡大
lousism @lousism

ピカソは多様な作風を変遷した画家であり、非常に多作な画家であり、非常に活動期間の長い画家である。代表作『ゲルニカ』ですら一つのピースに過ぎないのである。ピカソの作品を鑑賞する機会そのものは多いけど、その出会いはピカソについて余り多くを教えてはくれない。 ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91…

2023-01-14 21:18:21
lousism @lousism

ピカソの作品を中心に集めた今回の展覧会でさえ、僕はやっぱりピカソのことが良く分からなかった。会場のごく狭い領域に、キュビズムがあり、シュルレアリスム風があり、後期ルノアール風があり、そしてゲルニカ風がある。個々の作品には個性があるが、それ等を繋ぐ「ピカソ」が一向に掴めない。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/Py76fnw48S

2023-01-14 21:28:20
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

展覧会ではキュビズム以降の作品が中心になっていたけれど、ピカソはキュビズム以前に「青の時代」「薔薇色の時代」「アフリカ彫刻の時代」などの時期があるわけで、ピカソを網羅的に知ろうと思ったらこの規模の展覧会でもまだ全然足りない。僕は「青の時代」のピカソが結構好きなんだけどなぁ…… pic.twitter.com/LPQTNJgYnt

2023-01-14 21:37:51
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

ただ僕が今回の展覧会で得た一つの重要な印象は、単なる静物や風景に留まらない、人間の身体というセンシティブなものを徹底的に、徹底的に、徹底的に「解体」してしまおうとするピカソの残酷さだった。何故彼は、こんなにもグロテスクに人間の顔や肉体を「解体」しなければならなかったのか? pic.twitter.com/RzG78nzNGc

2023-01-14 21:44:49
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

展覧会の顔ともなっている『緑色のマニキュアを付けたドラ・マール』……魅惑的な瞳がこちらを見ているが、しかし女性の顔の半分は不自然にぐにゃっと奥に引き込まれ、まるで米粒みたいになってしまっている。ドラ・マールはピカソのパートナーの一人で、この絵を生涯保有していたのだという。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/KTsJL1ONvY

2023-01-14 22:01:57
拡大
lousism @lousism

キュビスム……すなわちキュービズム=「立方体派」は、複数の視点によって対象を把握して画面上で再構築する技法なのだという。対象は極端に解体され、単純化され、抽象化される。この「解体」を人体に当て嵌めてしまえば、それは極めて暴力的な行為になり得るだろう。 ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD…

2023-01-14 22:13:55
lousism @lousism

とはいえ、初期のキュビズムによる肖像画を観てみるとそこまでグロテスクでもない。むしろ騙し絵のように無数の平面が顔を形作る様子はユーモラスですらある。この素朴な「解体」と「再構築」が、あの猟奇的ですらあるグロテスクな「解体」と「再構築」に到るまでに、ピカソには何があったのだろう…… pic.twitter.com/VoAGg2w4Gl

2023-01-14 22:28:06
拡大
lousism @lousism

ピカソのグロテスクな「解体」と「再構築」を散々に浴びてから次のフロアに向かうと、パウル・クレーの素朴で無邪気な作品が現れて思わずほっとしてしまった。クレーの作品は、まるで表現の「原初」へと敢えて退行していくかのようで、それ故の未知なる難解さと懐かしい優しさを有している。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/2oNjRJOzs2

2023-01-14 22:50:13
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

なんか子供の落書きみたいやな、なんて僕達は簡単に言うけれど、実際に子供の落書きみたいな絵を描くためには、幼い子供達が如何に世界を認識して出力しているのかを理解する必要がある。いわば我々の「原初」へと立ち戻る試みであり、そして「原初」の世界の複雑さに向き合うことでもあるのだと思う。 pic.twitter.com/fdEUPoL2s1

2023-01-14 22:59:08
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

ピカソが作風が多様過ぎて良く分からない画家ならば、パウル・クレーは作風が独特過ぎて良く分からない画家である。青騎士やバウハウスにも関わったそうなのだけど、特定の主義に収まるような画家ではなかろう。難解で独創的ながら素朴で単純な芸術……気に掛けておこう。 ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91…

2023-01-14 23:19:01
lousism @lousism

フォーヴィズム(野獣派)の中心人物、アンリ・マティスの作品。うん、何を語ればいいのやら。ラフなタッチと大胆にべったりと塗った色彩は、過激どころかむしろ落ち着いた雰囲気ですらある。筆による軽いデッサン、鮮やかで躍動的な切り絵。マティスの作品はむしろ驚くぐらいに「軽かった」のである。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/QTlSLs4t9D

2023-01-14 23:32:00
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

冒頭にちょっとだけ、実はキュビズムの先駆的存在であるセザンヌ。あとジャコメッティはいつ観ても安定のジャコメッティだから別にいいよね。今回はピカソとクレーの分かりにくさに今回ちょっと挑んでみたけど、やっぱ上手く言葉になりませんでした。間違ってたらすまぬ。精進せんとあかんな…… pic.twitter.com/kS5gBddyRb

2023-01-14 23:42:55
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

折角なので上野公園を歩きましょう。関東の空の広さに気付いたのは、確か、もう何年も前の上野公園だった記憶…… pic.twitter.com/ao4GqkHKss

2023-01-14 23:48:02
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

何気に寄ったことがなかった清水観音堂。 twitter.com/lousism/status… pic.twitter.com/Bw7DwALHjR

2023-01-14 23:51:07
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

アメヤ横丁でご飯食べて帰りました。 pic.twitter.com/gWwWIz6Cv8

2023-01-14 23:53:27
拡大
拡大
拡大
拡大
lousism @lousism

今回の展覧会の図録。なんと全ての作品に丸一頁ずつ解説が付いてる。流石に体力がないのでまともに読めないけど…… 展覧会図録の解説は、作品の来歴の説明に加え、技法やモチーフの解読までが求められる高度な仕事なのだけど、難解な作品の解説となると解説そのものがどんどん難解になっていく…… pic.twitter.com/0zFQKACHGw

2023-01-15 00:19:39
拡大
0
まとめたひと
lousism @lousism

ああ、地滑りだね、私達だけが生き残るのか、私達だけが死に絶えるのか、賭けてみようか? min.togetter.com/id/lousism