昇進狙いではびこる草の根運動も、デカい面とデカい声しか能の無い役立たずも、無価値な古代遺跡と化した社屋も捨てていく。叩きつけた退職届が私を自由にした。草木一本生えない干からびちまった大都会の真ン中で、昼休みのお供だった固形栄養食を噛み砕き吠えてやる。「ここが私のスタートラインだ」
2019-03-30 22:01:09私を花に例えてと言ったら、貴方はスミレと答えた。 ガッカリした。雑草だなんて。花言葉まで《小さな愛》《小さな幸せ》 「どっちも小さいわ。つまんない」 「僕は好きだよ。可愛い春の花で」 貴方は照れくさそうに笑った。 「僕と一緒に、小さな幸せを、毎日積み重ねてくれるかい?」 #140字小説
2019-03-30 22:01:48青々とした草が生い茂る場所に寝転がるたび、私は幸せを感じる。流れる風に、チクチクとした感触、その全部に溢れんばかりの命を感じるから。 このまま地面に根を張って草になって大地と一体化したいくらい、私は好き。変わってると言われるけどね。 「…うん、アンタ人工芝の上で何言ってんの?」
2019-03-30 22:02:59雑草が生い茂る古代遺跡のように荒涼とした光景。静まり返るその場所を何度覗いても、あの時のような美しい世界はもうどこにも見えない。君という人が一人いなくなった。変わったことはそれだけなのに、こんなにも心は朽ち果ててしまうのか。まるで栄養食を失った、生ける屍のような僕が、そこにいる。
2019-03-30 22:03:50草が生い茂る中立派に存在する古代遺跡。建物と洞窟を兼ね備えたようなそれに当時の人々の思いを馳せる。「栄養食もない時代によく生き延びれたよな」「思うところそこなの?」呆れ気味に息をつく彼女。「古代の人も恋してたのかとか気にしようよ」「ロマンチックだな」僕はそんな彼女に恋してるのだ。
2019-03-30 22:04:09天を貫く四角柱の古代遺跡が乱立する映像を眺めながら、栄養食を口に放る。この時代って、草食べてたんだよ。彼女が云うので拡大してみたら、本当だ、遺跡の窓の中、奇妙な格好の人々が顔を合わせながら草を口に入れている。野蛮ね。彼女…画面の中のAIの言葉。だけど、何だか…僕は言葉を飲み込んだ。
2019-03-30 22:05:02#深夜の真剣140字60分一本勝負(@140onewrite ) #140字小説 多摩川河川敷をイメージしてます。 pic.twitter.com/ByL3afn0OO
2019-03-30 22:07:46#深夜の真剣140字60分一本勝負(@140onewrite ) #140字小説 読めばわかりますがトルコのことです。 また行きたいなぁ…… pic.twitter.com/3rDYMfnYnp
2019-03-30 22:08:48古代遺跡から発掘された錠剤は、当時の栄養食ということだった。「一粒で一日分のカロリーだとさ。まだイケるらしいが、どうだ?」「いや、いい。一日の食事がこれだけなんて勿体ない」今の時代、美食が溢れて目移りするほどなのだから。滅びた文明の人々は、さぞ楽しみの薄い生活だったのだろう。
2019-03-30 22:10:07草ぼうぼうの古代遺跡を前に僕はブロックと呼んでいる栄養補助食品を口にする何度も何度も噛み砕く。 「行こうか」 これからダンジョンの探検に行こうとして、 「宿題教えてよ全然わかんない」 幼なじみの君が来た。パソコンでやっているオンラインゲームから視線を外して仕方な僕は現実に戻る。
2019-03-30 22:16:39資源の枯渇――飢えを乗り越える為、人類は進化を余儀なくされた。 草食動物からヒントを得て、遺伝子組換えにより人の消化器官を変えてしまう。 どんな荒れ地でも育つ植物を栄養食とし、一杯に生い茂らせる。人は文明の発達より安寧を選んだのだ。 草をむしり取った男は、口元へと運ぶ。 「ウメェ~」
2019-03-30 22:39:44#深夜の真剣140字60分一本勝負 (@140onewrite) pic.twitter.com/RB9EMccItB
2019-03-30 22:55:11遠い昔に想いを馳せる。人が食物としてこのどう見てもただの草にしか思えないものを育てようと決意した事。 風化した遺跡の周りには今も尚、金色に輝く恵が溢れかえる。 古代の方へ、見えていますか? 品種改良も進み栄養価も高く、人々にずっと愛されていますよ。 未来から、心より感謝を送ります。
2019-03-30 22:55:58古代遺跡を発掘した夫は、そのまま帰らぬ人となった。死んだのではない。現地で高名な女性に見初められたのだ。夫を待ちわびていた私は、相手の名前を聞いて深い溜め息をつく。 馬鹿な人。女主人の遺跡を発掘すれば、そのまま婿にされてしまうと、あれほど言っていたのに。
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