自分用
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ナナシ @darkmoon_souji

【メモ】#ホタテ_H&W 一時期、あまりにも時間がなさすぎて、家に帰らず研修室とバイト先を行き来していたことがあった。 最初のうちは同居人から生存確認の連絡が一日一回あったが、元々彼は一人暮らしが長いためか、俺のことなど忘れてしまったかのように連絡もこなくなった。

2018-03-03 01:16:05
ナナシ @darkmoon_souji

まぁ、そんなことはどうでもいい。 ようやくひと段落し、一週間ぶりくらいに俺は帰宅することができた。 幸いにもバイトも休みだ。 今日くらいゆっくり休もう。 そう思いながら自宅の扉を開け、フラフラしながら中に入った。 静かだったので、どうせやつは不在なのだろうと思っていた。

2018-03-03 08:17:24
ナナシ @darkmoon_souji

しかし、違ったようだ。 ソファーの上で寝転がっているその人を見つけて、俺は小さくため息をついた。 いたのか…… 「ちょっと。寝るなら自分のベッドで寝てください。帰ってきて早々馬鹿みたいな注意させないでくださいよ」 ソファーの上の物体にむかって不満を言うと、むくりと起き上がった。

2018-03-03 13:26:27
ナナシ @darkmoon_souji

「お帰り。何やら大変だったようだな」 「!?」 俺は自分の目を疑った。 「いやぁすまんね。ついうたた寝をしてしまったよ」 ハハハ、と笑う男を見て、俺は立ち尽くす。 一体何が起きているというんだ。 「……ホームズ……さん?」 「うん?何だ?そんな夕食に嫌いなものを出されたような顔をして」

2018-03-03 20:21:45
ナナシ @darkmoon_souji

やはり本人で間違いないようだ。 それにしても様子がおかしいぞ。 なんか……この人……少しみない間に老けた? 「……あの……俺が家を出てから何年たったんですかね?」 「はは。何を言ってるんだ、君は」 俺としては至って真面目に言ったつもりだったが、ジョークと捉えられてしまった。

2018-03-03 23:07:11
ナナシ @darkmoon_souji

いやいやいや。よく考えろ、自分。 家に帰宅できず何日たった? ……一週間くらいだな。 だが、目の前にいるシャーロック・ホームズはどうだ。 ……5、6歳は年取ってるな? 「相当疲れているようだな。食事はもう済んだか?私がブランチでも作ってやろう」

2018-03-04 00:10:11
ナナシ @darkmoon_souji

ソファーから立ち上がり、同居人はキッチンへと向かった。 料理好きのハドソンさんとまではいかないが、ホームズさんも料理はできる。 間違いなく本人……だよな? 俺が学校とバイト先という狭い世界の中を行き来しているうちに、世間は急速に科学の力が発展し、知らないうちに未来に飛ばされてしまっ

2018-03-04 00:17:35
ナナシ @darkmoon_souji

たのかもしれない。 「ああ、そうだ。たまには湯船に浸かるといい。丁度沸いてる頃だ」 気持ち悪いくらいに優しい。 あのホームズさんも年を取って、心が広くなったのだろうか。 でも、やっぱりあの人は年を取っても格好いい。 いい年の取り方をしている。 理想通りである。

2018-03-04 00:17:36
ナナシ @darkmoon_souji

疲れていた俺は、途中で考えるのをやめ、言われた通りに浴室へ向かったのだった。 風呂から出ると、ものすごくいいタイミングで料理が完成していた。 「さぁ、どうぞ。沢山食べるといい」 お腹に優しそうな料理たちが、古びた机に並べられている。 こうして食事を前にすると食欲が出てきた。

2018-03-04 14:16:23
ナナシ @darkmoon_souji

飢えた獣のように食事にありつく俺を、ホームズさんはニコニコしながら見守っていた。 「あとで紅茶も淹れてあげよう。いい茶葉を見つけてね。私特製ブレンドだ」 「……」 「何だ?」 「いえ。ホームズさんだな、と思って」 紅茶に目がないところからして、間違いなさそうだ……

2018-03-04 21:47:26
ナナシ @darkmoon_souji

……いや、もうよそう。あれこれ疑うのは。 目の前にいるのはホームズさんだ。 ここが未来だろうが何だろうが構わない。 今、俺はとても満たされているのだから──。 「さっきからおかしなことを言うな、君は。私は私でしかないよ」 「あなたの言うように俺は疲れてるみたいです。いや、疲れてます。

2018-03-04 22:01:17
ナナシ @darkmoon_souji

睡眠もろくに取れていなかったので……。紅茶をいただいたら寝ます」 「そうするといい。とても疲れきった顔をしている」 彼の手が俺の顔に向かって伸びてきた。 「頑張っているな。けど、あまり無理をするんじゃないぞ。体を壊してしまっては元も子もない」 「ホームズさん……」

2018-03-04 22:01:18
ナナシ @darkmoon_souji

何だ、何でそんなに優しいんだ。 これはもしや、一週間頑張ったご褒美か? 三十代シャーロック・ホームズ最高かよ…… 「おい、どうした。具合でも悪いのか?」 「いえ……」 二十代のときも良かったが、三十代は三十代でいい。 「……あなたが添い寝をしてくれれば、ぐっすり眠れそうな気がします…」

2018-03-04 23:07:59
ナナシ @darkmoon_souji

つい俺は欲を出してしまった。 「……ああ。もちろん。君のためなら喜んで」 一瞬きょとんとした表情をしたが、あっさり受け入れてくれた。 いつもならドン引きされる場面だが、三十代になった彼は、俺の戯言も受け入れてくれるほどに器が大きくなったようだった。

2018-03-04 23:36:09
ナナシ @darkmoon_souji

何があったのか知らないが、とりあえずやったね! と、内心ほくそ笑んでいたのもつかの間。 「何やってんだぁぁぁぁ!!」 ものすごい物音と共に、階段から何かが転げ落ちてきた。 何事。 「何を易々と引き受けてる!?ちゃんと聞いていたか!?添い寝と言ったぞ!!?」 「それが」 「それが!?」

2018-03-05 20:20:34
ナナシ @darkmoon_souji

え、何だ。この状況。 階段から落ちてきたのは… 「……ホームズさん?」 二十代バージョン、つまりはいつものシャーロック・ホームズその人だった。 「ああ、いかにもホームズさんだよ。何だか騒がしいから様子を見に来たらとんでもない会話が聞こえてきたからね。思わず階段から転落してしまったよ」

2018-03-05 23:32:02
ナナシ @darkmoon_souji

転落したことはどうてもいいが… 「あなたもこの時間の世界に飛ばされてきたんですか?」 「ごめん。ちょっと何を言ってるのかわからないや。この時間?」 どうやらこの状況を理解していないようだ。 説明してやらなければ。 「あのですね…」 「こいつのことを私だと思っているなら違うぞ」

2018-03-06 00:46:45
ナナシ @darkmoon_souji

「……?」 俺の言葉は遮られてしまった。 「……え?」 「え?じゃないよ。何を勘違いしているのか知らんが、これは私の兄だ」 「兄……?」 三十代ホームズが、二十代ホームズの兄? いや、そもそも三十代ホームズはシャーロック・ホームズではない?

2018-03-06 00:46:46
ナナシ @darkmoon_souji

「いつも弟が世話になっているね。マイクロフト・ホームズだ。よろしく」 「……どうも……」 ここは、未来でも何でもなかった。 現実だ。 「全く、心外だな。私をこれと間違えるなんて」 「シャーロック。兄に向かってこれとは何だ」 俺の頭の中は色々と混乱していた。

2018-03-06 08:15:46
ナナシ @darkmoon_souji

未来に飛ばされたの何だのわけのわからないことを言って、血縁者という考えが全くなかった。 とんでもない失態だ。 「……おい、どうしたジョン。そんな苦い薬でも飲んだような顔をして」 「さすかにちょっと恥ずかしいな……と……」 「何だ。君にもそういう感情があったのか」 失礼な。

2018-03-06 19:38:39
ナナシ @darkmoon_souji

腹が立ったので、脛を思いっきり蹴ってやった。 「すみません。色々失礼なことを言ってしまって。ルームシェアをさせていただいています。ジョンです」 「何、気にすることはないよ。君の噂は聞いているからね」 …どういうことだ。 「いつもホームズさんにはお世話に……」 「私もホームズさんだよ」

2018-03-06 23:48:05
ナナシ @darkmoon_souji

そうか……そういやそうだったな。 「いつもお世話させられています」 「おい、なぜあえてそこだけを言い直した」 抗議を受けるが、無視した。 「私と弟はそんなに似ていたかな?」 目の前の紳士はニコニコしながら言った。 「ええ……てっきり、未来にでも来てしまったのかと」

2018-03-07 21:21:28
ナナシ @darkmoon_souji

「何をどう考えたらその発想になるんだ。知りたいよ」 バカにしたような言い方をされたので、引き続き無視する。 「君がいつも弟の服をコーディネートしているんだってね?」 「ええ…まぁ…」 そんなことまで話しているのかとにらみつけたが、彼は首を傾げた。

2018-03-14 22:41:27
ナナシ @darkmoon_souji

本人は言った覚えがないようだった。 嘘をついているようには見えないので、本当に違うのだろうけど… じゃあ、誰が? まぁ、いいか… 「君のセンスには大変感心しているよ。素晴らしい」 「それはどうも…」 褒められて、悪い気はしなかった。

2018-03-15 23:41:49
ナナシ @darkmoon_souji

気の抜けているときのホームズさんとは違い、兄はきちんとしている。 きっとどれもお高いブランドものだろう。 そんなお洒落な人に褒められて嬉しいわけがない。 「しかしだな…」 彼は、何やら改まった口調になる。

2018-03-16 00:27:02
ナナシ @darkmoon_souji

「弟にはもう少し可愛さを取り入れた服の方がいいと思うんだよ」 「……」 俺たちは何と言えばいいのかわからなかった。 「何と言えばいいのかな。大人になろうと背伸びをしている感じがあるんだよ」 「もう27なんですけど」 「大人になれば嫌でも畏まった服を着ることになるからな」

2018-03-16 22:25:02
ナナシ @darkmoon_souji

「あれ?おかしいな。27ってもう大人だと思うんだけど」 「もっと明るい色にすればいいのではないだろうか。そうだ、これから洋服を見に行こう。お前に合う服を兄さんが選んでやるからな」 「どうしよう。全く人の話聞いてない」 ホームズ兄は重度のブラコンだった。

2018-03-16 23:39:33
ナナシ @darkmoon_souji

道理であの厳格なお姉さんも、ホームズさんも、お兄さんの話をしたがらないわけだ。 わかってくれる?とでも言いたげな目でホームズさんはこちらを見てきた。 いや、人のモノローグを察するなよ。 「ちょっといいですか、お兄さん」 何やら暴走しかけだったので、俺は間に入った。

2018-03-16 23:53:20
ナナシ @darkmoon_souji

「あなたは可愛さを取り入れろと仰いましたが、俺は反対です」 「えっ。まさかの反対意見。私が想像してたのと違う」 「もっと大人であることをアピールすべきかと」 「ほぅ…」 俺とホームズ兄の間に火花が散った。

2018-03-20 08:13:39