「どうしよっか。お家の人に連絡する?」魚屋のお姉ちゃんが尋ねると、エルモ少年は目玉がこぼれちゃうんじゃないかってぐらい、目を大きく開いた。「だめ」「だめかあ」「だめ」42
2022-02-27 21:57:00お姉ちゃん、エクステに指を引っ掛けて考える。「……アタシが持つかぁ?」小声で言って、携帯端末でどこかに鳩【はと/電子メッセージ全般を指す】を飛ばすと、店先から上半身だけヒョイと傾け、見守りスタッフさんに目配せ。スタッフさんが助け船を出そうとお店に足を踏み入れかけた、その時。43
2022-02-27 22:00:01「あの……ちょっと、待ってほしいです」ションボリ背中を丸めてたエルモ少年、なにか閃いた。キツネのバックパックを背中から降ろすと、中を開けてゴソゴソやる。出てきたのは……別の革袋だね。背伸びして「足りますか」ってお姉さんへ手渡す。受け取ったお姉さん、読み取り機で残金を確かめる。44
2022-02-27 22:03:00「足りるよ。でもこれ、どうしたの?」「今月のおこづかい」おやまあ。「ほんとは、ゲームの服買うやつなの。でもいいよ。エルモは来年お兄ちゃんになるから」ねえ、ちょっと。これ、お家の人、感極まって泣いてるんじゃない?45
2022-02-27 22:06:00お姉さんも、渡された革袋を手に腕組みして、うーん、と唸る。「使うと残り4になるけど、いいの?」「うん」「ほんと?」「ん!」エルモ少年の決心が固いのを確かめると、会計用の端末を操作するお姉さん。「じゃあ、お兄ちゃんのお金で足りない分払うね」不足分を清算し、革袋をエルモ少年に返す。46
2022-02-27 22:09:00「はい。お買い上げありがとうございました。空の革袋はアタシが預かるね」残金の減った革袋をリュックに片づけるのを見届けてから、お姉さん、魚の入った保冷ケースを丈夫な袋にいれて、少年に手渡す。「うん!」「気を付けて持つんだよ。重たいよ」エルモ少年は袋を抱き上げた。「うん!」47
2022-02-27 22:12:00「お家の人とはどこで待ち合わせ?」「えっとね、犬の像のところ。さっきママと弟が元気でってお願いしてきた」そういうご利益の犬じゃないんだけど……まあ、いっか。聞いてくれるんじゃない?「送ろうか? 一人で行ける?」お姉ちゃんが膝に手を当ててかがむ。「だいじょぶ」お返事が元気。48
2022-02-27 22:15:00「お兄ちゃんになるもんね。頑張れ」両手で袋を大事に抱きかかえたエルモ少年、「頑張る」って返事して、袋を抱きかかえたまま、魚屋さんに手を振った。その少し後ろ、ベンチで携帯端末を見ていたお兄ちゃんが、魚屋のお姉ちゃんに片手を挙げると、スッと立ち上がってさりげなく後を追う。49
2022-02-27 22:18:00見届けた魚屋のお姉ちゃんは、ふうと息をついた。店先で助けようとしてくれたスタッフさんが労ってくれる。「お疲れ。初めてにしては頑張ったよ」魚屋のお姉ちゃんは首を振った。「超過分、あの子に払わせて良かったのかな」「うちの規約だと、5まではお客さん負担だから平気」50
2022-02-27 22:21:00「そう? それならまあ……」魚屋のお姉ちゃんは、店先のクッションが乗ったプラスチックケースに腰かけ、腕をうんと伸ばした。「じゃあ私も戻るね。あとで活動報告書出してもらうから、作っとくんだよ」「はいよー。お疲れさま」大人は大人で、色々とやることがまだ残ってるみたい。51
2022-02-27 22:24:00一方、お兄ちゃんになるエルモ少年。保冷ケースを一生懸命抱き上げて、来た道を戻っている。その後ろを、お兄さんがゆっくり付いていく。待ち合わせ場所の、赤と黄色でできた小さな廟の門の下に、エルモ少年とお揃いのアウターを来た一組のカップルが待っていた。エルモ少年のご両親だ。52
2022-02-27 22:27:00「パパー! お買い物できた!」ダッシュで体当たりするエルモ少年を、パパが受け止める。これでゴールだ。ついてきていたお兄さんは、そっとその場を離れた。53
2022-02-27 22:30:00エルモ少年と同じデザインの帽子をかぶったショートカットのママが少年の帽子ごしに撫でる。「ママの代わりにありがとね、エルモ」実はエルモ少年、おなかが大きくなって動くのがつらいって言うママの代わりに、自分がお買い物するって言ってきかなくて。それが今回の冒険のきっかけなんだって。54
2022-02-27 22:33:00「渡したお金で足りた?」一部始終を分かったうえで、パパがエルモ少年に尋ねる。エルモ少年はパパを見上げる。「大丈夫だったよ」それを聞いて、パパはエルモくんを魚の入ったケースごと抱き上げた。55
2022-02-27 22:36:00【スタッフ】ナレーション 山中カシオ/音声技術 琴錫香/映像技術 リエフ・ユージナ/編集 山中カシオ/音楽 14楽団/テーマソング 「cockcrowing」14楽団/広報 ドロシー/協力 オズの皆様/プロデューサー 友安ジロー/企画・制作 studioランバージャック
2022-02-27 22:39:00【関連エピソード】夏のSSS「海の水が塩辛い話」/「いい子にしてたら、いつかクジラが海の底にあるお城に連れてってくれる」の元になった話 we-want-to.wixsite.com/p-pingoz/sss-1
2022-02-27 22:48:10【関連エピソード】夏のSSS「神様になった犬」/待ち合わせ場所の廟に祀られる犬について we-want-to.wixsite.com/p-pingoz/sss-2
2022-02-27 22:48:39こんにちは! P-PingOZ広報のドロシーです。本日も最後までご視聴ありがとうございます。ご意見、ご感想があれば #p_poz あてにお寄せください。スタッフは全員で見ています。
2022-02-27 22:52:40お子さん単独でのお買い物は、そちらではスタンダードなイニシエーションと聞いています。危なくないなら、とっても素敵なことですね!
2022-02-27 22:54:37ナレーションは、12話以来の担当者でした。彼は映像を見てそのままリアクションするので、やや語りが散発的になります。ご了承ください。
2022-02-27 22:57:15ナレーターによってエピソードの切り口が変わるのも、P-PingOZの面白いところです。ごひいきのナレーターがいたら、これからもお楽しみにしてください。よろしくどうぞ。
2022-02-27 23:00:01気温が上下する日々が続いていたり、アレルギー症状でたいへんなスタッフもいますが、視聴者の皆さんも、どうかお健やかに過ごしてください。P-PingOZ広報のドロシーでした。またね!
2022-02-27 23:06:00