選ばれなかった私･選ばれた私

おにぎりまるのすけ @onigiri_marux2

#819マイナス （今回の話） ｵｲｶﾜ ↓ #819プラス #HQプラス （続編） 🏷｜選ばれなかった私 高校に入るまで私達はほとんどの時間を一緒に過ごしていた。 家が隣で、生まれた病院も、生まれた日も一緒。 運命だと思った。思っていた。 高校に入って私の日常は壊れた。 →

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『とーおる！ご飯食べよ！今日購買？』 隣のクラスに顔を覗かせてﾄｵﾙを呼ぶと、珍しくはない光景が目に飛び込んできた。 あー、またか。 ﾄｵﾙは最近仲がいい女の子ができたらしい。 ﾄｵﾙ曰く、その子は別にﾄｵﾙのことを好きで近づいてきているわけじゃないから気が楽だ、と。 →

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3日に1度くらい、ﾄｵﾙはその子と昼休みを過ごす。 もちろん、その子はﾄｵﾙと仲がいいからって女子から疎まれているようだけど、ﾄｵﾙが庇うからなんの意味もない。 そんな日は私はｲﾜｲｽﾞﾐとご飯を食べる。 大人しく教室に戻って、ﾄｵﾙと同じ部活のｲﾜｲｽﾞﾐに泣きつくのだ。 →

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口調は荒々しいが、優しい男子のｲﾜｲｽﾞﾐは私と幼馴染ということもあり、毎回文句を言いながらも話を聞いてくれる。 『今日はあの子と食べる日だった』 「あの子、ってｼﾒｲか？」 『そー。ｼﾒｲさん』 何故かｼﾒｲさんを責めようとは思わない。 →

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私はﾄｵﾙが好きだ。 同じ幼馴染なのに、ｲﾜｲｽﾞﾐのことは名字で呼ぶのに対し、ﾄｵﾙのことは名前で呼ぶのも私の感情が関わっている。 意識してほしい。なんて思うことは多々ある。 幼馴染だから恋愛対象に入っていない、というのはﾄｵﾙの態度を見て分かる。 →

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そして、ﾄｵﾙがｼﾒｲさんを好きだということも。 『幼馴染って、一番近くて遠いよね』 ポロリと零れた言葉に少し目を見開いたｲﾜｲｽﾞﾐは頭をぽん、と撫でてくれた。 ・ 今日は部活が体育館の点検のため休みだとｲﾜｲｽﾞﾐから情報を仕入れている。 『ﾄｵﾙ、帰ろ』 →

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そう顔を覗かせた教室にﾄｵﾙの姿はなかった。 近くにいた知り合いにﾄｵﾙは？と聞く。 「もう帰ったよ。えーと、ｼﾒｲさんと」 そっから私はどうやって自分の教室に戻ったのか覚えていない。 いつのまにか教室の自分の席に座っていて、ｲﾜｲｽﾞﾐと二人きりだった。 →

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『今日、ﾄｵﾙ絶対告白するよね』 「……多分な」 『ほんと、最悪』 タイムリミット。私の長い片想いはゲームオーバー。 『ﾄｵﾙが幸せなら、いいかな』 「話なら聞くから。帰ろうぜ、腹減った」 『待っててくれたお礼に肉まん奢ってあげる』 「早く行こうぜ」 どんだけ肉まんが食べたいのだ。 →

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翌日。ﾄｵﾙが珍しく私の教室に来た。 『ﾄｵﾙ、どうしたの？』 「俺、彼女できたから、昼休みとか放課後とか一緒にいれなくなる。ごめん」 覚悟はしてたけど、直接言われると心が痛むなぁ。 目頭が熱くなって鼻の奥がツンとする。こんな所で泣くわけにはいかない。 『……ｼﾒｲさん？』 →

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「うん。そう」 『そっ、か。おめでとう、告白するまで長かったね。ﾄｵﾙにしては回り道してたんじゃない？』 「ちょっと、俺がチャラいみたいに言わないでよ」 そんな会話を少し続けてから、ﾄｵﾙが隣の教室に戻っていくのを見送る。 「ﾅﾏｴ」 →

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『……彼女、できたって』 「おう」 『ﾄｵﾙから、告白したって』 「……おう」 『私の方が、前からﾄｵﾙのこと好きだったのになぁ』 こんな女にはなりたくない。面倒くさい女にはなりたくなかった。困らせてしまうから。 「無理に忘れようとしなくていいだろ」 『……うん』 →

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それからだった。 私がﾄｵﾙのことをｵｲｶﾜ、と呼ぶようになったのは。

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#HQプラス #819プラス ｲﾜｲｽﾞﾐ 🏷｜選ばれた私 ｵｲｶﾜとｼﾒｲさんが話しているのをよく見かけるようになった。 この前までは3日に1度ほどだったのに、今ではほとんど毎日。 ｵｲｶﾜのことを諦められたか、と言われると簡単に諦められるわけがない。 → x.com/onigiri_marux2…

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10年くらい片思いを続けてきて報われなかったのだから。 「ﾅﾏｴ、辛気臭ぇ顔すんなよ。通夜じゃねぇんだからよ」 『……男の傷は男で埋めろ、ねぇ』 片思いの傷を早く癒す方法。そんなことを検索すれば「男の傷は男で埋めるべし」なんていう言葉が私の心に引っかかった。 →

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「もう次の男行くんか」 『まだ完全には諦められてないけどね』 「まぁいいんじゃねぇの。あんなクソ野郎のことなんか早く忘れちまえ」 『そんな簡単に言っちゃう？』 ｵｲｶﾜの横に立っているのが私だったら。 私は笑顔だったのだろうか。 ここ数日、ｵｲｶﾜとは一言も話していない。 →

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家は隣だけど、登校時間が違うし、クラスも違う。話しかけに行かなければ話すタイミングはなくなる。 所詮、幼馴染ってこんなものよ。 同性ならまだしも、異性なんてどんどん距離ができてくる。 昼休み、教室でｲﾜｲｽﾞﾐとご飯を食べながら本日何度目か分からないため息をつく。 →

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「あれれ〜？失恋したﾅﾏｴちゃんじゃないですか〜？」 声がした方を見れば、廊下で立ち止まっているﾊﾅﾏｷとﾏﾂｶﾜ。 ｵｲｶﾜとｲﾜｲｽﾞﾐが同じ部活ということもあり、その繋がりで仲良くなった。 『うるさいなぁ。放っといてよ』 「ｲﾜｲｽﾞﾐが恋の傷埋めてくれるってよー」 →

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「ﾊﾅﾏｷ！まだ言うなって言っただろ！」 「あれ〜？そんなこと聞きましたかﾏﾂｶﾜさぁん」 「聞いていなくってよﾊﾅﾏｷさぁん」 おーっほっほっほっほ。なんて高笑いしながら通り過ぎていく。結局最後まで何がしたいのか分からなかった。 『ｲﾜｲｽﾞﾐ……』 →

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廊下から目を離し、ｲﾜｲｽﾞﾐの方に向けると顔を真っ赤にさせたｲﾜｲｽﾞﾐが震えながら立っていた。 『え、なに、どしたの、耳まで赤いけど』 「……俺は、傷につけ込むマネはしねぇ」 ストン、と座ったｲﾜｲｽﾞﾐはこれ以上その話題を引きずるつもりはないらしい。私は引きづりたいけど。 →

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「ｲﾜちゃーん、古典の教科書貸してー」 「持ってねぇよ」 「え〜？使えないなぁ」 ｲﾜｲｽﾞﾐに教科書を借りに来たｵｲｶﾜが余計なことを言ってｲﾜｲｽﾞﾐに殴られている。いつもの光景だ。 「ﾅﾏｴは？持ってる？」 『…うん、持ってる。ちょっと待って』 →

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久しぶりにｵｲｶﾜと言葉を交わした気がする。 机の中から教科書を取りだして『はい、ｵｲｶﾜ』と手渡す。 「ｵｲｶﾜ？ﾅﾏｴ俺のことﾄｵﾙって呼んでなかった？」 『あぁ、呼び方変えてみたの。どう？』 「なんで？」 『……彼女じゃないんだから、立場弁えないと』 →

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ふーん、と相槌を打ったｵｲｶﾜはまた返しに来るね！と言って教室に戻って行った。 「おー、よく顔に出さなかったな」 『褒めてもいいよ』 「なんで上から目線なんだよ」 頭をくしゃくしゃに撫でてきたｲﾜｲｽﾞﾐにもうやめてよ、なんて笑っていると予鈴が鳴り響いた。 →

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自分の席に戻ろうとすると「手、出せ」と言われた。 素直に前に出すと、何か紙を握らされた。 『ありがとう……？』 「返事、いつでもいい」 返事？返事が必要なことが書いてあるのか？直接言ってくれたらいいのに。 席に座って授業の準備をしていると本鈴が鳴って教師が入ってくる。 →

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先生にバレないように、先程ｲﾜｲｽﾞﾐか受け取った小さな紙を開く。 「好きだ」 確かにｲﾜｲｽﾞﾐの字だった。 幼い頃から見てきてるのだから間違いない。 『……は？』 「ﾐｮｳｼﾞ！授業中だぞ！」 『すみません！』 後ろで小さく笑い声が聞こえたから振り返ると →

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ｲﾜｲｽﾞﾐが笑っていた。 あなたのせいで怒られたんですけど？？ いつも見ている笑顔のはずなのに、この時だけ少し意識してしまったのはきっと、小さな紙切れのせいだ。