お題「彼岸花」「リップ」「前髪」
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空川実栄 @sorakawa_mie

前髪にアメピンを差し込んだ。左に寄せた前髪の先が、耳たぶまで伸びる。右に残った少しの前髪をつまみ、こめかみに流す。鏡に視線を向けたままに首を横にひねる。頭の後ろ高く、髪に紛れる黒のゴムで結ばれた髪束が映る。鏡を向いて口角を上げる。唇に舌を滑らせ、すぐ引っ込めて笑う。苦いんだった。

2019-09-07 22:01:14
モモンガ生命体(芳々) @saturn142900

眼前に広がる彼岸花。盛りを迎えた姿はまるで火の川。 ほぅ、と感嘆の吐息を洩らす彼女の艶やかなリップを見つめる。 「気に入った?」 「えぇ、とても」 「きっとこの赤を辿れば迷わず行けるよ」 顔をよく見ようと前髪に手を伸ばすが透けた。 「ありがとう」 彼女の声が聞こえた。僕は手を合わせた。

2019-09-07 22:01:57
松岡 9JIRA @aoarup

○商社・事務室   席に多島尚紀(49)。怒り顔でリップクリームを塗る。 ○同・給湯室   園田鏡子(25)と寺山夕介(37)が多島を見ている。 寺山「多島課長塗ってるな」 鏡子「イライラすると塗るわ。リップクリーム」 寺山「ご立腹(りっぷく)だけにな」   鏡子、冷ややかな目で寺山を見る。

2019-09-07 22:02:33
花滝ちかる @chikaru_toka

校則が厳しい学校だけど、みんな校外ではお化粧してるんだって。 でも私は勇気が無くて、やっと買ったのはピンクの色付きリップ。 彼、気付いてくれるかな? 気付いて欲しくて、でも気付かれるのは恥ずかしいの。少し切りすぎた前髪みたいに。 「可愛いね」 彼は眩しげに笑った。 「前髪とピンクの唇」

2019-09-07 22:03:00
RAY/※※※ @growler_ray

「前髪、切ったんだ」 バッサリと切られた前髪の向こうの君がそう言う。前までは隠れて見えなかったその目、コロコロ変わる表情、今までの5割増しで愛おしく感じられる。 「前髪カーテン無くなると、よく見えるね」 前髪を撫でながら私は言う。いいね、やっぱりいい、その顔が見えるっていうのは。

2019-09-07 22:03:10
KTQ @wholiveo

@140onewrite さびれたアパートを出た目の前の土手は、この時期彼岸花で紅に染まる。この鮮やかを眺めるのも何度めになるだろう。 あたしは秋冬に心身を失調する傾向がある。若い頃は、この冬は生き残れるかな、と毎年ビクついていたもんだ。 玄関で前髪を整え、リップを引く。今日まで生きてこれた。今日も戦場へ。

2019-09-07 22:03:28
夢夜 @ruya_reve

#深夜の真剣140字60分一本勝負(@140onewrite ) #140字小説 久し振りの参加です。 10分弱で急いで書いたのでクオリ低ですみません…… pic.twitter.com/6d2uFwF5op

2019-09-07 22:05:04
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じらこ @jirako

新学期の準備だ。 とーちゃんが髪を切るといいだした。 いやー でも、髪は切りたいと思ってた。 でも、いやー 頭の上から髪を切る音が聞こえる。 後ろから横から聞こえる、前から聞こえる。 いや、いや、いやー! 鏡を見て泣いた。 前髪がないー! @140onewrite

2019-09-07 22:07:19
津森七@文学フリマ京都い-36 @tumori_nana

あなたのくれた色つきリップじゃ、彼岸花にはなれやしない。切り揃えた前髪を「かわいいね」なんて、私を無害だと信じているのね。ああ憎い憎い憎い。あなたに近づくもの全て、この身の毒で殺せたらいい。久遠の眠りについたとき、あなたは私のものになる。骸に咲く赤い華を、人はいつか見るでしょう。

2019-09-07 22:12:24
tao. @tao18683808

「彼岸花には、転生とか、再会って花言葉があるんだよ。」 妻の言葉を思い出す。 この花が咲く頃にはリップクリーム等を使い始め、いつも前髪を気にする妻のデートの支度は更に長引いた。 そんな事まで思い出し苦笑しながら、願いを込めてこの花を一輪飾る。 黒い縁の中、永遠の笑顔を見せる妻の隣に。

2019-09-07 22:15:20
春日聖奈@二代目 夜 @haruhino37

君はずっとそうしているつもりなのかな。真っ赤な顔でじっと見つめてくる。フワリと前髪同士が触れ合う、互いの艶めく赤色が甘い香りに誘われそうになる。 今世、互いに背負った毒の罪は消えないだろう。涙に彩られた君のその手は、ずっとずっと赤い綺麗なままでいる。 私はただの、想いの欠片だった

2019-09-07 22:29:12
秋月蓮華 @akirenge

私は自分の長髪を切り落として前髪も切り落とす。 母親が私に強制していた髪型だ。切り落とした紙を和紙に 包んで土の中に埋める。しばらくしたらそこから彼岸花が咲いた。 私は花をハサミで切り落とし、母の遺影の前に置いた。 「かあさん」 リップを塗った唇で呟く。 「私は貴方が大嫌い、今もそう」

2019-09-07 22:32:13
宇津木健太郎@受賞したヨ @KChickenShop

行き場を無くした風が長い前髪を凪ぐ。揺れる髪の隙間から、海の青と夕焼け空の茜が覗く。二者を隔てるのは、岬と白い灯台だった。 まだ帰ってこないのですか。 手折った右手の彼岸花が問い掛けた気がして、私はその赤と同色の唇を動かし、まだだよ、と小さく答えた。 #深夜の真剣140字60分一本勝負 pic.twitter.com/Utx4wJqmlX

2019-09-07 22:35:47
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秋風もふ @akikaze_mohu

今日もリップを塗る。地味な顔におよそ似合わない派手な真紅。誰もが振り向くような色味でも、あなたはまるで興味を示さない。緑や紫なんて奇抜なものでも、同じだった。どうしたら、どうしたらこちらを見てくれるだろうか。今日も私はリップを塗る。もうやめてしまおうかしら、なんて思いながら。

2019-09-07 22:41:23
べクジ🍭🚽 @beku_bekuz

前髪邪魔じゃない?昔君に言われた言葉。けれど、私は髪を切らなかった。これは暗幕なのだ。 私と地獄のような世界を隔てる、唯一の救い。 せめてと君は髪飾りをくれたが、センスが絶望的だ。 地獄を遮る暗幕を、彼岸花で彩るなんて。苦笑して文句を言おうとした私の唇からは、ありがとうの声がした。

2019-09-07 22:45:52
春日聖奈@二代目 夜 @haruhino37

花火みたい。 私がふと呟いた言葉に彼は優しく微笑む。赤、白、黄色が並ぶその光景に、悪い印象なんてどこにも無い。 昨日受け取った婚約指輪が輝いている。この先、互いの全てを分かち合おう、そう決めたから…。 でも今は… 重なる彼の唇の温かさに…ずっと酔いしれていても怒られないはずだから。

2019-09-07 22:49:25