「200隻以上が沈没」との誤説はどこから広まったのか
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天翔 @Tensyofleet

リバティ船は、ブロック工法を用いた急速大量建造により、5年間で約2,700余隻が竣工したことで有名である。一方で、溶接部で発生した欠陥から得た技術的知見が、その後の技術発展に寄与したことも知られている。 iwm.org.uk/collections/it… pic.twitter.com/DIZkutRadK

2021-03-10 21:36:58
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天翔 @Tensyofleet

ところで某所には、リバティ船が「欠陥事故で200隻以上を喪失した」旨の記述がある。事実であれば、全建造数の約7%余が溶接部の欠陥によって喪失したことになる。 非常に疑わしい。 iwm.org.uk/collections/it… pic.twitter.com/xMfYZQ94ZP

2021-03-10 21:40:38
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天翔 @Tensyofleet

どうやら出どころはここらしい。。。が、『戦時標準船(DWT 11,000トン貨物船、リバティー船)のスケネクタディ(Schenectady)号(T-2タンカー)』の表記からしてすでに怪しい。言うまでもなく、リバティ船(EC2)はT2タンカーとは別物である。 失敗知識データベース shippai.org/fkd/cf/CB00110… pic.twitter.com/2uROx3YXul

2021-03-10 21:48:58
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天翔 @Tensyofleet

1946年7月15日付の調査報告書が出ている。この報告書が出た時点で、溶接が原因で沈没したのは8隻(リバティ船6隻,T2タンカー2隻)と、真っ二つになったが沈没しなかったのが4隻(リバティ船2隻,T2タンカー2隻)。 iwm.org.uk/collections/it… pic.twitter.com/hFgSGGhXWT

2021-03-10 22:15:36
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天翔 @Tensyofleet

参考までに内訳。 【沈没】 1943/3/5 Thomas Hooker (EC2) 1943/3/7 J.L.M.Curry (EC2) 1943/11/24 John P.Gaines (EC2) 1944/1/9 Joseph Smith (EC2) 1944/1/21 Samuel Dexter (EC2) 1944/3/4 Joel R.Poinsett (EC2) 1946/3/1 Sackett's Harbor (T2) 1946/3/10 Fort Sumter (T2)

2021-03-10 22:18:08
天翔 @Tensyofleet

【喪失せず】 1943/1/15 Schenectady (T2) 1943/3/29 Esso Manhattan (T2) 1943/12/11 Valeri Chkalov (EC2) ex)Alexander Baranof 1946/2/17 DonbassIII (EC2) ex)Thomas T.Tucker つまり、この時点で溶接の欠陥によって沈没した、と言えるのは6隻、あるいは8隻である。

2021-03-10 22:20:42
天翔 @Tensyofleet

打ち間違い、DonbassIII ex)Thomas T.TuckerはT2タンカーですね。都合6隻、あるいは7隻。

2021-03-21 14:14:01
天翔 @Tensyofleet

この『200隻以上が沈むか、または使用不能』という記述は、一体どこから出てきたのだろうか。 iwm.org.uk/collections/it… pic.twitter.com/coz5v61y6T

2021-03-10 22:23:55
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天翔 @Tensyofleet

なお、人命の損失が記録されているのは、John P.Gainesの11名(救命ボートで離船後行方不明)と、DonbassIIIの15名の計26名である。

2021-03-10 22:28:44
天翔 @Tensyofleet

船体折損事故を起こしたT2タンカーのSS Schenectady。この写真、それなりに衝撃的な状態であることもあって、イメージだけが先行しているように思う。 pic.twitter.com/JfEb29nWAf

2021-03-21 13:53:56
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天翔 @Tensyofleet

もちろん本論の部分ではないのだけれども、このイメージにはなかなか根深いものがあるようだ。 厚板耐候性鋼材の低温下での靭性能について thesis.ceri.go.jp/db/documents/p… pic.twitter.com/AVKkQ7Rpjx

2021-03-21 13:59:16
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天翔 @Tensyofleet

では「リバティー船」の写真があるかないか、で言えば、当然ある。これは1943/11/24の夜、良天候下で船体折損事故を起こしたSS John P.Gaines。 pic.twitter.com/xxgFCC9Qet

2021-03-21 14:09:32
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天翔 @Tensyofleet

なぜかT2タンカーの方がインパクトの強い写真が残っているような気もするが。。。1943/3/29、晴天の日中に折損事故を起こしたSS Esso Manhattan。 pic.twitter.com/DoQPmfWvyW

2021-03-21 14:12:39
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天翔 @Tensyofleet

こちらはリバティ船。1943/12/11の昼、荒天下で真っ二つになったValeri Chkalov ex)Alexander Baranof。 pic.twitter.com/Nn8ddCLRe5

2021-03-21 14:20:05
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天翔 @Tensyofleet

リバティ船のうちの1隻、パーマネント・メタルズ社の第2船台で起工された第440番船は、SS Robert E. Pearyと命名されて進水するまでに、わずか4日と15時間29分という建造記録を樹立した。 archive.org/details/cubanc…

2021-03-13 21:19:54
天翔 @Tensyofleet

起工から最初の24時間に船台上に1,500トンの部材が配置され、18,000フィートの溶接が完了している。一方、起工までにブロック組立場で152,000フィートの溶接が完了し、残りは57,800フィートとなっている。リベットの総数は23,045個、うち80%が組立場で打ち込まれている。 pic.twitter.com/L5YxdeI5yA

2021-03-13 21:31:55
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天翔 @Tensyofleet

溶接長の数字を単純に合計して227,800フィート、メートルに換算して69,433メートル。例の式に放り込むと69.433/(69.433+0.1*23.045)=0.968、溶接率96.8%ですね。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2021-03-13 21:38:22
天翔 @Tensyofleet

溶接と鋲接を併用して建造された艦船の溶接使用率を求めるのは難しい。鋲接された部分=溶接されなかった部分であるが、それを溶接長に置き換えるには、正確に計算するなら図面を一つずつ追っていくしかないだろう。こんな計算式もあるようだが、ここでいう「本艦」は戦艦大和のこと。 pic.twitter.com/HWakrOziLz

2018-08-02 23:00:03
天翔 @Tensyofleet

一方本邦において、三井玉野で連続建造していた戦標2Aは。。。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2021-03-13 21:39:37
天翔 @Tensyofleet

ではこの計算式に、三井玉野で建造された戦標2A型34隻の平均値を放り込んでみよう。12.77/(12.77+0.1*368.2)=0.2575、溶接率は約26%ということになる。 pic.twitter.com/JP9smFSguC

2018-08-02 23:07:10
天翔 @Tensyofleet

いずれにせよ、「船台を沢山並べただけ」にはずいぶん謙遜が入っていそうである。 pic.twitter.com/6PGFUqs2yV

2021-03-13 21:49:14
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天翔 @Tensyofleet

Liberty ShipのHull No.2140はConrad Weiser。予定溶接長24,000フィートとリベット数11,000は船台上で施工する分だけで、ブロック組立場で行う分は入っていないようだ。 Bethlehem-Fairfield shipyards, Baltimore, Maryland. Schedule sign | Library of Congress loc.gov/item/201785332… pic.twitter.com/JjTj4igtk2

2021-03-21 00:00:56
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天翔 @Tensyofleet

アメリカの造船関係者が日本の戦標船の生産体制を褒めた云々、の出典は、おそらく吉識雅夫氏が記した船の科学1974年12月号の記事で、氏が質問した播磨松浦の戦標2Eの建造方式について。 zousen-shiryoukan.jasnaoe.or.jp/wp/wp-content/… pic.twitter.com/B5OUvpPv0L

2021-03-13 16:19:54
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天翔 @Tensyofleet

リバティ船の一隻、SS LEE S. OVERMAN。船橋の前で船体が二つに折れている。。。が、これは触雷による被害。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/ooIlDSSeg2

2021-03-27 10:49:41
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天翔 @Tensyofleet

フランスのル・アーブル港で触雷着底したSS LEE S. OVERMAN。別の資料では触雷は1944年11月11日、ニューヨークから弾薬を輸送中となっており、NHHCのキャプションとは異なるようだ。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/juc3rSEuAu

2021-03-27 10:50:05
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天翔 @Tensyofleet

さて、欠陥事故によるリバティ船の喪失200隻以上説の出どころは、やはりここの「沈むかまたは使用不能という重大な損傷は233隻」という記述のように思う。 そしてこの記述は、2つの点で著しく誤解を招くものになっている。 shippai.org/fkd/cf/CB00110… pic.twitter.com/dQTtVwSjpw

2021-03-28 13:35:46
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天翔 @Tensyofleet

1つ目、原著の「233隻」という数字は、"Group I Casualties"の項目におけるリバティ船(EC2)、T2タンカー、ビクトリー船(VC2)、C1~4貨物船をすべて合計したものであり、リバティ船のみで言えば145隻になる。 それでは、この"Group I Casualties"とは何か。 pic.twitter.com/eFxSfm49GE

2021-03-28 13:37:39
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天翔 @Tensyofleet

Group I Casualty = Class 1 casualty,第1級損傷は、少なくとも1つの第1級破壊を伴う損傷のこと。そして、第1級破壊とは、船体の主要構造が弱くなったために、船舶が失われたり、危険な状態になったりしたものをいう、とある。 pic.twitter.com/uCOuFqyjRg

2021-03-28 13:43:03
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天翔 @Tensyofleet

これが2つ目だが、つまりこの「233隻」は、『船舶が失われたり、危険な状態になったりしたもの』であって、「沈むかまたは使用不能」という表記は適切ではない。 ここからさらに表現が一人歩きした結果、「欠陥事故で200隻以上を喪失した」などとということになったのだろう。 awm.gov.au/collection/C24… pic.twitter.com/m1Dx56Lklq

2021-03-28 13:49:09
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天翔 @Tensyofleet

何かを正しく評価する、ということはとても難しい。何かと何かを比較するのは評価の一つの方法だけれども、その前提となる数字が間違っているようでは、結論も空中楼閣だろう。 iwm.org.uk/collections/it… pic.twitter.com/KF7NnzH4rf

2021-03-28 13:59:11
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