ヴィドヴダン

Stefan Nemanjić Prvovenčani @Stefan_N_P

さて、今年もVidovdanがやって参りました 「もうすぐVidovdanだねえ」と言ったら妻に、 「Stefanがそう言うと、ああ今年も半分終わるんだなって思うわ」と返されました。 毎年気にしている日です。

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Vidovdanはセルビア語で、「ヴィドヴダン」と読みます。 1389年のVidovdan、セルビア王国はオスマン朝の攻撃を受け、大敗を喫しました。「コソヴォの戦い」です。 セルビアはここから滅亡への道を歩みましたが、 その乱戦の中、オスマン朝のスルタン、ムラト1世が暗殺されました。

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1582年。西欧でグレゴリオ暦が採用されました。400年間に97日の閏日を入れる、精度の高い暦ですが、正教会を信じる国々では導入が遅れました。ローマ教皇グレゴリウス13世の元で制定されたからです。今でも正教会ではこの暦を使用しません。結果、Vidovdanは西欧では6/15、東欧では6/28となりました。

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Vidovdanはセルビアのナショナリズムにおいて重要な位置を占めました。 オスマン朝の攻撃によって犠牲となった自分たち。 そして、その攻撃に対し、相手の皇帝を暗殺し、一矢報いることで、 ヨーロッパのキリスト教世界を守った自分たち。 それが「コソヴォ」であるというのも重要だったでしょう。

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ところで、オーストリアの皇位継承権者フランツ・フェルディナントは恋愛結婚でした。 一介の女官に過ぎなかった妻のゾフィーは、宮廷内で孤立していました。 ある年の結婚記念日、フランツは妻のため、軍事パレードを企画しました。 宮廷の細かなしきたりに気を遣う必要がないからです。

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フランツがパレードの部隊に選んだのは、6年前に獲得したばかりの新領土、ボスニアの首府サラエボでした。 結婚記念日は6/28、ヴィドヴダンでした。 サラエボのセルビア人たちは、「攻撃され」占領されたそこに、「皇帝」になる予定の男が来ると聞いて、1389年を思い起こしました。

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6/28の朝、パレードに使われる車の下から爆弾が発見され、フランツは自分たちが狙われていることを初めて知りました。 急遽パレードはルート変更、短くして切り上げることになりました。 爆弾が不発だったことを知ったテロリストたちは諦め、食事をとりに店に入りました。

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パレード中。 運転手に鋭い声が浴びせられました。 「道が違うぞ！」 そうでした。順路が変更になっていたのです。運転手は慌ててブレーキを踏み、ギアをバックに入れて──、

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まさにちょうどその時。すぐそばの店から、食事を終えたテロリストたちが出てきたのです。 目前に狙っていたフランツの姿を認めたテロリスト、ガブリロ・プリンツィプは好機とばかりに拳銃を発砲。 １発目はソフィーに、２発目はフランツに命中。 二人は死亡しました。

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皇位継承権者の暗殺に怒ったオーストリアは、7/28、セルビアに宣戦しました。 これを受け、セルビアの同盟国ロシアが7/30に総動員。 ロシアとフランスの二カ国に挟撃されることを恐れたドイツが8/1にロシア、8/3にフランスに宣戦。 更にイギリスが8/4にドイツに宣戦。 第一次世界大戦の始まりです。

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当初人々は、戦争はすぐに終わると思っていました。 出征する兵士は家族に、「クリスマスにまた会おう」と言って出かけたといいます。 しかし彼らは戦場で、機関銃に追い回されることになります。 引き金を引けば大量の弾が発射されるこの兵器により、両陣営で1000万人が死にました。

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もともと6/15だったヴィドヴダンが6/28にずれたのも。 その日がフランツとゾフィーの結婚記念日だったのも。 彼らが貴賤結婚だったのも。 軍事パレードの部隊にサラエボが選ばれたのも。 運転手が道を間違えたのも。 ブレーキをかけたときにガブリロが出てきたのも。

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ロシア軍に不備があって半動員できない状況にあったのも。 ドイツ軍上層部に、仏露と戦争になったら電撃戦を仕掛けるしかないという空気が支配的だったのも。 すべて、偶然です。 第一次世界大戦は、どこを見ても、大戦にしてやろうという意思が見られない戦争です。

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第一次世界大戦は、世界を変えました。 皇帝と貴族たちが踊っていた時代は終わり。 ３つの帝国が滅亡し。 毒ガスと戦車が登場し。 飛行機が戦争に用いられるようになり。 ついでに戦争末期にはインフルエンザで5000万人が死にました。

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歴史家たちは、1914年6月28日をもって19世紀が終わり、20世紀が始まった、と言います。 そんな大戦争が、誰もしようと思っていないのに、不幸な偶然の積み重ねだけで起きてしまった。 知性と理性は、偶然の前に敗北したのです。

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人類は初めて自分たちを絶滅させることの出来る道具を手に入れた。 これこそが、人類の栄光と苦労のすべてが最後に到達した運命である。 ──ウィンストン・チャーチル （画像はNHKスペシャル『映像の世紀』より 　NHKスペシャルの最高傑作です） pic.twitter.com/NsInkEKP1U

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その後のヴィドヴダン 1919年ヴェルサイユ条約締結 1921年セルビア人・クロアチア人・スロヴェニア人王国初の憲法制定 1948年ユーゴスラヴィア、コミンフォルムより除名 コミンフォルムからの除名を乗り切れたのは、ヴィドヴダンの除名で国民が団結したからという説も。

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なお、1991年スロヴェニア・クロアチアの独立は、ヴィドヴダンを避けて25日に行われた。