140字小説まとめ

碧乃 そら@4/22みん好き【い３】 @hane_ao22

図書館の奥、埃をかぶった不思議な本を開けば異世界への扉が開く。幼い頃に思い描いた夢想は、叶うべくもないのだろう。わたしは選ばれない。それが定められた運命なのだ。だけどわたしは物語の世界へ導かれたくて、小説を書いてみた。誰に見せるわけでもない、わたしだけの物語へ、さあ飛び込もう。

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スマホの画像を整理していたら、二歳の娘が歌を歌っている動画があった。子ども特有の、調子っぱずれなたどたどしい歌声が可愛い。歌詞が自己流にアレンジされているのもご愛嬌だ。五歳になった娘は、同じ歌を上手に音程を取り、正しい歌詞で歌えるようになった。その成長が嬉しくも、少し寂しい。

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幼い頃の弟はお調子者で、落ち着きのない子だった。窓ガラスを割ったり校長室に忍び込んだり。母親を早くに亡くし、父親は多忙。学校から呼び出され、迎えに行くのはいつも私だった。帰ってきた弟が、フリージアとかすみ草の花束を差し出す。「姉ちゃん、ありがとな」今日は、弟の十八歳の誕生日だ。

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「調べは付いているの」と私は言って、机の上のライトスタンドを相手に向けた。「私が明日、仕事で使う資料。鞄の傍に置いてあったの。それなのに」私はいびつな三角形の紙片を掲げる。「明らかに食い千切られてる。犯人はあなたね！」山羊の頭を持つ友人が「美味しそうでつい……ごめん」と項垂れた。

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カッターで切ってしまった指先に、じわりと血が浮き出た。後輩が息を呑む。俺の紫色の血液を見て。「先輩」何を言われるかと思ったら、後輩は俺と同様に指先を切ってみせた。同じ紫色が流れ出す。「俺も紫の保因者です。ああ、嬉しいな」後輩はひどく幸福そうに微笑む。「俺なら貴方と混じり合えます」

碧乃 そら@4/22みん好き【い３】 @hane_ao22

私が保湿クリームを掌に出したら、パジャマを着た子どもが逃げ出した。背後から抱きしめて顔に塗る。観念して差し出されたもみじのような掌は、毎日のアルコール消毒で少し荒れていた。幼稚園でのマスク、消毒、ソーシャルディスタンス。それらが日常に組み込まれる前の世界を、この子は知らない。

碧乃 そら@4/22みん好き【い３】 @hane_ao22

私は早産で生まれ、一ヶ月以上保育器に入っていた。輸血もしてもらったと母に聞かされていた。写真に残る新生児の私は、何本もの管に繋がれ痛々しい。けれど大きな病気や怪我もなく成長できた。思春期特有の希死念慮に苛まれた事もあるが、私は知っていた。この命は尊く、無駄にしてはいけないのだと。

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「あなたの兄、いつ見ても綺麗だねー」「毎日聞き飽きたよそれ」私は窓際の席で親友とお弁当を食べながら、彼女とよく似た双子の兄を見ている。「付き合ってみたら？」「そういうのじゃないの。目の保養なだけ」「ふうん？」だって本当の事は言えないから。私が好きなのは、目の前のあなただもの。

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私の運転するタクシーに髪の長い女性が乗車した。行き先を告げて「何分くらいで着きますか」と訊ねる。「十五分くらいです」と答えると「よかった。間に合うわ」と微笑む。その顔半分は潰れて血塗れだ。二十年間、決まった日時に乗車する彼女。いつか成仏できるようにと願いながら、車を発進させた。

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好きだったあなたの声を忘れたくない　ガラケーに残る留守録を聞く #短歌 #tanka #初句 pic.twitter.com/fYNG7M3ssB twitter.com/R__l__U__M/sta…

碧乃 そら@4/22みん好き【い３】 @hane_ao22

幼い頃、おばあちゃんの作ってくれた巾着袋が私のたからもの入れだった。すべすべした手ざわりの石。香りつきの消しゴム。ぷっくりしたシール。けれどいつのまにか、行方がわからなくなってしまった。今日私は、三歳の娘からおてがみを貰った。このたからものを、あの巾着袋に入れたいと思った。

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#優しい言の葉「雨」 #140字小説 #140字SS pic.twitter.com/qsX3FA8rsO