自分用
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ナナシ @darkmoon_souji

【メモ】 大学生というのは、思っていた以上にハードだ。 学部が学部なだけに授業だけでなく日々与えられる課題も多くて大変なのである。 講義が少ない日はアルバイトに時間を当てているし、慣れるまでは休まる日々がなかった。 帰宅すればいつも、就寝準備をする時間。 #ホタテ_H&W

2017-12-11 08:22:30
ナナシ @darkmoon_souji

同居人はたいがい寝ているか部屋にこもっているかのどちらかで、週に1、2回ほどしか顔を合わせなかった。 そんなある日、いつも以上に帰りが遅くなり俺はフラフラになりながら帰宅した。 扉を開けると、珍しく1階の明かりがついていた。 キッチンの薄明かりだけだが。

2017-12-11 20:38:04
ナナシ @darkmoon_souji

「ああ……お帰り」 開け放たれた窓の傍で煙草を吸っている同居人が少しこちらを振り返り、間抜け面でそう言った。 仕事でもあったのだろうか。 いつものくたびれたスーツじゃない。 整えていたはずの髪も少し崩れている。 何が言いたいかって。 いい感じなんだよ。 吐いた台詞があれじゃなきゃな!

2017-12-11 21:49:33
ナナシ @darkmoon_souji

俺は疲れていたのだろう。 語彙力も失っており、思考も停止していた。 ふらふらと彼に近づく。 「おい……大丈夫か。ふらついてるように見え」 「やり直し」 「は?え?」 「もう一度入ってくるので最初からお願いします。立ち位置はそれでいいです。台詞は……」 「台詞!?」

2017-12-11 22:07:06
ナナシ @darkmoon_souji

「お帰り、ジョン。遅かったじゃないか。さすがに迎えに行こうかと悩んだよ」 「なげぇ。というか君は作られた台詞を言われて嬉しいのか?」 「初めて言ったかのようにお願いします。──それではスタンバイ!」 「え……ちょ」 「本番5秒前!4!」 俺はそう言いながら、もう一度外に出る。

2017-12-11 22:24:57
ナナシ @darkmoon_souji

最後の3秒は心の中で数えた。 いつも以上に帰りが遅くなり俺はフラフラになりながら帰宅した。 扉を開けると、珍しく1階の明かりがついていた。 キッチンの薄明かりだけだが。 「……お帰り、ジョン。遅かったじゃないか」 開け放たれた窓の傍で煙草を吸っている同居人が少しこちらを振り返った。

2017-12-11 22:35:52
ナナシ @darkmoon_souji

「さすがに迎えに行こうかと悩んだよ。……毎日大変そうで心配だ」 最後のはわりと本気で心配されているような、哀れみが含まれていた。 「……ありがとうございます……これで明日からも生きていける……」 「あ、うん……それはよかった……」 できることなら映像におさめたかった。

2017-12-11 22:43:02
ナナシ @darkmoon_souji

「それにしても君がおかしくなるくらい、医学生というのは大変なんだな。おまけに君はアルバイトまでして……ご両親が援助してくださっているんだろう」 「……でも自分の経験値と両親に甘えてはいけないという気持ちを捨ててはいけないと考えているので、アルバイトは辞めません」

2017-12-11 23:01:36
ナナシ @darkmoon_souji

ただでさえ、医者になるには莫大な費用がかかるというのに。 だからと言って、アルバイト程度で何かの助けになるわけでもないが、せめて自分のお小遣いくらいは自分で稼ぎたい。 「君は立派だねぇ。尊敬するよ、全く」 「それに、働いてる人って素敵じゃないですか」 「……やっぱり目的はそれか」

2017-12-11 23:07:18
ナナシ @darkmoon_souji

「どういう意味だ。ちゃんと働いているからな」 「わかってるよ……ぶれないなって言いたかっただけだ。君のそのよくわからない性癖は何なんだ。働いている人間がいいのか?働いている美形限定か?」 「失礼な……人を面食いみたいに……」 「いや、明らかにそうだろ」

2017-12-11 23:12:29
ナナシ @darkmoon_souji

心外だな。そんなふうに思われていたとは。 「さぁ、早く休みなさい。君は疲れているんだ。明日もあるんだろう」 煙草を灰皿に押し付けながら、彼は俺の頭を軽くなでた。 「そのまま少しでいいので抱きしめ」 「そうだ!疲れている君にホームズさん特製ブレンドティーを淹れてあげよう!」

2017-12-11 23:37:29
ナナシ @darkmoon_souji

チッ。 かわされたか…… 「いい葉が手に入ったんだよ。これできっと君もいい夢を見られるさ」 いそいそと彼はキッチンへ行き、紅茶の葉が入った缶を開けるのだった。 仕方ない。今日のところはこれで勘弁してやろう。

2017-12-11 23:48:09
ナナシ @darkmoon_souji

「よー!ワトソンくーん」 翌日、アルバイトの時間まで一度帰宅すると大家と出くわした。 「どうも……」 「君、あんまりシャーロックを困らせるんじゃないぞ~見たこともないくらい深刻そうな顔をしていたぞ~」 「え……ハドソンさん……またあなたは余計なことを……」

2017-12-11 23:53:27
ナナシ @darkmoon_souji

「誰が僕だっつったよ。君だよ、君」 は?俺が何をしたっていうんだ。 「自分のせいで君はおかしくなってしまったとか君のご両親に顔向けができないとか何とか……」 「……」 「君はまたその謎の性癖でシャーロックを困らせているのかい?相変わらずだなぁ~」

2017-12-12 00:11:21
ナナシ @darkmoon_souji

「性癖言うな。裂くぞ」 「怖。何、その脅し文句」 この男だけはどうしても気に入らない。 いちいち人の神経を逆撫でしてくるからな。 「本当……あなたはその性格じゃなきゃまだ許容範囲内だったのに……」 「え?僕は男はお断りだよ」 誰もそんなこと言ってないっつーの。

2017-12-12 00:20:59
ナナシ @darkmoon_souji

「勘違いしないでください。あなただって美女がそこらを歩いていると、目で追ってしまうでしょう。……あなたの場合は女なら何でもいいんでしょうけど」 何だって!そんなことあるけど、そんなことないぞ!と、大家は言ったが無視した。 そんなことあるのかよ。 「それと同じです」

2017-12-12 08:06:24
ナナシ @darkmoon_souji

「全く同じだとは思えないんだけど……」 「いかにもこう仕事ができそうで素敵な人ならば男も女も関係ないんです」 「それ、すごくハードル高いね」 「あのボンクラの仕事能力に関してはともかく、きちんとしていたときのあの人が、俺の性癖にドンピシャだっただけです」 「性癖言いよった」

2017-12-12 08:19:04
ナナシ @darkmoon_souji

「ギャップって恐ろしいですね……」 「ギャップなのかどうかはわからないけど、僕は君の方が恐ろしいよ」 「どうしてですか。明日も頑張ろうって思えるんですよ!」 「ちょっと意味が……」 「別にあなたの同意なんざ求めてないので構わないですけど」 「君ってさー……」

2017-12-12 21:55:45
ナナシ @darkmoon_souji

可哀想なものでも見るかのような目を、大家は向けてくる。 「本当、残念だよね」 「あんたに言われたくない」 「だよねー!その返しは想定済みー!」 「ハドソンさん……あなたと同じ名前の川に沈めてあげましょうか?」 「わーナニソレ。ある意味ウレシイ」 ……ムカつくな。殴ってもいいだろうか。

2017-12-12 22:50:26
ナナシ @darkmoon_souji

「そうだ。シャーロックなら今留守だぞ」 思い出した。と、ふいに彼は同居人の所在について語り始めた。 「そうですか。依頼でも受けたんですかね」 「かもしんないね。両手に花束を抱えて戻ってきていたよ」 花束……? 「けどさ、うちのアパートの前に女の子がずっと立っていてね」

2017-12-12 23:37:25
ナナシ @darkmoon_souji

うん? 「怪しいから声をかけようと思ったんだけど、それより先に花束を持ったシャーロックが声をかけちゃってね。そのままどこかへ行っちゃった」 「はい?」 いやいやいや。どこかってどこだよ。 急展開すぎるだろ。 それだけじゃ何にもわかんねぇよ。 「女の子に言い寄られてたって感じだった」

2017-12-12 23:45:43
ナナシ @darkmoon_souji

「ちょっと待て」 聞き捨てならないことを聞いたぞ、今。 「女があの人に言い寄ったって?」 「そんなふうに見えた……ひどく興奮した様子だったよ。目を輝かせちゃってさ」 それは大問題だ。 「どんな女でしたか。あの人に釣り合うような人でしたか。はいかいいえですぐに答えろ」

2017-12-13 00:21:17
ナナシ @darkmoon_souji

「怖いよ……何をそんなに焦っているんだい。もしかしたら仕事かもしれないじゃないか」 「仕事だったらここで話せばいいだろう、なぜわざわざ別場所へ行った!?そして質問に答えろ」 「え~……小綺麗な格好をした娘だったよ……窓越しに見ただけだからはっきりとは……。君の好みではないよね」

2017-12-13 07:41:24
ナナシ @darkmoon_souji

はい、アウト! 何であんたが俺の好みを知っているんだという疑問はおいておこう。 「やつらはどこへ」 「ちょっと。何をする気さ」 「断罪しに行ってきます」 「駄目だろ!本当に依頼人だったらどうするんだい」 「それも含めて確認しにいきます。もし相手が既に落ちているならば、諦めさせます」

2017-12-13 07:49:39
ナナシ @darkmoon_souji

「こえーよ……君はシャーロックの何なんだ……誰しもがあいつに惚れるってことはないでしょ」 「あの人が花束なんて持って現れたら、女なんて即落ちますよ!興奮だってそらするわ!」 「それは君だけなんじゃないの。ていうか君、見たいだけだよね絶対」 「あわよくば写真を撮らせていただきたい」

2017-12-13 08:03:55
ナナシ @darkmoon_souji

「やっぱり……」 遭遇できなかったことをものすごく悔いてるんだよ! 「落ち着けって……すぐそこにいるだけなんだし、帰ってきたら話を聞けばいいじゃんか……」 「……すぐそこ?」 「うん。あそこのカフェ」 大家が指さしたのは、アパートの斜め向かいにあるカフェ。 ……居場所わかってんのかよ!

2017-12-13 08:10:10
ナナシ @darkmoon_souji

しかも近い! 紅茶好きのホームズさんが「あそこの珈琲が美味い」と言って、唯一珈琲を頼む所である。 「何度も言うけれど、戻ってくるまで大人しく……って、もういない」 居場所がわかればこの男に用はない。 俺は戦場へと向かったのだった──。

2017-12-13 08:15:12
ナナシ @darkmoon_souji

店員たちへの挨拶もそこそこに、俺は奥の席へと歩いていく。 目的の二人の姿が見えてくる。 「……あら」 女の方が俺の姿を見て、声を上げた。 「あら」じゃねーわ。 「……え?うわ!ジョン!?」 俺の形相を見てか、振り返った彼がギョッとする。 「な、何て顔をしているんだ……」

2017-12-13 14:09:58
ナナシ @darkmoon_souji

「そりゃこんな顔にもなりますよ。何してるんですか」 「何って……こちらのお嬢さんと話を……」 「お嬢さん?お嬢さんなんて可愛らしいものではないですよ、これは。害虫と同じです」 「おまっ……なんてここ最近で一番ひどい暴言を」 「いいのですよ、ホームズさん」

2017-12-13 14:17:10
ナナシ @darkmoon_souji

女はすました顔で間に入ってきた。 「お久しぶりです。兄様。相変わらずですわね」 「……えっ?」 そう、どこの馬の骨かと思いきや、妹だった。 これはますます断罪せねばならん。 「こんな所で何をしている。アパートの前に突っ立っていたそうだが、事前連絡もなしに何のつもりだ」

2017-12-13 20:29:27
ナナシ @darkmoon_souji

居場所は知らせていなかったはずだが、恐らく両親にでも聞いたのだろう。 「連絡なんて入れようものなら、兄様は私を追い返したでしょう」 「当然」 「私、別に兄様に会いに来たわけではありませんのよ。噂のホームズ様を一目拝見したいと思いやって参りました」 ……誰だ。こいつに話したのは。

2017-12-13 22:30:22