リフォームにまつわる小話
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アエラ @rkrnm_turb

本丸大増築。そう呼んでしまうと些か大袈裟だけれど、つまりはリフォームだ。鍛刀CPに連隊戦にと新刀剣男士の顕現が続いた年末年始、元々手狭になりつつあった本丸は雪だるま式に賑やかになっていった。「そろそろ部屋を増やさないと倉庫で寝起きする刀が出てきます」とこんのすけにせっつかれては、

2024-03-27 22:48:03
アエラ @rkrnm_turb

近い。私は面倒くさがりではあっても、皆のライフワークバランスを軽視するほど薄情な審神者じゃない。本丸には「近日引越し!」のお触れが出され、各々私物を纏め始めておくよう私からもお願いして回った。それはつまり、私自身にも同じ事が言えるわけだ。九年間も暮らしていたわけだから荷造りも容易

2024-03-27 22:48:04
アエラ @rkrnm_turb

私も重い腰を上げなければならない。そもそも刀剣男士達も増改築にはあまり乗り気では無かった。物の付喪神であるからか、彼らは今の住まいを離れる事にそれほど乗り気では無かったのだ。まだいける、まだ詰めれば乗れるとラッシュアワーの電車のようにぎゅうぎゅう詰め込んできたけれど、それも限界が

2024-03-27 22:48:04
アエラ @rkrnm_turb

から出てきた缶を手に取った。四角く平べったい、クッキーか何かが入っていたらしい缶だ。すぐには記憶から引っ張り出せないのに、どこか懐かしい気持ちになる。かぱ、と上蓋を開ける。中には色とりどりの指輪──の、おもちゃが入っていた。プラスチックの。ピンクに黄色に緑に赤、鮮やかすぎるほど

2024-03-27 22:48:05
アエラ @rkrnm_turb

ではない。直近で必要のない物を放り込むばかりだったクローゼットは混沌としていて、段ボールに放り込んでいくだけでも一苦労だった。刀派で協力して行える男士達と違い、私はひとりで荷物を纏めていかなければならない。「あれ?」有り余る洋服の在庫処分に四苦八苦していた私は、クローゼットの片隅

2024-03-27 22:48:05
アエラ @rkrnm_turb

「何をしてるの?」「懐かしい物が出てきたんだ。ほら」私は缶いっぱいの指輪を見せた。青空色の瞳は途端にきらきら輝いて、「素敵」と声は吐息のように漏れる。「全部あるじさんの?」「うん。子供の頃に集めてたんだ」本丸に持ってきていた事は、すっかり忘れていたけれど。審神者として本丸へ訪れた

2024-03-27 22:48:06
アエラ @rkrnm_turb

鮮やかな色が荷物整理に飽いていた目を覚ます。「懐かしいなぁ」私はその中から一つを手に取って顔の前に掲げた。一個300円にも満たない光に、思わず笑みが溢れた。長い間光の当たっていなかった心の一隅が照らされたようだ。「あるじさん?」呼ばれて振り返ると、戸の近くに乱藤四郎が立っていた。

2024-03-27 22:48:06
アエラ @rkrnm_turb

「それならボクに一つくれない?」断る理由は無かった。というより、半ば呆気に取られていた。私が頷くか頷かないかの内に、乱はピンク色の、特に華美な装飾の施された指輪を指で摘んだ。「とっても綺麗!」人差指に付けて笑う。短刀の細い指に、それはすんなりと嵌って落ち着いた。「ありがとう!」

2024-03-27 22:48:07
アエラ @rkrnm_turb

あの日、自分と現世を繋ぐ縁として持ち込んだのかもしれない。「新しい本丸に持っていくの?」「どうかな」私は指輪をざらりと撫でた。愛おしいけれど、思い出の品々は本丸で過ごす時間の中でたくさん増えた。実家に送り返してしまっても良いかもしれない。そんな話をすると、乱の瞳が一際輝いた。

2024-03-27 22:48:07
アエラ @rkrnm_turb

乱が踊るような足取りで部屋を出ていく。入れ替わりで長義が執務室に顔を出した。「重要な書類はしっかり纏めて欲しい」「勿論」「それは?」長義もまた私の持つ缶の中身に興味を示した。乱にしたのと同じような説明を繰り返すと、「そうか」と彼にしては柔らかく眦を細める。「処分してしまうのかい」

2024-03-27 22:48:08
アエラ @rkrnm_turb

を出ていく。「あーるじ」「荷造り進んでる?」長義が出ていってすぐ、今度は後家くんと姫鶴が部屋へやってきた。私は服の整理を再開していたけれと、旗振りは示し合わせたように傍へ追いやられていた缶の中を覗き込んだ。「綺麗だね」「え〜迷う」「これは鳥の羽根かなぁ?おつう、これにしたら」

2024-03-27 22:48:09
アエラ @rkrnm_turb

「実家に送ろうかな」新しい本丸には持って行かない旨を伝えると、「では」と長義は銀色の指輪を摘んだ。ゴテゴテしたデザインの多い指輪の中では、少し大人しい物だ。ワンポイントであしらわれたジャスミンの花が可愛らしい。「俺が一つ頂いてもいいかな?」どうぞ、と私は頷いた。長義は上機嫌で部屋

2024-03-27 22:48:09
アエラ @rkrnm_turb

後家くんと姫鶴は同時に噴き出した。「それはそうか」「でも貰ってく。いいよね?」何だか笑えてしまった。刀剣男士にとって、この指輪はどんな上等な代物に見えているのだろう。私が頷くと、二振りは互いに自分の指輪を見せ合いながら部屋を出て行った。服の整理が少し進んで、私は一つ息を吐いた。

2024-03-27 22:48:10
アエラ @rkrnm_turb

「ボクはこっちにする」と後家くんは姫鶴に薦めたものと色違いの指輪を掲げる。薄灰色と赤、小さな羽根をあしらった指輪をそれぞれに摘んで、二振りは私の前へと屈み込んできた。「あるじ」「付けてくれる?」私はまず後家くんの指に指輪を当てたけれど、第一関節も通らずそれは止まってしまう。

2024-03-27 22:48:10
アエラ @rkrnm_turb

奥で見つけた時よりずっと、それらは美しく輝いて見える。「いいよ」と私が缶を持ち上げると、清光は照れ臭そうに笑って、私の手の中を覗き込んできた。「主が一番気に入っていたのはどれ?」優しい声音が過去の記憶を呼び起こす。子供のようにはしゃいだ仕草で、私はある一つを指差した。

2024-03-27 22:48:11
アエラ @rkrnm_turb

缶の中の指輪は変わらず煌びやかな光を放っている。一体これの何が彼らを惹きつけるのだろう。「主」陽が傾き始めた部屋に、一番耳に馴染む声が響く。初期刀の清光が縁側と部屋の境に立ち、甘やかな表情で私を見ていた。「俺にも見せてよ、それ」缶いっぱいの指輪を指して笑っている。クローゼットの

2024-03-27 22:48:11
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アエラ @rkrnm_turb

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