初期三人組。
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ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  1 10 月 31 日。ハロウィン。 この世界でも人々は仮装をし、与えては貰ってまわる。 それと同時に、何か得体の知れないものも動き回っている。 俺と佳一の前に、奇妙な女子が現れた。 彼女は、某叫びの絵画のような面をかぶっていたのだ。

2017-11-06 23:06:35
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 「悪いが俺は今、何も持っていないぞ」 「!? ち、違います! ハロウィンの仮装じゃないです!」 彼女は俺の言いたいことがわかったのか、すぐさま否定した。 なかなか勘のいい女子だ。

2017-11-06 23:29:40
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 3 「……で? 何か用か?」 きっと佳一に頼み事だろう。 「あ、あの……」 女子は恥ずかしいのかもじもじしている。 仮面のせいで表情がわかんねぇけどな。 「さぁ、遠慮することはない! 仮面女子よ! この壱岐佳一に思いの内を明かすとい い!」

2017-11-06 23:30:36
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 4 そんなテンションで来られたら普通、余計に話しづらくなるっちゅーの。 俺ならすみませんっつって逃げ帰るわ。 「君の悩みは必ず解決してみせよう」 屈託のない笑顔。 どこからその自信が出てきているのかわからないが、彼女の緊張が少しほぐれたように感じられた。

2017-11-06 23:39:47
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 5 「あ、あの、私……極度の恥ずかしがり屋でして……こうやって仮面をしないと外に出られ ないんです……すみません……」 その仮面つけて外に出る方が勇気がいるのではと言いたいところだが、おかしなものば かりが溢れている世界なので何とも言えない。

2017-11-06 23:41:17
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 6 もしや、仮面を外したいとかいう相談だろうか。 「じ、実はこの間……道でハンカチを落としちゃいまして……そのときとある男性が拾っ てくださったんですけど、私、あまりの恥ずかしさに受け取らずに逃げ出してしまったんで す」 全く違った。

2017-11-06 23:42:15
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 7 恥ずかしいから仮面をしているのにそれでも恥ずかしがってどうするんだ。 よくわからないな。 「きっとその方は私のハンカチを持ったままだと思うし……お礼もいわなきゃいけないと思っていたけれど、仮面越しだから顔をはっきりと覚えていなくて」

2017-11-06 23:43:35
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 8 え? それ、大問題だろ。 仮面越しだから顔を覚えてないとか、生活に支障出ないのかよ。 「ふむ。つまりは、俺にそのハンカチを拾ってくれた人物を探してほしいというのだな」 彼女はこくりと頷いた。

2017-11-06 23:44:25
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 9 「いやいやいや。探すのはいいけど、手がかり少なすぎだろ」 俺は即座に突っ込んだ。 こうやって面倒なことを引き受けて、巻き込まれる俺のことも考えてほしい。 「お、同じ学校の人です!」 「この学校に男が何人いると思っているんだ」

2017-11-06 23:45:12
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 10 また俺がすぐにそう言うと、仮面女子はうつむいてしまった。 「ううむ……確かに慎ちゃんの言う通りだな。君の記憶をのぞくことができれば一番早い のだが……」 それは駄目だろ。 そう言おうとしたときだった。

2017-11-06 23:46:04
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 11 「人の記憶を除くという行為は、思想を操る部類に入ってしまうし、プライバシーの侵害に なるから違法だよと授業で言ったはずだけどなぁ」 そんな声が聞こえてきて、俺と佳一は後ろを振り返った。

2017-11-06 23:46:56
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#140字連載 12 「姫八先生」 教材を抱えた英語教師がにこりと俺たちに微笑んだ。 聞かれていたか…… 「不穏な言葉が聞こえてきたのでつい、ね」 いつから聞いていたのか…… まったく、油断も隙も無い。

2017-11-06 23:47:35
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#140字連載 13 「一年生を助けてあげるのはいいけど、大人を頼ることも忘れないようにね?」 これまでの行いを言っているのか、念押しするよう英語教師は言った。 「もちろんだ、姫八先生! 困ったらあなた方を俺は頼るよ」

2017-11-06 23:52:36
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 14 「その言葉、信じてもいいのかな?」 先生の目が笑っていない。 佳一も変な嘘をつくんじゃねぇよ…… 「ともあれ、暗くなる前に早く帰りなさい」 「はーい」 俺たちがいい子ちゃんの返事をすると、満足したのか英語教師は去っていった。

2017-11-06 23:53:25
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  15 「さすがの俺とて法は犯せんからな。先生にも目をつけられては困るし、ここは地道にいこ う」 結局は探すのか…… 「本当に些細なことでもいい。君が覚えている限りの彼の特徴を教えてくれないか。声でも何でもいい」

2017-11-07 07:48:37
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 16 「は、はい……」 佳一による事情聴取が始まる。 本当に地道にいくつもりか。 つきあってらんねぇな…… 俺は二人の話に耳を傾けるのをやめた。 違法だとは言っていたが。 記憶をのぞくのが一番手っ取り早い。

2017-11-07 07:50:16
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#140字連載 17 違法とされる魔法、つまりは禁術にあたるものは学校教育において知る術すら明かされな いようなカリキュラムを組まれている。 将来、魔法を悪用しないため、未来ある若者を犯罪者にしないために。 ……俺には何の関係もないがな。

2017-11-07 07:53:29
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 19 俺がリスクを冒してまで、仮面女子を助けてやる必要性もないしな。 早く終わらねぇかな。 そんなことを考えていると、ポケットの携帯端末が震えた。 「……佳一。お前にまた助けてほしいってやつから連絡が来た」 届いたメッセージを見て、俺は二人の話に割って入った。

2017-11-07 08:12:12
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 20 「ほぅ。他にも悩みを抱えた人が」 「去年同じクラスだったやつただ。大した内容じゃない可能性が高いから、先に会って概要だけ聞いてくる」 佳一が返事するのも聞かずに、俺はその場から離れていった。

2017-11-07 22:25:07
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 21 指定された教室へ行くと、一人のとある男子が待っていた。 「よぅ。久しぶりだな」 俺の姿を見て、そいつは手をあげた。 昨年同じクラスだった、添木だ。 「あれ? 壱岐は?」 「別件対応中。ひとまずの話は俺が聞く」 そうか。と、添木は少し考えるような仕草を見せた。

2017-11-08 08:07:21
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  22 「弐方、お前って彼女いるか?」 「……いないけど」 何だ、こいつ。いきなり。 殴られたいのか? 「ふーん。じゃあ付き合ってきた女は?」 「ノーコメントで」 何でそんな対して仲良くもないやつにそんな話をしなければいけないんだ。

2017-11-09 08:10:07
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  23 「そうか……」 哀れむような目でやつは俺に向かって微笑んだ。 俺はケンカを売られているのか? 「何なんだよ。こっちはお前と違って暇じゃねぇんだ。さっさと用件を話せ」 「ひでぇ」 若干イライラし始めた俺だったが、「待たせたな!」という佳一の声に我に返った。

2017-11-11 23:36:15
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  24 添木はお目当ての佳一が来たことによって、目を輝かせた。 「すまない。野暮用があったものでな。添木君、君が次の相談者か?」 「佳一、こいつの話は実に中身がなくお前のお気に召すものではない退屈なものだった。なので聞く必要はない」 「ちょ、おい!」

2017-11-12 23:12:21
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  25 本当のことを言ったまでだろうが。 「まぁそう言ってやるな、慎ちゃん……つまらなくとも話は聞いてやろう」 「つまらないのは決定かよ」 拗ねたように口を尖らせる添木だったが、オホンと咳払いをし、 「壱岐。お前、モテるだろ」 「……?」 そんな話の始まり方あるかよ。

2017-11-13 07:38:21
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  26 佳一のやつもポカンとしている。 「頼む!壱岐!どうすれば女は落ちる!?教えてくれ!!」 「え、え……」 添木と俺を交互に見る。 佳一が狼狽えている。 それはそれで面白い。 「あの、添木君。何を言って……」 「お前なら彼女の一人や二人いるだろ!?頼む!教えてくれ!」

2017-11-13 07:47:07
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  27 「落ち着け、この馬鹿。何をさっきからそんなに必死になっているんだ」 俺は佳一にしがみつかんとしている添木をはがした。 「お前の方がよっぽど遊んでそうじゃねぇか。何でそんなことを佳一に相談する」 大体佳一に助言求めようっつったって無駄だってぇの。

2017-11-13 07:53:46
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  28 「添木君……何かあったのならば、話してくれまいか。相談はいくらでも乗ろう」 「……実は……」 大きなため息をつき、目の前と男は話し始めた。 「気になる女子がいるんだ……」 そんなことだろうと思った。 「名前も顔もわからないんだけど……」 ん? 名前はともかく顔も?

2017-11-13 08:10:27
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  29 「君はその名前も顔もわからない女子とどうなりたいんだ?」 「どう……と言うか……」 少し考える表情になる添木。 「お友達から始められたらいいなぁって……」 「……」 察していただけていると思うが、添木はどちらかと言うとチャラ男の部類になる人種だ。

2017-11-13 22:08:49
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  30 そんなやつが。 友達から始めたいって? おいおいどうした、パリピめ。 おかしいとは思っていたが。 「俺が彼女と出会ったのは、放課後の廊下だった……俺と彼女はたまたまぶつかってしまい、彼女が落としていったのがこれだ……」 そう言って差し出してきたのは、ハンカチ。

2017-11-13 22:16:25
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  31 うん? ハンカチ? そういや最近、女子がハンカチを落とすという事件が発生していたような……? 「彼女は仮面をかぶっていて、顔がわからなかったよ……。落としたハンカチを受け取らずに、去っていってしまった。まるで、人間に姿見られてたしまった妖精のように……」

2017-11-13 22:22:02
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  32 その例えはどうかと思うぞとツッコミたいところだが、仮面っつったか? 「添木君……仮面……って……?」 「ああ、そうなんだ。彼女は仮面をしているんだ。恥ずかしがり屋なんだろうなぁ、きっと」 その通りだよ! ハンカチを落とした仮面女子なんて心当たりがありすぎる。

2017-11-16 08:18:48
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  33 ちょっといいかと、佳一を連れて添木から離れる。 「おい、どうすんだよ。早々に拾い主が見つかったぞ」 「うむ。教えてあげるべきだな」 「ちょっと待て」 違う、そうじゃない。 「教えてどうする」 「え?どうするって……どうもしないが……」

2017-11-19 01:06:28
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  34 「しっかりしろ!お前のその頭脳は何の為にある!?」 肩をつかみ揺さぶる。 「あいつを見てみろ!あいつは彼女と再会すればそのまま告る勢いだ!あんなパリピに告られたら、あの子はどうなる!?」 「ぱ、パリピ……?」 そこで首を傾げるな!

2017-11-19 01:10:59
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  35 「絶対にあの子はビビり倒してまた逃げるぞ!」 「そうかなぁ」 そうかなぁじゃねぇわ。 わかってないな、こいつ。 「……わかった、もういい。お前は黙って見てろ」 わかっていたつもりだが、ここまで鈍感だとは思わなかった。 「待たせたな、添木」 俺はやつの元へと戻る。

2017-11-28 08:13:53
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  36 「実はだな」 俺は一呼吸置き、言った。 「お前が探している女子を俺達は知っている」 「え!?本当か!?」 添木の目が輝く。 「良かった!紹介してくれよ!ハンカチ返さないといけないし」 「いや、駄目だ」 「は?何で!?」 わけがわからないという顔をする添木。

2017-12-04 08:11:09
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  37 「お前がチャラチャラしてるからだよ!」 「はぁ?」 ズバリ言ってやったつもりだったが、やつには響いていなかった。 「お前もお察しの通り、彼女は極度の恥ずかしがり屋だ。だからあんな仮面をかぶっている」 うんうんと頷く添木。

2017-12-04 08:17:54
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#140字連載 38 「恥ずかしがり屋の彼女にお前みたいなチャラ男が近づいていったら、怯えるっつーことだよ!わかれよ!」 「え?俺、普通なのに」 「普通……!?」 信じられない言葉が飛び出してきて俺は口をパクパクさせた。 何を言っとるんだ、この男は。

2017-12-04 23:22:22
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#140字連載 39 「こんの……っチャラ男が!!」 「慎ちゃん。語彙力」 やつのアホさについ我を失ってしまった。 いかんいかん。 「だから……そのまんまのお前でいくと、彼女がドン引きするからやめろっつってんだ」 「それって彼女のタイプじゃないってことじゃん!」

2017-12-05 08:24:54
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#140字連載  40 「彼女のタイプじゃなかったら諦めんのかぁ!てめぇはぁ!!」 「慎ちゃん!落ち着いて!冷静さを失うあまりに怒りどころがおかしくなってきているぞ!」 殴りかからんとする俺の服を佳一が必死につかんでいる。 「な、何だよ……」 添木は後ずさりする。

2017-12-05 22:47:10
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  41 「添木君。繰り返し聞くけれど、君は一体彼女とどうなりたいんだい?」 「どうって……ひとまずこれを返したいかな……」 「うん、それで?」 「ちょっと喋ってみたいかな、と……」 ちょっとって何だ。ちょっとっ柄かよ。 「彼女の前で頭の悪い言動は控えられるか?」

2017-12-06 07:41:06
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  42 「慎ちゃん……君は彼女の保護者かい?」 うるせぇ!後々「お前らのせいで……」的なことを言われるのが嫌なんだよ! 「確かに彼はチャラチャラしているかもしれないが、それを奪ってしまっては特徴がなくなるのでは?」 「ひでぇな、おい」 ……それもそうか。

2017-12-06 07:49:40
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  43 変に納得させられてしまった。 「ともかく、彼女まだ校内にいるから俺が事情を話して呼んでこよう。それまでに準備なり何なりするといいさ」 そう言い残して、佳一は教室を出て行った。 おいおい。俺を置いていきやがったな、あいつ。 「なぁ、弐方……俺、どうしたらいいかな」

2017-12-06 08:08:39
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  44 はい!その役目が俺にまわってきました! 知るかってんだよ…… 困り果てた俺は、ある人物の元へと向かったのだった。 その人物はいつもと同じように、誰も寄りつかない寂れた外の喫煙所にいた。 俺達が近づいてきたのを見て、その人は煙草の火を消した。

2017-12-06 08:19:23
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  45 「やぁ。今日は単独行動か?」 俺がいつもあいつと一緒にいると思われているのは心外だ。 「何で伍紙先生……?……ハッ!」 首を傾げていた添木だが、わかった!という顔に一瞬にして変わった。 「先生すげぇモテるよな!?教えてもらえっつーことだよな!それは超聞きたい!」

2017-12-07 22:33:17
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  46 思惑としては間違っていないが、発言が頭悪そうで腹立つ。 「ん?恋愛相談か?悪いが君たちが大人になったときに聞こう」 「そんなに待ってられるかよ」 案の定はぐらかされたな。 「そう言わずにさぁ」 添木が俺よりもしつこく食い下がった、そのときだった。

2018-02-05 08:17:45
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  48 「誰?知り合い?呼んでるけど」 「…まぁ…」 添木は面識がないので知らないだろう。 あれは最早トラブルメーカーなんて言葉では片づけられない。死神だ。 「なぁなぁ弐方!俺すごいものを発明しちゃったんだ!見てくれる!?」 そう言って、窓からこちらの中庭へ出てこようとする。

2018-02-05 22:55:37
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載  49 え、ちょ。いいって!出てこなくていいって! 何で窓から出てこようとすんだよ! 「コラ!何やってんだ、お前は!」 叱ったのは、中にいる化学教師だった。 一方の保険医は「おー危ないぞー」と、止める気ゼロだ。 それでも教師か。 そして、案の定。 あのバカは足を滑らせた。

2018-02-06 00:50:03
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 50 宙を舞う体。 宙を舞う小瓶の中身。 瓶自体を手放さないのはなぜだ。 このままだと、添木にあの得体の知れない液体がかかってしまう。 初対面でそれはあまりにも可哀想すぎる。 俺の中にある優しさで、俺は添木を押しのけた。 が。それよりも保険医の方がもっと速かった。

2018-02-06 01:00:06
ナナシ @darkmoon_souji

#140字連載 51 保険医に押された俺は、添木にぶつかりドミノ倒しのように倒れこんだ。 そして。 庇った保険医に液体が浴びせられた。 「せ…先生…」 「わー!?ごめん!伍紙先生!大丈夫!?」 大丈夫なわけないだろ! お前の発明とやらで大丈夫だったことがこれまでにあったか!?

2018-02-06 13:18:42