ジンジャー・ブレッドマン

えびしま @abcMaaaaa

街で噂のジンジャー・ブレッドマン 錆だらけのクッキー缶を抱えて、道ゆく人々に「クッキーをたべますか」と声をかける 10年ほど前から街に住み着いた日i雇iい労i働i者で、物覚えが悪く、誰も相手にしない 引っ越してきたばかりのお人好しなあの人は、そんなことを知らずにクッキーを受け取ってしまう

えびしま @abcMaaaaa

初めてクッキーを受け取ってもらえた彼は、「友達ができた！」と大喜び 雨の日も風の日も、樅の木の前で帰宅途中のあの人の待ち続ける 「きょうのクッキーは、真ん中にジャムがあります。宝石みたいでしょう。とくべつに、あなただけにあげます。指輪をかうお金が、ないものですから」

えびしま @abcMaaaaa

「言葉をおぼえるのが苦手です。おぼえても忘れたり。急に思い出したり。ママにポットでたたかれて、そうなりました。頭はだいじょうぶだそうです。しんいんせい、といわれました。むずかしい言葉ですね。だからあなたの名前、なかなかおぼえられずにすみません。おわびに、クッキーをあげますね」

えびしま @abcMaaaaa

その言葉通り、彼の言葉遣いは日によって違う 昨日使えていた言葉や名称が、今日は思い出せないということも多い クッキー缶は母親に貰ったもので、「でていく前にくれました。『一日一枚』だそうです。なくなったら、おかしやさんで買っています。クッキーを買うために、はたらきます」と言っていた

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あの人は少しずつ街に馴染み、やがて高級チョコレート店の店員と仲良くなっていく そんな二人の会話を、彼はピカピカに磨かれたウインドウ越しに眺め、「クッキーは、きらいになったんでしょうか」と呟く 幼さが抜け落ちた表情の彼は、その日、情欲を覚えて初めて“大人の男の顔”になった

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今日も彼はあの人を待つ 缶の半分にクッキーを詰め、もう半分に高級なチョコレートを詰めて待つ そしてあの人は、「たべますか」と差し出された缶から、いつも通りにクッキーを選んだ その瞬間、彼は「あなたは、うそつきです。本当はチョコレートがすきなんだろう。おれに、うそをつくな」と低く言う

えびしま @abcMaaaaa

「あなたが、チョコレートのひとと仲よくしているのを、みました。クッキーがきらいになったんでしょう。でも、おれはクッキーがすきです。あなたのチョコレートと、おれのクッキー。缶にはんぶんずつ、入れたのに。どうして、うそをついて、おれのきげんを取ろうとするんだ」

えびしま @abcMaaaaa

「みんなにいい顔をするおんなのひとのことを、あばずれ、というそうです。むかし、ママがいっていた。あなたもそうだ。…？…おれの、名前をしりたい？…いまさら、きくんですか。…名前…きょうは、おもいだせない。…きのう、きいてくれたらよかったんだ。き、きのうだったら、おもいだせたのに」

えびしま @abcMaaaaa

「ジンジャー・ブレッドマンを知ってるか？…ノンノン、クッキーで出来た人形じゃあないぜ。この街の噂…都市伝説さ。え？こんなクソ田舎に“都市”伝説も何もないって？まあ聞きなって！100年も前にゃ、ここいらも立派な工業地帯だったんだ。いいかい、これはその時のお話だ」 twitter.com/abcMaaaaa/stat…

えびしま @abcMaaaaa

「ジンジャー・ブレッドマンはクッキー缶を持った大男さ。子供たちを捕まえちゃあ、『クッキーを食べないか』なんて誘いかける。缶の半分にはクッキー。半分にはチョコ。チョコを選ぶと、泣きそうなツラで消えていく。クッキーを選ぶと…怒ってその子を拐っちまうんだ！…ま、子供を怖がらせる噂だよ」

えびしま @abcMaaaaa

「知らない人から物を貰うな！っていう、子供騙しの作り話だな。でも、全部が全部ウソってわけじゃあない。…ジンジャー・ブレッドマンは実在したんだ。俺のひい爺さんに聞いた話だから、本当だと思うぜ。…ハハハ！まあまあ、ひとまず信じてくれよ！あの頑固爺はウソなんざつけねえさ」

えびしま @abcMaaaaa

「ひい爺さんがジンジャー・ブレッドマンに出会ったのは、7歳の時だった。30代半ばの大男が、『クッキーを食べないか』ってさ。そりゃあ怖かったらしいぜ。何せ、自分の親ぐらいの歳の男が、ガキみてえなツラしてクッキー食わしてくるんだからよ。走って逃げて、家ん中でわんわん泣いたってさ！」

えびしま @abcMaaaaa

「男は元々、近所でも有名なイカレ野郎だったんだ。それが好きな女にフラれて、いよいよ頭もダメになって、毎日毎日クッキークッキー！最後は川に落とした缶を拾おうとしてドボン。…ほら、そこに橋あるだろ。あそこから真っ逆さまさ。…そういやひい爺さん、一度だけ言ってたな。可哀想だったって」

えびしま @abcMaaaaa

「ジンジャー・ブレッドマンの名前は誰も知らない。頭が相当弱ってて、自分の名前なんざマトモに言えなかったんだとよ。ただ…ひい爺さんが近所の酒場で小遣い稼ぎしてたとき、鉱山の親方がこんなことを言ってたらしい。…ジンジャー、ってのは本当の姓だと。だとしたら、なあ。何とも皮肉な話だろ」

えびしま @abcMaaaaa

「…しかしまあ、この町も寂れたもんだ。ジンジャー・ブレッドマンの話も、町も、じきに無くなるだろうよ。あんたが聞いてくれたから、少しは報われるんじゃねえかな。…なんて、全部ひい爺さんの受け売りだけどな！あぁ、そうだ。あんた、名前は？──」 【END1︰ジンジャー・ブレッドマン】

えびしま @abcMaaaaa

「パパったらひどい！あたし、ちょっとだけおやつを多く食べただけよ。なのに、『ジンジャー・ブレッドマンが来るぞ〜！』なんて脅かすの。だいたい、ママもママよ！あんなにたくさんのクッキーを作ったら、少しぐらい多く食べちゃうに決まってるじゃない！」 twitter.com/abcMaaaaa/stat…

えびしま @abcMaaaaa

「パパはきっと、あたしにママのクッキーを食べられちゃって悔しいのね。ふん、ざまあみろだわ！いちいち焼き上がるのを待って、『お前は一枚だけだぞ！』なんて言っちゃって！やれやれ、オトコっていつまでも子供なんだから！…。でもあたし、パパが本当に子供みたいに…弟みたいに見える時があるわ」

えびしま @abcMaaaaa

「ママが缶いっぱいにクッキーを詰めると、パパは嬉しそうに蓋をするの。『誰かにあげるの？』って聞いたけど、『ヒミツ』って笑うだけ。時々、その中から1枚だけあたしにくれる。1枚よ？たった1枚！缶いっぱいに詰めて、それっぽっち！…でも、1枚でいいの。たくさん貰える日は、悲しい日だから」

えびしま @abcMaaaaa

「パパはママのことをすっごく大事にしてて、優しくて、何でも知ってて…でも、時々…本当に時々、みんなの名前を忘れちゃうの。ママの名前も、あたしの名前も。そしたら悲しい顔をして、あたしにクッキーをめいっぱいくれる。…そんなパパ見たくないから…だからあたしは、クッキー1枚がいいの」

えびしま @abcMaaaaa

「ママは言ってた。『パパともっと一緒にいようね。パパが忘れる暇もないくらい！』って。それを聞いたパパは、嬉しそうに…子供みたいに眠っちゃうの。朝になったら元通りよ。あたしたちの名前を呼んで『おはよう』って。それと…それとね。パパが誰にクッキーをあげてるか、あたし本当は知ってるわ」

えびしま @abcMaaaaa

「ねえ、知りたい？…ふふ！ママよ。ママにあげてるの！一度だけ、寝たフリをして見たことがあるわ。パパはあたしのボーイフレンドみたいな顔をして、ママに『クッキーを食べますか』って聞くの。ママは元気に『うん！』って…。あたし、寝たフリしてて良かったわ。パパもママも、笑ってたもの！」

えびしま @abcMaaaaa

「だから…ジンジャー・ブレッドマンなんて怖くないわ。きっと彼にも、ママみたいな人に出会えるはずよ。クッキーの缶をいっぱいにしてくれる人に！ね、あなたもそう思うでしょ？」 【END2︰ジンジャー家のクッキー】

えびしま @abcMaaaaa

ジンジャー・ブレッドマン「これは、ビスケットなので。何枚たべてもいいです」

えびしま @abcMaaaaa

ジンジャー・ブレッドマン、クッキーとビスケットとスコーンの違いが分かってなさそう 真ん中にクリーム挟んでるやつとか、「クッキーは、一日に一枚ですから」ってベリッと剝がして半分あの人にあげてるだろうな クリーム多い方をあげるくせに、羨ましそうに見つめてくる

えびしま @abcMaaaaa

【名ありキャラの筋肉量】 亟さん>ジンジャー>>>亀井≧楊おじさん>>鶴喰>>>葦野ママ>大蜘蛛 亟さんとジンジャーは筋肉オバケで、楊おじさんは戦i場にいた頃はもっとあった 亀井は仕事柄それなりにある 中肉中背のラインは鶴喰なので、葦野ママは結構非力 大蜘蛛は背が高いけど論外、吹けば飛びそう

えびしま @abcMaaaaa

ジンジャーはスコーンを見ると「おおきなクッキーですね」ってオロオロする あの人が「これはクッキーじゃないよ」って言うと「そうなんですか」ってホッとした顔をするけど、チョコチップ入りのスコーンを見てまたオロオロする

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自分の名前すら忘れるジンジャー君 あの人の名前だけは忘れたくなくて、クッキー缶の裏にしっかりと彫る 蓋を開けると、大好きなクッキーと大好きなあの人の名前がある ベッドに入る前、その名前を何度も何度もなぞって反芻して眠りにつく 綴りを間違えたあの人の名前は、いつも甘い匂いがする twitter.com/abcMaaaaa/stat…

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【END1】のルートの場合 あの人の部屋の前に置かれたクッキー缶 廊下の掃除中にそれを見つけた大家の老婦人は、蓋の名前を見て「コレ、あんたの？こんな汚い缶に食べ物を詰めるなんて、信じられないわ」と押し付けていく その頃、ジンジャー君は川に浮かんでいる twitter.com/abcMaaaaa/stat…

えびしま @abcMaaaaa

ジンジャー君は前の日の夜、あの人の部屋を訪ねて「開けてください。いっしょにクッキーを食べましょう。あなたのすきな、まんなかにジャムのあるクッキー。チョコレートもあります」とドアを叩いていた その夜は酷い雷雨だったが、ジンジャー君はずぶ濡れのままずっとずっとドアが開くのを待っていた

えびしま @abcMaaaaa

あの人は怖くて開けることができなかった やがて朝が来ると、ジンジャー君は「しごとが終わったら、またきます。今日は、いっしょにクッキーを食べましょう。いっしょに食べましょうね」と言い残し、クッキー缶を置いて去っていく ずぶ濡れのまま一晩過ごしたせいで、ジンジャー君は高熱が上がっていた

えびしま @abcMaaaaa

ふらふらと朝の街を歩き、人にぶつかっては突き飛ばされ、「きょうはクッキーをたべます、あなたとたべます」と呟きながら欄干にもたれ掛かる しばらくして、ジンジャー君は急に「…どうして、チョコレートのひととなかよくなったんだ！どうして！」と錯乱した そしてその弾みで、川へと落ちてしまった

えびしま @abcMaaaaa

雨で増水したとはいえ小さい川だったが、高熱のジンジャー君にはひとたまりもなかった 本当は言い伝えのように「缶を拾おうとして川に落ちた」のではない ジンジャー君は錯乱のままに川へ落ち、クッキー缶はあの人の部屋の前に残された あの人の名前が彫られたそれは、呪いのように残されたのだ

えびしま @abcMaaaaa

ジンジャー君の場合、「母親から貰ったクッキー缶を捨てる」、「あの人と一緒に新しいクッキー缶を買う」というのが病みを寛解させるイニシエーションなんだろうな あの人は今のクッキー缶とは全然違うデザインのものを選んで、「毎年新しい缶を買おうね」って微笑む そんな未来 twitter.com/abcMaaaaa/stat…

えびしま @abcMaaaaa

あの人にクリスマスプレゼントを貰ったジンジャー君 近所の雑貨屋の包装紙の中から出てきたのは、ジンジャー・ブレッドマンのオーナメント 「すごい、たいせつにします、一生でいちばん、うれしいです！」 そう言ってジンジャー君は、オーナメントよりもキラキラの笑顔で喜んだ

えびしま @abcMaaaaa

あの人は「一生だなんて大袈裟だよ！」と言うが、ジンジャー君は「あなたに、毎日あえるのがうれしいです。なのにきょうは、こんなにすてきなプレゼントまで。一生でいちばんです。あなたは、いつもぼくをしあわせにします」とうっとりと呟く

えびしま @abcMaaaaa

「こんなにしあわせなことが起こるまで、何十年もかかりました。だからきっと、つぎに起きるのだって、何十年もあとです。ぼくはそんなにながくはいきられません」「そんなことないよ、長生きして、もっと幸せなことが起きるよ」「この仕事はたいへんなので、ながいきは、むりだとききました」「……」