よろしいこと/時系列順。1:ふわふわ

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

Twitterはじめました。#はじめてのツイート

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実名でtwitterを使うな、と父に怒られてしまった。これからいろいろ遊ぼうと思ってたのに残念。アカウントに鍵をかけて日記帳みたいに使うんなら大丈夫かな？

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今日は研究所の隔壁機能テスト。所員のみんなは前からこの中で寝泊まりしてたみたいだけれど、わたしが研究所に泊まるのはこれが初めて。楽しかった！

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研究の方はちょっとミーティングをしたくらい。談話室でおしゃべりしてゲームもして、まるで旅行に来たみたいだった。木下さん、じゃなくて名字を書いてもまずいのかな、Kさん？ Kさんは特にやさしくしてくれる。高校生のわたしを一人前として扱ってくれて、それなのにやさしい。

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隔壁の方も問題ないみたいだった。戦車でもなければ破れない壁、けれど中にいる時はそんなに重苦しい感じはしない。食糧もすごい数が冷凍されていて、一年でも保つらしい。

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夏休みを利用して、わたしもしばらくは研究所に泊まり込む。長い長いお泊まり会だ。希望エンジンをみんなと一緒に完成させよう。

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研究の仕事が学校での勉強と違うのは、100点を超える成績が求められることだと思う。途中で赤点を量産したとしても、最後で101点を取れば、そこから新しい何かが転がっていく。それはみんなで何でもやって、最高の更に上をぶんどるっていうことだ。

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お泊まり会とかなめてました、ごめんなさい。洞窟みたいな研究所より仕事そのものがキツい。基本的な実験のデータ取りですらつまづくわたしをみんなは叱ったけど、怒らないではいてくれた。でも。楽しくなかったかというし、それはやっぱり違ってる。

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Kさんは言った。 「蕗ちゃんはどうして人の気持ちがわからないの」と。 でもそれはおかしい。 私以外の人間に、気持ちなんていうものを仮定する意味がわからない。

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全員に拒否された。 どうして？　この程度の刺激で後遺症が残ることはまずないのに。 それは手術のためとはいえ丸坊主にするのは、私だったら嫌だけれど。 でも手術を受けるのは私じゃない。 私は何も辛くないのに、嫌がるような顔をするのは、それはおかしな演技だと思う。

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人体実験の志願者を募った。 内容は単純。外科手術によって開頭し、電極による脳の刺激を行う。 まず大脳基底核に電極を挿入するが、効果ない場合は他の部位の刺激も行う。 電圧は1.0ボルトから5.0ボルトにかけて各3回、パルス幅は60μ秒、周波数は130hzとする。

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電気刺激くらいならもちろん他の職員さんにもやってもらっているけれど結果は出ない。 私が希望エンジンを使う方法は確立してきたけれど、私以外に同じことができないんじゃ、最後は意味がなくなるんだから。

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今のところは電気刺激を使った方法が見込みが高い。 案外雑に電極を挟むだけでもいいらしい。舌とこめかみを同時に刺激すると、三回に一回くらいは何も考えずともお菓子が出てくるようになった。

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希望エンジン。私の希望を叶える力。 でも今のこれは科学じゃない。早くこれが科学になれば、Kさんもきっと喜んでくれるのに。

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ただ私が興味がないものは、写真があってもやっぱり出せない。 それに取り寄せ以外の能力の使い方もできない。定量的なデータの取りやすい実験……たとえばビーカーの水を温めるとか……もできれば便利なのに。

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更にポテチ、レモンティー、チョコなどなど、お菓子や飲み物なら自由に出せるようになった。 Kさんの班を呼んでみんなでお菓子パーティー。 今回は、ほんとうに楽しかった。演技じゃなくて。

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今日は希望エンジンについて、Kさんから良いアドバイスをもらえた。 出したいものの写真が目の前にあるとすごくやりやすくなる。シュークリームを五回連続で出せた！

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でも私がパンをコンビニで買おうが無から取り出そうが、やっぱりそれはどうでもいい。 そんなのは発展性がないただの怪現象で、誰でも同じことを同じやり方でできなきゃ、研究所でやる意味がない。

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とにかく希望エンジンは自由意志による因果律の操作を可能とする。 「パンを食べたい」という意志で、パンを無から取り出すなんてことなら、私は小学生のころからできた。

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学校は楽しくなかった、けど思い出はある。今でも思い出すのは小学校の時、クラスメイトの男子が学校の階段を駆け下りようとして派手に転んだ時のこと。 驚いたり、心配したり、慌ててたり、みんなの演技はとても細やかだった。 でも何よりすごかったのは、転んだ本人の痛がる演技だ。

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でも友達も作らなければいけない。授業は退屈だと言ってもいいらしいけど、友達と話しているときは楽しんでいるふりをしなければいけない。 お喋りのときは相手の気持ちがわからなくともわかるよ、と言わなければいけない。

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ちょっと銃をつきつけられたり、あるいは脳を傷つけられても、たぶん笑って許してくれるだろう。 だって私、研究所に来てから、ずっと楽しかった。 私が楽しかったから、みんな私のことが好きだって、そう心から思える。

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そうだ。学校は、ずっと演技を習うための場所だった。 たとえば授業中は授業を聞いているふりをしなければいけない。基本的には勉強をしに来たふりをしなければならない。

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忙しすぎてつぶやく時間すらなかった。というかえっもうこんなに時間が経ってたの？　ほんとに？　これがお仕事のおそろしさというもののか……！

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仕事では101点が求められる、という考えをKさんに話したら「蕗ちゃんはわかいね」って笑われた。かわいい、とも言われたけれど、どちらも意図がよくわからない。

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何にしろ、いま私たちが求める「101点」はひとつだけ。自由意志による因果律の操作だ。 学校ではずっと意味のわからない努力を求められていたけれど、それとこれとはわけが違う。生まれてはじめて、がんばるのがたのしい。

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階段のカドに打ち付けたらしい。あの子は血が出ている膝をさらけだすようにうずくまって泣いていた。 転んで、しかも血が出たのなら、泣いて痛がらなければならない。 そういう世間的な常識を反射的に、しかも劇的な形でなぞれるだなんて、今考えても凄いと思う。

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っていう話をKさんにしたら、なんでか変な顔をされた。 「お父さんはそれについて何か……お説教というか……」みたいに聞かれたけれど、父とはあまり喋らないし、学校についての私の考えを話した記憶もない。

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でもそう言ったら、なぜかごめんなさいって言われた。 わからない。Kさんの泣きそうな顔は演技だったのだろうか、考えてみてもよくわからない。

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予備実験ももう終わる。「この研究所の予算も無限ではない」と父は言っていた、事情はわからないけどスケジュールが厳しいということらしい。そろそろ本格的に私が出せるものの再現性を検証しなきゃだめみたい。

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私がこの三日、希望エンジンで出したのはくまのぬいぐるみ一個、トースト一個、シュークリーム二個、チューリップの鉢植え一個、百合の花束一個……花束の数え方って一個でいいんだっけ？

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いやそれはどうでもよくて。問題は、狙って同じものを出せないということだ。 希望エンジンと呼ばれるちから。観測範囲で私しかこの能力を使えないということは問題だけれど、今は良いとしておく。

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さっき「出した」トーストが空気から生成されたものなのか、それともどこかの喫茶店とかからテレポートしてきたものなのか、それも今は気にしないことにする。

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希望エンジン、という名前をつけたのは父だった。最初は私もそういう機械があるのかと勘違いしたけれどそうじゃない。 それは私の脳の中にある「何か」としか、今のところ言いようがない。

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お母さんは？　とも聞かれたから、それも正直に答えた。 小学生の頃に、母は家を出ました。

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そして今は「誰でも」より「同じやり方で」が優先。 今の希望エンジンで出せるものは、私の気分でふわふわしてる。実験が大事なことはわかっているのに、可愛くないものを出そうとするとそれだけで失敗率が跳ね上がってしまう。

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小さな頃は使うと意識すらせず使えたエンジンが、がんばろうと思うほど頭の中から逃げていく。 集中したつもりで成功率が下がる。むずかしい。でも、がんばらないと。

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今日は希望エンジンについて、Kさんから良いアドバイスをもらえた。 出したいものの写真が目の前にあるとすごくやりやすくなる。シュークリームを五回連続で出せた！

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更にポテチ、レモンティー、チョコなどなど、お菓子や飲み物なら自由に出せるようになった。 Kさんの班を呼んでみんなでお菓子パーティー。 今回は、ほんとうに楽しかった。演技じゃなくて。

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ただ私が興味がないものは、写真があってもやっぱり出せない。 それに取り寄せ以外の能力の使い方もできない。定量的なデータの取りやすい実験……たとえばビーカーの水を温めるとか……もできれば便利なのに。

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希望エンジン。私の希望を叶える力。 でも今のこれは科学じゃない。早くこれが科学になれば、Kさんもきっと喜んでくれるのに。