「また吹雪が来そうだ」 掠れた声に顔を上げ、視界に踊るブロンドを見つけた名前は思わず微笑みを零した。白銀世界にはあまりにも眩い青が名前を優しく見つめている。駆け寄るとエドガーは抱きしめるように腕を広げ、躊躇い、そうして腕を下ろしてしまった。たたらを踏むと、苦笑ひとつ。 「腕」
2020-04-30 21:16:37「うで?」 「こんな時に金属に触れるのはあまりにも危険だ。私としても非常に残念極まりないのだが、」 「ああ、…まぁ、そうだね。鎧は冷たい」 穏やかに微笑む王の背後は雪景色。ドン、ドンドン、とロックが民家の扉を乱暴に叩く音だけがやけに響く、雪に沈むナルシェ。
2020-04-30 21:20:49この街が苦手だった。身も心も冷たい。みな疑心暗鬼に満ちて、よそ者はおろか身内まで疑いだし、そうして帝国が攻めてきたあの日、自分は家族を失った。 ただの氷漬けにされたバケモノの為に、兄は命を落とした。 ぶるり、と身を震わせる。寒さからでは無く、内から産まれる黒い感情が恐ろしいのだ。
2020-04-30 21:23:32「…大丈夫さ。君には私がいるだろう?」 肩に置かれた手の温かさに項垂れたまま笑う。「聞き飽きたフレーズだ」なんて悪態をつきながら見上げた鼻の頭が赤い。込み上げる笑いに顔を逸らすと、エドガーの大きな手が名前の腕をつかみ、引き寄せ、 「冷たっっっっ!?」 「おっと!やはり無謀だったか」
2020-04-30 21:29:15「ヒィー冷たい、痛い、……ちょっとエドガーあっち行ってて……」 「なんと……心が痛いよ名前……その上酷く悲しい……ああ、いっそこの雪が悲しみを覆い隠してくれないだろうか……」 よよ、と泣き崩れたまねをしながらもエドガーの目は油断なく周囲を見張っている。数歩下がった名前もまた周囲を
2020-04-30 21:32:31油断なく見回し、ふと、遠吠えを聞いた。 「近いな」 「…うん、数は……」 「下がろう。ロックの方がそろそろ終わるはずだろうから。…名前、すまない」 「は?え?ぅあ!?つっめた!」 肩に手をかけ、思い切り担ぎあげられてしまった。目線がグイッと上がり、エドガーの鎧に触れた箇所が痺れるほど
2020-04-30 21:38:38冷たくて痛い。 「すまない。しばらく大人しく頼むよ」 「ひぃ、ひぃ、任せて、ウー冷たっ」 腕を回した首もほのかに紅く、ふわりと香る甘く爽やかな香りにクラクラする。どんな時でも身だしなみは欠かさないとは、さすがエドガーだと感心する反面、 「今この状況には必要ないよなぁ」
2020-04-30 21:41:23「うん?」 「なんでもないよ」 首筋に唇を寄せ、クスクス笑い始めた名前をエドガーは愛おしむ様に抱き抱えたまま、雪を踏み歩き始めた。
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