意識の低い就活生森山の夜景

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

電話が鳴った。 「もしもし…笠松からかけてくるの珍しいな」 「あー…」 笠松はアーとかフーとか口籠っていて要領を得ない。 「何だよ、オレ達の間に隠し事はナシって約束しただろ〜？」 「…急でわりぃんだけど明後日の夜あいてっか？」 吾輩は独り身である。クリスマスの予定は、まだない。

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「…森山の24日、空いてますよ」 「良かった。どうせお前ならヒマだろうと思ったけどハラハラしたぜ」 “どうせ”とは何だ。どうせとは。 「で、どこ行く？ 彼女できたとき用にシュミレーショn 「イルミネーション見ようぜ。あ、レストランは予約してあっから心配すんな」 スマホ落とした。

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「ふぇあ!?」 驚きすぎてヘンな声出た。 スマホは左手から垂直に滑り落ち、あっと言う間もなく、プラスチックケースの破片が床に飛び散った。 …ヒビ入ってる。バスケットボールの柄で気に入ってたのに。泣

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…これが“雨降って地固まる”ってヤツか。オレ達、不器用に傷つけあった日もあったよな。会えない時間が2人の愛を深め…てたまるか！ オレは女の子と過ごしたいんだ！ “ハラハラした”ってそうゆうことかよ!? …スーツ着て行った方がいいと思う？ オレ就活スーツしか持ってねーんだけど。

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@tos 笠松とイルミネーションを見て彼女が出来たときのシュミレーション…キタコレ！ …いかん、伊月のクセが伝染った。

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…ボンドで接着しようとしただけなんだ。取り外そうとして、うっかりいつものように力を込めたら、本格的に取り返しのつかないことになった。つらい。オレは不幸な森山botじゃないんだが。 前に使ってたガラケーで撮ったから画質が悪くてゴメン。 http://t.co/OjPOlBsmwl

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笠松からメッセージだ。そうだ、あの後それどころじゃなくて折り返してなかった。 「昨日すげぇ音して突然電話切れたけど大丈夫か？ つーか、これ届いてっか？ 話した店だ。[url] 半年前から予約してないと食えねぇ有名店らしいから、きっと森山も気に入ると思うぜ」 …半年前!? 重ッ！

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動揺して忘れてたけど、笠松にクリスマスプレゼント買うべきだよな？ 面接の帰りにスポーツ用品店に寄ることにした。一旦、家帰って着替える時間はないし、どっちにしろ笠松とのデート()は就活スーツだ。手持ちの服で一番高いもの、と思えばクリスマスイブを就活スーツで過ごすのも悪くない…？

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あー！ これオレも欲しかったんだよなー！ みんな知ってる？ ストバスやるときとかに使うリストバンド…手袋みてーなもんかな。 http://t.co/2Pg0ua0jAH

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バスケグッズを見るのに夢中になっていると、背後から声をかけられた。 「何や、森山やーんw」 「げ。」 「また会うたなぁ〜w その節 http://t.co/3ardgn9rFs は大きにw」 振り返ると相変わらずうさんくさい笑顔を浮かべた今吉がいた。今日はロクなことがなさそうだ。

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「で、リア充な今吉クンはこんなとこで何してんだ？」 「森山と違うてリア充なワシは彼女の試着待ちや」 今吉は試着室を顎で差した。 「…覗いてい？」 「いいわけないやろ」

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「…ちゅーか、森w山w クリスマスに就活スーツってw 非リア極めすぎやろw」 今吉が吹き出した。 「うるせーな！(これからデートだよ！ 笠松と！)」 「いや〜w この時期まで就職決まらんと親御さん泣いとるやろ〜心中お察ししますわ〜」 「ぐぬぬ」 いかん、目頭が熱くなってきた。

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高校ん時より少し長いくらいか？ 今吉の髪は6月の頭に見たときより随分と伸びていて、就活をとうに終えたのは火を見るよりも明らかだった。こんなテラテラした真っ黒なスーツじゃなく、シャレた感じのジャケットを着てて…くそっ。…いいし。オレの髪型は素でOKだし。

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「ぎょーさん並んどるけど、もうワシらには縁のないもんやなぁ、森山？」 細い隙間からチラリと黒目が光った。 これ以上、妖怪のオモチャになるのは、NNT兼DTには刺激が強すぎる。 「今吉の人でなし！泣」 リストバンドをひったくるようにレジに持っていき、素早く会計を済ませて店を出た。

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…しまった。料理上手でかわいい今吉の彼女を見てくんの忘れた。

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「綺麗だな、森山」 「お、おう」 笠松と２人でイルミネーションなう。 周りは予想以上にカップルばかりだ。説明会と違ってスキがない。女の子は現地調達でいいかと思っていたが、それも難しそうだ。

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黄色と青のライトが絡まり合ってるのが綺麗だ。笠松はしきりに写真を撮っている。 「森山、こっちこっち！」 なんだか昔と逆だな。オレも一枚くらい撮っておくか。 http://t.co/BiAqS4QlYS

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「おわっ。か、か、カップルばっかりじゃねぇか！」 誘ってきたのはお前だろ。なぜか笠松はイマサラ照れている。なんだ？ 意識させたいのか？ オレを意識させたいのか？ そのテクいただき。今度オレも使おう。 ロマンチックな雰囲気の店じゃないのがせめての救いだ。いざリア充の巣窟に潜入！

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男２人でプレゼント交換…しょっぱい。しょっぱすぎる。 「壊れたっつってたろ」 笠松からは黄瀬の柄のスマホカバーだった。 「お、おー。サンキュー。…なんで黄瀬柄？」 「人気投票、黄瀬に入れるhttp://t.co/B8azn8SUXDって言ってたじゃねぇか。隠れ黄瀬ファンなんだろ」

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「森山、オレのことどう思ってる？」 きたああああああああああああああああああああ!!!!!!!!

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「星が定めた運命の人さ〜？」 「ちゃかすな、お前の悪い癖だ。就活は真剣勝負だぞ。んで、チョーシはどうよ」 「ん？ ああ、笠松のアドバイス通り、営業職で何社か受けたら、多少は引っかかるようになってきてさ」 「多少は進歩してんじゃねぇか。頑張れよ」 「お、おう」 何だったんだ、今の。

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「な、うめぇだろ？ 半年前に予約したからスッカリ忘れててよ。オレもここのメシ食いたかったしキャンセルすんのも勿体ねぇから、今日お前が来てくれて助かったぜ」 …ん？ どうゆうことだ？ バスケ辞めてた間、ナニしてたのかな〜?? 「…笠松だけはDT仲間だと思ってたのに！」

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

「うっるせーよ！ 大声でDTとか言うんじゃねぇ！」 「笠松にデートに誘われたと思ってテンパった数日間を返せ！」 「その発想がキメェよ!! …ついでに引退祝いになったからいいだろ」 「ついでかよ」 「おら、飲め飲め」 ワインをどくどく注がれた。オレ酒弱いからこんなに飲めねーよ。苦笑

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

「もう大学で公式戦に出ることは一生ねぇと思ってたから。ありがとうな、森山のおかげだ」 「嫌みか」 「嬉しかったのは本当だ。お前のバスケ人生の引退試合に花を添えられて良かったよ」 …ああ、そうか。あれは“大学バスケ引退”じゃなかったのか。

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

さっきまで黄色がメインだった電飾は、真っ青に色を変えていた。 「ここのイルミネーション見たいって、ずっと言っててよ」 笠松の元カノ。笠松の元カノ。気になって仕方ないが、光を仰ぐ笠松の横顔が、あまりにも寂しそうで、何ひとつ言及できなかった。

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

どこまでも続く光のアーチを見上げると、オレの頭上のライトは、接触不良だろうか、今にも消え入りそうに点滅していた。

意識の低い就活生だった森山bot @Entry2Heart

@tos 本当はあのリストバンドだって、欲しかったのはオレの方。