最近の八百万は、寝ている時に身動ぐことも難しくなった。「また……」がっしりと背中に回された腕が溜息に反応して抱き締める力を強めた。痛くはないが水を飲みに行くのは無理そうだ。「困った人」呟きに寝息だけが返ってくるのを聞きながら再び溜息を吐くと、引き寄せられる前に自分から身を寄せた。
2023-11-16 23:13:12「それ、買ってくの?」「ああ。でも、俺のじゃ」答えようとして轟は初めて自分の行動を自覚した。『八百万が喜びそうだ』とつい手に取ってしまったが、買ってどうしようというのか。いや、買ったからには渡すしかないのだけど。「緑谷」「どうかしたの?」「お前、麗日に普段何か買ってたりするか?」
2023-11-19 22:47:09【無意識に彼女の喜ぶ顔を考えていた】「か、かかかか買わないよ! 確かに麗日さんには日頃お世話になってるけど、あくまで僕と麗日さんはただの同級生だし、急にプレゼントとか渡しても困らせるかもだし」「そうか……なら、八百万も困らせちまうかもな」
2023-11-19 22:47:09突然の告白(?)に思考停止するデク君に、「急じゃなけりゃ良いのか」「この間の補習で世話になったし、そうじゃなくても」「一緒に店に来て、それで気に入ってる姿を見たら買ってもおかしくねェか。別にこれじゃなくても良いけど」「どう思う、緑谷」と矢継ぎ早に言う轟くん。
2023-11-19 22:54:42聞いてるようで聞いてないし、「まぁ、うん、そうだね」っていう曖昧な返事に大丈夫なんだなと判断して、後日早速百ちゃんを誘って店に来るし、プレゼントするし、何なら無自覚にデートしてる。本人達は一緒に出かけただけって認識なんですけどね。
2023-11-19 22:58:26それ以降、お互いの気になりそうなものを見つけたらお出掛けに誘うようになる轟くんと百ちゃん。喜んでいるのがプレゼントになのか、相手が気に掛けてくれていることなのにか、二人で出掛けることになのか、というところにはまだまだ思い至らない、
2023-11-19 23:05:43「……おはようございます」はにかんだように笑う八百万を、寝起きで働かない頭でぼうっと見つめる。一つの布団の中で、体温を分け合うように身を寄せ合って、いや、昨夜は『ように』じゃなかった、はずだ。「――ってェ……!」「な、何故ご自身の頬を抓ったのですか?」「夢かもしんねェって、思って」
2023-11-24 23:15:33【何度も夢に見ていた光景だったから】「だからって、こんなに赤くなる程に力を込めることはなかったのではありませんか?」「……夢じゃねェって早く理解する必要があったんだよ、色々と」
2023-11-24 23:15:33「そろそろ慣れても良くねェか」「そ、そう言われましても……!」呆れたような声に赤くなっていた頬に更に熱が籠もる。絶対に無理だ。轟の傍にいるだけでもドキドキするのに、ハグやキスまでされて冷静でいられるはずがない。「でも、轟さんだって照れていますよね!?」「俺のは、八百万とは違ェし」
2023-11-26 22:44:44【いつまでも初々しい彼女が可愛い】「ですが、このままでは轟さんに面倒だと思われてしま」「思わねェ」「あの、轟さん?」「んなこと思うわけねェだろ。もっと自分の可愛さ自覚しろ」
2023-11-26 22:44:44「轟さんに好意を抱いていることは伝えていなかったはず、ですが」恐る恐る尋ねる八百万に周囲の視線が一層温かいものに変わる。そして、それで伝わったのだろう。赤くなった顔を両手で覆って、それでも真っ赤な耳が覗いているのが可愛い。「まぁまぁ、そんなことは置いといて」「置いとけませんわ!」
2023-11-30 21:38:03「そりゃあ、自慢の恋人だからな」答える声のなんと誇らしげで、甘いことか。浮かぶ笑顔も、普段のクールさが嘘のように優しげだ。こんな笑顔を見せられたら女性人気がまた増えるだろうが、同時に期待を抱く余地もないことを悟ってしまうはずだ。いや、今はそんなことより――「あー……八百万、平気?」
2023-12-03 18:37:20【恋人自慢は程々に】八百万は真っ赤な顔を手で隠して固まってるし、それを体調不良だと勘違いして世話を焼こうとする轟を見ている瀬呂くんは昼飯を食う前にお腹一杯になっちゃったよ。
2023-12-03 18:37:20「――八百万」轟の声に振り返った八百万が「轟さん!」と嬉しそうな笑顔を見せる。どうしたのかと問う目も柔らかく、他愛もない事を口にしても楽しそうに聞いてくれることを轟は知っている。でも、八百万はまだ気付いてはいない。そんな八百万が堪らなく愛おしくて、その度に惚れ直していることなんて。
2023-12-07 21:26:48これからもずっと良い仲間で、友達でいられたらいいと思っていた。それがいつしか、自分以外を隣に置いてほしくないと思うようになった。その美しい笑顔も、優しく名前を呼ぶ声も、真っ直ぐに向けられる瞳も。八百万から向けられるもの全てを独占したいのだと気付いて、己の欲深さに思わず身震いした。
2023-12-11 23:00:13八百万百は可愛い。どこが、何が、とかいう次元ではなく全部が可愛い。今まで気付かなかったのか不思議なほど八百万が可愛くて堪らない。そのせいか最近は八百万の事ばかり考えてしまって、けれど、そんな自分が嫌ではなかった。「すげェな、誰かを好きになるって」「あ、うん。本当に凄い、よね」
2023-12-17 21:11:29【恋を自覚しただけでこんなに変わるのか】君は自覚していなかったけれど、ずっと前から両想いだったんだよって言ったらどうなっちゃうんだろう。
2023-12-17 21:11:30「お前、本当に八百万には甘いよなぁ」ニヤニヤとした笑みを浮かべる上鳴に轟は首を傾げる。甘くしている自覚は、割とある。分からないのは――「だからどうした?」「へ?」「惚れた奴に甘くなっちまうのは別におかしなことじゃねえだろ」「そりゃあそうだけどよぉ……もうちょっと照れるとかねーの?」
2023-12-31 17:03:42