キャスター・RNBを蟹漁船に乗せて襟裳岬へ送り出したいと思った一連のまとめです。
RNB
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はんこちゃん @hanko_tyon

上洛の夢半ばにして潰え、失意の中心の隙間を埋めるべく単身北海道に渡ったRNBちゃん。今までの何かに追いつめられるように走り続けた人生とは真逆の目的の無い北海道探索。そして襟裳岬に足を向けた時、 その日、運命(カニ)と出会う…

2018-03-30 21:56:09
はんこちゃん @hanko_tyon

短期集中連載「人理の夜明け~カニに命を懸ける男、RNB。挫折と栄光の襟裳岬~」

2018-03-30 21:57:47
はんこちゃん @hanko_tyon

2018年、春。人理凍結のあおりを受けた太平洋は波浪を高く巻き上げ男を待ち構えていた。 いつも船に同乗されるんですか? RNBちゃん:「そうですね。忘れないようにしたいんです。諦めきれない気持ちを引きずったまま乗った船で、初めてカニと向き合ったあの日を」

2018-03-30 22:03:30
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさんはそういうと愛おしそうに船のへりをさする。宿業丸。RNBさんがこの業界で目覚ましい活躍を見せるその前からの相棒だ。

2018-03-30 22:04:24
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさん:「そろそろ船内に戻りましょう。探知機にカニの群れが引っかかっている頃やもしれませぬ」 数年かけて磨き上げられた海の男の感は今日も冴えわたっている。船内に戻ると30km先に大きな反応があった。カニだ。

2018-03-30 22:09:09
はんこちゃん @hanko_tyon

今や北海道一円のみならず築地の市場でもその確かな品質が評価されている新進気鋭の漁師、RNBさん。その人生は挫折と苦難に満ちていた。

2018-03-30 22:11:02
はんこちゃん @hanko_tyon

32年前、播磨の農村に生まれたRNBさん。幼少期からその頭脳は冴えわたり、多くの村人が義務教育の後農作業へと移行していく中、周囲の期待を一身に背負い尋常高等小学校を卒業。担任の教師からの熱心な勧めもあり名門播磨第二高等学校へと歩みを進めた。

2018-03-30 22:14:34
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさん:「その頃は天狗になっておりました。拙僧が世を変えてみせるのだと。手始めに官吏になり故郷に錦を飾るのはもう拙僧の中で必定となっておりました」 周囲の期待は重くはなかったという。父母、そして村の仲間、皆がRNBさんの成功を信じて疑わなかった。

2018-03-30 22:17:28
はんこちゃん @hanko_tyon

播磨第二高等学校を首席で卒業し、RNBさんは夢を抱いて上洛することを決意した。出立の日、村から数キロ離れた所にある私鉄駅には村人、学友総出でRNBさんを囲み、万歳三唱で送り出された。だれもがRNBさんの成功を疑わなかった。RNBさん自身でさえも。

2018-03-30 22:19:49
はんこちゃん @hanko_tyon

だが、運命の魔の手がRNBさんに忍び寄る。都会の明かりもまぶしく鳴り物入りで上京してきたRNBさん。しかしーーー RNBさん:「天才というものは本当にいるのだと、努力で越えられぬものがあることをまざまざと見せつけられました」 RNBさんの同期、その中にいたのだ。天才が。

2018-03-30 22:22:13
はんこちゃん @hanko_tyon

いくら努力しても埋まらない才能の差、RNBさんが血反吐を吐いて成し遂げたことを天才は一足飛びで越えていったという。 RNBさん:「目が覚める思いでありましたよ…世を変えるなどとてもではないが出来ないと、故郷に錦すら飾れぬ人間なのだと思い知らされました。」

2018-03-30 22:25:02
はんこちゃん @hanko_tyon

誰よりも努力し、誰よりも期待を負ってきたRNBさん。その落胆は如何ばかりだったであろうか…。官吏としての仕事に絶望したRNBさんはその年に退職。失意の中の都落ちであった。

2018-03-30 22:26:36
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさん:「拙僧はなんて価値がないのかと…その時期はそればかり考えていました。電話口の村の衆は優しく、心安らぐまで名跡見物でもしたらよいと、たまには休んでみてはなどと言うのです」 その優しさもまた、RNBさんにとっては胸を裂く凶器だった。

2018-03-30 22:29:05
はんこちゃん @hanko_tyon

それでも故郷におめおめ帰れまいと、RNBさんは1人日本を回る旅に出た。男一匹、傷心の漂泊である。津々浦々の名勝を巡っても心は満たされず、このまま自分は駄目になってしまうのかと、一夜の仮宿の布団の中おびえる日々が続いた。

2018-03-30 22:31:10
はんこちゃん @hanko_tyon

そんなある日、転機が訪れる。 RNBさん:「海を渡ってみようという気になぜなったのか、今でも分かりませぬ。とにかく思い出から遠い場所に行きたかったのかも知れませんね」 胸元に吹き込む風も冷たくなってきた頃、RNBさんは人生で初めて北海道の地を踏んだ。

2018-03-30 22:33:06
はんこちゃん @hanko_tyon

播磨生まれのRNBさんにとって毎日が驚きの連続だった。まだ木の葉も落ちぬ間に散り始める初雪、家系ラーメン、そして新鮮な海の幸。山育ちのRNBさんにとって仮宿でも惜しみなく出てくる海の宝石たちは何よりもまぶしく見えたという。

2018-03-30 22:35:42
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさん:「幼い頃、誕生祝に母上が内金を崩してまで作ってくれた石狩鍋。味は比べ物になりませんでしたがその温かさは覚えておりまする」 その日から何かに魅かれるように海の近くへ足を延ばすようになったのだと言う。函館、室蘭、苫小牧。RNBさんの足は導かれるように進んでいった。

2018-03-30 22:38:48
はんこちゃん @hanko_tyon

そしてある日、転機が訪れる。

2018-03-30 22:39:08
はんこちゃん @hanko_tyon

北海道を流転するうちに襟裳岬へたどりついたRNBさん。その年は異常なほどの豊作で人手が足りず、港のあちこちで日雇い漁師の募集が掛けられていた。 RNBさん:「そろそろ路銀も尽きてきた頃で、これこそ渡りに船と思いました。師匠…保名殿の船に乗ったのはそれが初めてです」

2018-03-30 22:42:24
はんこちゃん @hanko_tyon

安倍保名船長(現在67歳)はどこから流れてきたとも知れないRNBさんを快く自分の船に招き入れた。葛葉号…のちにRNBさんの宿業丸となる漁船である。本当に自分に出来るのか迷うRNBさんの胸をたたき、これだけ筋肉があれば大丈夫だと太鼓判を押した。

2018-03-30 22:44:48
はんこちゃん @hanko_tyon

船は出た。初冬の風が寒さに慣れない頬を容赦なく突いては流れていく。無窮無辺に見える海は、今牙を研いでRNBさんを待ち構えていた。

2018-03-30 22:46:27
はんこちゃん @hanko_tyon

「そっちだ!!」「曳け!」「カニが逃げる!!!!」 次々と襲い来る風、波、カニ。船の上は一瞬で混乱状態となる。何しろ豊作なのである。どれだけとってもとりつくせない程のカニが漁師たちをあざ笑うようにソナーに光っては消えていく。

2018-03-30 22:49:53
はんこちゃん @hanko_tyon

他の漁船団もカニに翻弄されていた。今ここで群れをとらえることが出来れば今週の取引市場は葛葉号一色になることは必定だ。しかしカニの動きはそんな漁師たちの心をかき乱すように明滅していた。機械でとらえきれないカニの動き。荒れた海は人間には扱いきれない神と同じだ。

2018-03-30 22:52:16
はんこちゃん @hanko_tyon

ふと、保名船長の目に一人の漁師の姿が目に留まった。 …RNBさんだ。多くの日雇い漁師が荒れ狂う高波に翻弄される中、その知恵と体力を駆使してカニの動きを予測し、1人黙々とカニを捕る男の姿があった。慣れない海風にゼンマイがしんなりと垂れている。その姿に、掛けていようと言う気になった。

2018-03-30 22:54:37
はんこちゃん @hanko_tyon

「なあRNBさん、底引き網をどこに張るか、あんたが決めてみてくれないか」 RNBさんは耳を疑ったという。初めての漁、海の風、元気なカニ。一匹二匹くらいなら捕まえられると言え、素人に船の運命を預けるとは何たることかと。

2018-03-30 22:57:02
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさんは強く辞退した。経験もない、力もない、何しろよそ者だ。命運をかけていい人間ではないと。ところが、それを聞いた保名氏は大笑いして最初と同じようにRNBさんの大胸筋を叩いたのだ。

2018-03-30 22:58:41
はんこちゃん @hanko_tyon

「経験はねえ、そうだろうよ。力もねえ、海の仕事は特別だからなあ。だがなあRNBさん。あんたには智慧がある。よっぽど努力してきなさったんだろう。ウチにとれなきゃ他の漁船団も今日は捕れめえよ。失敗してもいい、だが俺ぁあんたにかけてみたいと思うんだ」

2018-03-30 23:00:45
はんこちゃん @hanko_tyon

村衆の期待を一身に背負い、がむしゃらに努力を重ねていたあの頃。故郷に錦を飾るのだと胸を張って鈍行に乗り込んだあの日、旅立ちの時の万歳の声が耳元で聞こえた気がしたと言う。

2018-03-30 23:02:16
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさんは機関室へ向かった。ソナーの動きを見て、カニは漁船団を撒くように旋回しながら北上しているのではと予想を立てた。面舵いっぱい、葛葉号は諦めたかと奇異の目を向ける漁船団に背を向け船を駆る。

2018-03-30 23:04:29
はんこちゃん @hanko_tyon

網を張るポイントは襟裳岬の沖合50km。日雇いの仲間がこんなところでカニが取れるのかと疑う。それでも、RNBさんの目には確かな闘志が宿っていた。カニは必ず来る。このポイントまで。船のエンジンを鈍足へ変更し、カニを待つ。風は凪いで来ていた。穏やかな波の音が静寂をかき乱す。

2018-03-30 23:08:06
はんこちゃん @hanko_tyon

そして、時が来た。 「今だ!!曳けええ!!!」 保名船長の声を皮切りに、日雇いも船員も皆で力を合わせ網を引き揚げる。 100m…カニの姿はない。200m…いない。300m…やはりカニに勝つことはできなかったのだろうか、戦いに負けた男の悔しさが塩水になってにじむ。誰もが諦めかけたその時。

2018-03-30 23:11:04
はんこちゃん @hanko_tyon

海面が薄い紅色に染まっている。凪いだ海は玻璃細工のように鮮やかな甲羅の色を反射し光り輝いていた。400m、わが目を疑った漁師たちが急いで引き上げたそこに、松葉ガニの一群の姿があった。賭けは、葛葉号の勝ちであった。

2018-03-30 23:13:37
はんこちゃん @hanko_tyon

捕っても捕っても取り尽くせないカニ。網を引き揚げるたびに新たなカニが姿を見せる。葛葉号は歓声に包まれた。船員に揉みくちゃにされながら高らかに笑う男の姿がある。RNBさんだ。都落ちのあの日から忘れかけていた高らかな歓声、空の色、そして海の幸の美しさ。RNBさんはようやく思い出した。

2018-03-30 23:16:21
はんこちゃん @hanko_tyon

港に戻った葛葉号を迎えたのは船上と変わらぬ大歓声である。市場の人間も、他の漁船団の乗組員も、皆一様に脱帽し、初冬の襟裳岬は寒波を吹き飛ばすほどの熱気に包まれた。その中心にいたのは誰あろう、船長保名氏と、そして、満足げな顔をしたRNBさんである。

2018-03-30 23:18:47
はんこちゃん @hanko_tyon

大捕り物から一夜明けた市場、そこには葛葉号が卸した新鮮なカニが並んでいる。赤色の甲羅がずらりと並ぶその様はさながら大名行列のような威容であった。どのカニも、皆RNBさんの仕事の成果と言える。

2018-03-30 23:21:32
はんこちゃん @hanko_tyon

朝早く、RNBさんは保名さんの家に上がっていた。ちゃぶ台の中心で湯気を上げているのは昆布だしとかつおだしが合わさった澄まし汁、そしてその横で圧倒的存在感を放つのは、甲羅の端までぎっしりと詰まったカニ、RNBさんの、葛葉号のカニだ。

2018-03-30 23:23:29
はんこちゃん @hanko_tyon

RNBさん:「最初の一本はあんたのだ。捕った人間だけの特別な権利なんだと、渡されたカニの足は、本当にこれがカニかというほどずっしりと詰まっていました」 自分で捕ったカニを自分で食べる。最高の贅沢であり漁師が最も満たされる瞬間だ。

2018-03-30 23:25:22
はんこちゃん @hanko_tyon

RNB:「あの味は今でも忘れられませぬ…ほんの少しだけつゆに通して、口に含んだ瞬間広がったあの旨み。噛めば噛むほど答えるようなカニでした。そして、噛んでいるうちに涙が出て来て、みすぼらしくおいおいと泣く拙僧を、保名殿はただ一言うまいか、と聞かれ、嗚咽に喘ぎながら、うまいと」

2018-03-30 23:27:58
はんこちゃん @hanko_tyon

親の前でも、あの都を離れる時ですらこんなに泣いたことがあっただろうかと思うほど、RNBさんは泣いた。泣いて、カニを食べ、泣いて、カニを食べ、爪の先まで一辺も余さず食べ終えた頃には、美丈夫が台無しだと笑われるほどの顔になっていた。

2018-03-30 23:30:04
はんこちゃん @hanko_tyon

食後の茶を流し込み、一息ついた保名氏はおもむろに頭を下げた。RNBさんがいなければこの収穫はなかったと、本当に感謝している、と。RNBさんがどれだけ狼狽してもたっぷり5分は頭を上げなかったという RNBさん:「本当に義理堅い方なんですよ、師匠は」 そう笑う横顔は尊敬に満ちている。

2018-03-30 23:33:53
はんこちゃん @hanko_tyon

日雇いとして乗ってもらったが、これからどうする気なのか。故郷にでお帰られるのであれば、カニを贈るから是非住所を教えて欲しいと強く請われた。 これからどうするか、今までずっと考えていたはずのこれをここ2日一切考えていなかった自分に驚き、そして、RNBさんの頭にあることが浮かんだ。

2018-03-30 23:36:15
はんこちゃん @hanko_tyon

「ここで働かせてもらえませんか」 気付けば口から出ていた。言ったすぐ後に、自分にしてはなんと不躾な言い草だろうと顔を青くした。保名氏は何も言わない。何ともまずいことをしたものだとうろたえていると、保名氏がすっくと立ちあがり、RNBさんの手を取り、そして

2018-03-30 23:38:17
はんこちゃん @hanko_tyon

この2日で張りつめた気がする大胸筋をばしんと叩いて、そして破顔した。その日から、RNBさんは葛葉号の船員となった。

2018-03-30 23:39:25
はんこちゃん @hanko_tyon

葛葉号の船員となってからのRNBさんの活躍は目覚ましい物であった。カニの動きを正確に予想し、鍛えた腕っぷし一つで北海の王者たちと死闘を繰り広げ、そして錦の大漁旗を飾って帰ってくる。常勝の凄腕漁師と瞬く間にその名は稚内までとどろく程であった。

2018-03-30 23:41:34
はんこちゃん @hanko_tyon

RNB:「葛葉号を譲って頂いたのは、のれん分けのようなものです。元々よく動かさせて頂いておりましたし、独り立ちの祝いとして与えると言われた時は度肝を抜かれましたが…今は宿業丸、日雇いの頃から拙僧を支えてくれた相棒です」

2018-03-30 23:43:39
はんこちゃん @hanko_tyon

3年前の春、RNBさんは保名氏の一団から独立し、宿業水産を設立する。保名氏から譲り受けた葛葉号は「宿業丸」と名を改め、大漁旗の装いも新たに北の海を駆け巡ることになった。

2018-03-30 23:45:25
はんこちゃん @hanko_tyon

宿業水産は確かなカニを、確かな品質で届ける卸業者として瞬く間にその名を広げ、今や都内の料亭の中にも宿業水産から直接カニを買い付けている所も出てきている。市場を賑わわせる宿業水産のカニに高値がついていくのを、柱にもたれたRNBさんは頷きながら見つめている。

2018-03-30 23:47:56
はんこちゃん @hanko_tyon

男、RNB32歳。漁師のゴム長靴も板についてきた。故郷の村に毎年贈る大漁旗は、都へ出発したあの最寄り駅で威風堂々と風にたなびいている。時化が来そうだと舳先を動かすよう指示するRNBさん。挫折からカニ一つで這いあがった海の男の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

2018-03-30 23:50:50
はんこちゃん @hanko_tyon

短期集中連載「人理の夜明け~カニに命を懸ける男、RNB。挫折と栄光の襟裳岬~」 ―完―

2018-03-30 23:51:40
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まとめたひと
はんこちゃん @hanko_tyon

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