の話(のはずだった)
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\\✋🅿️🤚// @aSh1ra94O0

出発前にうさ団子!その日の狩猟相手と環境を考えてあれこれ悩みつつメニューを決めて、お茶と一緒に頂いて気合充填! 暖簾をくぐり船着場から送りの舟に乗り込むと、空から「行ってらっしゃい!」と声がかかる。屋根から手を振る教官を見上げ、行ってきますと返して出立する。

2021-04-15 09:54:53
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舟が離岸して間もなく、なんとなしにもう一度かの屋根を仰ぎ見ると教官が座り込んで何かを持ち……団子を食べていた。 遠見役も任されている教官はあの場所にいることが多く、休憩がてら団子を食べてる姿もよく見られるので珍しくはないけれど。 穏やかな里風景に緩んだ頬はそのままに舟先に視線を戻す

2021-04-15 09:54:53
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また明くる日。お決まりのやりとりの後、出発したばかりの舟上でまた屋根を見る。青空に桜、教官と団子。 以前見た時よりも距離が近いためか、なんとなく団子の色味まで見えるような。 里名物のうさ団子は薬効や味の違いが見た目でそれぞれ分かりやすいように作られている。

2021-04-15 09:54:54
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教官は何を食べてるのか……好奇心から目を凝らしてその手元を窺っていると、流石にそうまですれば当たり前ながら教官と目が合って。 団子を頬張ろうと開けた口を照れくさそうに隠し、その手の団子もまた包みに戻してしまった。 しかし、なんとなく見覚えのある組み合わせだったような……気のせいか。

2021-04-15 09:54:54
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一度意識すると気になってしまい、出立の度に振り返るようになったが……そうすると教官もそれに慣れたのか、手持ちにあるだろう包みを開ける様子もなく。 ただ遠巻きにでもわかるほどのあたたかい笑みと眼差しで見送ってくれるのがむず痒く、いつも此方が先に視線を外してしまう

2021-04-15 09:54:54
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ー 「教官のよく頼むメニュー?」久しぶりに門から陸路で出るかと支度を済ませ、気付けに一本頼むついでにふと思い立って店番に立つよもぎちゃんに尋ねてみた。 うーんと小首を傾げて考えながらも、もちもちと団子をこさえる手つきは相変わらず見事なものだ。

2021-04-15 09:54:54
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「薬効高めで狩猟に出る人向けのお団子が多いかも?」 彩り団子を串に通して仕上げながら思い出したようによもぎちゃんが続ける。 「そういえば教官もよくこの組み合わせ注文してる! やっぱり師匠と弟子って好みも似るのかな?」 はいどうぞ!ふっくらまんまるの団子にお茶が添えられて運ばれてきた

2021-04-15 09:54:55
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薬効が高いものはそれだけ素材の風味、苦味が強く……実のところすこし苦手なのだが、好みよりも狩猟に合わせて選んでいたなど作り手を前に言うのもどうかと飲み込みながら串を手に取る。 兎を模した愛らしい団子をくるりと眺め、傍で笑む看板娘に同じものを一包み頼んだ。

2021-04-15 09:54:55
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ー 「お勤めご苦労様です」 翔虫で飛び上がり屋根へと登ったシラアイが声を掛けると、面を外した教官が目を丸くしてトットッと足早に歩み寄る。 「どうしたんだい?」 「今日はあちらから出るので」 「ああ、それを伝えに来てくれたのか!」 改めて言われると小っ恥ずかしいがそこは目を瞑る

2021-04-15 09:54:55
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「こちら差し入れです」 包みと水筒を差し出せばきょとりと目を瞬かせた後眩しい笑顔で礼を言われた。 桜薫る穏やかな風を感じながら舟路を見下ろすと、漁に出るらしい小舟が里から離れていくところだ。 船頭に手を振って見送りながら、彼らの行く先の安全を祈る。

2021-04-15 09:54:55
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隣を見れば同じように舟出を見守っていた教官。眼差しはやはり穏やかで優しい。 「皆が安全に帰って来れるように」 呟きは静かな祈りの声だった。 溌剌とした印象が強い教官だが、それだけが彼の全てではないと知っている。 里の皆がそうであるように、彼もまた里の皆を家族と想い愛しているのだ。

2021-04-15 09:54:56
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教官に師事していろはを学び幾星霜。愛弟子と呼ばれる照れくささにも慣れて久しいが、師のふとした一面を垣間見る度になんとなく胸の底がむず痒くなる。 素晴らしく出来た人だけれど時折抜けていて可愛らしいところもあるのがまた……ンン゛ 、これは里の皆も知っている事だからおかしくはない。

2021-04-15 09:54:56
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教官と並び立ちながら考える事も彼の事ばかりな思考に気がついて、気恥ずかしさから居た堪れなくなり口を開く。 「今日は大社跡へ、採集に行こうかと思っています」 団子の材料を頼まれた事や写真を頼まれた事まで。細かに話す必要はないと分かっているがなんとなく、言葉を続けてしまい。

2021-04-15 09:54:56
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なんて事ない内容にも教官は律儀に相槌を返しつつ聞いてくれている。隠れた口元は分からないが、やはり目元には優しさの滲んだ笑みがあった。 ああ、こうして全身で向き合ってくれるこの姿が好きだ。 すきだ? はたと気付いて言葉が詰まり、聞き姿勢のまま続きを待つ師を改めて見た。

2021-04-15 09:54:56
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好き、なるほど好きなのか。 腹のうちにあったあたたかくむず痒い感情に答えを見つけ、ふふふと堪らず笑ってしまった。 教官は不思議そうに首を傾げたものの変わらず微笑んでいる。 「好きです」 またひとつ湧き出た感情がつるりと口から滑り落ちた。

2021-04-15 09:54:57
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ぱちり見開かれた瞳に見つめられてから己が口の粗相に気付くが、驚く教官の姿にすらむずりむずりと胸がさわめくせいで緩む頬が戻らない。 「良い日和ですが、あつくなってきましたね」 ぱたぱたと手うちわを扇いで熱を誤魔化して。 さてそろそろ行きますか、と足取り軽く屋根から降りる。

2021-04-15 09:54:57
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「俺も好きだ!!!!」 ビリリと全身を震わせるほどの声量を浴びて慌てて振り返ると、屋根縁から身を乗り出した教官が見下ろしていた。 山間に響くのではというほどの大告白は、眼前の里中であれば当然のこと隅々まで聞こえたのだろう。なんだなんだと野次馬が集まり揃って屋根を見る

2021-04-15 09:54:57
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「あッ、ぉ、俺だけじゃなく里のみんなが君の事を大好きだよ!! みんなも心配するからね!! 怪我をしないように気を付けて行っておいで!!」 早口で続いた声は上擦っていて、口当てで隠せないほど教官の顔は真っ赤に染まっていたのは誰の目にも明らかだろう。

2021-04-15 09:54:57
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そして言葉を失っていた弟子はといえば、似たような林檎色の顔をしていた。 可愛らしいやりとりに野次馬が賑やかしの声を上げるから堪ったもんじゃない。 「行ってきます!!!!!」 負けじと張り上げた声はやはりあの師にしてこの弟子だろうか。野次馬が怯んだ隙に里門へ駆ける。

2021-04-15 09:54:58
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指笛ひとつでおともを呼んで飛び乗り、山道をしばらく駆け進んだあたりで歩を緩めさせた。 「ご主人、熱でもあるのかニャ?」 相乗りしていた猫が心配の声とともにうりうりと頬を揉んでくる。ひんやり肉球が心地良い。 相棒の犬も気遣うように振り返った。 「しばらく冷めそうにないですね…」

2021-04-15 09:54:58
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ー 出立の騒ぎがあって帰りづらい……というわけでもなく、採集に熱が入ってしまってひたすらに大山を駆け回り、里に戻ったのがなんと6日後。 やっと里の門を潜ったのも日の入りをとうに過ぎた夜分ともなれば、おおよそ一週間は帰らなかったことになる。

2021-04-15 09:54:58
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家々の灯りも消えて皆が寝静まった夜道を歩く。たたら場から覗く炎の熱気で照らされた大路を横切り、自宅を見やればそこには人影。 こちらに気付いてか軒下から月明かりのもとへ歩み出たその人は教官で、変わらず装束のままのことからも警邏に当たっていたのだろうと察する。

2021-04-15 09:54:58
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「おかえり」 時分を気遣って常より更に抑えた囁き声で迎えられる。 「ただいま戻りました。 教官もお疲れ様です」 たたら場が近いとはいえ、夜ともなれば今の季節でもそこそこ冷える。 「少し休んでいかれては?」 戸口を開いて招けば、一拍置いて教官はうなずいた。

2021-04-15 09:54:59
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「今回は長かったね」 遠征であれば長丁場になる事も少なくはないが、近場の大社跡へ採集に向かっただけで一週間というは流石にやり過ぎたか。 「荷運びの者から、励んでいるようだと様子は聞いていたけれど。 なかなか帰らないから心配したよ」

2021-04-15 09:54:59
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湯呑みを抱えた教官は笑んでいるものの、どこか座りが悪そうな、そわそわとした様子が見てとれた。 「それで、その……あの事なのだけど」 どの事ですかと察し悪く問うより先に、教官のほんのり朱に染まった目元を見て呼び起こされた数日前の記憶に脳を殴られる。

2021-04-15 09:54:59
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実は旅立つ愛弟子を見送りながら同じお団子こっそり食べてて「共に行くことは出来ないけれど気持ちだけでも共にありたくてね」っていう教官の可愛い話を捏ねてたはずで…教官と懇ろになる話を捏ねてたわけでは……

2021-04-15 10:19:47