2. 本を読む人、借りる人、返す人。 勉強する学生。 寝るだけの人。 毎日来る近所のおばあちゃん。 子供と絵本を選ぶお母さん。 #火金のひと
2019-12-17 18:26:104. 1ヶ月半ほど前からだろうか。 毎週火曜日と金曜日に必ず来る女性。 閉館の30分前には館内にいる。 本を読まない。 借りていかない。 読書スペースで、 机に頬杖をついてどこかを見つめる。 何かを考えているのかうつむく。 特に何もしない。 #火金のひと pic.twitter.com/SRwXirnkdm
2019-12-17 18:27:205. ある日時にしか来ない人は他にもいる。 でも、これほど長い間 全く何もしない人はそうはいなかった。 その女性が醸し出す 不思議な雰囲気もあったのだろうか。 その女性は、僕たち職員の目を引いた。 #火金のひと
2019-12-17 18:27:466. いつからか誰からか、 その女性を 『 火金のひと 』 と呼ぶようになった。 #火金のひと pic.twitter.com/OtStBDIp0z
2019-12-17 18:28:078. 女1) 火金のひと、今日も来てますよ。 ◯) そうですね。 女2) 相変わらずなのかな? ◯) たぶん、そうでしょうね。 #火金のひと
2019-12-18 19:16:399. ♪ 〜〜〜 人もまばらな館内に、 閉館10分前を知らせる音楽が流れる。 この時間、受付カウンターには僕一人。 いつものことだ。 #火金のひと
2019-12-17 18:29:1410. わずかに残っていた利用客が、 カウンターの前を通って出口へ向かう。 火金のひとも、 最後にカウンターの方に向かってくる。 #火金のひと
2019-12-17 18:29:4512. ?) ....こんばんは。 火金のひとが話しかけてきた。 #火金のひと pic.twitter.com/IgClGMKX7F
2019-12-17 18:32:0713. 思わぬ行動に少し戸惑う。 ◯) ....こんばんは。 ?) いつも利用させてもらってます。 ◯) ありがとうございます。 #火金のひと pic.twitter.com/ftWZgs6KRS
2019-12-17 18:32:2814. ?) ◯◯さんは、司書の方なんですか? ◯) ....どうして僕の名前を.... ?) ネームプレート。 ◯) ....あぁ。 ?) ふふっ。 ◯) 司書ではなく、ただの契約社員です。 ?) そうなんですね。 #火金のひと pic.twitter.com/yPVhUCx5cO
2019-12-17 18:32:5115. ?) 私、白石っていいます。 ◯) 白石さん....ですか。 白) はい。また来ます。 そう言って少し微笑み、 白石さんはドアへと向かった。 #火金のひと pic.twitter.com/WkrErUp01P
2019-12-17 18:33:1717. 女1) そろそろ、後処理を始めましょうか。 女2) お疲れ様でした。 背後から声が聞こえた。 #火金のひと pic.twitter.com/0ncAkwT0f0
2019-12-17 18:34:1218. ◯) あの....火金のひとと話しました。 女1) ....え?あの人と? ◯) はい。向こうから話しかけてきました。 #火金のひと
2019-12-17 18:34:3719. 女1) まぁ....変なことではないですよ? 女2) 利用される人との会話は大切です。 ◯) ....そうですね。 女1) 話してみて、どうでした? ◯) 女性らしくて、他は特に....普通です。 女1) 普通ですか....。 女2) 話はここまで。始めましょうか。 #火金のひと
2019-12-18 19:16:0921. そして、それに呼応するかのように。 次に来た時から 『 火金のひと 』こと白石さんは、 帰り際、僕に話しかけるようになった。 #火金のひと
2019-12-17 18:39:4122. 白) こんばんは。 ◯) こんばんは。 白) 図書館でのお仕事って大変ですか? ◯) そうですね。やることが多いです。 #火金のひと pic.twitter.com/7zDpKOiz51
2019-12-17 18:39:5823. 白) 私も契約社員なんです。 ◯) 白石さんもですか。 白) 深く言えませんが、色々ありますよね。 ◯) ....ま、まぁ、そうですね。 #火金のひと pic.twitter.com/KzcbgLbnO6
2019-12-17 18:40:1724. 白) こんばんは。 ◯) いつもありがとうございます。 白) 遅くまで大変ですね。 ◯) まぁ....仕事なので頑張ります。 #火金のひと pic.twitter.com/mmUP303nAE
2019-12-17 18:40:3425. ◯) 毎週、決まった時に来られますね。 白) なんか、この時間が自分に合うんです。 ◯) なんとなく....わかる気がします。 白) ふふっ....ありがとうございます。 #火金のひと pic.twitter.com/WpESb7WQuX
2019-12-17 18:40:5826. 白石さんは、僕と話すたびに 「自分の情報」を一つ置いていった。 「 最近、忙しい 」 「 仕事でミスをした 」 「 山田悠介さんの作品が好き 」 「 姉がいる 」 それが少し楽しみになった。 #火金のひと
2019-12-18 19:39:1627. これがどれくらい続いただろうか。 ある火曜日のことだった。 #火金のひと pic.twitter.com/SAJR3pVZud
2019-12-17 18:42:3528. 白) どうも。 ◯) こんばんは。 白) 遅くまでお疲れさまです。 ◯) いえ、ありがとうございます。 #火金のひと pic.twitter.com/dzHD7Jzfj5
2019-12-17 18:42:5429. 白) 次は金曜日に来ようと思います。 ◯) はい。 白) その時、お話ししたいことがあります。 ◯) 話したいこと....ですか? 白) はい。 #火金のひと pic.twitter.com/EqzllWyPKR
2019-12-17 18:43:1830. ◯) そうですか。 白) また来ます。 ◯) わかりました。 #火金のひとら pic.twitter.com/Z6cM9SY48Q
2019-12-17 18:43:4333. 白石さんに会えない。 白石さんの「話したいこと」。 聞くことができない。 どんな話なんだろう? 今度は、何を置いていくんだろう? #火金のひと
2019-12-17 18:48:3235. 女1) ◯◯さん、お疲れさまでした。 女2) 今日は人が少なかったですね。 受付カウンターに2人がやって来た。 #火金のひと pic.twitter.com/FELUZMt5dl
2019-12-17 18:49:5436. ◯) お疲れさまでした。あの.... 女2) どうしました? ◯) 今度の金曜日、僕は休みなんですけど....木曜日にずらしていただけませんか? 女1) 何か用事ができたんですか? ◯) ....はい。急で申し訳ありませんが.... #火金のひと
2019-12-17 18:50:3037. 女2) 私、いつもなら変われますけど.... 女1) ....ちょっと確認してきます。 ◯) ありがとうございます。 女2) ◯◯さんが....珍しいですね。 ◯) 本当に申し訳ありません。 #火金のひと
2019-12-18 19:16:2139. 女1) 休み、大丈夫です。 ◯) すいません。ありがとうございます。 女1) 私が変わりますよ。問題ないです。 女2) 良かったですね。 ◯) 本当にありがとうございます。 #火金のひと
2019-12-18 19:17:1541. ♪ 〜〜〜 閉館10分前の音楽が流れる。 人がまばらな館内。 読書スペースには白石さんがいる。 受付カウンターには僕一人。 いつもと変わらない。 #火金のひと pic.twitter.com/wJHSIFpJ07
2019-12-17 18:58:1546. 女2) そういえば。 女1) はい? 女2) 火金のひと、来なくなりましたね。 女1) たしかに....私も見ていないですね。 #火金のひと pic.twitter.com/YOxnDT5W2O
2019-12-17 19:00:3147. 女2) 引っ越したんですかね? 男1) 違う図書館に通ってるとか? 女1) 仕事なり何なり忙しくなったんですよ。 男2) 謎が多い人でしたね。 #火金のひと
2019-12-18 19:16:5648. あだ名がつくほどだった 『 火金のひと 』こと白石さん。 「消えた」当初は話題になった。 でも、時間が経つにつれて 話にあがることは少なくなっていった。 そして、誰も話さなくなった。 #火金のひと
2019-12-17 19:01:16