1944(昭和19)年の船舶職員法改正による名称変更について
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天翔 @Tensyofleet

法令が現状を追うのは常のことだが、日清戦争の翌年明治29(1896)年に制定された「船舶職員法」は、明治38(1905)年日露戦争に伴って一部改正された後は、昭和4(1929)年まで変更がない。それにしても、戦争の度に制定されたり改正されたり、なんともきな臭い法律である。

2019-07-21 19:28:31
天翔 @Tensyofleet

次いで昭和8(1933)年に改正された後、最後の改正が昭和19(1944)年である。戦後昭和26(1951)年に新船舶職員法が制定され、50余年の紆余曲折を経て旧法は姿を消した。

2019-07-21 19:32:22
天翔 @Tensyofleet

最後となった昭和19年改正では、下記の三点が大きく変わっている。 1)「運転士」の名称が「航海士」に、無線通信士を追加 2)海技免状の種類を整理・削減 3)船舶資格定員表の改正 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/8t5V2EE5nj

2019-07-21 19:36:01
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天翔 @Tensyofleet

1)太平洋戦争時の商船戦記などを読むと「運転士」だったり「航海士」だったりするが、正式にはこの時に変更されたもの。明治から昭和の世となって名称が一般化したためか、高級船員がリグ軍兵士にタクシーの運転手あたりと同じ扱いをされたりしたような記述もある。

2019-07-21 19:41:28
天翔 @Tensyofleet

なお「機関士」は制定時からそのまま。ちなみに、明治29年制定前の名称はそれぞれ「運転手」「機関手」。

2019-07-21 19:42:40
天翔 @Tensyofleet

無線通信士は、これまで一般の船員とは異なる教育課程(私立の無線電信講習所)を経ていたため、官立電信講習所で船舶職員としての通信士を養成することになって組み入れられたもの。

2019-07-21 19:45:24
天翔 @Tensyofleet

2)海技免状の種類は、これまでに種々の経緯から追加された限定要件付の資格を整理し、削減したもの。これで63種→14種、新たに無線通信士3種(一等~三等通信士)を加えて17種になったらしい。

2019-07-21 19:48:25
天翔 @Tensyofleet

3)昭和19年改正前の船舶資格定員表。乗組員はこの要件を満たす必要があった。例えば、「近海区域」「総トン数二千トン未満」だと船長:乙種船長免状(1名)、一等運転士・二等運転士:乙種一等運転士免状(各1名)の乗船が必要。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/4Bu5ZlINJU

2019-07-21 19:55:38
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天翔 @Tensyofleet

加えて機関が「『公称馬力』四千馬力未満」であれば機関長:機関長免状(1名)、一等機関士:一等機関士免状(1名)、二等機関士:二等機関士免状(1名)。

2019-07-21 19:56:51
天翔 @Tensyofleet

これが「船舶資格定員表」なのだけれども、昭和19年改正で、機関士も『公称馬力』ではなく「総トン数」を基準にすることになった。表も随分すっきりした。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/dh8CGH8ade

2019-07-21 19:59:56
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天翔 @Tensyofleet

さて、この表をちょっと注意深く見てみよう。「船長」に「乙種船長免状」が必要なのはどこまでだろうか。改正後は「近海区域」の「三千トン未満」である。改正前は。。。「近海区域」の「二千トン未満」まで。 pic.twitter.com/1Ylyg8cCPp

2019-07-21 20:03:23
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天翔 @Tensyofleet

戦時標準船1D型が1,900総トン、戦標2Dが2,300総トン、2TMが2,850総トンですね、ハイ。 「航行区域」は戦前の「船舶安全法施行規則」に定められていて、今も変更はない筈。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/67rrNrt5s5

2019-07-21 20:14:33
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天翔 @Tensyofleet

戦前の日本商船の要目などを眺めていると、特に小型の漁船や機帆船などの機関出力に「公称馬力」というあまり聞きなれない数字が出てくる。この公称馬力とはなんだろうか。

2019-07-21 15:46:08
天翔 @Tensyofleet

遡れば、明治17(1884)年制定の法令で定められたもので、当時舶用機関として一般的であった往復動蒸気機関の「大きさ」を示すものである。馬力の算定に用いる数字は気筒直径のみで、当時としてはこれでも一つの目安として有効であったのかもしれない。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/gUWTqZO9Z1

2019-07-21 15:50:23
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天翔 @Tensyofleet

この「公称馬力」が各種法令に用いられていたのだけれども、時代が下るにつれ、石油発動機だの焼玉機関だのディーゼル機関が登場するので新たに修正が入ったりもする。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/Wc6qtryBRF

2019-07-21 15:58:17
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天翔 @Tensyofleet

この「公称馬力」、船舶機関士の免状の要件だったりもするので中々廃止されなかったのだけれども、昭和19(1944)年の船舶職員法の改正で、船長と機関長、および追加になった通信士のすべての要件が「総トン数」によるものになったのでようやくお役御免となる。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/CvV1bouveV

2019-07-21 16:03:42
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天翔 @Tensyofleet

余談ですが、陸上設置のボイラーには「ボイラーの馬力」として「公称馬力」が設定されていたりもします。これも意味合いとしては同じで、必ずしも実態を表していないもの。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/4IFMdLhiyE

2019-07-21 16:10:06
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天翔 @Tensyofleet

閑話休題。この「公称馬力」を実際の出力と取り違えるとどうなるか、というと、多分こうなる。 ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%8B… pic.twitter.com/TcHds061HA

2019-07-21 16:12:44
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天翔 @Tensyofleet

当時の人がそう書いてしまっているのだけれども、このサイズで18軸馬力はないだろう。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/4x0TzbP2kj

2019-07-21 16:21:38
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天翔 @Tensyofleet

記録としてはこれくらいしか残っていないので、汽缶圧力100ポンド/インチ、二連成往復動蒸気機関(復水器あり)1基、としか分からない。公称馬力18馬力から逆算して、1気筒あたりの直径は平均16インチくらいになるのではなかろうか。 。。。所有者大隈重信なんだ。。。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/0NIcpwm5re

2019-07-21 16:32:00
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天翔 @Tensyofleet

ではここで公称馬力の算出をしてみましょう。ちょうど稚泊連絡船の宗谷丸(三連成往復動蒸気汽機)が、計算に必要なデータがそろっているのでいいですね。まず計算式はこちら。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/UK4e9cFkua

2019-08-26 21:43:48
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天翔 @Tensyofleet

さて、宗谷丸主缶の制限圧力は14kg/cm、低圧気筒は2(三連成3気筒×2基)、低圧気筒の直径は1,450mm、行程は1,100mm、機関の受熱面積は1,030.4m^2です。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/rRKekipFtl

2019-08-26 21:52:02
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天翔 @Tensyofleet

定数A/Bは表中の強圧通風の値704,000/1.035を用いて、エクセルの計算式はこちら。 W=14^(1/3)*((2*1450^2*1100^(1/3))/70400+1030.4/1.035) W=3885.48 十の位以下を切り捨てて3,800馬力、表中の値と一致しますね。

2019-08-26 21:55:31
天翔 @Tensyofleet

なお、宗谷丸主機の定格は5,500IHP×114RPM、公試における全力運転で5,851.0IHP×115RPM/17.061ktです。

2019-08-26 22:02:34