そのまんまカクヨムにいったような気がする
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ナナシ @darkmoon_souji

春。新学期。 それはつまり、俺たちの学年が一つ上がり、新入生が入ってくるということだ。 「今年も沢山入ってきたねぇ」 どの学年も同じくらいの人数しかいないというのに、隣にいる友人はそう言った。 「今年は一体どんな年になるだろうね?」 そして、ニヤリと俺の方を見て笑った。

2018-09-21 22:13:31
ナナシ @darkmoon_souji

「そうだな……」 俺たちは高校生活最後の学年となった。 この学校にいられるのも残りわずか。 平和に終わるわけがない。 だが、遊んでいられるのもこれが最後だ。

2018-09-21 22:13:32
ナナシ @darkmoon_souji

「慎ちゃん!まさか三年連続同じクラスになるとはな!さすがは親友だよ!」 新しい教室で壱岐佳一はくるくると踊り出しそうな勢いで喜びを表現した。 「ハハハ……」 俺は引きつった顔で笑うことしかできない。 やめてくれ。みんなが見て……ねぇな。

2018-09-21 22:45:33
ナナシ @darkmoon_souji

この二年でこいつの変人ぷりは知れ渡ってしまったらしい。 誰も興味を示していない。 おかしいな。 初めましての人もいるだろうに。 「担任の先生は誰だろうな」 何だかワクワクした様子の佳一。 担任が誰になるのかは気になるところだが、何でこいつと最後まで一緒なんだ。 そんなミラクルいらねぇ。

2018-09-21 22:45:33
ナナシ @darkmoon_souji

誰だよ。こいつと俺を一緒のクラスにしたやつ。 こいつといると厄介事に巻き込まれるから嫌なんだよ。 ……ぶつぶつ文句を言っても何も始まらないが。 ここは学年のマドンナ、白鳥さんと同じクラスになったことを喜ぼうではないか。 そういや白鳥さんも三年間同じクラスだな。 もしや運命か。

2018-09-21 22:57:00
ナナシ @darkmoon_souji

「……ちゃん、慎ちゃん!!」 「……あ?」 佳一に揺さぶられて、我に返る。 「どうしたんだ、急にボーッとして。みんな講堂に向かっているぞ。俺たちも行こう」 「あ、ああ……」 いかんいかん。 自分の世界に浸ってしまうところだった。

2018-09-21 23:02:46
ナナシ @darkmoon_souji

佳一に背中を押されて、俺たちも他の連中に混じって講堂へ向かった。 新入生と共に始業式を行い、簡単に各学年のクラス担任の発表もあった。 これが一番盛り上がるんだよな。 「良かったな!また玖雅先生が担任だなんて」 「まぁな」 一年のときにも俺たちの担任だった、化学の先生だ。

2018-09-21 23:07:03
ナナシ @darkmoon_souji

知っている先生だと安心する。 始業式を終え、教室へ戻ると相変わらずくたびれた様子の化学教師も入ってきた。 挨拶もそこそこに、最後に彼はこう言った。 「高校生活最後の年だ。ほとんどの者が受験に追われることになるだろうが、そうでない者もいるだろう。いずれにしても将来を見据えた上で自分の

2018-09-21 23:18:02
ナナシ @darkmoon_souji

進路を決めろ。一年なんてあっという間だが、できるだけ今のうちに何がしたいのか悩め。ただし、誤った道にだけは進な」 ……少し視線を感じたような気がした。 まさか俺に向かって言ってるんじゃないだろうな。 さっきは安心するなんて言ったけれど、よく知っているからこそ見抜かれている気もする。

2018-09-21 23:18:03
ナナシ @darkmoon_souji

しかもこの教師の能力上、いつ悟られてもおかしくない。 面倒だ。 俺は無事に卒業できるのか。 卒業できたとして、俺は自分のやりたいことを実行できるのか。 「進路かぁ……」 今日は始業式だけなので授業はない。 昼前に俺たちは解放された。 その帰り道。佳一は珍しく売かない顔をしていた。

2018-09-21 23:28:40
ナナシ @darkmoon_souji

進路。 確かに考えたくないことだ。 将来なんて今からどう考えろっつー話だ。 さすがの優等生佳一クンもこれには頭を抱えてしまうらしい。 ……あれ? でも待てよ。 「お前、受験すんだろ。どこの大学行くんだ?」 「うーん……」 曖昧な返事。 何だ。はっきりしねぇな。 「慎ちゃんは?」

2018-09-22 08:13:49
ナナシ @darkmoon_souji

当然同じ質問が返ってくる。 「俺は……ほら、あれだ。家の仕事しなきゃなんねぇし、大学行かせる金なんてないって言われてるから」 あながち間違いではない嘘をついておいた。 大学には憧れるが、俺にとっては時間の無駄でしかないしな。 「そうか……やることがあっていいな」

2018-09-22 08:23:17
ナナシ @darkmoon_souji

「……」 何だ、それ。 まるでお前は何もやることがないみたいじゃないか。 「……お前……」 「あ!ロッカーに忘れ物をしてしまった」 「……何?」 「財布!」 なぜロッカーに置いたんだ、まず。 「取ってくる!」 佳一は俺の返事も待たずに走っていった。

2018-09-22 16:59:32
ナナシ @darkmoon_souji

……ここで待っとけということか。 手持ち無沙汰なので、近くの自販機でジュースでも買うことにした。 お前はやりたいこととかないのか。 そう聞こうとしたが、見事に遮られてしまった。 あいつのやりたいことなんて大して興味もないから別にいいけどな。

2018-09-22 17:32:13
ナナシ @darkmoon_souji

ガコン。と音をたてて、自動販売機から紙パックのジュースが出てくる。 この学校独自の紙パックジュースを飲むのもあと何回だろうか。 町では売っていないこのジュース。 今のうちに堪能しておこう。 と、紙パックにストローをさしたところで俺はあることに気がついた。

2018-09-22 22:33:35
ナナシ @darkmoon_souji

自販機の近くにあるベンチに、人が座っている。 真新しい制服に身を包んだ、男子生徒。 うつむいているので顔は見えないが、泣いているのは明白だ。 おいおいおい。 男が学校のベンチで泣いているとは何事だ。 しかも新入生。 なんて面倒なものに遭遇してしまったんだ、俺。 どうする。声かけるか。

2018-09-23 00:17:29
ナナシ @darkmoon_souji

……いや、やめておこう。 厄介事に自分から関わるのはごめんだ。 そして俺にはそんな良心はない。 向こうもいきなり上級生に話しかけられたら怖いだろう。 ここはスルーだ! 俺は心の中で言い訳をしてそそくさとその場を離れた。

2018-09-23 10:08:12
ナナシ @darkmoon_souji

元いた場所で佳一を待つこと数分。 「慎ちゃん」 おせぇ。財布取りに行くだけで何分かかってんだ。ていうかロッカーに何で置いた。 という文句は一言も言えなかった。 「お……え、なん、いや、誰それ」 脳と口が追いつかなくて、わけわからない言葉を口走ってしまった。

2018-09-23 10:57:38
ナナシ @darkmoon_souji

さっき俺がスルーした男子生徒がやつの背後にいた。 相変わらずうつむいたままだ。 「向こうのベンチで泣いていたから連れてきた。事情を聞こうと思ってな」 おい!何でだよ! せっかく見て見ぬふりをしたというのに! ……何て言えるわけもなく。 結局こいつのせいでトラブルに巻き込まれる。

2018-09-23 11:08:50
ナナシ @darkmoon_souji

場所を保健室の裏側にある誰も来ない寂れた庭に移し、俺たちは新入生から悩み相談を受けることとなった。 「まずは自己紹介でもしたほうがいいかな!俺は壱岐佳一。三年だ!こっちは親友の慎ちゃん」 「……弐方慎二郎だ」 親友ではない。 「君は?」 「……大参三太と言います……」

2018-09-23 11:33:34
ナナシ @darkmoon_souji

頑張って耳を傾けて何とか聞こえた。 クラスに一人はいる声ちっさすぎる女子かよ。 「大参君!君は新入生だよね?一体何があったんだい?」 佳一にそう問われ、ますますうつむき加減になる。 「助けて欲しいから俺についてきたんじゃないのか?話してくれないとわからないぞ」

2018-09-23 14:07:58
ナナシ @darkmoon_souji

ごもっともな佳一の言葉。 新入生もそんなことはわかっているだろう。 ゆっくりと顔をあげて、小さな声で話し始めた。 「僕……いじめられてるんです……」 いじめられている。 この学校生活において必ず起こり得ることではあるが、こいつまだ入学したばっかじゃねぇか。 いくら何でも早くないか。

2018-09-25 10:21:16
ナナシ @darkmoon_souji

「いじめはよくないな。何か発端とかあったのかい。だって君はこの間入学したばかりじゃないか。よく知りもしない相手をいきなりいじめるなんて」 下手をするとお前に原因があるんじゃないかと言っているように捉えられそうなので、誤魔化そうとしてるのは何となく感じられた。

2018-09-25 19:34:46
ナナシ @darkmoon_souji

「違うんです。そのいじめの中心となってる人は、僕の小学校のときの同級生なんです」 小学校の、とあえて限定しているということは。 「高校で再会した的な」 「はい……彼女、小学校のときから僕をいじめてて……」 「ちょっと待て」 何だって? 彼女、つったか?

2018-09-25 19:41:22