CHANNELED-off（IDOFF/ID:INVADED）

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

#idinvaded #イド #イドインヴェイデッド #VSvirus #第１２話 ＃第１３話 #ATX #月曜夜18時から #水曜朝10時から #金曜深夜26時から #IDOFF #スピンオフのようなもの #世界観の繋がり不明 #CHANNELEDoff #月曜は最初の三分の一 #非公式 　　　　　『CHANNELED-off』

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

１

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

娘が三歳五ヶ月になったころにふと思い立って面白半分に 「生まれる前のこと、何か憶えてる？」と訊いてみる。「ママのお腹にどうやってきたか、とかさ。どうしてママを選んだのか、とかさ？」

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すると娘が少し考えるような間を開けるのであれ？なんか親向けのサービスで適当な話をでっち上げるかもな、と思う。うちの娘はテレビの真似で掌を二つ並べて広げて即興の物語を作って見せたりするので、そういうんじゃ意味ないんだよな、と。

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それから娘が言う。 「あのね、大きな空っぽの花瓶の中に豚さんと一緒に入ってたの。弟と。その花瓶は海に浮かんでて、水が入ってきたらみんなでそれ出したの。そうやってたら豚さんが私の番だよって言って、花瓶の下見たらパパとママがいて、そこに私、生まれるってなったの。

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でも花瓶の中、大変だったから弟も来なよって言ったら、豚さんが弟はまた後で来るから今はダメだって。それに水が入ってきたら花瓶からそれかき出さなきゃいけないから手が必要だって。弟はお姉ちゃんと行きたい、お姉ちゃんと行きたいって泣いてたけど、豚さんが絶対ダメって離してくれなくて、

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これ以上ここでグズグズしてるともう下には行けないよ、ずっとここで、永遠に水かきだよって言われたから、弟に、先に行って待ってるねって言って、降りたんだった。そう言えば弟、まだ来てないね。まだ水かきしてるのかな。早く来るといいね」

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へえ、と俺は思っただけだけど、妻がキッチンで凄い形相で硬直していて、あれなんかヤバい！となった。 「あはは。面白いね」 　と俺は一応言ってみたけど全く通じなくて、妻が

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「それ、二歳のときにもママに教えてくれたよね。あの時はブッブがダメって言ったって言ってて、ブッブが車のことだと思ってたけど、ブウブウ、豚のことだったんだね」 　と声をところどころ震わせながら言う。え？二歳のとき？そんな話してたの？

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キッチンで夕ご飯の用意をしていた手を止め、手を洗ってタオルで拭いて、妻がリヴィングにやってくる。正座。 「前は弟の名前も言ってた。憶えてる？」 　娘がちょっと怯んでいる。

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「憶えてない」 「二歳のときはちゃんと言ってたよ」 「でも憶えてない」 「教えて？」 「……」 　娘が黙って俯いてしまった。 「あはは。無理でしょ」 　と俺が介入するけれど 「でも弟のことだよ？」 　妻は真顔だ。

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「弟ったって、まだ生まれてないじゃん」 「空の海の花瓶で豚さんと待ってるんでしょ？ね？お姉ちゃんはそこから来たんだもんね？」 　娘を唐突にお姉ちゃん呼ばわりまで始めてしまった。 「待って待って。こんなの、事実って決まってる訳じゃないんだし」 「嘘だったの？」 　と娘に訊く。

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「きついって、言葉が」 「今この子の弟の話してるんでしょ？。ねえ、嘘ついたの？」 　娘が首を振る。 「嘘じゃない」 「当たり前じゃん」と俺は言う。「そういう光景が頭の中にあったからそれを話しただけだろ。どこにも嘘はないよ。そういう問い詰め方やめなよ」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「嘘じゃないならその話をもっと聞かせてもらってもいいでしょ」 「そんな、言質とるみたいな詰め寄り方する場面じゃないよ」 「そんなつもりない。でも弟は、豚に囚われて重労働させられてるかもしれないんだよ？」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「あはは！ちょ、何言っちゃってんの！あはははは！」 　と思わず吹き出すが、妻はにこりともしない。 「笑えない」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「笑えるべきだと思うけど。豚さんの話がリアルに聞こえるの？ちょっと、こんな内容の話にムキになりすぎじゃないの？」 「胎内記憶は嘘だと思ってるの？」 「別になんとも思ってないよ。面白い話だと思ったからちょっと訊いてみただけで、それで子供の前世を探ろうと思った訳じゃない」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「一年以上前に聞いた話をもう一回繰り返したんだよ？この話には何かあるよ」 「だから、一年前にした話を憶えてただけだって。それに、弟の名前は忘れちゃったんだろ？つまり全てを憶えてた訳じゃなくて、一年時が経ったぶん順当に忘れた箇所もあるじゃん。普通だよ」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「で、その話をただちゃんと聞きたいだけなの。別にいいでしょ？それくらい」 「ダメだよ。ダメって言うのは変だけど、弟キャラのこと気にしちゃってるじゃん」 「キャラなんて言わないで！」 　わ。 　大声だ。大声が出たぞ。 　妻もちょっと戸惑ったような顔をしている。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「……ほら、と言わざるをえないな」と俺は言う。「お話の《弟》と、俺らの第二子とをごっちゃにしてるじゃん。あのさ、海に浮かぶ花瓶の中で豚と暮らしてる話だよ？」 「知ってるって」 「お腹の中で見た夢の話、くらいに聞かないと」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「……じゃあもういい。この話はもうしないでね！」 　と妻が娘にピシャリと言い、バッと立ち上がる。 　娘の口元がワナワナと震えている。泣き出しそうなのを我慢しているんだ。

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「パパが頼んでちゃんと話をしてくれたんだよ。ママがそんなふうに怒っちゃかわいそうだろ？」 　とキッチンに戻った妻に言うが、返事はない。ガッチャンガッチャンとものに当たるようにして夕食の支度が再開される。

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娘に 「ありがとうね。面白い話だったね」 　と言うと娘が首を振る。 「弟のこと、置いてきちゃってごめんなさい」 　うわ。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

俺は娘と目を合わせて言う。 「その子はお腹の中で眠ってるときに見た夢の中に出てきた弟で、本物じゃないんだよ」 　すると娘が首を振る。 「本当に、弟だったもん」

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ま、子供には上手く整理できないか。 「そうだね。だとしたら、後から追っかけて生まれてくるかもしれないね。そしたら二人で花瓶の中の話、もっとできるかもしれないなあ」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

と俺はもちろん《面白い話》の続きの体で娘に言うが、妻が作ってた食事をシンクに捨てるドーン！って猛烈な音が響いて、ギョッとしてるうちに妻が部屋を出ていく。靴を乱暴に履いてドアを開けて家も出て行ってしまう。 　えええ！？

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

娘がまた震えている。 「お母さんは、お話の中の《弟》のことが心配になっちゃったんだね」 　と俺が言うと娘も 「私も心配。忘れちゃってた」 　と言う。 　その《弟》が実在するみたいな空気になっちゃってて、これは良くないような気がする。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

妻にメールする。 「さっきも言った通り夢の中の話みたいなものだし、その夢を見たこと自体を否定できないから話を合わせただけだよ。豚に囚われてる弟なんていません」 　返事を待ちながら、娘にテレビを見させつつシンクの料理を片付ける。 　返事がある。 「いたらどうするの？」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

え？そっち方向で本気で信じようとしてるの？気持ちの整理がつかないってことじゃなくて？ 「いないよ」 　と返すが、 「そうじゃなくて、いたらどうするのって訊いてるの」 　と戻ってくる。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

そんなファンタジー前提の質問にどう答えたらいいのか……。 　ちょっと考える。 「父親として、豚からなんとしてでも取り戻して四人家族で幸せにします」 　と書こうとしたけれど、こんな実現不可能なこと適当に約束するみたいなことで妻の機嫌をとったりしていいのかな？と思う。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「こんな話あまりちゃんとしてなかったけど、もう一人子供が欲しいって気持ちが強いの？」 　すると返事はこうだ。 「そんなことじゃない」 　だけ。これだけかよ……。 　俺の出方次第、みたいな様子見されるのが俺は苦手だ。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「もしもう一人子供が生まれたとき、胎内記憶の話になって、さっきの話と齟齬があったら娘を責めるの？その子を責めるの？そんなことしないでしょ？まさか、《生まれるべき子》が豚のところに残されてて、《間違った子》が来ちゃった、とか思うの？そんなはずないよね。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

面白い話だな、で終わりでしょ。もちろんその話を真に受けるにしても、そうか、魂の弟が豚のそばにいるのかもしれないね、その代わりに別の弟が来てくれてありがたいね、で、またこれも終わりでしょ。この世に生まれてきてくれてありがとうを伝えるための話なんだからさ」

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

と書くけれど、つまり妻が架空の《第二子》のことを心配しちゃってるという状況を収めることができるような気がしないので出さず、ちょっと悩み、あ、これだ、という返事を出しておく。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

「いたらどうするって、いたら生まれてくるでしょ」 　生まれてこなきゃそんな子はいないってことだ。 「そっか」 　とひと言返事があって、それから妻が帰ってくる。片付いたシンクを見て 「ごめんなさい」 　と言う。 　その夜はピザを取って食べることにする。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

そしてその半年後に妻が妊娠し、その三週間後にその子が男の子だと判明する。 　俺は豚と花瓶の子の話を憶えているが何も言わない。娘も妻もそれには触れない。娘は忘れているんだろうが、妻はおそらく……いや絶対に憶えているはずだ。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

その子が生まれる。 「やった」と分娩台の上で妻が赤ん坊を抱き寄せて言う。「ママ、海の花瓶からちゃんとこの子を取ってきたからね」 　俺は息を飲む。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

話を聞くと、ほんのたった今最後のいきみのところで目を瞑って深く深く潜り、海に浮かぶ大きな花瓶の中で豚に囲まれてる子供を見つけて、豚の抵抗を振り払って夢中で救い出したらしい。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

さっきの《やった》は《バンザーイ》的な軽い声じゃなくて、《やり遂げた》の意味だったらしい。 「私はやったよ」 　と妻が満足げに言う。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

おいおいおいやっぱりその話まだ続いてるのかよ、と俺は頭を抱え込みたくなるのと、へえ、凄い話が加わったねえ、あははという気持ちが同時に起こるが、やはり前者の方が強い。 　この子が食い違った思い出を語り出したらどうするんだよ？

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

自分から進んで話をしたり妻に尋ねられたりする前に俺から仕込んでおくべきか？と思うけど、そんな誤魔化しは馬鹿らしいし、すべきじゃないと思う。 　この、今人生が始まった新生児にも語るべきお話があって、それを邪魔する権利は誰にもないはずだ。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

とりあえず今は息子の誕生を喜ぶだけでいい。 　妻が謎の満足感に浸ってるのが気にかかるけれども、彼女のそのお話だって彼女がそれを信じること自体に問題はないのだ。 　問題はそのお話に齟齬が生まれたときに、それにどう気持ちの整理をつけるかだけだ。

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

#月曜の分終わり

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#idinvaded #イド #イドインヴェイデッド #VSvirus #第１２話 ＃第１３話 #ATX #月曜夜18時から #水曜朝10時から #金曜深夜26時から #IDOFF #スピンオフのようなもの #世界観の繋がり不明 #CHANNELEDoff #水曜は次の三分の一 #非公式 　　　　２

終世終太郎 @tsuiyotsuitaro

その息子が一歳を過ぎたくらいのときにテレビに映った豚を見て怖がる。激しく泣く。妻がテレビを消す。 「絵本の豚さんは平気なのにね〜」 　と俺は何の気なしに言うが妻は何も言わない。