ゆっくりと瞼を持ち上げる。それだけのことが億劫で、けれどもそうしなければいけない理由があった。「やぉ、よろ……ず」ごめん。もう大丈夫だから。上手く言葉を出せない喉ではどれも言葉にならず、しかし、一番言いたい言葉は伝わったようで。「おかえりなさい」と口にした八百万は漸く涙を流した。
2024-01-04 22:51:00轟と両想いになりたいなんて、そんな贅沢は言わない。だからどうか嫌いにだけはならないでほしいと、そう願うことは許されるでしょうか。「それすらも許されないとしても、この気持ちを捨てることなどできはしませんが」もしこの気持ちを知られる時が来たら、貴方の前から消える準備は既にできている。
2024-01-21 23:18:02【このままでずっといられたらと願っていた】何処かぎこちない態度の轟を前にして、その時が来たのだと悟った八百万は最後の覚悟を決めて微笑んだ。
2024-01-21 23:18:02縁の轟百さんは『愚か者の言い訳』をお題に、140字でSSを書いてください。 #shindanmaker shindanmaker.com/386208
2024-01-28 23:15:52「幸せになってほしいと思ったんだ」吐き出した言葉に返答はない。しかし、それが真剣に話を聞いてくれているからだと分かっていたから、轟はそのまま話を続けた。「辛い思いをさせたり、泣かせたくなかった。だから、俺の事情に付き合わせたくなくて突き放した」そこで一度言葉を止めて、顔を上げる。
2024-01-28 23:15:53――ああ、また。目が合った轟に笑みを返して、不自然に思われないよう注意しながら視線を逸らす。最近、轟と目が合うことが増えた。今はまだ気付かれていないみたいだけど、このままでは八百万が轟を目で追っていることがバレてしまうかもしれない。そう思うのに、どうしても止められない理由があった。
2024-02-01 23:16:07「焦凍さん?」腕の中で八百万が戸惑っているのが分かったが、答えることが出来ずただ抱き締める腕の力を強める。――背を向けて泣いている八百万の夢を見た。伸ばした手は届かなくて、でも、目を覚ませば現実の八百万が轟の頭を撫でながら笑っていて。それが泣きたくなる程に嬉しくて、ひどく安心した。
2024-02-06 22:56:44「あ、す、すみません!」握った手の感触が思ったよりもずっと固くて、驚くと同時に自分の仕出かしたことに気付いてサッと顔色を変えた。「わ、わざとではないんです!」「そうか」「芦戸さんや葉隠さんといる時の癖で……!」「そうか」「あの、轟さん? 手が、その、離せないのですが」「そうだな」
2024-02-26 22:04:05【二人仲良くお手々を繋いで】真っ赤な顔の八百万とご機嫌な様子の轟の手が繋がれているのを見て、「ああ、またやってんのな」とクラスメイト達は慣れたように理解した。
2024-02-26 22:04:06「八百万の指は、綺麗だな」八百万の指をスッと掬い上げて、薄く色付いた爪を轟は己の指先で撫でる。「細くて、白くて、爪先まで整ってて」カサついて、骨張った自分の手とは違う。けれど、そこに同じ努力の証を見つけた轟は嬉しくて目を細めた。「ずっと見てた。ずっと、触ってみたいと思ってたんだ」
2024-02-27 22:26:27【好きなのは手だけじゃねェけど】「……寝たな」「うん、ぐっすり」「じゃあ、手を……全っ然離れねー!!」「誰か動画撮ったぁ?」「ばっちし!」「皆さん、遊んでないで助けてください……!」「そんなこと言って、ヤオモモもまだ手を繋いでいたいんじゃない?」「っ……揶揄わないでくださいっ!」
2024-02-27 22:26:27「轟さん、お紅茶は如何です?」「……八百万」顔を上げれば優しく微笑む八百万がいた。「先日気に入ってくださったお紅茶を淹れたんです。宜しければご一緒して頂けませんか?」「……ああ、いいよ」八百万の穏やかな声と紅茶の匂いに気持ちが落ち着いていくのが分かって、轟は八百万に笑みを返した。
2024-02-28 22:45:30「寝てなきゃ駄目だろ」「すみません」腕の中で八百万が謝罪を口にしながらも笑っているのが分かった。抱き締める腕の力を強めて、轟は深く息を吐く。怖かった。八百万が病院に運ばれたと聞いた時も、部屋に溶け込むような白い服を着た八百万が靡くカーテンで姿を隠した時も。覚悟していても怖いんだ。
2024-03-01 21:23:15【君はまだこの腕の中にいる】「それにしても、どうして窓際にいたんだ?」「轟さんのお姿が見えるかと思って」「来るのが俺じゃない可能性もあっただろ」「いいえ、轟さんが一番に来てくれると思っていましたわ」
2024-03-01 21:23:15突然轟に強く腕を掴まれて、八百万はその腕の中に閉じ込められた。痛くはないが、いつもとは違う性急な動作を訝しく思って顔を上げる。そして、轟の表情をじっと見つめると八百万はそのまま何も言わずにその胸に身を預けた。残った隙間を埋めるように身を寄せて、その腕の中に自ら囲まれていくように。
2024-03-03 22:47:26