2 私にも別れの季節が迫っていた。 井上「咲月〜!もうすぐ卒業だよ〜。」 菅原「そうだね。寂しくなるね。」 この子は井上和。高校で知り合って3年間とても仲良くしていた。何をするにもいつも隣にいてくれた。 井上「3年間あっという間だったね。」 菅原「うん。早かったね。」
2024-03-27 17:25:093 井上「でもさっちゃんともしばらく会えなくなるのかな。」 菅原「そんな寂しいこと言わないでよ。定期的に会おう?」 なんて私も言ったが、4月からは別々の道を進むことになる。私は大学に進学し、和は就職することになっている。もちろん会う回数は確実に少なくなる。
2024-03-27 17:25:254 井上「私と会ってくれる?」 菅原「もちろんだよ。」 井上「えへへ、さっちゃん大好きー!」 菅原「もう、何言ってんの。」 いつものように抱きついてくる和を感じながら、同時に寂しさも感じてしまっていた。
2024-03-27 17:25:375 井上「そういえばさっちゃん。あれはどうするの?」 菅原「あれって?」 井上「〇〇くんのことだよ!」 菅原「だから私には無理だって…。」 〇〇くん。この学校で彼の名前を知らない人はいない。いわば学校の王子様的存在だ。
2024-03-27 17:25:506 学業成績は常に学年上位。有名大学への進学も決まっている。 部活動はバレー部のエース。球技大会では彼の試合を見ようとコートの周りは人で溢れた。 そして何より彼の人間性。誰に対しても優しく、気配りを欠かさない。 そんな彼に惹かれる女子は数多く告白されたなんて話はよく聞いた。
2024-03-27 17:26:147 私もその1人だが、告白なんてする勇気はない。第一、しても結果なんて目に見えている。 ちなみに私は2年生の時に1度だけ同じクラスになった。私がバスケ部だったこともあり、同じ体育館で部活をしている〇〇くんとはよく顔を合わせた。
2024-03-27 17:26:308 そんな中で彼に恋をした瞬間があった。 それは高2の夏。部活の休憩時間に入り体育館の端を歩き外に出ようとしていた時のこと。 〇〇「危ない!!」 菅原「えっ?わっ!?!?」 バレー部のスパイク練習のボールがイレギュラーし私に向かってきていた。
2024-03-27 17:26:449 咄嗟に背を向けた私だったが、ボールは私の頭を直撃した。当たった衝撃で倒れていた時、最初に駆けつけてくれたのが〇〇くんだった。 〇〇「菅原さん?大丈夫?」 菅原「え…?」 〇〇「あ、反応した。僕のことわかる?」 菅原「うん。〇〇くん。」 〇〇「はぁ、よかった。」
2024-03-27 17:27:0110 結局私を保健室まで連れていってくれて、私の親が迎えに来るまで私の隣にいてくれた。 〇〇「ごめんね。周りには注意していつもやってるんだけど…。」 菅原「ううん。私ももっと注意して歩いていればよかったわけだし。」 〇〇「菅原さんは優しいね。」
2024-03-27 17:27:1611 菅原「それでいうと〇〇くんの方がでしょ。大会近いのにわざわざ私なんかに付き添ってくれて。」 〇〇「それは当たり前でしょ。責任はあるし、何より心配だから。」 菅原「〇〇くん…。」 彼にときめき2人の間に流れる時間が少しゆっくりに感じた。しかし…。
2024-03-27 17:27:2912 先生「菅原さーん。お母様が来られましたよ。」 私の母が迎えにきて、2人だけの時間は終わった。でも…。 〇〇「あの、この度は僕たちの不注意でご心配をおかけして、本当にすみませんでした。」 彼は律儀に私の母に謝ってくれた。 菅原「そんな、いいのに…。」
2024-03-27 17:27:4213 それ以来少しは話すようになったが、3年生になってクラスも別々になり、部活を引退すると彼と会う機会はほとんどなくなった。 だから私のことなんてもう忘れていると思っていた。 和はそんな私の思いに気づき、よく話を聞いてもらっていた。
2024-03-27 17:28:0014 井上「卒業式で告白とかしないの?」 菅原「ない!絶対ない!」 井上「なんでよ〜。次いつ会えるか分からないんだよ?」 菅原「そうだけど。彼には私なんかよりもっといい人がいるよ。」 井上「それ毎回言ってるよね。」 菅原「とにかくいいの!」
2024-03-27 17:28:1415 なんて和の前では意地を張ってしまったが、最後にツーショットくらいは撮りたいと心の中では思っていた。 そんな中迎えた卒業式。高校3年間の思い出が蘇り、気づいた時には泣いていた。 式を終え涙も落ち着いた頃、部活の後輩たちから寄せ書きをもらい、また涙がポロリ。
2024-03-27 17:28:3016 後輩との挨拶も終え、私は教室に向かった。彼が帰っていなければ、おそらくみんなと教室で話していることだろう。 彼の教室に向かう途中、私は目を疑いたくなる光景を目にしたのだった。 井上「〇〇くん、ちょっといいかな?」 〇〇「ん?いいけど…。」 和が彼に声をかけたのだ。
2024-03-27 17:28:5817 3年間の付き合いの中では見たことないほど、和は女の子の顔をしていた。 2人で教室を出ようとしたところで和と目が合った。和は私にだけ見えるようにピースサインをしていた。
2024-03-27 17:29:1218 私はこの時思い出したのだった。春は別れの季節なのだと。 親友にも裏切られ、思い人も奪われてしまうという現実を私は受け入れることができなかった。 今日3度目の涙は全く意味の違う涙になった。
2024-03-27 17:29:2819 気づいたら私は階段の踊り場に座り込み、かすかに聞こえる卒業生たちの笑い声を聞き流していた。すると…。 〇〇「菅原さん…?」 菅原「え…?」 今1番会いたくない人が目の前に立っていた。 〇〇「やっと見つけた。探したよ。」 菅原「み、見ないで!!」
2024-03-27 17:29:4120 〇〇「え?」 涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を彼に見せたくはなかった。 菅原「私になんて構わなくていいから。」 〇〇「どうしてそんなこと言うの。」 菅原「だって、〇〇くんは和と付き合うことにしたんでしょ?分かるよ。和って可愛いもんね。」
2024-03-27 17:29:5721 〇〇「え?」 菅原「和は私にとって自慢の友達だから、自信を持って〇〇くんにおすすめする。和なら絵だって上手いし、それに…。」 〇〇「井上さんとは付き合わないよ?」 菅原「…え?」 〇〇「どうして井上さんが出てくるの?」 菅原「だってさっき…。」
2024-03-27 17:30:0822 〇〇「そんなことよりさ、菅原さんに聞いてほしいことがあって。」 菅原「え?何?」 〇〇「単刀直入に言うね。好きだよ。」 菅原「……。え?」 〇〇「だから、僕は菅原さんのことが好きなんだ。」 菅原「え?え、え、え、えー!!!」
2024-03-27 17:30:1723 菅原「いやいや、嘘、嘘。絶対嘘。これはおかしい。うん、絶対夢だ。うん。」 〇〇「菅原さん?」 菅原「いやー、びっくりした。こんなドッキリが最後にあるなんて…。」 〇〇「菅原さん…?」 菅原「あ、そうか!モニタリングか。うんうん。じゃあ隠しカメラはどこに…。」
2024-03-27 17:30:2824 〇〇「咲月!!」 菅原「ふぇ…。」 彼は私の顔を掴み、私の視界を完全に支配した。 〇〇「僕、真剣に話してるんだけど。」 菅原「ご、ごめんなさい…。」 ここまで真剣な彼を私は初めて見た。 〇〇「僕の気持ち、受け取ってくれるかな?」 私の答えは決まっていた。
2024-03-27 17:30:5325 菅原「うん。もちろん。」 〇〇「ありがとう。」 彼が私の顔から手を離すと…。 井上「キャーー!さっちゃんおめでとう!!」 菅原「え?和?」 井上「よかったねー!」 菅原「え?見てたの?」 井上「当たり前じゃーん!」
2024-03-27 17:31:0226 菅原「てか和!さっきのはなんだったの?」 井上「さっきのって?」 菅原「さっき〇〇くんと2人で話してたんでしょ?」 井上「あー、それは〇〇くんにはっぱかけてたんじゃん。」 菅原「え?そうなの?」 〇〇「まぁうん。」 井上「私がさっちゃんと仲良いってことでよく相談されてたし。」
2024-03-27 17:31:1427 井上「でも全然動こうとしないからさ、私が背中を押してあげたってわけよ。」 菅原「もう!私は和に裏切られたと思ってた!!」 井上「あんたを裏切るわけないでしょうが。ホントにもう…。」 〇〇「井上さんにも感謝してるよ。ありがとう。」 井上「いえいえ。」
2024-03-27 17:31:2728 井上「じゃああとは2人でごゆっくり〜。」 菅原「あ!ちょっと!もう…。ホントに和ったら…。」 〇〇「でも井上さんには本当に感謝しないとね。」 菅原「そんなに和に相談してたんだ?」 〇〇「まぁね。」 菅原「じゃあさ、私のことを前から意識してくれてたの?」
2024-03-27 17:31:3929 〇〇「うん。そうだよ。」 菅原「いつから?」 〇〇「2年生の時に同じクラスになった時くらいからかな。」 菅原「そうなんだ。全然気が付かなかった。」 〇〇「何事にも一生懸命頑張ってるのがカッコいいなって思ってたよ。」 菅原「そ、そうなんだ。😳」
2024-03-27 17:31:4930 〇〇「今日こうして頑張って思いを伝えられてよかったよ。」 菅原「私もすごく嬉しい。ありがとう。」 〇〇「はぁ、よかった。」 菅原「ねぇ、せっかくだし記念に写真撮ろ?」 〇〇「うん。もちろん。」 菅原「へへ。ギュッ。じゃあ撮るよ?」 〇〇「うん。」
2024-03-27 17:32:1531 私は思い出した。春は出会いの季節だと。 私たちはすでに出会っていたけれど、本当の意味ではまだ出会えていなかったのかもしれない。
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