続き
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ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「ogt先輩」 アパートの1階までエレベーターで降りたところで、聞き覚えのある声に思わずぞわりと全身に鳥肌が立った。「どうして」「srisさんから、ここにいらっしゃるのを聞いたんです。あの方、私に借りがありますから」何をしたsris?!何してるsris!! 「行きましょう」「悪いが、お前の妄想には

2020-09-04 13:28:01
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

応えられんよ」「嘘つき」「何……?」「妄想なんかじゃないって知ってるのに」会社を抜け出してきたのか、制服姿のままだった。「すぐそこに、私の車があるの。帰りましょう。私たちの家に」違う、俺の家は。

2020-09-04 13:28:01
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「あなたから、あの匣の匂いがする。近くにあるのね。良かった。あれも探していたの。いずれ、また使うのだもの」「こちらに寄るな」ぎらつく眼差しに、かつての嫁にあった温かさはない。嫌悪感に思わず後ずさると、女が胸に取り込んできた。「長かった。あの匣に、あなたと私の名を書いてから、

2020-09-04 13:35:04
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

この日を待ち続けていた。ようやく望が叶うのね」「離せ!! お前は、“俺の妻ではない”!」その言葉に、女の身体が離れた。引き下がろうとした時、手を伸ばした女の持ち物が、シャツの胸元に当たった。目から火花が散った。受けたこともない衝撃に崩れ落ちる寸前、支えようと手を伸ばす女の右手に

2020-09-04 13:35:04
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

護身用のスタンガンがあるのを認めたが、自分の間抜けさに自嘲する前に意識が落ちた。

2020-09-04 13:35:05
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

気が付くと……裸の女が自分の上に乗っていて、こちらを艶然と見下ろしていた。自分も上半身の衣類を脱がされている。匂いのきつい、甘ったるい香りの室内芳香剤が鼻につく。女は、緒方の左の薬指に手をかけていた。指の根元で銀色に光るのは小粒ながら夢主の誕生石が輝くプラチナの――結婚指輪。

2020-09-05 16:15:39
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ogtはそれを見て急に正気に返ると、女を自分の身体の上から跳ね除けた。「あ…」「なんのつもりだ!…ここ……どこだ?!」「私の家」女は、彼の隣に寝そべって勝ち誇ったように笑った。「私たちの家、よ。あなたは今日からここで暮らすの。アホか。苛立ちと共に身を起こそうとすると、右手首に

2020-09-05 16:30:07
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

手錠を嵌められていた。片方の輪は頑丈なチェーンで繋がれ、ベッドの脚に固定付けられている。なんだこれ。監禁か。……もはや犯罪じゃないか。「眠っている間に既成事実でも作ろうと思ったけど、案外スタンガンってすぐ回復しちゃうのね。でも、私たちの姿は、さっきスマホであなたの奥さんの所へ

2020-09-05 16:30:07
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

送っておいたから。「嘘だな。あいつのアドレスは知らんはずだ」「残念。これは借金のカタにsrisさんから取り上げたスマホなの。奥さんと共通の友達なのね、彼。意外なところで役に立ってくれたわ」siris覚えてろオオオオ!!

2020-09-05 16:30:08
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

女はベタベタと金運シールが貼られたスマホを彼の前にかざす。画面に、ベッドの上で裸の胸を毛布で隠した女と、その隣で眠っている(正しくは失神している)ogt。知らない人間がみたら、いかにも事後のしどけない姿。「何やってるのか分かってるのか?!犯罪だぞこれは…!! 手錠の鍵を寄越せ」

2020-09-05 16:38:54
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「私たちには、死も分かつことのできない縁がある。私があなたの妻なの。本当の、運命に定められた絆なの。大声を出してもいいわよ。この家は街中から離れた山の中に建ってるから、誰にも聞こえない。私のことを思い出すまで、鍵は渡さないわ」ogtは頭を抱えた。「頼む…こんなこと、もうやめてくれ」

2020-09-05 16:43:30
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「駄目よ…今の奥さんとは、別れるの。彼女だって、もう私たちが深い間柄だって、わかったはずよ」女はそう言いながら、ベッドボードを指さす。そこに……あの匣があった。「なんでここに?!」「やだ。あれは私のもの。どこにあるかなんて、すぐわかるわ。それに、あれに呪いをかけたのは私」

2020-09-05 17:01:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

女はその執念に怯えるogtにしなだれかかるように身体を寄せた。「よせ。来るな…」「奥さんには、いつ話してくれるの……?」違う、違う。前世の自分を呪いながら、女が独り言のように話すのを聞くまいと耳を塞いだ。「なんで、なんでこんな…あいつが、待っているのに」…俺が愛しているのは…。

2020-09-05 17:01:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

不意に、女が悲鳴を上げた。その声に驚き、女の視線の先を見るが、薄型テレビを設置された、寝室の壁があるばかりだった。「何故、あんたが?!どうして?!」大きな風邪が部屋の中をかき乱す。小さな竜巻のような激しい気流の流れの中で、あの匣が宙に浮かび、天井へ吸い込まれるように消えていく。

2020-09-05 17:01:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「さようなら、hyknskさん!」夢主の声が部屋の中を響き渡った。「夢主…!」「匣…!!私の匣よ」女が裸のままベッドから降りようとして、そのまま硬直した」七十過ぎの老婆が、寝室の入り口に立っていた。「呪(まじな)いを呪(のろ)いに変えてあんたの性根を叩き直さねばならん」「あ、あんた」

2020-09-05 17:14:55
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「あの奥さんの顔を持って生まれるとは、すごい執念だ。それだけで満足すればよかったものを」老婆が右手をひと振りすると、ogtの右の手首から手錠が落ちた。「奥さんの書いた紙を、自分のものとすり替えたのだね。お前さん。だから、まじないがおかしくなっちまったのさ」

2020-09-05 17:14:56
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「旦那さんが、嫁さんの正しい名前と、自分の名を書いたことで、あんたの呪いに綻びが生じた。これこそが縁。運命ってものさ」「か、身体が動かない…?!助けてhyknskさん!!」「さあ、これを案内人にしよう。その後をついて、嫁さんのところにお戻り」着物の胸元から、小さく折った紙を取り出しろ

2020-09-05 17:25:31
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

老婆が息を吹きかけると、紙はトンボに姿を返じ、彼の目の前でくるりと人周りした。「あ、あんたは…?」「嫁さんが、病気だよ。帰らないと大変なことになる。急ぎな」「病気……?夢主!!」床に落とされたシャツと上着を拾い、ogtは部屋を飛び出した。家はやたら広く、トンボの誘導なしでは直ぐに

2020-09-05 17:25:31
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

出られなかっただろう。玄関先のシューズボックスに置かれた車の鍵を拝借し、外に飛び出す。女の言った通り、周りを木立に囲まれた、まさに山中の家だった。

2020-09-05 17:25:32
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

どれだけ気絶してたんだ、と彼は途方に暮れた。「ここ、何処だ…」“こっち”と、子供の声がして振り向くと、老婆のトンボがくるくると旋回を繰り返して彼を待っていた。その先に、女のものと思われる乗用車があった。車に乗り込む直前、トンボが手の平に乗ったかと思うと、元の紙に戻った。

2020-09-05 17:33:57
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

茶色く変色した、折りたたまれた紙を開くとそこには、“かかさまと またあえますように”とたどたどしい幼い文字が書かれていた。その隅に“ゆう”とあったが、とちゅうで破れていてその先はなかった。幻が脳裏を過ぎる。嫁が亡くなって一年ほどで、息子も流行病で死んだのだ。あれほど、

2020-09-05 17:33:57
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

妻に違ったのにも関わらず。ぶわ、と涙が溢れ、頬を伝って紙を濡らした。その紙を大事にたたみ、着直して服の胸ポケットに大事に入れる。車のエンジンをかけると、山中の道を急いだ。

2020-09-05 17:40:41
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

途中、スピード違反で追いかけてきたパトカーを必死でまいたりしながら、なんとか自分のマンションへ久しぶりに帰りついた。ドアには鍵がかかっておらず、嫌な予感と共に中に入ると、確かに家の様子がおかしかった。べランダのガラスも割られていた。慌てて夢主を探すと、寝室で、あの不思議な老婆の

2020-09-05 18:06:44
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

言う通り、高い熱を出して寝込んでいた。ogtは慌てて救急車を呼んだ。

2020-09-05 18:06:44
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「あれ、救急車のサイレン聞こえない?」マンションの中庭で、孫娘と枯葉を集めていた老人が、遠くから聞こえるその音に耳を傾けた。「なんだろね」祖父がよそ見をしている間に、少女はそっと、遠い過去から取り戻したものを落ち葉の中に隠す。「まあいいか。さ、火をつけるよ。あまり近づかないでね」

2020-09-05 18:06:45
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「うん」「焚き火で焼いた芋を食べたいなんて、変わった子だね。でも、おじいちゃん、可愛い孫ちゃんのためなら頑張っちゃうよ」新聞紙に包んださつまいもを一度地面に置いて、枯葉の山にマッチで火をつけた。「……あれ?枯葉にお線香でも混じってたのかな?すごくいい匂いがするね」「なんだろね〜」

2020-09-05 18:13:59
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

その昔、まじない師だった幼子は、すきっ歯で笑った。「ま、いいか。燃え尽きれば匂いも消えるだろ。芋はそれから入れようか」さつま芋をアルミで包みながら、老人は楽しそうだった。その間、彼女は箱の中から取り出した紙を確認しながら、火にくべていく。

2020-09-05 18:24:50
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

(まこと、女の情念の怖さよ)昔、匣を譲った女に絡んだ芸妓の書いたものをぐしゃりと握りつぶし、火の中に投げ入れる。隠し底の一番下に入れてあったから、後から書き入れを足した夫も子供も、気が付かなかっただろう。(と、いうことは、あの嫁さんは、もしかして)例の紙もちゃんと残っていたのだ。

2020-09-05 18:25:20
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

あの女も最期はさすがに弱ってたから、底に隠すのがやっとだったのだろう。この紙が捨てられていたら、また厄介だった。それに、これ。最後に、夫の書いたものを開く。これこそ、恐ろしい執念だった。名も姿も前世そっくりに生まれてくるなんて、滅多にない事だ。どれだけあの嫁に惚れ抜いていたか

2020-09-05 18:49:15
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

分かろうというもの。全部火にくべてから、最後に入れられたはずの、二人の子供が書いたものがないのに気がついた。「ありゃ。私としたことが…まあいいか。害にはなるまい」「なんか言った?そろそろお芋さん焼くよ」「はーい」「あれ、救急車こっち来るよ」祖父は棒切れで芋の焼き加減を見ながら

2020-09-05 18:49:16
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

呑気に呟いた。祖父がサイレンを気にしている間に、ひらひらと子供の手に、白い人型が舞い降りた。「あれも調伏できたのかい。お疲れ様。これであの女も、昔のことはきれいさっぱり忘れるだろうさ」ふぅ、と息を吹きかけ、先刻まで昔の自分の姿に変えていた人型を、ただの紙に戻した。それも、炎の舌に

2020-09-05 18:49:16
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

絡め取られて、灰となって消えていった(ああ、せいせいした。これで、やっと安心して今生を生きられるよ)「孫ちゃん。おいも焼けたよ」 「ありがとう、おじいちゃん」

2020-09-05 18:49:17
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「良かったな〜。これで、ようやく元通りじゃん」数日後、ogtは会社帰り、久しぶりにsgmtの誘いに乗った。馴染みの居酒屋で焼き鳥を頬張る友人が、店員が運ばれてきたビールジョッキをあっという間に干すのを呆れて見ている。その横では、右目に青タンを付けたsrisが小さくなっていた。

2020-09-05 21:08:21
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「夢ちゃんももうすぐ退院だし、例の女も試用期間満了を待たずして親父が引き取ってくれたし、めでたしめでたしじゃん」「ホントオメデトウゴザイマス。ホントニスミマセ-ン」「全くだ。ストーカーに情報売るやつがどこにいんだよ」「だってぇ〜。生活費足んないってボヤいたら、その場で10万、

2020-09-05 21:08:21
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

くれたの彼女〜、あとで「あれは貸しただけ」って言い出してさぁ〜。スマホ貸してくれたらチャラにするって……」向かいの席から、ogtのチョップが飛んできた。「へぶっ!でもでもでもぉ〜!あの美人にお願いされたら、絆されちゃうよねっ?違うの?!」「やっぱり殺すんだった…」「ヒィ!」

2020-09-05 21:08:22
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

…件の女は、あれから出社しなくなった。結局のところ、会社側が彼女の異常さに音を上げたのもあるが、その父親も、入社した途端おかしくなった娘を心配していた上、その奇行もどこからか耳にしたらしい。平身低頭の末、彼女の退職願を置いて去っていった。不思議なことに、彼女もあれから憑き物が

2020-09-05 21:34:23
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

落ちたようにまともになったという。しばらく家で療養させて、見合いでもさせようという話になっているようだった。あれを嫁にする男に幸あれ…。ジョッキに口をつけながらogtは見知らぬその男の健闘を祈る。おかげで、嵐のようなひと月だった…。あの、元凶となった匣も、あれから消えたままだった。

2020-09-05 21:34:23
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

不思議な経験をした……。 「前世かぁ〜。来世も共に、って綺麗に聞こえるけど、実際起こってみると怖いなぁ。自分の知らん過去が、追っかけてくる感じ」「sgmtちゃんまで、こんな話信じるの?」「黙れ。お前に発言権はない。無理やりついてきやがって」「えー、友達じゃん」腹立つな、こいつ……。

2020-09-05 21:34:24
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ogtたちが大団円を実感している頃…。夢主は病室のベッドで雑誌を読んでいた。「あら?」少し開けた窓から、カーテンの隙間を抜けて、トンボが入ってきた。すい、と音もなく夢主の周りを飛ぶ。 何となく宙に手をのばすと、羽を震わせながら中指に止まった。「かあさま」と、幼子の声がして、彼女は

2020-09-05 21:45:28
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

周りを見渡したが、誰もいなかった。恐ろしくはなかった。懐かしく、切ない愛おしい気持ちが不思議だった。トンボは指から離れると、再び窓から出ていく。ベッドから降りた夢主は窓辺へ近づき、夜の空を飛んでいったそれを見送った。 「さようなら、勇作ちゃん。 また、会いましょう」 終わり

2020-09-05 21:45:29
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まとめたひと
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

アホ夢書き。昭和の女で金カ夢の人。腐と夢のいろんなのを見たり書いたり用の垢。最近は本人よりよりほぜ尾が好きになってきた感。いや、今でも推しなのは変わらないんだ……。 まろ marshmallow-qa.com/yumejodego?utm…