緑間くん 目が覚めても世界は生まれ変わらなかったし 今日は昨日の続きだし 路上のゴミは放置されたまま 脱ぎ捨てた服は脱け殻のまま ほんの少しだけ髪が伸びて 変わらぬまま歩いているのだ 緑間くん 世界は劇的なこともなく 君の人生に嘘はない 緑間くん 続きの道を歩いて生きるのだ
2021-04-01 08:04:22緑間くん 与えられた物語を消費して 与えられたドラマを鑑賞して 与えられた悲劇に泣いて 与えられたコメディに笑う 僕らはいつの間にか 世界を夢想することをやめてしまったのだ 公園の遊具は宇宙船で ドングリは宝石より価値があり 不思議な枝で魔法が使えた頃 奪ったのは自分自身なのだ
2021-04-13 07:58:03緑間くん 雨に濡れるのを避けて 土に汚れるのを厭うて 砂埃をかわして どこへも行けぬまま淀んでいく体を どうか臆病の一言で片づけないで欲しいのだ 弱って傷ついたなら雨宿りしてもいいと 差し掛けられた傘を否定しなくていいのだ それでもなお傷ついて進む自分を否定しなくていいのだ
2021-04-14 08:13:02緑間くん 花殻も枯れ草も 浮き出た錆も剥がれ落ちたペンキも 歩き去る影ですら美しいのに どうして僕ら美しいままでいられなかったのだろう 緑間くん 生きているものの醜さを許せないまま こんなところまで来てしまったと 立ち尽くす僕らの愚かさよ それでもなお照らされて生きるのだ
2021-04-15 08:00:48緑間くん 何かを為さねばと言う使命感も 何も為さずとも良いという肯定感も 本当は同居していて良い筈なのに 何故か一方を排斥しようとするのだ 為しても為さずとも良いのに その不確かさから自分で選び取ることが怖くて 僕ら唯一の正解を求めるのだ 緑間くん 選んでも選ばなくてもいいのだ
2021-04-16 07:59:53緑間くん 下らないことを延々と喋り続けるような日々は 振り返り見ればなんと愛しかったことだろう どうでもいいことで笑って 永遠に気づきもしないで 当たり前みたいに日差しの下を歩き 手軽に傷ついては傷つけて 青春という言葉でひとくくりにされた日々は 君の人生の特等席にいるのだ
2021-04-19 07:56:11緑間くん 木々の若々しい緑 川面に浮かぶひっそりとした緑 排水溝の中で雫を浴びた緑 苔むした廃屋の緑 錆びてざらついたボルトの緑 眩しく光を跳ね返す緑 緑 緑の渦 万華鏡より雑多に 子供の整列より不規則に あらゆる場所で広がりつたい絡まって伸びる緑の氾濫に いつも君の影を見るのだ
2021-04-20 07:57:29緑間くん 自分の価値を決めるのは自分だと言えるのは強い人だけなのだ 強い人だって傷つきながら戦っているのだと 目に見えぬ強さを言い訳にするなと そう訴えることこそ強さの証だと 卑屈にうずくまる弱さに 君は歩み寄らなくていいのだ 緑間くん うずくまり続ける痛みを君だって知らないのだ
2021-04-21 07:47:02緑間くん これは美しいもの あれは醜いもの そんな風にかつて感じた時の記憶を頼りに世界を分けていやしないか あの時美しかった景色 この時苦しかった思い出 トラウマのように蘇るのは痛みだけでは無いのだ あの時愛した世界が 愛の名残と共に君を呼んで離さないのだ 緑間くん
2021-04-22 08:01:15緑間くん まとわりつく潮風 足の裏に貼りつく砂 濡れて重たくなった服 肌が焦げるような日射し 口に入れば塩辛く 足がもつれれば溺れるような海が 何故かいつも恋しく その波の音を求めてしまうのだ 緑間くん 君の腹の中にも海がある 広く 重く 静かで 荒々しい 君独りきりの海が
2021-04-23 08:02:14緑間くん どこかで誰かが苦しんでいること どこかで誰かが悩んでいること どこかで誰かが泣いていることを 君が気に病む必要は無いのだ 透明な光を浴びて風を抱いて行くのだ いつか君が耐え難く苦しく悩み悲しむ時に 世界はそれを気に病みはしないのだから 世界はそこにあるだけだ 緑間くん
2021-04-26 07:58:27緑間くん 荒野を往くのだ 果てた大地と灰色の太陽 立ち枯れた木は岩になり ひび割れた大地から芽吹くものは無く 君は飢えも渇きもしないが 立ち止まることも許されぬ 君だけの広大な大地を往くのだ 緑間くん 憐憫など君にはいらないのだ 君という名の怪物はそれでも生きていけるのだ
2021-04-27 08:04:46緑間くん 君を引きとどめるものが何も無いような朝 どこにだって行ける 何にだってなれる 地球の裏側のお月様だって捕まえられるし 太陽だって吹き消せる そんな日にまだここにいる理由を僕らはほんの少しずつ持っているのだ それが君をこの世界に残すのだ 緑間くん 愛しき僕らの澱みなのだ
2021-04-30 08:04:12緑間くん 例え僕らから言葉が尽きようと世界が尽きることは無いのだ 例えあらゆる戦争の果てに世界が破壊され尽くし あらゆる命が絶えて 茫漠とした荒野と砂煙だけが広がるようになっても それを鑑賞するものがいなくても 世界は確かにそこにあるのだ 君の心とおんなじだ 緑間くん
2021-05-07 07:50:24緑間くん 破壊と殺戮と共食いの果ての茫漠とした荒野に 誰もいなくてもそこにあること 嘆く意味すら無いのだ 何にもなくても生きるのだ
2021-05-07 07:52:22緑間くん 誰かが君を許しても 君は誰かを許さなくていいし 誰かが君に優しくても 君は誰かに優しくなくていいし 誰かが君を認めても 慰めても 愛しても 君はその全て返さなくていいのだ 君が誰かを許して優しくして認めて慰めて愛して慈しんでも 誰かがそれを返さなくて良いのと同じなのだ
2021-05-13 07:54:18緑間くん 足元に影があることを当然だと思っても 足元の影を意識しながら歩き続けることは無いのだ 影は光の遮断だと知っていても その背中で日差しを受け止めていることを意識なんてしないのだ 緑間くん 当然で 当たり前で 常識で ありふれたものたちを 本当は見逃してばかりいるのだ
2021-05-14 07:58:17緑間くん あそこの草むらの緑にすら正しい名前を付けられず 曇り空が白いのか灰色なのかも判らず 己の影の行き先も知らず 自分の敷いたレールの形も歪んで 何もかもあやふやなまま 過ぎゆく日々を惜しむくらいなら 絵の具を一つ選ぶのだ 君が色を決めて 君が名前をつけて 君のものにせよ
2021-05-19 08:00:41緑間くん 生きる理由を自分に見いだせないのに死にたくは無いから ありったけ世界を愛すのだ 排水溝 転がる吸い殻 片足で跳ねる雀 工事中のロープ 腐り落ちた薔薇 空回りする換気扇 今日も美しいばかりの景色をよすがに生きるのだ 緑間くん 愛すべき世界が 今日もあるから生きるのだ
2021-05-20 08:06:08緑間くん 水面が油彩のようにべっとりと揺れていたり 写真のように美しい景色だったり 子供によく似ている親だったり どちらから始まって どちらが真実で どちらが本物なのか判らなくなるのだ 夢みたいな現実 現実みたいな夢 油絵の具で描いた川 写真に撮った景色 貴方から生まれた君
2021-05-21 07:59:11緑間くん 校舎を駆ける足音 校庭の笑い声 教室の窓から吹き込む少し湿って柔らかい空気 膨らむカーテンと 机に突っ伏して眠るクラスメイトのつむじ 数人で集まってお喋りをする友達のさざめき 全てに等しく降り注いだ日差し 少ししわになっている制服 人生で一度きりの 君たちの世界なのだ
2021-05-24 07:57:00緑間くん 宝物を隠すようにひっそりと落ちていた青いガラス玉 公園に残された葉っぱのお皿と枝で出来た箸 大人の半分の手のひらで世界を手に入れて 四分の一の体でどこまでも飛び跳ねて行く 子供と呼ばれていることすら意識していなかった頃 世界はシンプルで 好きも嫌いももっと簡単だったのだ
2021-05-25 07:59:37緑間くん 怒りをもって世界に立ち向かうのだ 他人の怒りは君のものでなく 正義は君のものでなく 正統なものなどどこにもなく 好き勝手に自分勝手な怒りを振りかざして 自分の哀れな境遇を語るなら 君はただ純粋な怒りのみで立つのだ 緑間くん 君の怒りを不純物に侵すな 君はただ炎であれ
2021-05-26 08:03:16緑間くん 生きた証を残したいと思う気持ちは本能なのだろうか 生きるからには何かを為したいと思うのは 誰かに植え付けられた義務感だろうか 緑間くん 自分の感情も自分の望みも 生まれた時に刷り込まれた言葉なら 言葉にならぬ衝動は君だけのものなのだ 他人に名付けられる前に駆け出すのだ
2021-05-27 07:51:51緑間くん 人生は選択の連続だと誰かは言うし それは真実の一つだけれど その選択に責任を持つ人ばかりではないのだ 緑間くん 君が君の選択に覚悟をもって臨んでも 他人は無邪気に君に石を投げて 投げたことすら忘れるだろう 緑間くん 傷つかなくていいのだ 優しくなんてならなくていいのだ
2021-05-28 08:00:17