【刀神】その他の話

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 電車が緊急停止し、車内アナウンスが流れる。 『線路内に妖魔が出現した模様です。現在、天照に連絡、支援を待っております。ご乗客の皆様には大変ご迷惑を……』 「すみません、俺、刀遣いです。対処にあたります」 その声を皮切りに、車両のあちこちから手が挙がる。

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@KATANAGAMI_kabe 車掌か運転手に声をかけた刀遣いがいたのだろう。一般人は降りないように、天照職員だけを降車させる旨を伝えるアナウンスの後でドアが次々と開く。 落ちないようつり革にしがみつく乗客の中を泳ぐように、剣道バッグをかついだ高校生や

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@KATANAGAMI_kabe 製図ケースを持ったデザイナー風の男たちが車外へと向かう。 誰かがヒソヒソと「けっこう紛れ込んでんだな」と言い、「怖いわ」と怯えた声が返る。 その時、「頑張れ、頼りにしてるぞ！」と誰かが言った。

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@KATANAGAMI_kabe 驚いたように振り向いた、まだ幼ささえ残る学生服の少年が「頑張ります！」と笑った。

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@KATANAGAMI_kabe 【大変ご迷惑をおかけしております。線路上に妖魔が侵入したため、現在運転を見合わせ──】 「……電車の中って、安全なんですかねぇ」 「やめて下さいよぉ、え、あっ嘘」 「えっ、停電」 【妖刀をお持ちの刀遣い様、乗車されておりましたらお声がけを──】 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「なぁ、肝試し行こうぜ」 「行くってどこによ」 「○○トンネル」 「あそこはやべえって」 「良いから行こう」 「やだよ」 「行こう行こう行こう行こう」 「………誰だお前」 「ねぇえええ、いこぉよおお」 ── 時には、「場所」が妖魔と化す事もあるという。 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「あの、この部屋って妙に家賃安くないすか……駅近いのに」 「あ、あー、ここですかぁ」 「まさか事故物件とか、そういう……」 「いやぁ、両隣が刀遣いさんで……」 「あーーそういう…」 「そういう、ええ、はい」 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「避難訓練だっる……」 「でもアレちょっと楽しみだよな。実演」 「今年、誰来んのかなー」 「去年の仮面のヤツめっちゃカッコ良かったよな」 「あ、来てる来てる。……なんか地味じゃね？」 「刀神どんなヤツなんだろなー！」 #刀神世界のモブ目線

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 「ねぇ、ニュース見た？」 「見た見た、アレうちのガッコだよね？」 「一家惨殺って絶対アレじゃん」 「妖刀だよね、やば……」 「そういやさぁ、A組の川原んち、蔵取り壊すって言ってなかったっけ」 「蔵開ける時は、天照呼ばなきゃなのにね……」 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe ── 古い蔵や家を整理する際、刀の形の物を発見した場合は決して素手で触れず、必ず天照へ通報して下さい。 台帳に記載があっても知らぬ間に妖刀化しているケースが多く、今回のような痛ましい事故に発展する事もあります。……次のニュースです── #刀神世界のモブ目線

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 「田辺、第一から第三まで志望進路が天照って、本当にこれでいいのか？」 「俺、剣道しか取り柄ねえし……」 「スポーツ推薦もあるだろ、せめて大学行ってみないか」 「いいんす、俺んち金ないし」 「危険なんだぞ」 「センセの目玉の仇、取ってやるよ」 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「こないだ妖魔通報してさぁ、刀遣いに助けてもらったんだよ」 「スゲー！どうだった？戦闘見た！？」 「なんかポケットからチョコみたいな丸いヤツ出して、まずいまずいって泣きながら食ってた」 「何それ」 「さあ…」 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「おじちゃん、おしゃむやいしゃんなの？」 「すっ、すみません！だめよまーくん！」 「おしゃむやいしゃん！」 「……そうでござる……」 「きゃー！！」 #刀神世界のモブ目線

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@KATANAGAMI_kabe 「うわぁあすみませんすみません、俺、刀遣いじゃないんですぅ、これ模造刀で、あのっ、刀遣いって言えば大盛り無料だし女の子にモテると思っ……」 「うるさいから黙って「本物」がどうするか見てなよ、おっさん」 少女は言うと、スラリと白刃を閃かせた。 #刀神世界のモブ目線

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 「あーし、おめーの事誤解してたわ。刀遣いとかきーてねーし、何で隠してたん？マヂ無理なんだけど……」 「付き合いわりーしさー」 「うちらダチじゃん、言えばなんぼでも協力すっし何で隠すんだよ」 「はぁー？泣いてんのマヂうっざ、歌い行くしかねー！！」 #刀神世界のモブ目線

ちゅん @SousakuChun

カラオケの最中に召集かかって「ごめんね」って言う子に「オールしてっから戻ってきなよ」って笑って送り出すギャルたち 曲が途切れた時にポソっと「うち、兄貴が刀遣い遣いだったんだわ」って

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 真冬に桜が満開になった家の所有者から、天照に通報があった。 曽祖父が亡くなったので相続した家を売る事になり、蔵の管理が難しいということで、中のものを売却し取り壊そうと話し合っていたところ……突然、目の前で次々と花が咲いたのだという。

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@KATANAGAMI_kabe 怪異の気配があるのだけれどどこへ連絡したらいいかわからず、まず警察に連絡してみたら「蔵が絡んでいるのなら天照」と言われたのだという。 「刀遣いさんにその、見ていてもらって……という話で。すみません、そういうの全然わからなくて」

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 電話の主は若い女性だ。恐らく、突然の事で何もかもを持て余しているのだろう。 ご依頼承りますと伝えると、明らかにホッとした声で「お願いします」と言って電話が切れた。

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 後日。 現場に到着した刀遣いは、「なるほど」とつぶやく。頭の上には、樹齢百年をゆうに超えるだろう桜の巨木が満開の花を咲かせている。 「収蔵品を売るという話をしていたタイミングで、だったんですね」 「そうなんです」 「リストいただけますか」

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe おずおずと差し出されたその一覧の中に、果たして〝刀〟とおぼしき銘があった。 刀遣いは小さく息をついて桜を見上げ、数十年ぶりの氷点下の中、一枚も花びらをこぼさずに耐えている姿に目を細めた。 「下げ渡されるのは嫌やってんなぁ。可哀想に」

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe はらり 　　　はらり 一枚、また一枚と花びらが落ちる。誰かが「泣いとる」と囁いた。それはまさに、いっぱいに溜まった涙がついにこぼれ落ちたようだった。 「この桜も、切る予定やったんちゃいます」 「ええ、虫食いが酷くて……」

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 蔵に、刀遣いが入る。 布にくるみ抱えて出てきた一振りの太刀には鞘がなく、その刃は寒空の下できらきらと輝いた。 「桜の木、切ったらまた連絡ください。こいつの鞘は、その桜で作らなあかん」 困惑して顔を見合わせた家族に、刀遣いは言った。 「夫婦は離せへんでしょう」

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 刀遣いがその太刀を連れ天照へ戻ったその日、桜は全て散ったという。 まるで泣いて泣いて全ての涙を流し尽くしてしまったように、一枚残らず花びらが落ちたと。 桜をつまとするその太刀、銘を「曙之波削（あけぼののなみそぎ）」という。

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@KATANAGAMI_kabe 桜の花びらをいっぱいに湛えた花筏の川面、波を立てる事なく花びらを斬ったのだという。

ちゅん @SousakuChun

@KATANAGAMI_kabe 美しい刀を取りに行く話。