Twitterで投稿した140字小説まとめ
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桜木恵 @kei_sakuragi__

記憶が無くなればこんなに苦しい思いをしなくて済むのに。いくらそう願っても、都合よく記憶喪失になれるわけはない。神に願ったって、僕の願いなんてポイと捨てられてしまうだろう。それでも....「記憶を消してくれ」たまたま見かけた神社で願った。また一から人生を歩みたいんだと、そう思いながら。

2021-04-18 20:41:56
桜木恵 @kei_sakuragi__

春。新品の制服に身を包み、念願だった学校に進学する。頭上は満開の桜で覆われ、その間から見える青空がこれからの行く末を静かに見守っている。私は風にのって舞う花びらを掴もうと手を伸ばす。しかし、花びらは上手く手から逃れ、隣にいた男性の手に落ちた。「あ、」「...いる?」

2021-04-11 21:55:40
桜木恵 @kei_sakuragi__

「ねぇ、いるんでしょ?」少女は暗闇に向かって言った。少女の周りには誰もいない。光のない闇が広がっている。「なんだい」脳に直接語りかけるような声だった。「私を幸せにして」「どうして?」「幸せになりたい」少女は懇願するように言った。「いいよ」その声と同時に、少女の体は燃えていった。

2021-04-08 15:57:17
桜木恵 @kei_sakuragi__

春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て。いつもと同じように世界は回る。けれど北から吹く風も、目の前を通り過ぎるサラリーマンも、何ひとつ同じではない。今の私と1秒前の私は完全に別人だ。同じものは2度と巡ってこない。私たちは日々変化する。気づかないうちに、全てが変わっている。

2021-03-23 23:06:05
桜木恵 @kei_sakuragi__

「もし世界規模の飢饉が起きて、食料が無くなって争奪戦が起きたなら、私のことを食べて欲しい。 貴方の血肉となって永遠に一緒にいられるのだから、ぜひに。 引き剥がされる心配はいらない。 死ぬまで、いいえ、死んでからも一緒。」

2021-02-12 18:25:39
桜木恵 @kei_sakuragi__

僕には泣きたい夜がある。何か理由があるわけじゃない。ただ泣きたい。それだけ。「今日も泣いてるの?」優しい声が隣から聞こえる。「ごめん、泣くのやめるよ」僕は零れ落ちる涙を止めるべく、必死に目元を拭う。「別にいいじゃん、泣いてたって」そっと頭を撫でられる。僕はまた、安心して泣き始めた

2021-01-25 16:48:12
桜木恵 @kei_sakuragi__

私の寝る前のルーティンは、人には理解されない。それは、自分の手で、自分の首を軽く締めること。この圧迫感を感じて初めて、穏やかな眠りにつける。こうしないと寝れなくなったのは、一体いつからだっただろう。私なんてと、自暴自棄になったのは、いつからだろう。「明日なんて来なければいいのに」

2021-01-19 19:33:40
桜木恵 @kei_sakuragi__

緊張で指先が冷える。ポケットからカイロを取り出して、不安を消すように揉んだ。周りには、私と同じように、制服に身を包んだ人がたくさんいる。みんな頭が良さそうで、今までの努力がちっぽけなものに思えた。その時、携帯が着信を告げた。開くと、そこには「やってこい!」の文字。「やってやるよ」

2021-01-17 20:54:12
桜木恵 @kei_sakuragi__

恋がどういうものか知らなかった。誰かのことを思って一喜一憂する人が、私は理解できなかった。でも夜、街を歩いているときに出会った貴方は、一瞬で私の心を魅了した。光を浴びてキラキラと輝く髪に、私は目が離せなくなった。貴方を私のものにしたい。恋とは、黒くて恐ろしいものだった。

2020-12-28 20:07:48
桜木恵 @kei_sakuragi__

「恋愛なんてクソくらえ」そう吐き捨てた言葉に、意味なんてなかった。恋愛に恨みなんてないし、目の前の女性に言うような言葉でもなかった。彼女は驚いたように目を開き、気まずそうに俯いた。「私の想いは届かない?」彼女の手は硬く握られていた。「うん、きっと届かない」 僕は恋がしたかった。

2020-12-25 15:11:32
桜木恵 @kei_sakuragi__

「君じゃなくてもよかった」寒空の下、白い息を吐きながら、君は唐突にそう言った。「そっか」私は足元に転がっていた石ころを蹴り飛ばす。一瞬宙に浮いて、塀に当たって地面に落ちた。「でも、君じゃなきゃ嫌だった」遠くからクラクションが鳴った。「うん」そっと顔を上げると、君と視線がぶつかった

2020-12-22 17:56:05
桜木恵 @kei_sakuragi__

何も考えず、ただ空を眺める。鳥が幸福を謳い、風が喜びを招き、日の光が明日を照らしている。なんでもない日常が、ぱっと明るくなるような、そんな気がした。「ご飯できたよ」背後から聞こえる愛しい声音に、私はうっとりと浸った。日常が日常でいられるのは、そうあろうとするからだろう。「今行く」

2020-12-20 21:48:30
桜木恵 @kei_sakuragi__

魔法が使えたらいいと、今まで何度思ったことだろう。もし使えたなら、今すぐ君の元に飛んでいけるのに。君を笑顔にできるのに。不治の病を治してあげられるのに...。私はビデオ通話で顔を見て「大丈夫」としか言えない。君は笑って「ありがとう」と返すけど、その声は日を追うごとに弱くなっていった

2020-12-18 18:29:36
桜木恵 @kei_sakuragi__

私の世界は生まれたときから真っ暗だった。私は目が見えない。そんな私の世界は音からできている。ありとあらゆる音が私の存在を証明している気がした。「私が貴女の目になりたい」隣に立つあなたは、そう言って口づけを落とした。途端に、真っ暗な世界に鮮やかな色が付いた気がした。世界は綺麗だった

2020-12-14 17:04:46
桜木恵 @kei_sakuragi__

その一報は、私の携帯が告げる前に夕方のニュースが報じた。私の想い人がビルから身を投げた、というものだった。私はまだ想いを告げていない。告げる前に、その相手は私の前から姿を消してしまった。原因は分からない。私は、いつもニコニコ笑う貴方しか知らなかった。「大好きだったのに」

2020-12-13 16:01:37
桜木恵 @kei_sakuragi__

寝室の天井を眺めながら、君の言葉を思い出す。今夜の夜空は雲ひとつなく、たくさんの星々と満月が浮かんでいた。「月が綺麗ですね」それが I love you と同義であるということは、先日君から教えてもらった。そしてそれに対してどう答えれば良いのかも。しかし僕は「うんそうだね」としか言えなかった

2020-12-12 20:33:37
桜木恵 @kei_sakuragi__

全てから逃げた。ミスをしたことも、小さな段差で躓いたことも、雨が降ったことも、全部人のせいにして。自分は何も悪くないと思いながら、罪悪感に浸った。逃げたって何も残らないというのに。無くなるだけだというのに。そう分かっていながら、尚も私は逃げ続ける。全てを捨てて、自由になるために。

2020-12-10 17:57:15
桜木恵 @kei_sakuragi__

「神様なんて信じない」そう言った彼女は、一切神に縋ることはなかった。己を信じ、自らの思いに忠実に、偽ることなく突き進んでいた。そんな彼女が羨ましかった。だから言った。「君になりたい」と。そうすれば僕が僕で居られる気がしたから。「私は君になりたい」僕の言葉に、彼女はそう言って笑った

2020-12-09 15:01:03
桜木恵 @kei_sakuragi__

私の1日は貴方の1年。私にとっての1ヶ月は、貴方にとっての30年。生きる世界も時間も違う私たち。だからこそ惹かれ合い、愛し合った。貴方はあっという間に歳をとり、私を置いて逝ってしまった。この出会いはなんと言葉にしたらいいのだろう。運命なんて、そんなありきたりな言葉では言い表せない。

2020-12-07 20:48:35
桜木恵 @kei_sakuragi__

人はいつか死ぬ。生きとし生けるもの、生あるものは必ず辿る運命だ。もしそこに永遠の命、不老不死があるとするならば、それは生きていると言えるのだろうか。死ぬこともできず、生きているとも言えず、その存在は空中に浮いているようだ。「死にたくない」私は彼の手を握った。温もりが私の中を巡った

2020-12-06 14:08:10
桜木恵 @kei_sakuragi__

私がこの世から消えたとき、後には何が残るのだろう。流されるように生きて、全てを他人のせいにして、自分で自分を偽って。本当の私ではないと思いながら、その全てが私だったと知ったとき、言葉にできない重さが私にのしかかってきた。何も成せず、意味の見出せない私の人生には、何が残るのだろう。

2020-12-04 19:22:32
桜木恵 @kei_sakuragi__

無数の星が煌めく夜空から、1つの綿が降ってきた。後からあとから、それは勢いを増して私の肩に落ちていく。触れては消えて、消えては触れて、そんなことの繰り返し。しんしんと。ただ、暗い夜にしんしんと。音もなく降っていく。そんな時、ポケットの中の携帯が鳴った。「雪、綺麗だね」「そうだね」

2020-12-03 19:26:39
桜木恵 @kei_sakuragi__

輝かしい未来なんて、そんなの絵空事で、現実的じゃない。明日さえ見えないのに、一体どうやって未来を見ろというのだろう。「下なんか見てないで前向きなよ」君ならきっとそう言うだろう。僕の先を行く君の瞳は、希望と勇気とやる気で満ちていた。君は僕の希望の塊だ。輝かしくなくたって、これが現実

2020-12-02 14:41:47
桜木恵 @kei_sakuragi__

「愛してる」言葉にすれば嘘になると知っていながら、私は尚も口にする。正面に座る君はゆっくりと瞬きをして、優しく微笑んだ。「僕も愛してる」愛の言葉は、言えば言うほど嘘になる。言葉自体に、一体どれほどの真実が含まれているのだろう。偽りの気持ちは、真実にどれほど含まれているのだろうか。

2020-11-20 15:56:11
桜木恵 @kei_sakuragi__

冬の夜の冷たい空気を肌に感じながら2人で静かな道を歩く。人も車も、虫の1匹さえもいない。世界に私たち2人だけのような錯覚をしてしまう。吐く息が白い蒸気となって空中に消えていき、頭上では星々が煌々と輝いていた。「寒いね」「そうだね、寒い」特に話すこともなく、ただひたすらに歩いていた。

2020-11-17 17:20:14
桜木恵 @kei_sakuragi__

幼い頃から僕の隣で笑っていた貴女。泣くときも怒るときも、決まって隣には僕がいた。それが当たり前だったから、これから先も変わらずに続くものだと思っていた。けれど、時が経つにつれて距離が離れていった。手の届かない場所まで行ってしまうような気がした。君は明日、僕の知らない男と結婚する

2020-11-16 17:23:10
桜木恵 @kei_sakuragi__

目の前を歩く彼を必死に追いかけていた。何かイベントをやっているようで、進むことすら困難な程の人でごった返していた。僅かな隙間を縫って進むも、思うようにいかず流されてしまう。彼との距離はどんどん開いて、姿が確認できなくなった。焦っていた矢先、右手に誰かが触れた。「やっぱり手繋ご!」

2020-11-15 12:46:13
桜木恵 @kei_sakuragi__

太陽が沈むとき。夕暮れ、日の入り、黄昏時。私と遊んでいた彼女は、毎日ある時間を境に、まるでシンデレラのように忽然と消えてしまう。私たちは2人で1つなのに、片方がいなくなってしまっては、私はずっと片割れだ。それでは困るのに...そろそろ帰らないと。でないと化物達に連れて行かれてしまう。

2020-08-26 22:33:09
桜木恵 @kei_sakuragi__

窓際に寝転んで、真夏の空を眺める。窓から差し込む光に目を細めながら、そよ風に耳を澄ます。それに混ざって遠くでセミの声が聞こえ、じっとりとした汗が滲む。目を閉じると僅かに眠気が襲ってくる。ドアの開く音がして「ただいま〜」と明るい声が部屋全体に響き渡る。今日の夕飯は冷たいものにしよう

2020-08-14 15:31:17
桜木恵 @kei_sakuragi__

深夜ベランダで空を見上げると、無数の星が輝いていた。いつだっただろう。男の子が「一番星は金星だよ」と教えてくれたのは。あの男の子は元気だろうか。あれがきっかけで天文学の道に進んだ私は、あの頃よりもずいぶん詳しくなった。あなたは今どこで、、。 すると、隣の家の窓が開く音がした。

2020-08-13 16:37:35
桜木恵 @kei_sakuragi__

勉強終わりの24時前、今日はいつもより頑張ったから少し贅沢をしようと泡風呂にした。もこもこした泡が乙女心を擽る。そう思っていた時、突然電気が消えた。暗闇の中聞こえてきたのは、とてもポピュラーなバースデーソングだった。時刻は24時ちょうど。そっか。今日は亡くなったおじいちゃんの誕生日か

2020-08-10 13:00:44
桜木恵 @kei_sakuragi__

ガチャンと玄関のドアが閉まる音が聞こえ、私は布団を頭まで被る。近づく足音に心臓が高鳴る。「ただいまぁ」布団を捲られ、キスを落とされる。もぞもぞと端によると、彼は布団の中に入ってきた。なんだか気恥ずかしくて笑ってしまう。この空間がいかに幸せだったか、私はまだ知らない。 #140字小説

2020-05-10 15:09:24
桜木恵 @kei_sakuragi__

目を細めて柔らかく笑っていたあなた。暖かい光を浴びて、キラキラと輝いていたあなた。声や動作の1つひとつが映画のように思いだされ、私の胸を焦がしていく。涙が溢れ、足に力が入らず崩れるように座った。床の冷たさが身体中を巡る。目を瞑ったあなたに、この思いが届くことはもうない。

2020-05-10 00:35:06