梅をテーマに#twnovel タグでショート小説かきました
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みお @miobott

#twnovel 淡い影が地面に伸びる。それは細くて柔らかな、白の影法師。呼ばれた気がして振り仰げば、そこには青空を背に大きく手を広げる白梅の花。「貴女でしたか」手を振れば、「ええもう目覚めてしまいました」彼女は照れたように薄い花弁で顔を隠すのだ。 pic.twitter.com/KyW1sAlTdr

2017-02-18 19:33:18
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みお @miobott

#twnovel 「春の娘を愛でたいのかい。それはいいが、うちの娘達はちょっとばかり気性が荒く、好いた男には何としても食らいつくがそれでも良いかね? 嗚呼、その覚悟はおありだと。ひひ、さても見上げたその覚悟。さてさて春の気候のように、穏やかな恋で済めばいいものだが……」 pic.twitter.com/bu9KfWp2Lx

2017-02-18 22:20:27
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みお @miobott

#twnovel 白の娘は香りが淡く、見た目も嫋やか。しかしどうにも群れる癖がある。一人きりじゃ寂しいと、一人二人と100人とやがて群れて天を覆い、そして彼女に惹かれた男達を、その膨大な花の筵で飲み込むのだ。彼女に恋をした男たちの髑髏は白梅の散る大地に、同じ色をして眠るという。 pic.twitter.com/IG4wcT8e03

2017-02-18 22:23:12
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#twnovel 黄色の娘は香りが良い。姿無くとも彼女の香りは幻覚のように漂う。香りは男達を虜にし煩悩の苦しみに突き落とす。そして男達は気がつくのだ。香りは幻覚ではなく、すぐ側にあることを。「やっとお目覚め?」目覚めた男はすぐ目前に迫る娘の顔と喉を締め付ける香りに悲鳴を上げた。 pic.twitter.com/xFoQpi5pdS

2017-02-18 22:27:54
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みお @miobott

#twnovel 桃色の娘は香りも薄く、見た目も艶やか。寂しげに顔を俯け頼りなさげに揺れるばかり。さても遠慮がちな良い娘と、惹かれた男が声をかければ彼女はゆるゆる振り返る。伏せた顔の下、赤い唇が妖しくにぃ、と笑った。その歯の奥、彼女が噛み殺してきた男達の死肉が見える。 pic.twitter.com/ckIganI8Ki

2017-02-18 22:33:02
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みお @miobott

#twnovel 東風に誘われ、愛しい人を追い、辿りついたは南の国。やっと会えましたねと、泣いて叫んで伸ばした彼女の白い手は、やがて一本の梅の枝となる。そして彼女はさとるのだ。南の地に流された主を追った彼女は一輪の白梅。愛しい主に触れることも叶わず、彼女はその地に根を張った。 pic.twitter.com/28hovbkHwL

2017-02-18 22:01:05
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#twnovel かつての愛憎を忘れ、今やただの美しい白梅と成り果てた彼女は、相変わらず主を祭ったその場所を眺めて過ごす。春になるたび涙のように花を散らす彼女を案じ、その可憐な姿を守るは一匹の狛犬。「安心して泣きなさい」と、彼は彼女を背に守り、ただ優しく問いかけるばかりである。 pic.twitter.com/deV4DVitt9

2017-02-18 22:03:28
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みお @miobott

#twnovel しかし彼女は知っているのだ。彼が彼女に抱く思慕を、悶えるような愛情を、知っているのだ。しかしその気持ちに報いる術など、彼女にはない。ただ感謝の意を込めて、美しい白梅の花を簪のごとく彼の頭にそっとかざしてやるばかりである。 pic.twitter.com/0KX4jySAXI

2017-02-18 22:05:46
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みお @miobott

#twnovel さらば、さらば。彼は涙を堪えて枝を蹴る。大きく広げた翼はまるで春の風を送る扇のよう。彼に振り落とされた赤の粒が、縋るようにちらちらと散る。「きっとまた来年に」、飛んで去るのは目白の彼。泣いて縋るは紅梅の君。春の恋は切なくも一瞬である。 pic.twitter.com/wLNa7Q9sFT

2017-02-18 19:44:28
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みお @miobott

#twnovel そして翌年。春の声が聞こえた彼は、草をかき分け慎重に進みはじめた。奇しくもその草の色は、彼のまとう衣と同じ色。「早すぎたのだろうか」柔らかな春の色に滲む彼は、まだ冷たい早春の風に震える。「しかし、春が私を呼んでいる」 pic.twitter.com/YrceiduenM

2017-02-18 19:47:56
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みお @miobott

#twnovel あたたかさに緩んだ水を覗き込み、彼はほろりと涙を零した。そこには数枚、散って流れる淡い紅色の花弁。「もう散ってしまったの」と彼は寂しく問いかける。「きっと来年と、そう誓い合った仲じゃあないか」零れた涙は春の水をますますあたたかく緩ませた。 pic.twitter.com/Aha2kvtBiH

2017-02-18 19:49:53
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#twnovel こちら、こちら。 一人で嘆く目白の背に、暖かな風が吹く。まるで彼の背を撫でるように優しく、優しく。 こちら、こちら。 囁きの優しい声は、春に先立ち咲く梅にふさわしい。水の上に、かすかに映る愛しい人の影に彼が気付くまで、あと少しのことである。 pic.twitter.com/yFKI9iMgo6

2017-02-18 19:51:30
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みお @miobott

#twnovel こんなに好いているのに、膚に触れることも、愛らしい唇を噛むこともできないのだ。ならばその身を喰ってやろうと、口に含めば彼女ははらはら花弁となって散って行く「また俺を置いて逝くのか」私は後悔の歯ぎしりをする。彼女が涙のように散るのを合図に、また一つ春が深まった。 pic.twitter.com/56dc4ZWf5Y

2017-02-18 23:39:25
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みお @miobott

#twnovel 赤い傘の下、人待ち顔の美しい女がある。開いた片側に近づいて「よろしいですか」と、私は浅ましくも声をかけた。しかしその人は微笑み首を振り遙か遠くを見て目を細めた。「ああ、あなたは」温い突風が吹けば、彼女は白梅に姿を変えている。「春と待ち合わせをされていたのですね」 pic.twitter.com/TrTyiBchQc

2017-02-18 23:50:31
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まとめたひと
みお @miobott

食べたり飲んだり書いたり。 書籍化📖 「上島さんの思い出晩ごはん」「極彩色の食卓シリーズ」「深川花街たつみ屋のお料理番」「彼女は食べて除霊する」 ヘッダーは@moshio_tsumuriさんthx お仕事依頼等は m.miobott@gmail.comまでお気軽に。 BOOTHで同人誌通販もしてます。