
Bryan Ward-Perkinsの「ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ」はそも氏がこの論を立てたのが、当時以前の欧州圏での古代末期~中世研究と一般書籍での一部展開に対しての反論であるという点を理解しないと、ただ読んだだけではピンとこないことが多いだろう。
2016-11-05 21:45:43
流れとしては云十年前から根強く残っていた「古代と比べ、中世欧州は"全て"暗黒時代であり、文明の断絶期であった」という典型的な中世暗黒史観が大本にあり、70年代以降からその偏見ともいうべき史観への疑問から中世再評価の研究が始まっており、80年代以降からそれはかなり拡大していた。
2016-11-05 21:50:22
その結果、中世ヨーロッパと一言で括られるばかりであったその時代が、古代からの連続性を語る上で衰退したどん底から、人口の拡大やそれに伴う経済圏、そして文化面での向上を通し、建て直しと発展期そして近世へと続く一つの強固で複雑性のある時代であったという妥当性を得た評価を今日では得ている
2016-11-05 21:53:48
しかし、この中世再評価研究の時流に乗って一部の研究やそれに伴う一般への展開にやや行きすぎなところがあり、かつての中世暗黒時代史観への反動ともいうべきか、しばしば事実とは異なり、中世欧州を持ち上げる、過剰評価するような論説が登場していた時期もあったのです。中世ユートピア論みたいな。
2016-11-05 21:56:56
この論説はイギリス、フランス、ドイツといった地域を中心に素朴なナショナリズムや民族主義と結んで一般に受けやすく、しばしば日本でいう新書や趣味人向けちょっとお高い一般書に相当するような本もでており、研究者だけでなく作家やエッセイストも乗っかっていたりしていたんですね。
2016-11-05 22:00:24
90~00年代にかけて、そういう時流があったんですよ。「古代末期から中世初期に移り変わる間に知識や技術は失われた、識字率が大きく低下したというのは間違いだ。技術はちゃんと国家レベルで受け継いでたし、識字率は古代からそう低下しなかった」「食糧生産率の低下も人口の激減もなかった」とか
2016-11-05 22:05:59
「私たちの遠いご先祖様はただローマ帝国と古代の文明に破壊と断絶を齎した蛮族ではなく、すでに衰退しきっていた西ローマ帝国を緩やかに乗っ取り、その知と技術を継承していた民族だったんだ」という感じの流行というか。インターネッツもちょうど流行り出した頃だったので広まりやすかったんです。
2016-11-05 22:07:51
実際、古代末期~中世初期は精神的文化面においてはPeter・Brown氏の「古代末期の形成」といった本をはじめ、成熟した、違った発達があったというのはある程度の妥当性がありましたから、それに伴って物質的なものもそうであったという理解のされかたもありましたしね
2016-11-05 22:15:30
もちろん、力量のある研究者はこの中世ユートピア的な持ち上げ方には慎重ではあったんですが……。でも、「古代末期~中世初期の人口層と兵力の少なさは単に史料の解釈の仕方による。または誤訳である」とか「書かれている数の対象が貴族のみだった」とかそういうこと言ってた人もいたしなぁ
2016-11-05 22:22:27
話がずれた。ともかく、そういった一つの説の流れがあり、それに対する疑問というか反証というかその説は成り立つのかという点からBryan Ward-Perkins氏が書いたのが「Fall of Rome and End of Civilization」だったわけです。
2016-11-05 22:29:58
だから、Ward-Perkins氏の「ローマ帝国の崩壊」は貨幣や日用品などの発掘量、古代末期~中世初期にかけての関所や都市、ウィッラ(別荘という意味の集落化または小都市化した土地)の数や分布の推移など客観的な数と考古学研究を元に「文明が終わる」という意味を淡々と記してるのです。
2016-11-05 22:36:14
えーと、だから(しまったどういう風に着地させたらいいんだこの話)、「ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ」はこういった当時の背景や流れから誕生した本であるという点と古代末期~中世初期にかけてのある程度の知識の下地と理解がないとあまりピンとこないと思いますハイ。以上解散!閉廷!
2016-11-05 22:42:51
ちなみにこういう流れがあるので90年代~00年代にかけて出版された海外の中世本の邦訳本はある程度警戒した方がいい点があったりします。(日本の、いやどこでもあるもんですが出版社って海外のエッセイストや作家が書いた本をちゃんとした研究者の本!みたいな体で高値で売ってること多いので)
2016-11-05 22:46:43
海外で一般受けして売れた特定説の持ち上げ本→売れてるので日本でも!→邦訳されて安っぽいペーパーブックでもちゃんとした装丁で売られる→行き過ぎた論説が妙にちゃんとした説のような感じに受け取られつつ日本でも流行る ウーンこの流れたまにある
2016-11-05 22:49:53
そういえばWard-Perkins氏って「ローマ帝国の崩壊」出版した時にボストン大学でこの本についてのインタビューを受けてこの本の意義や内容について長々と語ってるんですよね。なんか保存した記憶がある。
2016-11-05 23:03:41
@tenpurasoba4 こればかりはとにかく知識を積み重ねて時系列に研究史を見つつ、さらに内容も多角的に見ていかないと難しいですからね……いえいえ、大丈夫ですよ!
2016-11-11 00:24:20
@Legionarius_ ですです。ここから更に発展的に研究が進むことを望むとWard-Perkins氏も言ってますしね。反論という形をとったある種の論争本なので、これだけだとわかりにくいという人はやはり出るのでしょう。
2016-11-05 23:01:29