
バラーラデーヴァの殺気が春の離宮を包んでいるなか「父親は誰だ???」と周りはざわめいている 経産婦のデーヴァセーナがやってきて 来るなというのに 「周りが何を言おうが義兄上の子はマヘンドラの兄弟となります」とだけ言って去っていく(デーヴァセーナは徳のないバラーラデーヴァがきらい)
2018-07-03 11:52:08
シヴァガミはバラーラデーヴァの子のためにたくさん贈り物を用意する ビッジャラデーヴァはどうせ生まれてくる子は何も手に入れることができないと諦める セートゥパティはそばにいて バラーラデーヴァの八つ当たりの相手を心から望んで引き受けている 王 バーフバリは来ない 来るなと言われたからだ
2018-07-03 11:56:35
臨月のバラーラデーヴァの殺気で春の離宮周りの生き物がみんな死んでしまったりしてほしい 木々は枯れ 小鳥たちは地面に落ち 池の魚はみんな浮いて 体調が悪かった衛兵は休職し 静まり返った不気味な春の離宮で 膨らんだお腹を抱えたバラーラデーヴァがひとり 脂汗をかいて苦しみに耐えている
2018-07-04 03:07:49
クマラ・ヴァルマがやって来て 赤子のためにと言って毛皮を差し出した バラーラデーヴァはこの男の従妹が自分をたいそう嫌っていることを知っているので なぜ来たのか問うた 男は毛皮を綺麗にたたみながら 来たかったのです とだけ答えた 心細さまで捨てた人の周りに誰もいないのは見ていて辛かった
2018-07-04 03:19:27
春の終わりにバラーラデーヴァは女児を産んだ 生まれたばかりの娘に 神も 祈りも 祝福もない名前を付け 最初に駆けつけたシヴァガミに「この娘は民から隠すべきです 私も含め 誰にも望まれていないのだから」とだけ伝え 深い眠りに入った 目覚めぬうちに国王バーフバリが来て ひっそりと娘を祝福した
2018-07-04 13:05:32
王子マヘンドラバーフバリは伯父の養子バドラとよく遊んだ ある日ふたりは宮殿の中でもう一人の子供に出会った とても美しい少女だが 瞳の中に何も映っていないような表情をしていた どこの貴族の娘だろうか?バドラが名前を聞いても 娘は口を開かなかった
2018-07-04 13:20:07
「バドラ あのこはどこから来たんだろう?」「追いかけて捕まえようよ」「だめだよ でも…宝石がたくさんついていた 違う国のお姫様かもしれない」その夜 マヘンドラは膝枕の母に少女の話をした 母は不思議な表情をし どこで見かけたのかをマヘンドラに問うた
2018-07-04 18:35:04
バドラも父に少女の話をした 父はただひとこと 望まれぬ子だ とだけ言った バドラは赤ん坊の時本当の両親を亡くし この父に望まれて育てられた 「でもたくさん宝石がついていた 綺麗な服も着ていました どうして?」父は黙ってしまった バドラは心から 父の沈黙を美しいと思った
2018-07-04 18:48:51
「母上 あれを離宮から連れ出しましたね」「お前の子です 王族の子です 王宮に立ち入る権利があります」「権利の話ではありません 私はあれに国を 世界を 見せたくないのです」「どうしてそのようなことを 自ら腹を痛めた娘に どうしてですか」「私は父上のように 虚しい望みを持ちたくないのです」
2018-07-04 19:01:59
バラーラデーヴァは自ら産んだ娘に 自分と同じ運命を感じた おそらく誰も愛する事の叶わない心を持つだろう そのような娘が デーヴァセーナの産んだ、我が弟に瓜二つの少年に出会ってしまったら 炎の道が待っている だから離宮で静かに静かに育てた 最も言えば殺しておくべきだったが 母が拒んだのだ
2018-07-04 19:16:07
デーヴァセーナはシヴァガミの寝所を訪れた そこには息子の話していた娘がおり シヴァガミは娘に書物を読ませていた 「お前の叔母上ですよ 挨拶なさい」娘は黙ったまま手を合わせた 「そなた 言葉が話せないのですか」娘は怯えているようだった お前の存在を最も望まぬ女がいると父から聞いていた
2018-07-04 19:27:27
尻切れだけどここで終わってます きっとバラーラデーヴァの産んだ娘はデーヴァセーナに惹かれデーヴァセーナから生まれたマヘンドラを羨み自分を産んだバラーラデーヴァの孤独を思うのでしょう そして病であっけなくこの世を去り 春の離宮はそんな娘がいたことさえ忘れるのです
2018-07-11 00:27:39
デーヴァセーナは娘の書いた手紙をずっと持っている その手紙には デーヴァセーナへの好意と もしデーヴァセーナの娘だったならという空想が綴られ 最後に 「わたしのお母様たち」とあった バラーラデーヴァと自分だ 娘の複雑な心の内を聞き出す間も無く 娘は起き上がれなくなり 息を引き取った
2018-07-11 00:45:40
あの孤独で冷たい男の中の、ほんのひと雫の徳がこの娘となって、いま消えてしまったのだと思った 娘は川へ流れてゆく 二度と回生しない マヘンドラとバドラは流れてゆく娘を追いかけようとしたが 命の河の流れは早く あっという間に娘は見えなくなってしまった
2018-07-11 00:50:00
デーヴァセーナはこの手紙のことをバラーラデーヴァに話すことはない バラーラデーヴァは娘が自分と同じ冷たい存在であると信じていた その娘がごく普通の 愛を持ち 慈しみを持つ 美しい姫であったことを知れば どうせまた私とマヘンドラの所為にするだろう 面倒くさい
2018-07-11 01:02:30