獄中あがつま、釈放されて何を真っ先にするかといったら髪を剃ること。下の毛も剃る 虱を飼ってしまっているから でもあの当時供出が相当激しかったから剃刀も相当保管してるの難しかったと思う 名家でよかったな
2021-09-26 20:25:36その人と目が合ったとたんにわかった。 わかってしまった。 「――よろしくお願いいたします、師範」 俺は土の上に額づいて泥に額を擦り付けた。 爺ちゃんは、痛みを抱えたような、でも決意と安堵とに満ちた声で言った。 「――前世以上に、厳しくいくぞ。覚悟はできるか」 「望んでいます」
2021-09-27 03:34:02この人は俺を探していて、鬼はまだいるのだとその目が雄弁に語っていたから。 爺ちゃんは一つ、疲れたような大きなため息をつくと、俺を引き取る旨を職員に伝えた。
2021-09-27 03:34:02それから何が起こったかって?職員たちは大パニックだ。俺に貰い手が付くなんて、はなから思っていなかったらしい。わかる。俺だって思ってなかった。 本当にいいのかと、俺は下着以外裸に剥かれて爺ちゃんの前に差し出された。今なら児童虐待で通報されちゃう案件だろうが、
2021-09-27 03:34:03俺がいかに「ハズレ」なのかを一目で知らしめるにはそれしかなかった。 爺ちゃんは、さすがに驚いた顔をしていた。 それから、きゅうっと痛ましげに顔を深くしかめた後に、「馬鹿だの、善逸」と呆れたように俺の頭を掻き廻した。 心の隅がほんの一かけら溶かされたような心地がした。
2021-09-27 03:34:03俺、こんな足ですよ、と最初は笑って言えたのだ。徴兵検査にだって弾かれた、時に痛みを発するこの両足。それでも、彼らが繰り返すのは同じ言葉で。 『迅雷となれ』『迅雷と鳴れ』神の裁きとなって、戦場を駆けよ。 ――さもなくば産屋敷の現当主の首を『貴様ら』への土産に刈ってやる。
2021-12-04 14:45:52ああ、それが、どれだけの絶望で、どれだけの脅し文句か。あの戦場を駆けた彼らには、ひとたまりもなかったに違いない。そして、『彼ら』を鼓舞するために己が前線に立てという。
2021-12-04 14:45:53――何とはなしに、それをふっと思い出す。目の前の老人は、痛ましい顔で、申し訳ないと心から思う音で、それでも覚悟を持って、あの頃の彼らと同じ言葉を俺のために発した。 「迅雷と鳴って戦場を駆けてくれぬか、善逸」 応諾してひれ伏したのは、決してあの日の彼らのためでは、なかったが。
2021-12-04 14:45:53不思議と、しんどくはあっても、最終的に今世の善逸は何とか雷のすべての型を習得するに至った。その馴染み方は、「体質と体型との変化にも関わるだろう」とは二世にすら及んだ大恩の師の言だが、首を傾げざるを得ない。
2023-01-31 21:27:07