深夜明け方。何かがどこからともなく還ってきてくれるのかも
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深淵まんまる @marufuwafuwa23

眠れない夜には眠れないときの話をしよう。 あれは、今日と同じく深夜に目覚めた日のことだった。 まだ朝と呼ぶには暗すぎて、夜と呼ぶには深すぎる。そんな時刻。 ふと、部屋の隅を見ると黒黒と闇が蟠っていた。 白い壁も薄暗く灰色に。 その中でもひときわ暗い影のような場所が隅にできていた。

2022-10-20 04:46:24
深淵まんまる @marufuwafuwa23

もぞもぞと蠢くそれに、連日続く仕事の疲れか頭がぼやけていたらしい。 恐怖を抱くことはなかった。 ただ、「ああ、なんか黒いなあ」としか思えない。 変な時間に目覚めたせいで、二度寝するのも憚られる。 朝、起きれなかったら辛いな。 そう思いながら、部屋の隅をまじまじと眺めていた。

2022-10-20 04:48:16
深淵まんまる @marufuwafuwa23

黒黒は、じわじわと這いずるようにこちらに近づいていた。 その動きは、まるで昔飼っていた猫を思わせた。 近づき方に悪意を感じなかったのだ。 だから、頬杖をついてそのまま近づいてくるそれを眺め続けた。 あるいは、夢の中の一幕と思っていたのかもしれない。 黒黒と不自然な闇色は鈍臭い仕草で

2022-10-20 04:50:20
深淵まんまる @marufuwafuwa23

ベッドによじ登ってきた。 悪霊の類ならばもう少しスムーズに登りきってくるだろう。 心做しか、ジタジタと藻掻きながらも苦労して上っている様子に、口元がゆるんだ。 何してるんだろ。 特に手を貸すでもなく、黒黒とした闇がベッドの上、自分の体を這いずるを見た。 なんだか、あたたかった。

2022-10-20 04:52:38
深淵まんまる @marufuwafuwa23

嫌な生暖かさではない。 生き物のぬくもりのようなあたたかさだった。 それで、あぁ、と理解した。 布団を軽く広げて、ちょいちょいと指で見えない何かを誘った。 もぞもぞと、黒い毛玉のようなそれは這いずってきて、広げてやった布団の中、脇の下あたりに収まった。 遊びに来てくれたんだなぁ。

2022-10-20 04:54:33
深淵まんまる @marufuwafuwa23

随分と前に亡くなってしまったのに。 触ろうとして、手を伸ばしかけるが、止めた。 きっと触れば消えてしまうのだろう。 いつだってそうだった。 触ろうとすると、するりと身を躱して去っていく。 そうして、少し離れた場所からこちらを眺めて「ふふん」と笑っていたのだ。 ねこ。 猫猫。

2022-10-20 04:56:11
深淵まんまる @marufuwafuwa23

久しぶりに会えたねえ。 こんな眠れない夜だからと、心配して会いに来てくれたのかい。 ぎゅう、とくっつかれたところだけが生き物の柔かなぬくもりにあたためられて。 でも、きっとこの子に触ることはもうできないのだなということだけは何故かはっきりと分かって。 数年ぶりにやってきたこの子を

2022-10-20 04:57:50
深淵まんまる @marufuwafuwa23

抱くこともできずに。 ただ、寄せてくれる体のぬくもりだけを感じることしかできずに。 そのまま、胸の苦しさを抱えながら、いつしかうとうとと、また夜の眠りに微睡んでいった。 また遊びに来てくれないか。 どうか、毎晩、慰めに来てくれないか。 そんな祈りを胸に懐きながら。 夜は更ける。

2022-10-20 04:59:52
深淵まんまる @marufuwafuwa23

結局、そのまま朝になった。 布団をはぐって見てみると、昨日の名残は何も残っていない。 いや。 脇の下に残る、このぬくもりだけは確かに残っていた。 ベッドに残るあの子のぬくもりを手のひらで感じながら。 朝だというのに、切なさで息が苦しくなって、私は少しだけ、泣いた。

2022-10-20 05:01:57
深淵まんまる @marufuwafuwa23

それ以来、眠れぬ夜にはこうして部屋の隅を眺めている。 また、あの不器用な様子でベッドによじ登る可愛い黒がやってきやしまいかと。 きっと、そんなに会えることはないのだろうけれども。 眠れぬ夜にはそんなことを考える。 疲れた夜には、特に待っているのだよ。おまえを。 ねこ。

2022-10-20 05:03:38
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まとめたひと
真円まんまる @mannmaru2020

20↑。アイコンは壱(@dmnsmn_)様より。鍵つけているのはR18だらけだから。あと、検索避けしていないので。ゾーニングの一種と思っていただければ。 固定ツイに色々と置いています。ご参考までに。 全年齢アカは→(@GOMAKO23)癖が特殊なので各自ミュートなど宜しくお願いいたします。