(pp.191- 6 ) 「〈もの〉へのとらわれとこだわり…ためこみ症を中心に…」加藤研太・中尾智博
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ASDみのある姉貴氏は、チラシや紙切れにメモ書きしてため込む、文字通り reminder 収集行為が常態化していて、病室でもベッドのシーツ下にため込んでいるらしい😭 『精神科治療学~病的な「とらわれ」と「こだわり」の現在形…繰り返し行動などの臨床像や対応を含めて…』Vol.38, No.2, Feb. 2023 pic.twitter.com/90SSAc9rNa

2023-03-04 00:32:56
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(pp.191- 6 ) 「〈もの〉へのとらわれとこだわり…ためこみ症を中心に…」加藤研太・中尾智博  所有物としての「もの」へのとらわれ、こだわりを認める代表的な精神疾患として、ため込み症( hoarding disorder, HD )がある。HDの主症状であるためこみは、所有物の実際の価値と関係なく廃棄が困難で

2023-03-04 00:42:26
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過剰な収集や整理不能による散らかりが持続する状態を指す。ためこみが過剰となると、本人および家族の生活空間がもので圧迫されて生活に支障を来すようになり、疾患としてHDと診断される。  認知度の低さゆえ、医療者がどう対処してよいかわからずに対応に苦慮、あるいは疾患とは扱わずに

2023-03-04 00:47:57
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「性格の問題」や「努力不足」と家族と同様の評価を下すことで、より医療から遠ざかる可能性すらある。  しかし、ものをためる行為が極端になるとHDに必ずしもなるわけではなく、コレクターも大量にものをためうるが、たとえ物量が同じであってもHDとは診断されない。

2023-03-04 00:52:29
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自閉スペクトラム症(ASD)もこだわりから大量のものをためうるが、臨床的な視点からもHDとは異なる点がある。  HDの疾患概念は比較的新しく、これまではその行動様式の強迫性から強迫性/強迫性障害( OCD )のサブタイプの1つである compulsive hoarding として扱われてきた。

2023-03-04 00:57:50
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しかし、近年、ためこみ症状はOCDの他の症状から独立して存在することが明らかになり、臨床経過についてもOCDが2峰性に発症し、軽快と増悪を繰り返すのに対してHDは幼少期に発症後は自然軽快せずに慢性化することが示唆された。HDは他にも、症状への不合理感の乏しさ、洞察や治療反応性の低さなど、

2023-03-04 01:03:56
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OCDとは異なる側面も多く、これらの臨床的な違いからOCDから分離し、2022年2月のWHOのICD-11でも、HDはDSM-5と同様に、obsessive-compulsive or related disorders に分類される疾患群の1つとしてOCDと区別されている。  DSM-5の診断基準に沿って、HDの診断的特徴をみてみる。

2023-03-04 01:12:05
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HDがためこむ対象について。DSM-5の診断基準Aでは、「実際の価値とは関係なく」所有物が廃棄困難であることが明記されている。書籍、服、紙袋、書類、段ボールなどの割合が多いが、どんなものでもためこみの対象になりうる。HDのサブタイプとして知られる動物ためこみでは、飼いきれないほどの犬や猫

2023-03-04 01:17:38
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などを最低限度の栄養や衛生、獣医医療を与えない劣悪な環境のまま飼育する。  ためこむ対象について、HDと他の疾患との違いであるが、例えばASD患者も多くの所有物を集めることがあるが、その対象はASDが認めやすい限定的な興味に基づいたもので、奇妙だが一貫したテーマ性を持ち、質感や素材、

2023-03-04 01:23:31
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形など似たようなものを多く収集する傾向にある。一方でHDは幅広い分野の所有物を集める傾向にあり、ある程度のテーマ性はあったとしても、そのテーマに沿わない所有物にもためこみは及びやすい。OCDでは身体から出たもの(便、尿、爪、頭髪、使用済み紙おむつなど)や腐った食品などをためこむことが

2023-03-04 01:28:43
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あるが、これらがHD患者のためこむ対象になることは非常に少ない。また、コレクターはテーマ性が明らかだが、ASDと比較して奇妙さは少なく、比較的理解しやすい点において異なる特徴を持つ。  診断基準Bの廃棄困難につながる「品物を保存したいと思われる欲求」と「捨てることに関連した苦痛」は、

2023-03-04 01:32:48
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HDにとってより特徴的な点である。例えばOCD患者が不潔恐怖のために所有物が触れない場合やうつ病患者が意欲低下のために片付けができない場合も結果的にためこみの状態になりうるが、その場合患者の行動は受動的で意図的ではないため、自分以外の他者が片付けを代行しても差し障りはない。

2023-03-04 01:37:31
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しかし、HD患者は意図的にためこんでいるため、他者が片付けようとしても苦痛を感じる点において、これらの疾患とは明確に異なる。  診断基準Cの「取り散らかり」は、HDがコレクターと異なる点である。コレクターの収集物の配置や数は管理され整った状態になっているが、HDは取り散らかりによって

2023-03-04 01:41:48
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所有物の管理はできておらず、どこに何があるのか正確には把握できていない。また、ASD患者はためこんでいる対象を綺麗に整列あるいは分類することに喜びを感じることが多く、この点においてHDと区別される。  診断基準Dでは、ためこみによる苦痛または機能障害が問われるが、HD患者の多くは

2023-03-04 01:45:55
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自我親和的にためこみを行っており、ものに囲まれることを好意的に捉えていることも多々あることを反映して、「自己だけでなく他者にとって安全な環境を維持するといったことを含めて」という文言が添えられている。  診断基準Eではためこみを呈しうる器質的な疾患、脳損傷、脳血管疾患、

2023-03-04 01:51:50
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プラダーウィリー症候群の除外が、診断基準Fでは、HDのためこみとその他の疾患が影響したためこみとを区別することが求められる。またHD患者は75%に依存症を認め、気分障害圏をはじめとして発達障害圏、不安症圏など様々な疾患が合併し、その依存症の多さも特徴的である。

2023-03-04 01:55:43
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依存症がためこみ状況に影響する場合もあり、例えば『テーマ性があり、形状や質感が似たものを収集するが(ASDの特徴)、取り散らかりによる生活障害を認め、その他の所有物についてもためこみを認める(HDの特徴)』のように、HDとASDの両方の特徴がためこみに現れる場合もある。

2023-03-04 02:00:47
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この場合はHDとASD両方を診断し、双方がどのような成り立ちでためこみに影響しているかを評価する必要がある。  「とらわれ」とは、語義的には「身体的に捕らえられること」「固定観念などに拘束されること」を指す。能動的ではなく、強制的・支配的といった否定的な意味合いで用いられやすい。

2023-03-04 02:06:26
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一方、「こだわり」は「ひとつのことに強く思い入れ、執着すること」であり、能動的、自我親和的で肯定的な意味で用いられることも多い。  HDの認知行動モデルはまだ明確ではないが、compulsive hoarding について Steketee や Frost らが提唱したモデルがその理解に役立つ。

2023-03-04 02:11:50
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そのモデルでは、HDの病態を《脆弱性要因》→《信念・愛着》→《感情反応》→《ためこみ行動》の流れで説明している。HDの《脆弱性要因》は、注意や記憶、分類化の障害などの患者が持つ情報処理プロセスに関する《脆弱性要因》と、人生早期の愛着やいじめなどのネガティブな体験、完璧主義あるいは

2023-03-04 02:17:34
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高い不安感受性などの性格特性、等の個別の《脆弱性要因》からなる。それらの《脆弱性要因》が、次に述べるHDに特有の《信念・愛着》に繋がっていると考えられている。HDの《信念・愛着》は、有用性・審美性・感傷的価値からなる《所有物への信念》と、個人の脆弱性・責任感・記憶に関連した

2023-03-04 02:22:57
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《自己への信念》の2つに分類することができる。  《所有物への信念》のうち、まず有用性であるが、例えば「〇〇みたいな時にあると便利だから」など所有物が便利で有益であるという点を重視することに基づいている。審美性は所有物が持つ美しさの重視であり、「折り目のない綺麗な段ボール」などが

2023-03-04 02:28:44
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それにあたる。感傷的価値は所有物への愛着や良き日あるいは自身の頑張りに関するリマインダーの作用を持ち、具体的には「長く使っていて愛着のある壊れた扇風機」「子どもが小さい頃に愛用していたベビー服」「仕事が多忙だった時に頑張って作った資料」などがこれにあたる。

2023-03-04 02:33:15
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《所有物への信念》は所有物に対して肯定的な《感情反応》を生み出すことで、収集あるいは廃棄困難などの《ためこみ行動》に繋がる。《所有物への信念》は、所有者が持つ些細な利点や細部の特徴への着目によって生じており、「こだわり」と捉えることができる。

2023-03-04 02:37:23
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一方、《自己への信念》は、個別の《脆弱性要因》から生じると想定されており、低い自尊心、無駄や機会損失に対する過剰な責任感や、ミスをしやすいなどの記憶に関する信念、等からなる。《自己への信念》が影響することで、所有物を廃棄することへの不安や恐怖心、罪悪感などの否定的な《感情反応》に

2023-03-04 02:41:55
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繋がり、その否定的な《感情反応》を避けるために収集行為を行うことで、結果的に散らかりが生じる。《自己への信念》がもたらす否定的な《感情反応》に拘束されることで《ためこみ行動》が維持されている点から、「とらわれ」と捉えることが出来る。

2023-03-04 02:45:45
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ASDの場合、患者が認める行動はしばしば「こだわり」と評される。「もの」については、一般に軽視されるような細かい部分に対してASDに基づいた奇妙で独特な信念が介在することで、能動的・自我親和的に収集される。収集されたものは少なくとも患者本人にとっては肯定的な作用を持つと思われ、

2023-03-04 02:49:53
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HDと同様に「こだわり」の側面が強い。収集物が廃棄困難に至ったとしても肯定的な作用を持つ「もの」を手放すことへの苦痛の要素が強く、通常HDのような《自己への信念》に伴ったものではない。そのことを踏まえるとASDの「もの」に対する捉え方は「こだわり」と表現することが適切と言える。

2023-03-04 02:54:09
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コレクターは、収集物に対しては能動的で肯定的である。限定品などについては、今後手に入らないなどの不安も生じうるが、それ以上に限定品を手に入れることへの肯定的な作用のほうが強いと思われ、こちらも「こだわり」の側面のほうが強いと思われる。

2023-03-04 02:57:22
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OCDについても症状サブタイプによってはHDに似たような病態を呈しうる。過失不安では、「自分が誤って重要な書類を捨ててしまうのではないか」という強迫観念が生じると不要な書類であっても不安から処分できずに、二次的なためこみの状態に至る場合がある。

2023-03-04 03:00:59
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この場合、強迫観念が生じる先行刺激はあくまで「もの」を処分しようとする自分自身の行為にあり、その「もの」自体に価値を見出しているわけではない。そのような点を鑑みると、二次的なためこみを伴ったOCDは「とらわれ」の側面が強く、所有物に関する価値に関連した「こだわり」は認めない点で

2023-03-04 03:05:46
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HDと区別することができる。  三項随伴性とは、「先行事象(A)→行動(B)→結果事象(C)」の3つの項を用いて、行動がもたらす影響について捉える方法である。  (B)→(C)で(C)が〈増加・出現する/低下・消失する〉場合は〈正の/負の〉、(B)→(C)の結果、次の(B)が生じる頻度が〈増える/減る〉ことを pic.twitter.com/Lsvb9R6NCi

2023-03-04 03:16:25
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〈強化/弱化〉という。 所有物への肯定的な感情反応は、所有物を廃棄することで失われ(負の)、その結果廃棄する頻度は減る(弱化)と想定されるため、〈負の弱化〉となる。次に、所有物への肯定的な感情反応は収集によって強まり(正の)、その結果収集する頻度は増える(強化)ため、〈正の強化〉となる。

2023-03-04 03:25:01
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"「もの」へのこだわり " は所有物への肯定的な感情反応と関連し、所有物への肯定的な感情反応による廃棄への負の弱化と、収集への正の強化の2つによって説明ができると思われる。HDとコレクター、ASDは "「もの」へのこだわり "という共通の基盤で繋がっていると言える。

2023-03-04 03:30:08
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同様に、所有物に関する自己への否定的な感情反応は、廃棄によって強まり(正の)、その結果廃棄の頻度は減る(弱化)と思われ、〈正の弱化〉となる。さらにこの否定的な感情反応は、収集によって弱まり(負の)、その結果収集の頻度は増える(強化)と思われ、〈負の強化〉となる。

2023-03-04 03:36:18
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"「もの」へのとらわれ " は所有物に関する自己への否定的な感情反応に関連し、廃棄への正の弱化、収集への負の強化の2つによって説明できる。HD、OCDは "「もの」へのとらわれ " を共通の基盤として捉えることが出来る。  このように見ると、「こだわり」と「とらわれ」は生じる結果は似ていても、

2023-03-04 03:40:53
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作用機序が異なると言える。HDはコレクターやASD、OCDと行動分析の点においてそれぞれ共通する基盤はあるが、「こだわり」と「とらわれ」の両面から廃棄が弱化、収集が強化されることがHDの特徴と言える。自我親和的な「こだわり」が「とらわれ」への抵抗を削ぐことで症状が強固に維持されやすく、

2023-03-04 03:48:41
花びんに水を☘ @chokusenhikaeme

HDが発症後に自然軽快せずに慢性化するところにも影響していることが窺える。  HDは自我親和的な「こだわり」ゆえに「とらわれ」に立ち向かうことが困難である。また、周囲からは「こだわり」のために「とらわれ」が目立たず、しばしば『性格の問題』『努力不足』などと決めつけられる。

2023-03-04 03:52:34
花びんに水を☘ @chokusenhikaeme

医療関係者であっても周囲と同様の評価を下すことも珍しくない。その結果、HD患者はより周囲から孤立し、「もの」と自分の世界にこだわり、傾倒し、とらわれていく。治療関係は精神科領域において治療の成否を分ける重要なファクターの1つである。以上、HD治療関係構築上の留意点について述べた。🧵

2023-03-04 03:59:49