11月の30日間、毎日お題に沿って小説を書く企画「Novelber」にツイノベで参加しました。 今年は毎日140文字ジャストで書いてみました。 お楽しみいただければ幸いです。
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綺想編纂館(朧) @Fictionarys

【物書きの皆様へ】 今日から「Novelber」開催してます!(企画内容とお題は画像を参照) まだ間に合います。遅れて参加も大歓迎! 基本的な流れは11/1にDay1のお題、11/2にDay2のお題と進んでいきます。タグは #novelber をご使用ください! #twnovel #小説 #140字小説 #お題 #創作 #ショートショート pic.twitter.com/xHH76qQP7A

2020-11-01 15:00:21
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街外れの森の奥深く、木漏れ日に照らされた空き地には忘れ去られた門がある。木々が続くだけのように見える格子の向こう側には、見知らぬ世界があるらしい。遠くに鳥の囀りを聞きながら、蔦が絡まる門扉の錠前に手を伸ばす。もう片方の手には、古びた鍵が1本。指先にカチリと響くはじまりの音。

2020-11-01 20:04:20
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目の前に広がるのは、生きとし生けるものたちが息をひそめ眠る音なき世界。月さえも凍りつき、ゆっくりと雲間に消えてゆく。銀世界を深い夜が抱き、闇色の濃淡だけで描かれる景色は雪明りさえも淡く沈んでいる。そこにただひとつ鮮やかなのは、雪よりも白く儚い一輪の花。零れた吐息に花開く、霧の花。

2020-11-02 21:04:48
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どこからともなく舞い散っては降り積もる言の葉を箒で掻き集める。元の地面が見えないほどに色とりどりの落葉で埋め尽くされた広場の真ん中には、伝えたくても伝えられなかった言葉たちの極彩色の山。中心でパチパチと燃える小さな火から煌めく煙が昇るのを見送って、遠い誰かに届きますようにと願う。

2020-11-03 14:36:09
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雨の銀糸を張ったといわれる琴は、弾き手がいなくとも雨の日を好んで気ままに音を奏でるという。琴が自ら鳴っているのか、雨が弾いているのか、薄暗い中でも時折、雨粒のように弦が煌めく。音もなく降る霧雨の中、縁側で奏でられる澄んだ琴の調べ。雨を乞う音色に応えるように、遠雷の鳴き声が重なる。

2020-11-04 19:29:34
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騎士の馬はどんな困難も飛び越える。背中に羽根はなくとも、その確かな脚力で高く遠く。勇気を秘めた真っ直ぐな瞳で、見据えた先にひらりと舞い降りる。そんな昔からの憧れを指先の駒に込めた最後の一手。ステイルメイトじゃつまらない。「チェックメイト」で終わるのがナイトの美学ってものでしょう?

2020-11-05 19:02:36
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有名な大怪盗だった祖父に兄弟で弟子入りをした。双子の僕らは似ていても、得意なことは正反対。一人前の怪盗になれないと嘆く僕らに祖父は言う。「大切なのは優秀な協力者だ」祖父の背後の窓辺には苦笑いをする同じ顔。もう一人の祖父は驚く僕らと目が合うと、目の前の祖父と同じ顔でニヤリと笑った。

2020-11-06 21:21:35
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冬の雪景色、春の満開の桜並木、夏の空と海。いつもは色に溢れた風景が一色に染まる瞬間が昔から好きだった。今日もカメラを手に日が沈むのを待つこと数十分。だんだんと色を変えていく景色と共に、私も一色の世界に溶けていく。秋は夕暮れ。色づく木々も落葉も、燃えるような夕日の赤に染まっていく。

2020-11-07 14:41:41
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眠れない時に数える羊の中には「幸運の羊」が紛れ込んでいるらしい。淡く輝くその羊がやってきたら、数える代わりにメェと鳴くと捕まえられるというので、半信半疑で眠る前に羊を数えてみた。羊が一匹、二匹、三匹…。眠りに落ちる瞬間に幸運の羊を見かけた気がするが、捕まえられたかは定かではない。

2020-11-08 15:18:16
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夕暮れの空に一つ星を置きに行くことにずっと憧れていた。夜の始まりに輝く一番星を置く仕事を任せられるのはとても栄誉なことなのだ。今日、僕は初めてあの空に一つ星を置きに行く。忘れられない夜になるのを予感しながら、目印の北極星からの位置を確かめて「宵の明星」と書かれた木箱に手を伸ばす。

2020-11-09 18:29:38
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いつもの時間、いつもの喫茶店で、いつものように本を読む。いつもの時間にやってくるいつものあの人が扉を開けるのを何気なく見ていたら、いつもと違って店内を見回したあの人と目が合った気がした。どこの誰かも知らないけれど、あなたの探した「誰かさん」が、いつもと違う席の私でありますように。

2020-11-10 18:55:25
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遺された一冊の手帳を地図代わりに、見知らぬ地に足を踏み入れた。文字で記された道筋を指先でなぞりつつ、昔ながらの街並みが残る景色を確かめながら歩く。最後の角を曲がった先にあったのは、栞代わりに挟まれた1枚のスケッチと同じ時計塔。この先の白紙のページを引き継いで、僕の物語はここから。

2020-11-11 18:30:04
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雲の端を摘まむと、指先にふわふわの質感としっとりとした余韻が残った。綿菓子のように尾を引いてちぎれた部分から指を離せば、そっと空気に溶けていく。秋晴れの空を見上げ、収穫した雲を空に放り投げたらしばしの休息。ふわふわと昇っていく雲が秋空の一部になったのを見届けて、小さく息を吐いた。

2020-11-12 19:03:59
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散っていく想いと枯れていく気持ちをごまかしていたら、心に穴が空いた。どんな方法を試しても、あれこれ詰め込んでみても穴は埋まらずそのままで。でも。ある日その場所に住み着いた君が「ここが居心地がいいんだ」って笑うから。傷ついた穴は埋まらなくても、やさしい君の隠れ家になるなら悪くない。

2020-11-13 19:59:42
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季節も時間も人の心も、うつろいゆくのが世の定め。わかっていても時が止まればいいと何度思ったことか。容赦なくやってきた別れの時に、2人で交わしたのはひとつの約束。再会の日まではなんて遠いことだろう。季節のうつろいを急かしながらも心だけはどうか変わらぬようにと、心星に願いをかける夜。

2020-11-14 17:05:29
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古い螺子を回して耳を澄ませば、小さなピンが綺羅星のような輝きを弾く。瞬きの音が肌を撫で、紡がれる音楽がゆるやかに時間を過去に巻き戻す。曲の題名も、歌詞も、歌う声の記憶も曖昧なのに、一曲分の穏やかな時間の思い出だけは鮮明で。閉じていた心の箱から溢れ出す想いを乗せて、口ずさむ夜想曲。

2020-11-15 18:00:32
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路地裏の小さな工房で月夜の色をしたインクを作っている。だけど今宵は雨だからと言い訳をして、仕事抜きの調色をすること数時間。ようやく完成したインクを瓶ごとランプにかざして覗き込む。そこにあるのは、淡い闇が溶け込んだ夜の雨空。隠れた月の光を秘めたこの色は、会えない君を想う僕だけの色。

2020-11-16 19:13:04
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代々受け継がれる洋館は、取り壊す人も逃げ出すくらいに見事な幽霊屋敷だった。買い取った先祖を始めとして、歴代の当主が怪奇的な仕掛けを年々ふやしているらしい。「なんでそんなことを」と呆れている横で父が「そのうちわかるよ」と笑う。視界の端で女の子が笑った気がするのは、きっと何かの錯覚。

2020-11-17 19:38:33
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ふと気づけば微睡みの国に来ていた。何度か訪れたことがあるだけで何も知らないのに、どこか懐かしい街並みが広がる不思議な国。はっきりと夢だとわかるくらいの浅い眠りの中、いつもの道を歩いても前回の記憶はなかなか思い出せなくて。今日もこの国の秘密に辿り着けないまま、深い眠りに落ちていく。

2020-11-18 19:11:26
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天国のひとつ前の街には、思い出のものが味わえるカフェ&バーがある。沢山のメニューの中から選んだのは、大切な人と初めて飲んだカクテル。緊張してあの時はまったく味がわからなかったけれど。口をつけると、懐かしく淡い恋の味。待ち合わせに遅れたあの日と同じように、もうすぐ君に会いにいくよ。

2020-11-19 19:13:24
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この海の先は「地球のどこか」に繋がっているらしい。昔ここに流れ着いた人がそう言ったというが、私は地球人に会ったことがないので詳細は不明だ。それでも、漂着した「地球産のなにか」の欠片を無意識に拾い集めてしまうのは遠い地への憧れだろうか。それとも、この血に眠る懐かしさの記憶だろうか。

2020-11-20 19:36:16
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古びたドアを開けて外に出ると、道の端に「帰り道」と書いた小さな案内板があった。一本道の突き当たりにある店なので道はひとつしかない。不思議に思いながら店の主人に訊ねると「迷い込んでしまうお客さんが多いので」と笑う。次の瞬間、気づけば私は十字路に立っていた。足元には「帰り道」の文字。

2020-11-21 20:11:30
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ある国で手に入れた一冊の本を持ち歩きながら旅をしている。かなり古そうな分厚い本で、中には挿絵もなく見知らぬ文字が並んでいるのみ。遥か遠い異国の物語を読みたくて行く先々で訊ねてみてはいるものの、どこの国の言葉なのかさえいまだにわからない。物語を秘めた本と、今も遥かな旅を続けている。

2020-11-22 16:47:04
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木造の旧校舎が秘密基地だったあの頃。そこにいたのは幽霊ではなく、ささくれた心を持ち寄った仲間たちだった。心の「ささくれ」は、今ではずいぶん小さくはなったけれど。しばらく会っていない仲間たちを思い出すたび、僕らを繋いでいた「ささくれ」が消えないように願ってしまうのは僕だけだろうか。

2020-11-23 19:08:13
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曇り空の毎日を繰り返して、じれったいほどにゆるゆると時間が過ぎていく。冬の間の数ヶ月、雪に閉じ込められる生活にも慣れたはずなのに。窓枠に切り取られた景色は真っ白な雪のキャンバス。「ここに春の色彩が描かれる頃」という約束の日を指折り数えて待ちながら、今日も額縁の中に春を探している。

2020-11-24 19:53:04
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人々の夢から夢へと渡る飛空艇で、悪夢を追っている。自由自在に姿を変える悪夢の捕獲は大変だが、いざ捕まえると意外におとなしい。船の中で多種多様な姿の悪夢たちがゆらゆらと動いている様子は、行き場がなくさまよう幽霊のようだ。今夜も名もなき姿の悪夢たちとともに幽霊船で短い夢を渡っていく。

2020-11-25 19:51:42
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

甘いものが得意じゃないのに、いつものカフェでガトーショコラを頼んだ。ひとくちめ、ほろ苦くて濃厚な甘さに少し後悔していると、カウンター越しのマスターがミルを取り出してキラキラと輝く欠片を添えてくれた。ふたくちめは、甘さとしょっぱい塩の味。泣き方を忘れた私の悲しみに寄り添う、涙の味。

2020-11-26 18:41:28
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

人々が寝静まった真夜中、烏羽色の外套を羽織って深い夜へと滑り込む。会う約束はなくても、きっといつもの場所に君はいる。他の誰とも違うのに、僕とよく似た同じ色を纏う君がどこの誰かは知らないけれど。夜が明けるまでささやかな内緒話をしよう。お互いの素性は夜色の外套の中に押し込めたままで。

2020-11-27 18:59:25
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

空を紺色の布で覆ったかのように雲ひとつない夜。霜降り模様を思わせるほど繊細に煌めく満天の星を眺める時間は、どこか非日常な特別感があった。晩秋の寒さの中で待ち望んでいたのは、空で輝く霜たちが一斉に降るような流星群。明日の朝、足元でサクサクと音を立てる霜はきっと流星の欠片に違いない。

2020-11-28 15:37:29
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

旅先を歩く時はどこか夢見心地で、思いがけず不思議な場所に呼ばれることも多い。何気なく入ったこの店もそのひとつだ。天井を支えるように枝葉を広げた巨木、棚に並べられた薬草瓶、目の前をふわふわと飛んでいく宝石のような蝶。夢と現実の狭間で、きっともう二度と出会えない白昼夢をもう少しだけ。

2020-11-29 15:06:27
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螺旋階段を上り詰めた先、街で一番高い時計塔から暮れていく街並みを見渡した。目印のあの建物も、何度も迷ったあの路地も、少し離れただけなのにまるでこことは違う世界のようで。たったひとりのこの塔から、誰に宛てたわけでもない手紙を風船につけて送り出す。大時計が時刻を告げる音が鳴り響いた。

2020-11-30 20:45:52
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まとめたひと
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

綺想編纂館では、日常にふと映り込む綺想を遊び心と織り交ぜて編纂しています。紳士・淑女の皆様の心の琴線に少しでも触れたら幸いです。過去の物語への感想も大歓迎。お気軽にお声掛けください。 【近況:3/10「そこの路地入ったとこ文庫」参加予定です!】 編纂者:朧(おぼろ)