#ふぁぼの数だけこれから出す本からお気に入りの一文を晒す 文フリ京都新刊、ポストアポカリプスの日常SF「麗威の見た夢」から抜きます。入稿してから繋げるので構ってください(←本音) c.bunfree.net/p/kyoto04/16868
2019-12-15 07:28:45#麗威の見た夢 表紙イメージその2。パルルックの偏光がうまいことなるよう、ろくろを回して祈ります。 オビがかかるのは見本誌のみです。 #進捗ノート shinchoku.net/notes/44499 pic.twitter.com/Gzobbp6TlU
2019-12-14 20:48:571 ここのところ、朝晩めっきり冷え込むようになり、誰もが冬備えを意識するようになった。冬は厳しい季節だ。寒く、物資は乏しく、弱い者から順に命を落とす。勇者でも聖女でもない、ありふれた命がほろほろと失われてゆく。
2019-12-16 06:05:033 目の高さにつむじがある。紅潮した頬にかかる髪はゆるく波打っていて、昔は毛先を指に絡めて遊んだな、とふと思い出した。わけもなく後ろめたさを覚え、フードの中で俯く。
2019-12-16 06:07:444 ある日、見目麗しい若者が灯台を訪れました。浜に不慣れな足取りや装いから、彼が余所者であるのは明らかでしたが、油分けを拒む理由はありません。
2019-12-16 06:08:525 不思議の解明など望めないが、麗威の語る物語のように、これが答えです、実はこうでした、と全てのタネが明かされる、鮮やかな解決を心のどこかで求めている。理解の及ぶ原因と結果が欲しかった。
2019-12-16 06:10:276 無情なフェンスの向こうで、宇宙船が爆音とともに離陸する。恐ろしいほどに赤い炎は、まるでそれこそが世界の終わりをもたらすかのよう。
2019-12-16 06:11:487 イナサが探掘家になることに、タキは必ずしも賛成していなかったが、能力と適性がある者が区民の生活を支えるのは当然の義務だったから、強くは反対できなかった。おれと組む、組ませろ、の一線だけは譲らなかったが。
2019-12-16 19:47:368 センターに通うこと三度、ハスキー犬・シリウスとの暮らしが始まりました。天狼星の名にふさわしい凜々しい佇まい、星のような青い眼に、ママも晶も、すぐに彼を好きになりました。
2019-12-16 19:52:299 彼も広い世界にぽつんと存在しているのか。ふたりしてそう感じているなら、あまりにも滑稽で、かなしい。昔は手を繋いでどこへでも行けたのに、今は言葉も体も、ちっとも噛み合っていない。
2019-12-16 19:54:0411 何よりも貴重な資源が人命だから、死ねと言われず今日まで生きてきた。日常生活ではお荷物なばかりの感覚過敏や幻視が役立つなら、生きていても良い気がする。許される気がする。だから探掘家になったのだ。
2019-12-16 19:56:3512 当機は依然として微弱な、航行および任務遂行に支障のない電波照射を受けています。自己判断により、探査機器を用いて電波の発信源を調査しました。
2019-12-16 19:57:4713 あの病院は死を覚悟した者が行くところだ。誰もが陰鬱な決意を揺らめかせ、そして診断を受けて戻ってくると、絶望を突き抜けて明るく振る舞う。生きる力のあるものだけを生かすことしかできない三区が嫌いだ。それも仕方ないと割り切らざるを得ない世界が嫌いだ。
2019-12-16 19:58:5615 「私が言えるのは、私は人類の揺り籠だということのみです」 「揺り籠って……そのままの意味で受け止めていいのか?」 「もちろんです、タキ」 揺り籠。害意のある言葉ではないと思いたい。
2019-12-19 20:51:4616 滅びた魔法王国の女王様は、編み込んだ髪が床に届く長さだったと言うよ。国の繁栄と平和、民が健やかに、飢えずにあるように。日照りも水害もなく、跡継ぎに恵まれ……多くのまじないが必要だったんだろうね。
2019-12-19 20:52:3517 イナサにとって、麗威は天から落ちてきた飛行機だった。管制を失い、航空機は空を飛べないままだから。 けれども、もしかすると彼女はほかの星からやってきた王子さまなのかもしれない。過去からはるばると旅してきた、ひとりぼっちでさみしがり屋の、大切なことをたくさん知っている友だち。
2019-12-19 20:54:0418 真夏だというのに、姉は汗を浮かべながら毛糸のマフラーを編んでいた。赤、橙、黄、紫。暖色系のミックス毛糸は、凶悪な予想最高気温の分布図に似ていて、見ているだけで汗が滲む。
2019-12-19 20:55:1621 『チェック結果は、九十パーセント以上の確率で「現人類は私の脅威ではない」です。そして、あなた方の言う「文明崩壊」の再来も同程度の確率で起こり得ません』
2019-12-20 18:37:1022 白髪と白い髭、氷の眼差し。そして蓄えを根こそぎ奪ってゆく非情さからついた渾名が冬将軍、というわけです。本物の冬の方がずっとまし、と人々の思いは一致していました。
2019-12-20 18:38:1923 探掘するだけならばどれほど遠出しても構わないのだが、掘り出した物品を持ち帰らねばならないから車両が必要になり、車両を動かすならば動力と運転手を用意して、運転手の食糧と水と……と次第に制約が大きくなる。
2019-12-20 18:39:5924 「今日は灯りを消して、空のお星さまがよおく見えるようにするの。でないと空に棲む星のお魚が、眩しい光を妬んで、全部食べちゃうのですって」
2019-12-20 18:40:3425 いくら体を鍛えても、ギアを巧く使っても、力の及ばない領域があるのは恐ろしい。それでも、手が届く範囲を少しでも広げたかった。――そのために生き続けなければならず、生活のために探掘する。心の中の王子さまはいつも困った顔をしている。 「おとなって、とっても、とってもおかしいんだなあ」
2019-12-20 18:42:5726 得られる物資や食糧には限りがあり、病気や怪我を抱えた者は肩身の狭い思いをしている。厄介者、とは誰も口にしないが、死病に冒された者は夜のうちにひっそりと山に入り、健康診断の結果を理由に移住を拒否された者がとぼとぼと去ってゆく。 そんな命の選別を誰もが認め、受け入れている。
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