フロログの父・練達の薬師グルニールは穏やかで誠実な商売人として町の人々に愛されていた。 自らの不気味な見た目に自信がないグルニールは腰が低く謙虚な人物だが実はとてつもない力を秘めていた…
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

いばらの壁の向こうから~双子の王子の物語~ 【Episode5】流水の拳 pic.twitter.com/PGWqqC2KW5

2021-07-09 00:01:24
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅰ】 この頃はじとじとと湿度の高い中雨ばかりが降り、普段は活気に溢れた王都にもにわかに沈んだ空気が流れていた。 毎年ヴォストニアでは初夏にはこうした短い雨季がやってくる。 それを恵みの雨と捉える者もいれば憂鬱を運ぶ厄介者と捉える者もあった。

2021-07-09 00:02:28
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そんな湿気に満ちた日没前だというのに薄暗い昼下り、これまたじっとりと湿度に満ちた、蒸し暑い石作りの一室。 そこにまんじりともせず座り込む影がひとつ。 頭には頭髪らしきものはなく、大きく突き出た2つの瘤のようなものの輪郭が伺える。 ずんぐりとした体格で背を丸めて胡座をかいているようだ。

2021-07-09 00:03:38
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

何やら白い衣を纏っているように見える影だが…いや、違う。 それは白い紙だ。 影の背には白い紙が何枚も張り付いている。 そのいずれもが薄緑の液体にじっとりと濡れ、湿度の高い部屋に水中生物の皮膚を思わせる生臭い臭いを放っている。 …見るも悍ましい光景だ。 やがて影は大きく息を吐いた。

2021-07-09 00:04:30
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「フロログ、そろそろいいぞ。 剥がしてくれ」 背後の木戸に向かって影が声をかけると、 「ほいよー、ただいま!」 底抜けに明るい声がしたかと思うと木戸が開いて石作りの部屋の中を明るく照らす。 そして緑の大きなカエル…フロログが長方形の盆のようなものを持って入ってきた。

2021-07-09 00:05:28
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部屋の中央に座していたフロログに呼びかけた影は、これまた大きな緑のカエルだった。 しかしフロログとは随分見た目が異なっていた。 なめらかな肌のフロログとは異なり、そのカエルは全身イボだらけで、ところどころに黒いまだら模様があった。 一見して巨大なヒキガエルだ。

2021-07-09 00:06:11
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「はいお茶! 今日はあっついから脂もいっぱい出ただろ」 巨大なヒキガエルにグラスに入った緑茶を手渡すと、フロログはヒキガエルの肌に張り付いた紙をそろそろと剥がし出した。 「すっげー!父ちゃん脂出すぎて干上がるんじゃね?」 「なに、これしきのことで」 ヒキガエルは緑茶を一口煽った。

2021-07-09 00:07:02
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誤解無きよう説明しよう。 ここは如何わしい地下牢でも拷問室でもなくフロログとその父・練達の薬師グルニールが住む石作りの家の一室であり、この巨大なヒキガエル…フロログの父・グルニールは自らの体から染み出す薬液を紙に吸い上げて抽出し、様々な薬品を作って生計を立てているのだ。

2021-07-09 00:27:28
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グルニールは元々は東大陸出身の蛙人であり、彼ら東の蛙人族の一部を特にトードイド族と呼び、フロログの母方に当たる西大陸の蛙人族・フロゴイド族と区別していた。 彼らは干ばつに強く屈強で、自らの体から様々な薬効を持つ薬液を分泌し、自らの治癒に、時には敵への攻撃手段として用いてきた。

2021-07-09 00:31:59
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グルニールがこの西大陸にやってきて十数年、この地に根を下ろし薬屋として地域にすっかり根付いており、こうして文字通り一肌脱いだ特製の薬品はどれも評判の品々で、近隣住民たちからは医者より頼りにされるほどだ。 しかしご覧の通り不気味な外見の為彼は腰が低く引っ込み思案なところがあった。

2021-07-10 10:29:50
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

グルニールはしとしとと降り止まぬ雨を小窓から眺めていた。 「それにしても今年はよく降るよなー。毎年こんな感じだったらいいのに」 フロログは頭の後ろに手をやり言うのへ、 「…そうだな」 遠い目で窓の外を見やり茶を一口煽りながらグルニールは頷いた。

2021-07-10 10:30:12
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「フロログ、その薬盆は調剤室の机の上に上げておいてくれ。 後で分離機にかけよう」 「わかった!お茶のおかわりどうする?」 「それじゃあもう一杯もらおうかな」 言ってグルニールはフロログに空になったグラスを手渡した。 グラスと薬盆を持ったフロログが木戸を閉める音が部屋に響く。

2021-07-10 10:30:35
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グルニールは俯いた。 毎年この時期、雨を見る度思い出す。 今は亡きフロログの母、愛した妻のことを。 その夏は雨季にも関わらず干ばつが続き、ヴォストニアは未曾有の水不足に見舞われた。 その被害は水辺に生きる彼ら蛙人族にも容赦なく襲いかかり、水を失った蛙人達は次々と倒れていった。

2021-07-10 10:31:26
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東から来たトードイドであったグルニールは干ばつに強かったが彼の妻・フロゴイドのラナはそうは行かなかった。 今際の際のラナが最後の力を振り絞り水泡の揺り籠に産み落とした一粒の卵がフロログだ。 …文字通りラナの忘れ形見であり、グルニールの一粒種だった。

2021-07-10 10:32:05
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「…毎年これくらい降ればいい、か」 ぽつりとつぶやきながらグルニールは降り止まぬ恵みの雨に亡き妻と彼女の残した一人息子・フロログに思いを馳せた。

2021-07-10 10:33:50
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【Ⅱ】 「7丁目のグルニール調剤薬局、この間来たフロログの親父さんの店だ。 ベアンハートからの使いだと言えばすぐわかるだろう。 とりあえずこれだけあれば足りると思うが、余った分はなにか好きなものを買ってこい」 その日、じゃらりと小銭の入った袋をアンジェロに手渡しベアンハートは言った。

2021-07-11 23:37:39
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ベアンハートの下にアンジェロが弟子入りしてから数日が過ぎた。 初めて体験する職人の仕事に戸惑うこともあるにはあったが、アンジェロからすればそれ以上に好奇心と自分にもできるという自信を満たす体験の方が多く、充実した日々を過ごしていた。 そしてこの「お使い」も、実は初めての体験だった。

2021-07-11 23:38:46
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「けっこー入ってんなこれ。 やっぱり練達の薬師の薬ってくらいだから結構するんだろ?」 アンジェロがずっしりした小銭袋を片手にベアンハートに問う。 「お前みたいな上流の人間でも満足できる質のものを置いてるとだけは言っておこう。 さ、午後の仕事に響かないように早いところ行ってきてくれ」

2021-07-11 23:39:18
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かくしてアンジェロは地図が書かれたメモを片手に、山裾から少し離れた町中の調剤薬局目指して出発した。 並みの者ならそこそこ時間がかかる距離だが日頃鍛えた馬の脚を持つアンジェロにとっては散歩程度の距離だ。 案の定特に迷うこともなくアンジェロは半刻程で店にたどり着いた。

2021-07-11 23:39:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

軒先はなんの変哲もない、まさに薬屋という清潔感のある石造りの建物だ。 看板にも朴訥とした字でグルニール調剤薬局と書かれている。 練達の薬師の店と言うから仰々しいものを想像したアンジェロにとっては幾分拍子抜けした感があったが、気にも留めずアンジェロはベルのついた入り口の木戸を開けた。

2021-07-11 23:41:05
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カランカランとドアのベルが鳴った。 店の中は幾分古めかしいがきちんと整頓されていて独特のハーブや薬品の薬臭い匂いが鼻腔をくすぐる。 と、 「いらっしゃいませ、グルニール調剤薬局へようこそ!」 明るいダミ声と共に店の奥から文字通り飛び出して来たのは巨大なヒキガエルだった。

2021-07-11 23:42:33
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さしものアンジェロもその姿に一瞬ぎょっとしてヒキガエルから距離を取ってしまった。 それを見てヒキガエルは先の花咲くような明るさを潜め、 「し、失礼致しました。小生、何分容姿はこのようにお見苦しいものでして。 せっかくのお客様にご不快な思いを…」 姿勢を正して頭を下げた。

2021-07-11 23:43:23
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「あ、いや、気にしないでくれ。 こっちこそお邪魔したのにいきなり悪かった」 慌ててアンジェロも頭を下げる。 「その、あんたが店主でいいのかい?」 ヒキガエルに問うと、 「左様でございます、小生が当薬局の調剤師兼店主を勤めておりますグルニールと申します、何卒よしなに」 pic.twitter.com/q67eApU5yU

2021-07-11 23:44:09
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愛想よくダミ声でヒキガエルは…店主グルニールは答えた。 なるほど、この人がこないだの愛想のいいカエルの親父さんか…とアンジェロの脳裏に先日ランチを相伴したお調子者の蛙人の顔が浮かんだ。 …息子とは随分見た目がかけ離れているようではあるが。

2021-07-14 23:55:33
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「実はベアンハート親方の頼みで来たんだ、あんたに言えばわかるって言われたんだけど」 アンジェロが言うとグルニールは拳で掌を打った。 「ああ、先に入門されたお弟子さんと言うのはお客様のことでしたか。 愚息フロログからお話は伺っております、先はお昼までご馳走になってしまったようで…」

2021-07-14 23:56:20
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再び深々と頭を垂れるグルニールへ、 「いや、親方が言い出したことだから気にしないでくれ。 で、その親方の頼みの品ってのはなんなんだ?俺もよくわかってないんだよ」 話が長くなりそうなのでアンジェロは話題を変えた。 「ああはい、心得て御座います。 少々お待ちを…」

2021-07-14 23:57:00
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言うとグルニールは実に手際良く店内の棚から薬を次々と取り出すとカウンターに並べていく。 ただ一言「ベアンハートからの使い」と言っただけなのに、だ。 ベアンハートが余程同じ品ばかり買うのか、それともこのヒキガエルが周到なのか、そのへんはまだわかりかねるが、しかし実に良い手並みだ。

2021-07-14 23:57:33
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「おそらくベアンハート殿ならこの辺のお品をご所望でしょう。 時期的にもうそろそろ前にお求めのものが尽きるはずです」 粗方机の上に品物を並べ終わるとアンジェロに検めるのを促すようにグルニールはカウンターの品々を指して言った。 「す、すげぇ…そんなとこまで把握してんのかよ…」

2021-07-14 23:58:33
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「勿論で御座います、当店をご贔屓にして下さるお客様のご所望の品は把握していて当然。 それでは今からお包み致しますので少々お待ちを…」 呆然とするアンジェロを尻目に梱包に移ろうとするグルニールに、 「ちょっと待った、会計はいいのかい」 アンジェロが小銭袋を取り出して問う。

2021-07-14 23:59:45
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「ああ、これは失礼を。 ではお会計を…」 並べた品の値を読み上げていくグルニール。 「以上8点で120キフカになります」 「ん、120?随分安いな…」 「田舎の薬屋など何処もこんなものでございましょう」 貴人のアンジェロからすれば安値だが、グルニールの言い値は少々安いがほぼ相場価格である。

2021-07-15 00:00:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「いやさ、あんた練達の薬師なのにこんな安値で薬売っていいのかい?なんかもうちょっとこう、ブランドイメージとか…」 「とんでも御座いません!当店は適正価格、生活価格で全ての品をご提供させて頂いております。 薬は使われてこその薬、皆様のお役に立てなければ何の価値も御座いません」

2021-07-15 00:01:31
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

先まで穏やかな口調だったグルニールはきっぱりとした口調で断ると首を横に振った。 またしてもアンジェロは「出来る者ほど謙虚」をまざまざと見せつけられた思いであった。 「ともかく…120だな、…お?」 小銭の袋を開けたアンジェロが小さく疑問の声を上げた。 「親方、300も入れてくれたのかよ!」

2021-07-15 00:05:12
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

アンジェロの言うとおり小銭入れには言い値の倍以上の価格が入っていた。 「これで好きなもん買ってこいって…気ィ使ってくれちゃって…」 苦笑いしつつ何処か嬉しそうにアンジェロが独りごちる。 そうなると今度は好奇心が首をもたげだした。 この店の品で自分の気に入ったものを買って良いのだ。

2021-07-15 00:07:21
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「なぁおっさん、この店で何かオススメみたいなのはないのかい?」 店をぐるりと見回し、品物をズタ袋に詰めるグルニールにアンジェロが問う。 「それはお客様にで御座いますか?」 「ああ、余った金で好きなもん買っていいって言われたんでね」 アンジェロは残りの小銭が入った小銭入れを見せた。

2021-07-15 18:46:26
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「おお、それでしたら良いものがあります。少々お待ちを…」 言うと店の一角からグルニールは小さな手のひらほどの平たい容器を二つ取ってきた。 見たところ軟膏などを入れるクリームケースのようだ。 グルニールがケースの蓋を開けると中には白くこっくりとした軟膏のようなものが入っている。

2021-07-15 18:48:00
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「…ん?」 と、アンジェロが好奇心に満ちた目でケースを見つめた。 ケースから得も言われぬ芳しい香りが漂ってくる。おそらくはムスクをベースに何種類ものハーブの精油を調合して作られた香りだろう。 香水などとは違って爽やかで清涼感のある、それでいて実に洒落っ気のある素晴らしい香りだ。

2021-07-15 18:48:54
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「こちらは当店自家製のハンドクリームで御座います。小生の皮脂腺から抽出致しました薬液をベースに肌に良いとされる油脂類を調合し、薬効のあるハーブで香りつけをしてあります。 婦人用のフローラル調やフルーツの香りも御座いますが、お客様のようなお若い男性でしたらこちらがよろしいかと」

2021-07-15 18:49:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

なんと驚いたことにこの白色のクリームは手肌を労るための物らしい。 実はアンジェロは丁度職人仕事で手荒れが気になり出していたところなのだ。 「普段ベアンハート殿は無香料のものをお求めになりますのでそちらもご用意致しましょうか?」 「いや、コレでいいよ。…しっかしいい匂いだな…」

2021-07-15 18:50:18
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「こちらは小生が調香致しました手肌を保湿する作用のあるハーブを用いたハーバルフレグランスとなっております。 ハーブの香りは季節により配合を変えておりまして、暑くなるこの時期のために当製品には清涼感のある香油を選びました」 言うと、 「失礼致します」 グルニールがアンジェロの手を取る。

2021-07-15 18:51:14
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

グルニールはカウンターに置いたもう一つ同じケースを開けるとクリームを少量手に取りアンジェロの手に擦り付けた。 ぬるりとしたグルニールの手の感触に最初こそぎょっとしたものの、アンジェロは次第にそのひんやりぬめぬめした独特の手触りに心地良さを覚えてきた。

2021-07-15 18:51:44
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ベタつかずさっぱりとした今時期を意識した使用感となっております、如何ですか?」 独特の触り心地のひんやりした手とひんやりとしたクリームが手を覆う不思議な心地よさと、手のツボを的確に押していくグルニールのマッサージに最早アンジェロは極楽気分だ。 おまけに手肌はしっとり肌理が整った。

2021-07-15 18:52:20
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「すげえ…一つ、いや二つ頼む、そのハーブのやつ!」 「毎度有難う御座います、二個お求め頂きましたおまけに試供品の無香料の小ケースのものもお付け致しますね。 しめて30キフカになります」 言ってグルニールは可愛らしい小さなクリームケースを二つのケースと共にもう一つのズタ袋に収めた。

2021-07-15 18:53:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「毎度有難う御座います、またのお越しを心よりお待ち申し上げております」 グルニールが見送る中夢見心地で店を出たアンジェロは手の甲から漂う爽やかな香りを楽しみながら鍛冶場への長い道をのんびり歩いて帰って行った。 「…次は秋エディションのやつ買わないとな!」

2021-07-16 10:48:13
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅲ】 「香料入りのを買ったのか。いや、俺もそれにしようと思ったんだが、なんせ香りが若者向けでな」 鍛冶場に戻って鼻息も荒く買ったばかりのハンドクリームの香りを披露するアンジェロにベアンハートは言った。 「あのおっさんと友達なら紳士用の作ってもらえばいいじゃねえか!」

2021-07-17 12:29:13
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「職人ていうのは真面目なんだ、あの人は特にそうだから、そんなもの頼んだら調香で何日もかかるだろうから仕事の邪魔になるだろう」 「てかそういうニーズ他にも山程あるんじゃねぇの、口に出さないだけでさ。売れる商品開発の為にもニーズは伝えてくべきだと思うぜ」 「そういうもんなのか…」

2021-07-17 12:29:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

普段あまり聞かない若者の声を聞いてベアンハートは考え込んだ。 そういう意味でこの若者を下に置いたのは正解だったのかも知れない。 ひょっとして師も自分を門弟にした時はそうした気分だったのだろうか? 色々な考えがベアンハートの頭に浮かぶ。確かに技術だけでなく流行を知ることも大切だ。

2021-07-17 12:30:30
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しっかしすげえな、あのおっさんこれだけのものバンバン作るのにやっぱり謙虚でめちゃくちゃ腰が低いんだぜ。うちの執事も真っ青ってくらい!」 語るアンジェロの脳裏には真面目くさったしわくちゃな顔のチェーザレの姿が浮かんでいた。 腰が低く堅苦しい所などあの店主とチェーザレはよく似ている。

2021-07-17 12:30:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ああ、元来の気質もあるんだろうがあの人は元々…」 ベアンハートの言葉はそこで途切れた。 突如、 「おい、邪魔するぜ!」 陽気な声が鍛冶場に響く。 見れば鍛冶場の入り口に客だろうか、人影が見えた。 人影は扉の中ほどまでの背丈しかなく頭が大きくずんぐりとしている。 これは小人族の特徴だ。

2021-07-17 12:31:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あっ」 短く声を上げるとベアンハートは作業場の椅子から立ち上がり、入り口に向かう。 「ようベア、景気はどうだ?お、そこにいんのが噂の新弟子って奴か!」 鍛冶場に入ってきた小柄なその男はアンジェロを見るなり目を輝かせて言った。 「いい面構えしてやがんな、こりゃ鍛冶屋向きだ!」

2021-07-23 18:44:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

陽気に笑うその男はドワーフと思しき中年の男だった。 が、炭鉱町の汚れた労働者ではなくきちんとした身形で仕立ての良い服を着ており、どちらかといえばノームの豪商を思わせる。 「ドリュー、随分と急だな。まああんたはいつもそうだが」 少し呆れたような嬉しいような、そんな調子でベアンハート。

2021-07-23 18:45:06
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