#村を焼くなら #shindanmaker shindanmaker.com/724411
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Harold Ager🥚 @harold_ager

ハロルドとエドワードは姿を変えて村で何年か暮らしたあと、村を焼きました。 #村を焼くなら #shindanmaker shindanmaker.com/724411

2020-11-06 21:49:51
Harold Ager🥚 @harold_ager

野犬に襲われそうになっていた私と兄を助けてくれた兄弟だという二人組は、この森で道に迷っていたのだそうだ。私達にとっても彼らにとってもこの出会いは幸運なものだった。 助けてくれた礼をしたいと兄が二人を村へと招待するが、私たちを心配して待っていた村の大人達は彼らに冷たい視線を向ける。

2020-11-07 04:52:31
Harold Ager🥚 @harold_ager

思えば物心がついた頃から村の人達以外の人間を見たことはなかった。余所者を招き入れるなど、と、大人達はひそひそとそれを隠す素振りもなく話している。 兄はそんな大人達に、迷っていたらしいんだ、もう陽も落ちるしどうか一晩だけでもと頭を下げて、渋々といった様子で大人達は彼らを受け入れた。

2020-11-07 04:56:11
Harold Ager🥚 @harold_ager

一晩だけだ、陽が登ったら出て行ってもらうからなと大人達に念を押されて、兄は私と彼らを伴って小さな家へと向かう。親もない、私と兄だけが暮らす家だ。 彼ら兄弟の兄の方──エドワードというらしい──がすまないと頭を下げるのを制し、これくらいのことしかできなくて申し訳ないと兄は笑った。

2020-11-07 05:01:15
Harold Ager🥚 @harold_ager

泊めてくれるお礼にと、弟の方──ハロルドが、自身が持っていた材料だけで作ったとは思えない程の料理を振る舞ってくれた。村の人達以外の誰かと食卓を囲むことはおろか、会話を楽しむこともなかった私はすっかり彼ら兄弟に懐いて、その日生まれて初めて夜更かしというものをしたのだった。

2020-11-07 05:07:34
Harold Ager🥚 @harold_ager

気がついたときにはいつの間にかベッドの上で、窓の外を見やればもうすっかり太陽が登ってしまっていて、はっとなり家の中を見渡したが二人の姿はなかった。お別れの言葉も言えなかったと肩を落とす。たった一晩のことであったのに楽しかったひと時を思うとじわりと涙が浮かんだ。

2020-11-07 05:11:48
Harold Ager🥚 @harold_ager

ふと、いつも私が起きるまではそこにあるはずの兄の姿も見当たらないことに気づき、何故だか不安を覚えて身支度を整えるのもそこそこに家を飛び出した。 すると村の広場になにやら人だかりができている。大人達の大きい背中に隠されて、中心に何があるのかはわからない。

2020-11-07 05:15:38
Harold Ager🥚 @harold_ager

人と人の隙間から顔を出して様子を伺えば、そこには一匹の巨大な魔物の亡骸と……それに突き刺された剣をゆっくりと引き抜く、あの兄弟の兄、エドワードの姿があった。 もういなくなってしまったのだとばかり思っていた私は嬉しくて思わず声をあげる。

2020-11-07 05:21:54
Harold Ager🥚 @harold_ager

周りの大人達の話から察するに、どうやらそこに伏せている魔物は近頃村の人達を困らせていたようで、先程とうとう村へと侵入してきたらしい。そこを村を発つ直前であった彼が一刀のもとに切り伏せたのだという。大人達は彼に感謝して、昨夜とは一変し笑顔を向けていた。

2020-11-07 05:27:38
Harold Ager🥚 @harold_ager

ところで。彼ら兄弟の片割れ……ハロルドと、兄の姿がない。きょろりと辺りを見渡していると、私に気づいたエドワードが側に歩み寄ってきた。お兄さんなら俺の弟と村の外の周辺を見回りに行ったよ。私の頭をくしゃりと撫でる手の平は大きくて優しくて、微かに残っていた焦る気持ちはすっかりと消えた。

2020-11-08 04:47:38
Harold Ager🥚 @harold_ager

暫くして、兄とハロルドが広場へと戻ってきた。ハロルドは不思議な魔法を使って、村全体に結界のようなものを張り巡らせたのだそう。これで暫くは気休めにでもなるだろ。肩をすくめながら唇の端を持ち上げるハロルドに、村の大人達はなんと、と感嘆の声をあげる。

2020-11-08 04:52:53
Harold Ager🥚 @harold_ager

それからあの兄弟が村に馴染んでいくのは、あっという間だった。 兄は有り余る体力で村の力仕事を手伝い、戦いの技術を活かして狩りをした。弟はというと、豊富な知識で村の大人達に助言をしたり、それを用いて私や他の子どもたちに勉学を教えた。

2020-11-08 04:57:50
Harold Ager🥚 @harold_ager

あてのない旅をしていたのだという二人はこの村を安住の地とすることにしたのだろうか。理由などといったものは私にはどうでもいいことで、見た目は瓜二つでも性格は真逆とも言える彼らと過ごす毎日は輝いていて、まるで兄が増えたようで心が浮き立つものだった。

2020-11-08 05:23:55
Harold Ager🥚 @harold_ager

森の中で彼らと出会ってから早くも数年が経った。幼い少女であった私は背丈も伸び、身体は膨らみを持つようになった。彼らはというと、その見た目はあの頃となんら変わりのないように思えた。しかしそれも、当時は一片も理解しえなかった恋心にも似た思いの前には些細なことであった。

2020-11-08 06:39:53
Harold Ager🥚 @harold_ager

一度、たった一度だけ、優しくふれられたハロルドの唇の感覚は今でもはっきりと鮮明に覚えている。抱き寄せられれば心は震え、熱く甘い口づけに眩暈を覚えた。まるで永遠にも感じられるような、幸せな時間だった。

2020-11-08 06:55:10
Harold Ager🥚 @harold_ager

だけどよくできた物語のようにうまくいくこともなく、それは前ぶれもなく崩れていく。 彼が村に施した結界など嘘っぱちだった。私たちを守るものとなど彼は優しい顔で笑っておいて、それは私たちをじわじわと蝕んでいきこの村へと縛りつけた。 身体が重い。視界は霞み“結界”に抗う力も出ない。

2020-11-10 03:23:14
Harold Ager🥚 @harold_ager

地面に伏した私を見下ろしているのは、あの人の声を持つまったくの別人。 私の知らない顔で、よく知った青の瞳で、私を真っ直ぐに見つめている。あの立派で美しい角も、翼も、尻尾もない。人間だ。人間が私たちの姿を真似ていたのだ。 騙してごめんねと、あの日のように彼は優しく笑う。

2020-11-10 03:28:12
Harold Ager🥚 @harold_ager

ああ、なんてこと。始めから彼らは私たちを殺すつもりで、道に迷ったなどとのたまわったのだ。非力な人間たちでは到底敵わない相手である私たちに対抗する為に、結界とやらでゆっくりと、しかし着実に弱らせていたのだ。 視界の隅に揺らいでいた炎は勢いを増し、村を黒煙が覆い尽くしていく。

2020-11-10 03:42:55
Harold Ager🥚 @harold_ager

もう“魔法”は解けたのさ。 どこまでも優しい顔で彼は笑う。その瞳が好きだった。愛おしかった。 騙されていたのだという絶望や憎しみとは裏腹に、私の手は彼へと伸びた。どうかもう一度ふれたい、ふれてほしいと、彼を求めた。 けれどそれは叶うことなく世界は、静かに暗闇へと呑まれていった。

2020-11-10 03:51:10