別れた恋人が、別れてくれない話

ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

#金カ夢　#sit 別れた恋人が諦めてくれない話。

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恵まれた家庭に生まれた夢主と、子供の頃の事故で両親を亡くした上に、その時負った傷が全身至るところに跡となって残っているsit。高校時代から交際し、そのまま大学も一緒のところへ進んだ。卒業前に育ててくれた祖父母が相次いで亡くなったが、その辛さも寂しさも夢主が入れば耐えられた。

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気の弱いところもあるが、優しく可愛らしい恋人を、彼はとても愛していた。就職し、そろそろ結婚を意識し始めた頃、彼女に縁談が持ち上がった。夢主父の、上司の息子。裕福で育ちが良く、何もかも申し分ない相手。両親は娘が身寄りのない男と交際することに良い顔をしていなかったから、渡りに船の

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良縁だった。もちろん、夢主は嫌だと断った。“好きな人がいる事を知っているのになんで？sitくんがどんな人だか、お父さんたちもよく知っているでしょう？私は……彼とだけ結婚したい”そこで両親は、夢主に内緒でsitに会って頭を下げた。亡くなった両親と、祖父母以外に身寄りのない彼の元に大事な娘を

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嫁がせる不安を涙ながらに訴えた。sit自体が、とても良い人間であることを知っていたから。気弱で頼りない娘が、なんの後ろ盾もない相手と結婚するということが親にとってどんなに不安なものであるか切々と訴えた結果、sitは了承し、夢主の元から別れの手紙だけ残して姿を消した。

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別の土地へ移り、部屋を借りてそこで暮らした。ここへ来て初めの頃は夢主からの着信が何度も来ていたが、携帯番号を含め、夢主からの全ての連絡手段をブロックした。仕事にも慣れ、職場の後輩から告白もされて、そろそろ前に進む頃かと夢主のことを今度こそ忘れようと思った矢先、夕方の仕事帰り、

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彼の住むアパートの部屋から明かりが漏れているのに気が付いた。消し忘れたかと思いながら戻ると、玄関先に女物の……見た事のある靴が扉側へつま先を向けて、ちょこんと揃えられていた。まさか、と思いながら居間に入ると、いきなり誰かに抱きつかれた――そんな、嘘だろ？！

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“おかえりなさい、sitくん！！”ぎゅうぎゅうと首が苦しくなるほど力を込めて抱き締めてくるのは、間違いようもない、彼の元“恋人”だった。“やっと、やっと見つけた……！！”“黙っていなくなるなんて、ひどいよsitくん。でも、もういい。また会えたんだから。もう離れない。ずっと、ずっと一緒にいて”

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鍵をかけていたはずなのに、どうして入れた？その問いに、彼女は“え？すんなり入れたよ？”かけ忘れた……？自分の不用心さに呆れながら、sitは夢主を我が身から引き剥がした。“いや、それより夢主ちゃん、結婚したんじゃないの？なんでこんなとこにいるの？”夢主は、涙をブラウスの袖口で拭いながら

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“とうに破談したよ。当然でしょ。彼氏がいるんだもの。……それに、相手の人にもちゃんと彼女いてさ。謝られちゃった。あれ、親同士の仕組んだ見合いだったみたい”なんだよ、それは……。

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でも、夢主のような人は自分のような男と一緒にいてはいけないという気持ちは変わらず、sitは自分の恋心に蓋をすると、彼女に帰るように言った。“戻りたいの。前みたいに。sitくんと一緒にいたい。やり直したい。やり直したいの……”必死な様子に心が動きそうになるけれど、sitは疲れているという

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事を理由に、帰ってくれるように頼んだ。“いきなりだものね。わかった。お仕事お疲れ様。じゃあ、また” 無理を言って嫌われたくないんだろうな、と思わせるような焦った様子で、彼女は慌てて帰っていった。“また来るね”「いや、来ちゃダメだって」“やだよ。私、絶対sitくんと別れないから”

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部屋のスペアキーを勝手に持ち帰ったのか、それから彼女は、ほとんど毎日やってくるようになった。彼ともう一度やり直そう、と言い、その後は二人でああしよう、あそこへ行こうとやりたい事を口にした。「ダメだって俺は。俺じゃ、お前を幸せにできないんだよ」“そんな事ない。私は、あなたと

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いるだけで幸せだよ。私、ずっとsitくんと一緒に生きていきたい”……次第に絆されて、それもいいかもしれないと思い始めるsit。「でも、夢主ちゃん、お父さんたちは……」“私の幸せは、私が決めるよ”……二人とも、彼女の行く末を本当に心配していた。sitに彼女と別れてくれと頭を下げられた日のことを

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思い出すと胸が傷んだ。自分には心配してくれる親はもういなかったが、娘を案ずる親の気持ちを踏みにじることはできない、とも思った。

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夢主が通うようになって、ひと月あまり。sitは後輩の告白を受けた。しっかり者で、明るい娘。別れた恋人との事を話し、一緒に家に来てくれるようにと頼んだ。行くすがら、食材を買い込んだ後輩とアパートに戻ると、今日もsitを待っていた夢主に今付き合っている彼女だと、後輩を紹介した。

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「今日は彼女が泊まるから、帰って欲しい。夢主ちゃんとはもう、やり直せないんだ」これだけ言えば諦めるだろう、と思ったsitだったが、しばらくの沈黙のあと、耳を疑うような言葉が夢主の口から発せられた。“ご飯、一緒に食べてっていい？そうしたら、帰るから……”「い、良いですよ」と

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後輩も負けていない。手際よくsitの家のキッチンで料理を作り、sitは三人で……元カノと向かい合わせに、今カノと並んで食べるという気まずい夕食を摂った。だが、夢主は後輩が良い子そうだと、涙を浮かべながら、料理も美味しいと褒めちぎった。“私より、ずっと上手”“すごく可愛い人だね”ずきずきと

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sitの胸は痛み、口にする料理も味がしなかった。ああ、今日で最後なのだと悟った。と思った。もう彼女は明日から来ない。もう、今度こそ俺を諦めた……。“sitくんは、もう先に進んでたんだね”“sitくんは素敵な人だもの。彼女すぐできるよね……私ったら”“ああ、私、私ったら……” 横にいる後輩が

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悲鳴をあげた。何故なら、目の前の彼女の姿を通して、ベランダ窓に引いた空色のカーテンが見え始めていたから。“やり直したかった。そばにいたかった。一緒にいられるなら、生きていけると思ってた……”寂しげな声音も虚ろになり、空気中に溶けていくようだった。“今日が……さいご……”「いやあー！」

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後輩が、呆然とする彼を置いて、持っていた小さなバッグと上着をつかんで逃げていく。テーブルに、夢主の使っていた茶碗と箸が転がっていた。夢主の姿は、完全に消えていた。

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夢主は、その夜、入院していた病院で息を引き取っていた。sitを失い、彼の知り合いを辿って辿って、ようやく住んでいるところを知った頃、事故に遭ったのだった。ずっと意識不明のまま、sitに会いたいという気持ちが生霊のようになっていたというお話。

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sitが夢主の番号のブロックを解除して電話をかけると、彼女の弟が出て、ことの真相を告げることに……。その場で知らされた病院へ飛んでいき、死に顔を見て号泣……。最近は奇跡的に体調も良かったらしく、もしかしたら、まもなく意識が戻るかもと期待されていた矢先の死だったという。

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葬式がすみ、家に戻るsit。「戻りたい……前みたいに。夢主ちゃんと一緒にいたい……！　やり直したい……！！」独りになって泣くけれど……というお話を妄想してた。暗い💧