
※前世の別可能性(※原作コミックス読破してない) 母の腕に抱かれたような心地だった。 ふ、と軽く息をついた後にげほ、と咳込む音がした。 あたたかい何かがぼたぼたと顔に落ちて、 腕はあたたかい何かを貫き通すように突き破っていた。
2021-12-20 19:26:28
鼈甲を抱いた琥珀の焦点が一瞬だけぶれた後、呆然とした俺の顔を見て淡く微笑みをこぼした。 また、けふけふ小さく血をこぼして咳込む。 ほんの少しだけ、俺たちを抱き込む腕に力がこもった。 「カナヲちゃ、ん、ありがと」細い声。 いつの間にか俺の傍に立っていたカナヲが、痛ましく眉を詰めていた。
2021-12-20 19:26:29
金の人は、とめどなく涙を溢れさせる妹の頬に添えるように掌を伸ばし、しかし、その白い肌に赤い色を付けるのをためらったかのように、寸前で浮かせた。
2021-12-20 19:26:29
困ったように妹を見やり、もう一度深く、慈しみ深く微笑んで、彼の人は。 「幸せに、なってね、」 いつかの炎柱のように、胴に穴をあけた、その人は。 俺の腕が貫いたその人は。
2021-12-20 19:26:30
「――お世話になりました」 「こちらこそ。たまにはこちらにも顔を出してくださいね」 「ええ」 「しばらく親分をお借りします」 「一生差し上げますよ、どうか返さないでください」 「またまた」 「こいつらの診察の時はねず公乗せて走ってくらあ」 「人にはぶつからないでくださいね、くれぐれも」
2021-12-20 19:26:31
つんとしたアオイさんの表情はどこか作り物じみていたが、俺の顔も相当だったと思う。 隣でカナヲが、俺たちを見て困ったように淡く笑っていた。 「行くぜ」重い荷物を一手に引き受けた伊之助が一番に背を向ける。
2021-12-20 19:26:31
仕方がない。俺たち兄妹の背は、それぞれ少しばかり軽い白い箱を背負うだけでいっぱいだ。 「――後で、少しだけ私にも持たせてね、お兄ちゃん」桑島殿の遺骨を背負ったねずこが言った。
2021-12-20 19:26:32
「――いいのか」自ら桑島殿の遺骨を背負うと云った妹に、俺は出立前に問うた。 「――お兄ちゃん」妹は少しだけ笑った。 少しだけ、覚えているの。
2021-12-20 19:26:33
「あの時ね――善逸さんが初めて私を守ってくれた、初めて会ったあの時ね。私、きっと初めて、お兄ちゃんの大事なものだからって、誰かの大事なものだからって、たったそれだけのことで守られたのよ。憐れまれもせず、そして何の期待もなしに。打算もなしに。きっと、きっと、初めてね」
2021-12-20 19:26:33
だから、善逸さんの大事なものだから、このご遺骨は私が背負うの。 その言葉に、俺は――俺たち兄妹は、本当に何重にも救われていたことを、俺は、改めて脱力するほど知らしめられた気がしたのだ。
2021-12-20 19:26:34
「――善逸は、本当にすごい」 「ああ?あいつはただの死にたがりだぜ」 「否定はしない――ああ、でも、ああ――」 なんだか、張り合いがちょっと抜けたような。 「善逸の血筋は残らないんだなあ…」 互いにずっと、傍にいるものだと思っていたのに。
2021-12-20 19:26:34
「お兄ちゃん。義務よ。私は私の義務を果たすわ」 私は血を残すわ。お兄ちゃんはいいけど、その代わり、ちゃんと神楽は私の子供に継がせてね。 「それでいいのか、ねずこ」 「きっと、それでいいと思う」 「そうか――」 「二人で分け合ってきたでしょう?これも二人で分けましょう」
2021-12-20 19:26:35
雷の呼吸は、煉獄家と同様に心得として書面につまびらかに遺してあった。 桑島殿は、雷の呼吸を二人の弟子それぞれに分けて継がせると決めた時点で、それを成していたらしい。 善逸の荷物には、漆の型らしき走り書きが残されていたので、それも付け加えておいた。
2021-12-20 19:26:35
本当は、それだけは彼だけのものとして、遺さないほうがよかったのかもしれないが。ああでも、『善逸伝』などという空想小説を書きたいなどと言っていたこともあったから、割と喜ぶのかもしれない。その型がお目見えした場面を知らぬ俺にはわからない。
2021-12-20 19:26:36
ただ、『火雷神』という技名は似合いだと思う。 善逸は、父のように俺を叱咤し、兄のように俺を守り、母のように、俺たち兄妹を慈しんだ。 「生きろよお、」と宇随さんは言った。「あいつが守った鬼のような人間二人だ。派手に生きて派手に残し、派手に栄えて派手に死ね」
2021-12-20 19:26:36
結局は、それが報いだと思う。 彼が『人』と定めた鬼二人だ。流れて据わってとどまり栄えて、 そしていつか、生まれ変わりでも何でもいいから、会えたらいい。
2021-12-20 19:26:37
原作イフルート、なんかねずこちゃんが選んでたんじろうがにおいをスン、と嗅いで太鼓判押した花で二人で「結婚してください!」って申し込む竈門兄妹→→→善♀も読みてえな 家族になってください!
2021-12-22 12:08:35
「う、嬉しいけどむりだよお!」「いい加減観念しろ紋逸!こいつら百年待ったからにはめんどくせえぞ!」「無理だって言ってんだろ伊之助!俺はペドじゃないし親戚だぞ!血はつながってないけど遠縁だし養子だけど!もう竈門の一族には入ってんだよ!」ってなるショタロリ竈門兄妹→→→(略)→←善
2021-12-22 12:08:35
「私たちの存在を、心を、ありのままに認めたのは、そこに存在していていいのだと全身で肯定したのは、善逸さんが初めてだったんじゃないかしら」
2021-12-22 18:58:35
「私に、『いいお兄ちゃんだね』と言ってくれたのは。私たちをただの兄妹みたいにそのまま大事にしてくれたのは。まるで人間みたいに、素直に互いをただただ家族と思っていいって、受け入れてくれたのは。憐れみもなく、打算もなく、条件もなく。私たちの存在をただただ誇ってくれたのは――」
2021-12-22 19:17:59
――なあ、俺はちゃんと、「気持ち悪い」笑顔を作れているか。 お前らの心の負担にならないような、ひどいひどい、吐き気がするようなだらしない笑顔を作れているか。 俺から言わせればひどいのはお前らだ。俺は、何時だって本気で笑顔を作っていたぜ。
2021-12-23 16:41:42
俺は、気がついたら神速でカナヲちゃんの前に飛び出していた。 ぐちゅん 粘性のある泥に足を突っ込んだような音がした。 ずく、ず、と、感覚の冷えた足先に体重をかけてズリズリと前へ歩く。 近付くたんじろうの顔は、親にぶたれた幼子(おさなご)のようにポカンとしていた。 やけに辺りは静かで。
2022-01-02 17:21:02
だっていかんだろ。百歩譲ってそのきぶつじみたいな触手ならともかく。 「ぜんいつ、」「行って、カナヲちゃん」 お前の腕が誰か人間を傷付けるなんて。 「ぜ、ん、?」「お前のせいだと思うなよ」 ズズ、と、少しずつ砂嵐になる視界の中で、近付くお前の目が人の色を取り戻していくのが綺麗だった。
2022-01-02 17:21:02
なあ、この笑顔は、俺の笑顔は気持ち悪くて、恥さらしだったろ。 すっかり人間の音となったねずこちゃんの音が走ってくる。安堵する。 大丈夫。やることはひとつだ。 俺の望んだばかりの未来だ。 「俺は、何時だって女の子の味方なんだぜ」
2022-01-02 17:21:03
ず、と進む。 俺を貫いている限り、少しはお前の腕を枷付けていられればと思うね。見ろよかいがく、俺は最期にやっと、勇気ある人間になれたぜ。 「嬉しいなあ、たんじろう」 お前の悲願は叶って、俺の悲願もようよう叶った。 爺ちゃん、ちょっと舞い戻るの早すぎてごめんね。
2022-01-02 17:21:03
でも貴方は、きっと今度こそ、俺の地獄への道行きを最後まで見送ってくれるだろう。 「嬉しい、な…」 よかったなあ。もうだれも、お前らが幸せになることを咎めることはないんだぜ。 お前たちがどこへいっても、誰を恋うても自由なんだ。 これ以上の勝利があるか!
2022-01-02 17:21:03
「ーー…」少しだけ、なにかを言おうと俺の口角が強張った。 ヒヒッと最高の気持ち悪い笑顔を溢して、それを言うのをやめにした。 「ーーーー」 しあわせに、なれよお。 俺は、ちゃんと最期まで信じたお前らの味方であれたろうか。
2022-01-02 17:21:03
大丈夫、お前は鬼じゃない。 あんなに残酷で、可愛そうなものではない。 兄弟子のような、 「そこまで弱くはないだろうよ」 俺はそれを、死ぬまで信じたんだから、 誰かを信じぬくことができたんだから。 ――幸せ過ぎる最期だった。
2023-08-15 11:38:15