その男は偶然にも見てしまった、こんな時刻に自分の許嫁でもある風見鶏静花が外を出歩いて、自分よりも仲睦まじく会話している所を。 ――何故、彼女がこのような時間帯に…?それに、彼女の隣に居る男は一体何者なんだ? #風見鶏の暗影
2021-06-03 21:40:58疑問と同時に、別の感情も沸々と湧きそうな気持になりつつも、男はその様子を黙っていた時だった。 静花の足元に伸びる影が一人勝手に動いている姿を。 ――あれは…しかし、見間違いかもしれん…。
2021-06-03 21:40:58風見鶏静花は影から影へと渡り歩き、ようやく自分の部屋に戻るものの、電池が切れた玩具のようにベットの上に横たわったまま寝てしまった。 その姿を見た【カゲ】はベットの下から伸びる影から現れ、思う。 #風見鶏の暗影
2021-06-04 20:23:14――夜に出歩きたいと言ったのは、あの男と出会う為だったか……それにしては、随分と回りくどい方を選ぶものだな、このニンゲンも。
2021-06-04 20:23:15誰かの気配を感じとった【カゲ】は、直ぐさまに影の中に身を潜めると、部屋の中に一人の女が入ってくる。 しかし、その女は何処かうつろ気味な表情を浮かべながら風見鶏静花が寝ているベットの近くまで行き、黙ったまま寝顔を見ていた。 #風見鶏の暗影
2021-06-05 20:30:36――特に何もない、か…。 そんなことを思っていた矢先だ、女は自らの手で首元を抑え始めようとしたのを見て、【カゲ】は直ぐ様に静花のスキマに入り「何をしているのです?』と声をかけたのだ。
2021-06-05 20:30:36さっきまで寝ていたはずの静花が急に眼を覚まし、相手の手首を掴み「何をしているのか」と聞いてくるのだから、向こうも思わず身を引こうとしたものの、静花の握る手の力が強く、中々に抜け出せない。 「いや、なんでもないのよ、静花。…そう、なんでもないの」 #風見鶏の暗影
2021-06-06 19:03:12喋る声も震えている上に、掴んでいる手首さえも震えている上に、相手からは自分と似たような何かを感じ取れる。 『その中に、居るんだな?」 「な、なにを急に言い出すの…静花」 『誤魔化しは無駄だ、同族ってのはその場に居ても感じ取れる上に、今こういう風にしている時ほど、わかりやすいからな」
2021-06-06 19:03:12静花の中に居る【カゲ】が掴む手首を力強くすると、相手は悲鳴を上げたのと同時に、掴んでいる手首が薄皮のように剥がれた中から黒い影のようなモノが見えたのだ。
2021-06-06 19:03:12『お前、俺と同じだな?』 【カゲ】は更に力強く手首を掴もうとした途端、女はようやくその手を振り解き距離をとり、こちらを睨みながら『だから何よ、アンタこそ存在感ありすぎるのよ』と言い返す。 『確かに、俺は【カゲ】だが【ゲンエイ】ではない。その件に関しては事実だな』 #風見鶏の暗影
2021-06-07 19:00:11『っていうよりも、アンタ、まさかその女を喰らってるの?』 互いに隠す気も無い様で、当たり前のように会話を続けている。 『そこにスキマがあっただけの事、中々に喰えんニンゲンだが、そこが面白い』
2021-06-07 19:00:11『変わってる、アタシなんてこの女をあっという間に喰い切っちゃって、今じゃあ誰も成り代わったなんて気づいてないんだから、中々だと思わない?』 『自画自賛だな、そのうち、痛い目を見るのはお前の方だと思うがね?』
2021-06-07 19:00:11唸り声を出す【カゲ】だったが『まぁ、アンタもそのうち痛い目に合うと思うから、今のうちにもっと存在感を消す術を身につけた方がいいわよ』と言い返し、女に成り代わった【カゲ】は部屋を出て行った。
2021-06-07 19:00:12∇月◎日(◆) 天気:曇りのちに雨 あの日の夜以来、風見鶏静花さんに会っていない。 その事を思い出す度に深い溜息が出てしまい、友人でもある博堂懷治くんに「何か、悩み事かい?」等と声をかけられるものだから「なんでもないよ」と返答している。 #風見鶏の暗影
2021-06-08 20:02:43でも、彼の事だから僕がどうして溜息をついているのかを見抜いていそうな気もするので、話せる時が来たら離そうとは思っている次第である。 静花さんは今頃、どうしているだろうか…。
2021-06-08 20:02:43何時も、夜に来る事が多いのに、その日は未の刻に風見鶏家の屋敷に静花の許嫁はやって来た。 「静花さんはいるかな?」 許嫁は近くに居た使用人に聞くと「はい、静花お嬢様は今、自室にいらっしゃると思いますよ」と返した。 「そうか、ありがとう」#風見鶏の暗影
2021-06-09 20:19:28礼を言い、静花が居るという自室に向かい、一人廊下を歩いていた時だった。 足元の影が勝手に動き出したのを見て「今はまだ出てこない方が身のためだと思うが?」と言うが、当の【カゲ】は何かを探すように辺りを見渡すような動きをした後、許嫁に向かって申す。
2021-06-09 20:19:28『何、お前がやった以外のヤツが居る気がしてなぁ』 「なんだと?」 『俺たちゃあ、ニオイっていうのは知らんが、そういう のを感じやすいんもんなんだぜ』 「もし、そうなのだとすれば…お前以外の【カゲ】は今、何処に居る?」 『幾つかいるが…お前が今、向かってる場所に居る奴が強いな』
2021-06-09 20:19:28未の刻になる少し前の事、静花は自室で本を読んでいると、足元の影が動き出したのを見て「どうかしたの?」と聞いた。 『なぁに、妙な気配を感じ取ったもんでな』 「気配?」 『遠からず、お前の所に来るだろうさ』 「それって、一体どういうこと?」#風見鶏の暗影
2021-06-10 20:19:19『なぁに、そのままの意味だ、深く考える事でもねぇさ』 首を傾げる静花の様子を見た【カゲ】だったが、直ぐ様に元の影に戻ってしまった。
2021-06-10 20:19:19風見鶏静花の足元の【カゲ】が影に戻った直後だった、部屋の外からノックの音が聞こえたので、読みかけの本をテーブルに置いてから扉の前まで行き「どちら様ですか?」と聞いた。 #風見鶏の暗影
2021-06-11 20:54:27「私ですよ、静花お嬢様」 扉越しで声を聞くだけでも、眉間に皺がよりそうな表情になりつつも、何時ものように返答する。 「…あら、めずらしいですわね。このような時刻に屋敷に来訪するなんて」 「偶々、近くを通ったものでね。花嫁の様子を見ようとやって来ただけですよ」
2021-06-11 20:54:27「それはどうもありがとうございます…、ですが、気分が優れないお姿をアナタに見せる訳にはいきませんので、今日は大人しくおかえりに――それとも、私のお母様のお相手でもしたら如何です?きっと、喜んでくれると思いますわよ」
2021-06-11 20:54:28「何をご冗談を、そのような事、一切とて致しませんよ」 「よく言えたものですね、本当に」 向こうも返す言葉もないかと警戒していたが「ならば、私はこれで失礼しますよ」と言い残し、静花の許嫁は部屋を去って行ったのだった。
2021-06-11 20:54:28∇月※日(■) 天気:晴れ 何時ものように、博堂懷治君と昼食を食べていた時だった「【カゲ】っていうのを知っているか?」といきなり聞いてくるものだから「かげ?」と、向こうが聞いているのに、僕がついつい聞き返してしまったものの、懷治君は特に気にもせず話を続けた。 #風見鶏の暗影
2021-06-12 18:45:53「なんでも、見た目は俺達がいま見ている影と全く同じだが、その【カゲ】は生きているんだとさ」 足元やテーブル等から伸びる影を指さしつつ話す懷治君に対し、僕はうーんと唸るような声を出してしまったからなのか「まぁ、信じられんよな」と懷治君は独り言のように言った。
2021-06-12 18:45:53懷治君と帰りに別れた後、僕は(生きている影なんて、存在するのだろうか?)と、立ち止まって夕陽に照らされて伸びている足元の影を見て思い出したのだ。 確か、前に風見鶏静花さんに会った時、影が勝手動いていたような…と。 #風見鶏の暗影
2021-06-13 20:03:59あの時は僕の見間違いだと思っていたけども、懷治君の言っていた通りだとすれば……、いやいやそれはないだろう! 僕は頭を振りながら家路に向かって歩いていた時であった、何処からか誰かの悲鳴が聞こえ、一瞬だけ怖気づくものの、何かがあってはと思い、僕はその方へ向かって行った。
2021-06-13 22:03:14僕が向かった先に見た光景、それは、影が人の形と成して動いている上に、その人を襲おうとしている所だったのだ。 襲われている人は僕を見て「助けてくれ」とその眼で訴えているのは直ぐにわかった。 #風見鶏の暗影
2021-06-14 19:23:57向こうは得体の知れない存在だ、仮に対峙したとしても、僕がその人を助けられるのか? そんな思いがめぐる中で、僕はその場に立ちすくしていると、僕に気づいたのか影がコチラを向き『お前の方が、スキマがありそうだ』と言い、標的を変えたのだ。
2021-06-14 19:23:57逃げなくちゃあ、いけない。 そう思う、けれども、身体が思うように動かない。 何故だと思って足元を見れば、僕の足元から伸びる影から黒い手のようなものが足を抑えつけていたのだ。 『じゃあ、頂こうとするかねぇ』
2021-06-14 19:23:58僕は身動きとれぬまま、影は大口を開けて近づいて、今まさに喰らおうとした時だった。 「見つけたぞ【カゲ】野郎!」 と、何処からか男が叫ぶような声が後ろの方からやって来るや、その者は「そこのお前、頭を下げておけ!」と命令口調が聞こえ、頭を下げた直後だった。
2021-06-14 19:23:58僕の前に現れたその人は、晴天を思わせるように青い髪色に両目は赤い上に、影を掴む両手は真っ黒だった。 「そこのお二人さん、今からコイツを滅するから今の内に逃げるか目ェつむっとけ!」 #風見鶏の暗影
2021-06-15 20:18:37最初に襲われていた人は「ひぇぇっ!」と悲鳴を上げながら、何処かへ去っていった。 一方の僕はと言えば、ようやく足が自由になったにも関わらず、地べたにしりもちをつくような体勢で後退りする。
2021-06-15 20:18:37青髪の男は「ヨシ」と小さな声で言うや、その手を向けながら人の形をした影に向かったこう言ったのだ。 「俺は双手双眼のカゲ法師、管崎伊兵衛だ。今からお前を滅してやるよ」
2021-06-15 20:18:37カゲ法師と名乗った管崎伊兵衛という人は、まるで猟犬のように両手で人の形をした影を狩ってしまった。 僕は言葉を出さず、その様子をただただ見ている事しか出来なかった。 事なきを得たのか、管崎伊兵衛さんは僕の方を向いて徐々に肌色に戻りかけた右手を差し出した。 #風見鶏の暗影
2021-06-16 20:22:11「お前、大丈夫か?」 「は、はい…」 その手を借りてようやく立ち上がったものの、まだ力を取り戻せていないのか、少しだけぐらついてしまった。
2021-06-16 20:22:11「あの、改めて聞くのも失礼なのは重々承知なのですが…アナタは一体、何者なんですか?」 僕の問いかけに対し、管崎伊兵衛さんは特に疑問を持たずに返答する。 #風見鶏の暗影
2021-06-17 19:15:21「改めて自己紹介するならば、俺の名前は管崎伊兵衛。君もその眼で見たと思うが、アイツら…【カゲ】を滅する者だ。人からはよく、カゲ法師なんて呼ばれているがな」 「カゲ、法師……」
2021-06-17 19:15:22「【カゲ】というのは厄介なものでな、見た目は俺達が今、この目で見ている影と殆ど変わらない。違う所を挙げるならば、奴らは生きている上に心にスキマがあるヤツの中に入り込んで喰らい、最後はそのものに成り代わるんだぜ」 「それは、恐ろしいですね…」
2021-06-17 19:15:22「だろう?だから、俺達が居るんだ。スキマに入る前にヤツをこの目で見つけ、自らの手で滅する。それが『カゲ法師』なのさ」
2021-06-17 19:15:22カゲ法師の管崎伊兵衛さんは「よし、残党とかはいないな」と言いながら辺りを見渡した。 「そんじゃあ、俺はまだ見回りがあるからココを去るが…一人で大丈夫か?」 「はい、大丈夫です。家もこの近くにありますので」 「そうか、じゃあ、表の道を出たらサヨナラだな」#風見鶏の暗影
2021-06-18 20:17:02最近、少し変わった夢を見るのです。 暗い世界の中を渡り歩いたかと思えば、その世界から出てもなお、遠くに見える光を眩しそうに見ているだ。 私は大きな声で何かを叫ぶものの、その度に大きな雑音によって遮られ、叫ぶ事さえも無駄に終わってしまう所で何時も目を覚ますのだ。 #風見鶏の暗影
2021-06-19 19:44:41それは全て、夢じゃない。 一部は現実に起きている事で、お前が寝ている時に俺が夜を渡り歩いているのだ。 目が覚ましそうになりそうなれば、現実に帰り、夢としておぼろげに消えて行くだけの事。 覚えている必要は一切ない。#風見鶏の暗影
2021-06-20 19:01:34さぁ、間もなく夜が明けようとしている。 何時ものように日々が過ぎて行くだけか、それとも、俺を使って何かをしでかすのかは、お前次第だ。 カザミドリ、シズカ――。
2021-06-20 19:01:34カゲ法師の管崎伊兵衛は何時ものように街の見回りをしていた時の事だ、昼間だというのに何時もよりも鋭い【カゲ】の反応がするものだから、伊兵衛は鋭い目つきで辺りを見渡しはじめた。 #風見鶏の暗影
2021-06-21 18:54:01――さぁて、何処にいやがるんだ…? 伊兵衛の視界に一人の女性が目に入るや、相手に悟られぬよう後を付け始める伊兵衛だったが、向こうはそれに気づいたのか、途端に速足で歩き始めてしまう。
2021-06-21 18:54:01